三菱自動車は、冬のボーナスを今春の合意条件から約2割引き下げることで、組合側と合意したと発表した。一般社員約1万3,000人を対象とした人件費の削減により、コロナウイルス禍で悪化した業績の回復に急ぐ。
昨今のコロナウイルス感染拡大は、消費者の外出自粛や消費行動の変化により、旅行、小売、飲食等といったBtoC事業に大打撃を与えた。ところが、自動車業界においては単純な需要減少にとどまらない、より構造的な問題が潜んでいる。
コロナウイルス感染拡大による業績悪化の影響
今回の感染拡大の影響で業績が悪化し、賞与カットやリストラ実施を発表した企業は三菱自動車だけではない。
オリエンタルランドやANA等もボーナスカットを発表している
国内の移動自粛、さらに海外への渡航制限により大幅な打撃を受けた全日本空輸 (ANA) も、社員の基本給引き下げと冬のボーナスをゼロとすることを労働組合に提案している。また、旅行やレジャー業界の代表である東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドも、正社員および委託社員の賞与を削減することを発表している。
自動車需要の低迷とサプライチェーン網の分断という2重苦が襲った
三菱自動車にとって、今回のコロナウイルス感染拡大は、「自動車需要の短期的な低迷」と「グローバルサプライチェーン網の分断」という2重苦を強いられた格好だ。一般社団法人日本自動車販売協会連合会によれば、2020年1~6月の新車販売台数は、前年同期と比較し80.2%に急減している。
自動車産業は、膨大な数と種類の原材料・部品からなる複雑なサプライチェーン構造で成り立っている。国内外含めた部品材料メーカーからの調達が、コロナウイルスに伴う物流移動制限により分断されてしまえば、完成車メーカーとしては生産活動に明らかな支障をきたすこととなる。
固定費の削減が急務となっていた
販売需要の低迷と工場稼働率の低下により、急激な業績悪化が見通されていた三菱自動車にとって、短期的にコスト削減を図ることが急務となっていた。
自動車産業は固定費ビジネスと呼ばれ、工場稼働にともなう設備維持費や人件費、減価償却費などが占める割合が大きい。三菱自動車も従来から固定費削減の戦略を打ち出してはいるものの、2015年から比較し固定費は約1.3倍増加している。
設備投資や研究開発費の見直しとともに、人材再配置による効率化を図り、徹底したコスト改革が求められている。
自動車業界の低迷がコロナ前からささやかれていた3つの理由
さらに、業績低迷は三菱自動車単体の責任ではない。自動車業界はそもそも、将来的に産業規模が縮小するという危機がささやかれていた。その理由は3つだ。
1.電気自動車の実現で、業界の構造転換を強いられる
まずは、クリーンエネルギー需要の推進にともなう電気自動車の開発の加速だ。電気自動車は、従来のガソリン車と比較して、使用される部品数が約10分の1になると言われている。部品数が減少すれば、それにともなう部品メーカーのサプライチェーンが簡素化するだけでなく、組立工程も簡易となり、ロボットオートメーション化にますます拍車がかかるだろう。
完成車メーカーから部品メーカー、さらに組立機械メーカーなど、裾野産業全体にわたって、このような事業構造の転換が加速している。
2.ビジネスモデルの変化で、自動車台数需要が低下している
次に、自動車を取り巻くビジネスモデルの変化も重要な論点となる。カーシェアリングサービスやUber等のハイヤーサービスの台頭により、個人が自動車を保有する時代から、シェアして利用する時代に変化してきた。
大きな人口減少に伴う長期的な自動車保有ニーズの現象もさることながら、これらの新たなビジネスモデルにより自動車の販売台数は減少を強いられ、完成車メーカーとしては、従来の販売ビジネスを続けているだけでは、ジリ貧となることが予想される。
3.IoT、スマートシティ等と連携した大型プロジェクトの推進が加速している
最後に、テクノロジーを活用した大型の”モビリティプロジェクト”の話題を取り上げたい。自動車産業はすでに、最先端のIoT通信技術やAIを活用した、コネクテッドカー、自動運転の開発に注力している。
これらの未来の自動車が実用化されれば、自動車は単なる移動手段としてだけではなく、交通、運輸、通信を組み合わせたスマートシティ構想に組み込まれる事となる。しかし、このような大規模な構想に取り組むためには、莫大な資金とノウハウ、そして各分野の先端企業とのアライアンス力が必要となり、中小規模の自動車メーカーが動けることは非常に限られる。
トヨタ自動車は静岡県で建設を計画するスマートシティー「ウーブン・シティ」の構想を推進しているが、大規模な資本力とアライアンス力を発揮して大型プロジェクトの主導権を握るために、今後、自動車業界の再編の動きは一層加速していくであろう。
アフターコロナ時代の、大胆な構想と戦略に期待
コロナウイルスにともなう業績悪化に手を打つべく、賞与カット等の短期的な固定費削減に取り組むことで目先のキャッシュフローを維持しようとするのは、三菱自動車だけではない。このような環境下ではやむを得ない対策だと言える。
しかし、自動車業界全体が新たなビジネスモデルを模索し、新たな産業構造を構築しようとしている中で、同社としてもより強固で未来を見据えたな企業体質を築いていく構造改革が必須であることは、論をまたない。
短期の業績回復を実現した後に、グローバル競争に打ち勝つための大胆な戦略を推進することができるか。三菱自動車の経営手腕に注目したい。
文・森琢麻(M&Aコンサルタント)