法人税を計算する上で、税務上の費用である損金とはならない損金不参入はよく知られている。しかし、税務上の利益である益金にならない益金不参入はあまり知られていない。ここでは、益金不算入の基礎や具体的に益金不参入となるケース、益金不参入時の税務処理について説明する。
目次
益金の法人税法上の取り決めとは
法人税法上では、「益金」は収益のうち以下のものと定められている。
- 資産の販売による収益
例えば小売業が商品を販売するなど - 有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供による収益
例えば、資産を売却する、または機械の修理などのサービスを提供するなど - 無償による資産の譲受けによる収益
例えば、資金の贈与を受けることなど 4 その他の取引による収益
これらに当てはまったとしても、現物出資を受けてそれを資本金に計上した場合など、資本取引については益金には該当しない。
益金に算入されるタイミング
ただし、取引があったとしても会計上の収益が即座に益金となるとは限らず、益金に算入されるタイミングは決まっている。法人税法上は、資産の販売については目的物の引き渡しがあった日、役務の提供については役務の提供があった日に益金参入される。
詳細に説明すればいくつかの例外はあるものの、益金は基本的には前述のような条件で税務上でも認識されることとなる。
益金不算入とは
前項では税務上の利益になる益金について説明したが、逆に益金に入らない益金不算入にはどのようなものがあるのだろうか。
益金不算入になる種類2つ
益金不算入となるものとしては、以下の2種類がある。
- 益金に入る条件に当てはまらないために益金にならないもの
- 二重課税を防ぐため等、益金の条件には当てはまるものの、そのまま益金にすると不合理が起こるため益金にならないもの
益金不算入となった場合、少なくともその期の税金の計算には含まれないため、その分だけ法人税などの金額が押し下げられることになる。
益金不算入になったものによっては、後日、益金に当てはまる条件を満たした際に益金扱いとなり、税金が増えてしまう場合もある。
益金不算入に該当するもの
会計上では利益になるものの税務上では利益にならないものとして、以下のようなものがある。
益金に入る条件に当てはまらないために益金とならないもの
・資産の評価益益金とすると不合理になるため益金としていないもの
・株式等の配当金
・法人税や住民税の還付金
以下、これらの益金不参入に該当する収益についての詳細を説明する。
益金不参入に該当するもの:株式等の配当金
株式や信用金庫の出資などからの配当金は、一部または全部が益金不算入の対象となる。これは、配当金の原資が法人税を支払った後に残った金銭であり、これを受け取った会社がさらに税金を支払うのは、二重課税に該当して不合理だからである。
配当に対する益金不算入については、以下に分類するように、どれだけ配当をした会社の株式などを持っているかによって、益金不算入となる金額や計算方法が異なる。
- 完全子法人株式等の場合
- 関連法人株式等
- 非支配目的株式等 4 その他の株式等
以下、それぞれについて具体的にどれだけが益金不算入となるかなどについて説明する。
完全子法人株式等の場合
配当にかかる計算期間の全期間において、その配当した会社の株式等を全て持っている場合は、完全子法人株式等となる。
この場合、配当金全額が益金不算入となる。
関連法人株式等
配当にかかる計算期間の全期間において、配当した会社の発行済株式等の総数の3分の1超を保有している場合は、関連法人株式等となる。
この場合は、受け取った配当の金額からその株式等に対応する負債(借入金など)の利息を控除した金額が、益金不算入となる。
非支配目的株式等
配当した会社の発行済株式等の総数のうち、発行済株式等の5%以下の株式等を持っている場合、その株式は非支配目的株式等となる。
この場合は、受け取った配当金の20%が益金不算入となる。
その他の株式等
配当した会社の株式等の5%超から3分の1以下を保有している場合など、いずれにも当てはまらない株式等ついては、その他の方法によって計算することとなる。
この場合は、受け取った配当金の50%が益金不算入となる。
短期保有の場合
非支配目的株式等、その他の株式等を短期間で保有した場合は、配当金の20%なり50%なりの全てが益金不算入になるわけではない。
配当目的で取得したと思われる株式などにかかる配当、つまり、基準日以前1ヵ月以内に取得し、尚且つ同日後2ヵ月以内に譲渡した株式にかかる配当については、益金不算入ではなくなる。
株価の変動目当てで株式等を購入した際に、購入から売却の間でたまたま配当の基準日があって配当金を受け取った場合は、この点に注意されたい。
益金不参入に該当するもの:法人税や住民税の還付金
以下の状況が発生した際など、法人税や住民税の還付金があった場合は、その金銭は益金不算入となる。
