会社の事業の一部を他の会社に引き継がせる会社分割は、経営統合やグループ内再編などで利用されるのが一般的だ。登記を行う必要があり、登録免許税や官報公告費、司法書士への報酬などの費用がかかる。会社分割を検討しているが、費用が気になる経営者もいるだろう。この記事では、会社分割の費用や手続き方法、事業譲渡との違いなどについて詳しく解説する。
目次
会社分割とは?
最初に、会社分割についておさらいをしておこう。会社分割とは、会社が行っているいくつかの事業のうち、一部の事業のみを他の会社に承継することである。承継先により、吸収分割と新設分割に分けられる。
吸収分割
吸収分割は、分割会社の事業の一部を既存の会社に承継する方法である。承継する事業の対価を誰が受け取るかにより、分社型と分割型に分けられる。
分社型吸収分割では、対価を分割会社が受け取る。対価が株式であった場合は、承継会社の株式を分割会社が保有することになるため、分割会社と承継会社には資本関係が生まれる。受け取る株式の割合によっては、承継会社は分割会社の子会社になることもある。
それに対して分割型吸収分割では、対価を株主が受け取る。分割会社と承継会社に資本関係が発生しないため、グループ内での子会社の再編などに用いられることが多い。
新設分割
新設分割は、分割会社の事業の一部を新しく設立した会社に承継するものである。新設分割も、対価を誰が受け取るかによって分社型と分割型に分かれる。
会社分割の登記にかかる費用(登録免許税など)
会社分割の登記にかかる費用を見てみよう。登記とは、社名や本社所在地、代表者氏名・住所、事業目的などを法務局に登録し、一般に開示することである。会社分割の登記にかかる費用には、登録免許税や官報公告費があり、司法書士に登記を依頼する場合はその報酬も発生する。
登録免許税
会社を登記する際は、登録免許税がかかる。登録免許税は分割会社と承継会社のそれぞれにかかり、承継会社の登録免許税は、吸収分割と新設分割で異なる。分割会社、吸収分割の承継会社、新設分割の承継会社の登録免許税は、それぞれ以下のとおりだ。
・分割会社
会社分割の際に分割会社にかかる登録免許税は、一律3万円である。
・吸収分割の承継会社
吸収分割の承継会社の登録免許税は、会社分割で資本金が増加しなければ、分割会社と同じ3万円だ。資本金が増加した場合は「資本金の増加分 × 0.7%」となる。ただし、計算結果が3万円未満なら、一律3万円だ。
・新設分割の承継会社
新設分割の承継会社の登録免許税は「資本金 × 0.7%」である。計算結果が3万円未満の場合は、一律3万円となる。
官報公告費
会社分割を行う際は、官報で公告する必要がある。官報への公告費は文字数・行数で決まり、会社分割の公告だけなら7万~8万円程度だ。
会社分割の公告を行う際は、同時に決算公告も行うのが一般的だ。その費用を合わせると、17万~18万円程度になる。
司法書士報酬
会社分割の登記手続きは、法人登記手続きの中でも難易度が高く、自社で完結させることは難しい。したがってM&A仲介会社や司法書士などの専門家に依頼することになるわけだが、司法書士に依頼した場合の報酬は20万~30万円が相場である。
会社分割登記の必要書類
会社分割の登記に必要な書類は吸収分割、新設分割のそれぞれで、以下のとおりである。
吸収分割
- 会社分割計画書(契約書)
- 分割会社の株主総会議事録
- 承継会社の株主総会議事録
- 官報公告のコピー
- 会社分割に異議を述べた債権者がいない旨の上申書
- (分割の対価として、承継会社の株式を新規発行して分割会社に交付する場合は)承継会社の資本金額が会社法の規定に従い計上されたことを証する書面
- (分割会社と承継会社の管轄法務局が異なる場合は)分割会社の登記事項証明書
- (分割会社と承継会社の管轄法務局が異なる場合は )分割会社の印鑑証明書
新設分割
- 新設する会社の定款
- 新設する会社の役員の就任証明書
- 新設する会社の役員の印鑑証明書
- 新設する会社の資本金額が会社法の規定に従って計上されたことを証する書面
- 会社分割計画書(契約書)
- 分割会社の株主総会議事録
- 官報公告のコピー
- 会社分割に異議を述べた債権者がいない旨の上申書
- (分割会社と新設する会社の管轄法務局が異なる場合は)分割会社の登記事項証明書
- (分割会社と新設する会社の管轄法務局が異なる場合は)分割会社の印鑑証明書
会社分割登記の手続き方法
会社分割登記の手続き方法を見ていこう。
1. 官報公告の実施
会社分割登記をするためには、それに先立って官報に公告を掲載しなければならない。官報公告は、取扱代理店に申し込む。
ここで注意すべきことは、公告を申し込んでから掲載まで3~4週間がかかることと、公告期間を1ヵ月以上設ける必要があることだ。官報公告の申し込みは、分割の効力発生予定日から逆算して早めに行いたい。
2. 必要書類の作成・収集
官報公告を申し込んでから公告期間が終了するまで間に、必要書類を作成・収集する。
3. 登記申請
