米中露
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主要各国からバイデン氏へ祝辞が続々と送られる中、2020年11月22日現在、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領は祝辞を述べていない。米国大統領選挙の結果が混沌としていることを表向きの理由として挙げているが、両国トップの沈黙に秘められた思惑はどのようなものなのか。専門家などの見解から、読み解いてみよう。

泥沼化する米大統領選 中露の声明

米大統領選挙戦をめぐる大混乱はいまだ収まる気配がなく、自由民主主義の在り方が問われる事態に発展している。しかし、選挙不正疑惑を法定闘争に持ち込もうとする、トランプ大統領の企てはことごとく玉砕した。バイデン氏の次期大統領確定は、秒読みかと予測される。

沈黙を貫くロシア

ロシアは大統領選後の11月9日、「米国大統領選挙への法的な異議申し立てが解決され、正式な結果が発表されるまでは祝辞を述べない」との声明を発表した。それ以降、かたくなに沈黙を守っている。

祝意をちらつかせる中国

一方、中国は13日、外務省の汪文斌副報道局長が祝意を示したものの、「選挙の結果は、米国の法律および手続きに従って決定されると認識している」と慎重な姿勢を見せた。2016年にトランプ大統領が勝利した際は、習近平国家主席自ら即座に祝辞を述べたことと比べると、激しい温度差は否めない。しかし、外務省が祝意を示したことから、「習近平国家主席はある程度バイデン氏の勝利を受け入れている」との見方もある。

「中国は最大のライバル、ロシアは最大の脅威」

カーネギー国際平和財団モスクワ・センターの所長を務めるロシアの政治学者、ドミトリー・トレーニン氏が、モスクワ・タイムズ紙に寄稿したエピソードと見解が興味深い。同氏はバイデン氏の両国に対するスタンスについて、「中国のことは米国にとって最大のライバル、ロシアは米国にとって最大の脅威と見なしている」とし、特にロシアについては「石油依存の経済と二流の軍事力」「西側と競争する力がない」「衰退国」などと手厳しく評価する反面、「西側諸国を内部的に弱体化させることを狙っている」と警戒しているという。

米露関係、史上最悪の関係に?

また、2011年、バイデン氏が「プーチン大統領の目からは魂が感じられない」と発言したことに対し、プーチン大統領は「我々はお互いのことをよく理解している」と応戦したエピソードについても触れた。トレーニン氏の予想が当たれば、「米露の指導者間の個人的なつながりという観点から見た場合、史上で最も冷え切った関係になるだろう」。

中国はトランプ再選を望んでいた?

中国では、事情がガラリと変わる。北京の清華大学の閻学通教授は、「トランプ政策はバイデン政策より、米国に与えるダメージが大きい」という理由で、中国はトランプ大統領の再選を望んでいたのではないかと分析している。

バイデン=オバマの再来?

さらに、バイデン=バラク・オバマという図式が浮上する。AP通信のジャーナリスト、ジョー・マクドナルド氏は、前米大統領選の際、トランプ大統領の対立候補だったヒラリー・クリントン氏を中国が歓迎しなかった理由の一つは、クリントン氏がオバマ政権の国際協調路線を継承する方針を示していたためだと指摘している。対照的に、「ビジネスの成功者」という当時のトランプ大統領のイメージは、中国の一般市民の共感を呼んだ。

バイデン氏が国際協調路線へ回帰する意向を明らかにしている点を考慮すると、中国がトランプ再選を望んでいたとしても不思議ではない。国際協調路線と対角線上の強硬外交を掲げる中国にとって、バイデン氏はオバマ政権を彷彿させる、疎ましい存在だ。また、米中間の貿易摩擦、スパイ活動疑惑、新型コロナ対応への批難など、中国は世界からますます孤立している。さらに米選挙戦への関与疑惑をかけられることを警戒し、必要以上に関与することに慎重になっている可能性も考えられる。

対政策強化や追加制裁を警戒?

いずれにせよ中露の最大の関心は、自国への制裁や政策が強化されるか否かだろう。中国はバイデン氏が対中政策の手綱を緩めるとは、期待していないはずだ。しかし、トランプ大統領が米国単独で圧力をかけたのに対し、バイデン氏は同盟国と連携体制を敷いて束になって圧力をかけてくる可能性が高い。

これまでロシアは、米国から数々の制裁を受けてきた。最も記憶に新しい制裁は、2018年に起こった英国の元諜報部員とその娘の毒殺計画をめぐり、化学兵器禁止条約に違反したというものだ。他に「叩けばホコリが出る」材料があれば、バイデン政権誕生後に追加政策が実施されることもあり得る。

プーチン大統領「米露の時代は終わり、中独の時代が来る」

最後に、プーチン大統領が「世界における米国とロシアの位置づけ」について語った、興味深いエピソードを紹介しよう。10月にインターネット上で開催された「ヴァルダイ国際討論クラブ」に参加したプーチン大統領は、米国とロシア、そして英国やフランスが、世界で最も重要な政治的・経済的問題について決断を下す時代は終わりを告げ、中国とドイツが超大国の地位を築きつつあるとの考えを示した。

さらに「米国がロシアと国際問題について議論する用意ができていないのであれば、我々は他国と議論する」「米国はもはや、例外主義を主張することはできない。なぜそれを望むのかも分からない」と述べた。このような背景から、中国とロシアのトップの沈黙に隠された思惑は、それぞれ異なるものと推測される。新米大統領就任により、3カ国の勢力図がどのように変化して行くのか、非常に興味深い。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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