- 中間納付が多すぎて確定申告で還付があった場合
- 過大申告によって更正の請求を行い、納めすぎた税金の還付があった場合
- 欠損金の繰り戻しによる還付を受けた場合
還付金について
法人税や住民税については、支払った時には損金不算入となるからであり、逆の取引となる還付について益金不算入となるものである。
法人税や住民税などの税金そのものだけでなく、延滞税や加算税といった税金に付随して支払うものについても、還付があった場合は同様の理由により益金不算入となる。
還付金は、法人の銀行口座に直接振り込まれることによって清算されることが多いが、そのような措置を取らずに、他の税金の納付に充てられた場合なども益金不算入となる。
なお、還付に際して一緒に支払われることもある還付加算金については、還付される税金そのものではなく利息見合いのものという性質上、益金算入されることとなることに注意されたい。
益金不参入に該当するもの:資産の評価益
会社によっては、持っている株式の一部について時価評価することがある。
トレーディング目的
トレーディング目的で保有している株式や債券については、法人税上であっても時価評価を行い、差額については益金、または税金上の費用である損金に計上しなければならない。
トレーディング目的の株式等はいつでも売却でき、期末時点で売却したとみなして損益を計算することが問題ないからである。
しかし、その他の株式については、時価評価して評価益を出したとしても益金算入はできない。トレーディング目的以外の株式等の有価証券はすぐに売ることができないため、益金にするための条件である「引き渡しをすることができるか?」という点で問題がある。
そのため、トレーディング目的以外の株式等については、評価換えをして利益を出したとしても、益金算入できないこととなる。
通常は、時価評価を収益として計上するケースは少ないが、有価証券の分類を間違えたなどの理由で計上されることがある。不動産などの他の固定資産についても同様であり、評価換えをして利益計上しても、益金不算入となって利益にすることはできない。
ただし、全ての場合において益金不算入とならず、会社更生法の規定の下での評価換えを行った場合など、評価益を益金に計上することが可能な場合もある。
益金不参入となる収益の税務上の処理について
益金不算入となる収益が発生した場合、税務申告書上ではどのように処理されるのだろうか。
最終的には、『別表4』に記載されて所得の金額が減少させることになるが、ここではどのような税務処理を行うかについて説明する。
株式等の配当金
まず、株式等の配当金について、『別表8(1)』で株式等の配当について銘柄毎に分類して、下記の項目を記載する。
- 銘柄
- 配当金の額(下図の31、32、35、41)
- 益金の対象となる金額(同 33、36、42)
- そのうち益金不算入の対象となる金額(同 33、36、42)
なお、益金不算入の対象となる金額は、配当のうち、20%や50%を掛ける前の金額を書く。
次に、ここで分類・記入した配当金等について、上方にある欄に記載することとなる。
ここでは、配当金のうち益金不算入の対象となる金額について、分類に応じて記入欄「1、2、11、12(または、14、15、24、25)」に記載する。
関連法人株式等の配当金がある場合は、株式等に対応する負債の利息を計算する必要があるので、それらの計算を記入欄「3~10と27~30(または15~23)」に記入して計算する。
最後に、記入欄「13(または26)」に益金不算入の金額を計算する。
かかる計算結果は『別表4』にその欄があるので記載する。
評価益
評価益の金額はたいてい、当該資産の売却などがあった場合は益金参入となるので、まずは『別表5(1)』に記載することとなる。
『別表5(1)』は上図のようなフォーマットであり、区分欄に評価益によって生じたものであることがわかるものを記載し、「今期益金算入とならなかった金額(③)」と「期末時点で益金算入としなかった累計額(④)」を記載する。
その上で、『別表4』では、益金算入を記載する欄(20)があるので、評価益である旨の項目名、今期益金不算入とした金額を2つ右(20の右隣)と、将来解消する見込みがあって留保になるため、その右隣に記載する。
税金の還付額
こちらは『別表4』のみで記載は完結する。ただ、還付の事情によって記入欄が異なるので注意が必要である。
『別表4』では、中間納付や更正の請求によって還付が行われた場合は「18」に、欠損金の繰り戻しによる場合は「19」に、益金不算入となった金額をそれぞれ2箇所記載する。
益金不算入について対応できるようにしておこう
益金不算入となる場面は、実務上あまり出てこないが、ここで挙げられた項目はいつ出てきてもおかしくないものばかりである。
益金不参入はあまり出てこないものの、税金を減少させることになるので、対応できるようにしておくことが望ましい。
本稿がお役に立てれば幸いである。
文・中川崇(公認会計士・税理士)