官報公告期間が満了したら、吸収分割の場合は承継会社、新設分割の場合は新設会社の管轄法務局で登記申請を行う。申請後、法務局で審査が行われ、特に問題がなければ手続きは完了する。
会社分割の流れ
ここまで、会社分割登記の費用や手続方法について見てきたが、ここからは、会社分割を行う際の登記までの全体の流れを、吸収分割と新設分割のそれぞれについて見ていこう。
吸収分割
吸収分割の流れは、以下のとおりだ。
1. 分割契約の締結
最初に、分割会社と承継会社との間で分割契約を締結する。分割契約は、取締役または取締役会での承認が必要だ。
2. 株主総会での決議
次に、会社分割について株主総会で承認決議を行う。ここで、会社分割に反対する株主から株式の買取請求があった場合は、それに応じる必要がある。
3. 登記手続き
その後、前述の登記手続きを行う。債権者から異議申し立てがあった場合は対応しなければならない。
新設分割
新設分割の流れは、以下のとおりだ。
1. 新設分割計画書の作成
新設分割にあたっては、まず新設分割計画書を作成する。計画書には、会社法763条1項において定められた、以下の事項を記載しなければならない。
(1)新設会社の定款で定める事項
(2)新設会社設立時の取締役の氏名
(3)以下の3つのうち該当する事項
・新設会社が会計参与設置会社であれば会計参与の氏名
・新設会社が監査役設置会社であれば監査役の氏名
・新設会社が会計監査人設置会社であれば会計監査人の氏名
(4)分割会社が新設会社に承継する資産や債務、雇用契約その他の権利事項
(5)対価となる新設会社の株式数および新設会社の資本金の額
(6)(共同分割の場合は)分割会社に対する株式の割当に関する事項
(7)(分割会社が新設会社に社債を交付する場合は)その社債の算定方法
(8)(共同分割の場合は)分割会社に対する社債の割当に関する事項
(9)新株予約権に関する算定事項
(10)分割会社が新株予約権成立日に、全部取得条項付株式の取得や余剰金の配当をする場合はその旨
2. 株主総会での決議
次に、株主総会で新設分割の承認決議を行う。ここで、会社分割に反対する株主から株式の買取請求があった場合は、それに応じる必要がある。
3. 登記手続き
その後、前述の登記手続きを行う。債権者から異議申し立てがあった場合は対応が必要だ。
会社分割と事業譲渡の違い
会社の事業の一部を承継する方法は、会社分割の他に事業譲渡もある。ここで、会社分割と事業譲渡の違いを確認しておこう。
会社法上の違い
会社分割は会社法上、組織再編行為に当たる。それに対して事業譲渡は、株式の変動を伴わない取引法上の契約だ。この法的な違いによって、実務や法務、税務面での取扱いが変わってくる。
債権・債務の違い
会社分割では、会社分割の権利や義務は包括的に承継されるため、債権者保護手続きが必要になる。ただし、債権者の個別同意は不要だ。
それに対して事業承継では、債権者保護手続きは不要だが、債権者の個別同意が必要だ。
雇用関係の違い
会社分割では雇用関係は包括継承されるが、事業譲渡では個別の同意によって継承される。
許認可の違い
会社分割では、許認可は承継できるものもある。それに対して事業譲渡では、すべての許認可を新たに取得しなければならない。
税務の違い
会社分割では、消費税は非課税、不動産取得税は一定の要件を満たせば非課税、そして登録免許税・不動産取得税の軽減措置を受けられる。それに対して事業譲渡では、消費税と不動産取得税が課税され、登録免許税・不動産取得税の軽減措置は受けられない。したがって、税金の面では会社分割のほうが有利である。
会社分割の際はM&A仲介会社に相談も検討しよう
会社分割の登記などの手続きには専門知識が必要になるため、自社で完結するのは困難だ。司法書士に依頼する必要があるだろう。
しかし、会社分割では登記のみならず、専門知識が必要な検討を行う場面が多い。そもそも会社分割が必要なのか、あるいは会社分割により発生する利益・不利益はどのようなものなのかなど、多方面にわたって慎重に検討する必要があるからだ。
特に吸収分割の場合は、他の会社に事業を承継することになるため、承継先企業の経営者との交渉も必要になる。しかし、現場に出ることも多い中小企業経営者は、交渉のための時間を捻出するのが難しいこともあるだろう。
そこでおすすめしたいのが、M&A仲介会社に相談することだ。M&A仲介会社に相談すれば、専門知識や豊富な経験をもとに、会社分割の妥当性や利益・不利益などについてアドバイスを受けられる。また、経営者との交渉や登録手続きなども代行をしてもらえるので、会社分割をスムーズに進められるはずだ。
会社分割は慎重に進めよう
会社分割にかかる費用は、登記のための登録免許税や官報公告費、司法書士への報酬などがある。会社分割は専門的なアドバイスが必要になることが多いため、M&A仲介会社や司法書士などの専門家の協力が欠かせない。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に会社分割を進めよう。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)