企業経営者の悩みのひとつに、「採用募集で人が集まらない」ということがある。人事担当者任せではなく、採用募集の方法や、どんな求人媒体を使っているのかを見直すことも大切だ。今回は採用募集のスタート段階である募集の仕方と効果のある求人媒体について詳しく解説する。
応募が集まる採用募集の3つのポイント
企業経営者は、採用担当者から「採用募集はしているが入社が決まらなかった」といった報告を受けることがあるだろう。実際には、求職者の数が少ないばかりでなく、求職者の応募がゼロのケースもあるはずだ。
採用募集で求職者が集まらなければ、面接や選別すらできない。求職者が集まらない要因の詳細はそれぞれの企業で異なるが、採用募集の基本的な方法が誤っている場合もある。応募が集まる採用募集のポイントは次の3点だ。
1. 求人募集媒体に載せる情報の「量・分かりやすさ・正確さ」
求職者が応募企業を探すときに最初に目にするのが、求人募集媒体に載っている企業の情報だ。求職者は、新卒採用でも中途採用でも、入社後にミスマッチが起こることを最も恐れている。そのために、求人募集媒体の内容は注意深く確認している。情報量が少ない企業は、選択される可能性が極めて低くなるだろう。
求人募集媒体の多くはインターネット上に情報が存在する。企業情報の内容は、求職者が入社を考えるとき重要視する点がキーワードとなって「検索」される。自社が求めている人材が何を重視して企業を決めるのかという点については、十分にリサーチし、キーワードとして、求人募集媒体に載せる情報の中に刷り込む必要があるだろう。
「情報量」とともに重要なのは、「情報の分かりやすさ」と「正確さ」だ。求職者が知りたい一般的な情報は、雇用形態・給与・仕事の内容・働き方などだ。これらの基本的な情報が分かりにくく、あいまいに記載されていると、求職者は不安を感じる。言い換えれば、ブラック企業ではないかと疑われてしまう可能性もあるのだ。
求人募集媒体に載せる情報は「量・分かりやすさ・正確さ」を念頭に置くことが重要だ。記載内容は求職者の立場に立って、具体的に記載する。数値で表せる項目については、数値を入れるようにすると、より分かりやすくなる。
2. 他社の採用募集と比較されることを念頭に置く
求職者は、求人募集媒体の情報の中から、業界、職種、仕事内容、待遇条件、勤務地などの項目をもとにリサーチして、いくつかの候補企業をピックアップする。自社の情報は、ピックアップされた項目が似通った他社の情報と比較されることを念頭に置かなければならない。
比較されたときに、他社の求人内容が条件面で当社より優位に立っている場合、求職者の多くは他社に流れてしまうだろう。だからといって条件を変えられるかといえば、実現が難しいケースも多い。
例えば、年収額などだ。他社より優位になるように、即時に提示の年収額を上げられるものではない。年収額は低い提示でも、他の項目で自社の魅力をアピールできるように、求人募集媒体の情報の内容を改善することが重要なのである。
求職者の目線で、入社後に良かったと思えるであろう自社の魅力を何点かピックアップし、求人募集媒体の情報に具体的に刷り込んでいく方法はよく行われている。例えば、入社後に仕事を覚えられるかという不安を和らげる研修制度の紹介、入社すると身につくスキルや経験の紹介、先輩従業員の語る自社の魅力などを具体的に載せるやり方だ。
求職者のワークライフバランスの考え方は人それぞれである。求人内容が条件面で優位に立っているから選ばれるとは限らないのだ。他社の採用募集と比較されることを念頭に置きながら、自社の魅力を十分に伝えることができるように、求人募集媒体の情報を作り続けることが応募数の上昇に結び付くのだ。
3. 自社に合った求人募集媒体を複数使う
求人募集媒体が自社に適しているかのリサーチと再検討は、継続して実施しなければならない。情報化社会のスピードは急速にアップし、媒体も多様化している。業種や職種に特化した求人募集媒体も増えている。自社の求めている人材が好んで使用する求人募集媒体を複数選択することが募集者数を増やすポイントになる。
求人媒体はいくつかの種類があり、さらに多数の業者が提案している。インターネット上の求人サイトを例に見てみると、新卒採用、中途採用、女性向け、エンジニアなどの職種に特化したサイトなど、それぞれの求人サイトに特徴があることが分かる。自社の求人募集はどのサイトに載せるのが効果的かを考える必要があるのだ。
今日から使える!代表的な採用募集の仕方10選
採用募集は主に、求人募集媒体を活用して実施するが、それがすべてではない。ここでは一般的に行われている採用募集方法を10例、紹介しよう。
1. 求人サイト
求人サイトは求人募集媒体の代表的な存在である。求職者のほとんどが求人サイトを活用しているといっても過言ではない。求人サイトは、求職者が自身の情報を会員登録して、探している仕事に該当する企業情報の配信を受けたり、企業からスカウトを受けたりする仕組みになっている。企業と求職者をつなぐ橋渡しの役割を果たしているのだ。
求人サイトは採用募集のプロフェッショナルであるので、基本的な企業情報の他にも、求職者目線で求職者に分かりやすく興味を引くような募集情報を掲載することができる。
公益社団法人の全国求人情報協会が2014年に行った調査によると、求職者が仕事を選ぶポイントの上位は、「賃金に関する情報」と「職場の人間関係・雰囲気」であった。求人サイトの掲載はバリエーションが豊富なため、賃金などの基本情報はもちろんのこと、職場の人間関係・雰囲気についても求職者に分かりやすく提示することが可能だ。
自社の魅力を伝える先輩従業員の体験談や、入社後の研修などの情報を掲載する企業も多く見られる。求人募集媒体の中では「量、分かりやすさ、正確さ」を実現できる方法といえる。
2. 新聞の求人広告、求人情報誌
就職や転職を考えている人が目を通すのが、新聞の求人広告や求人情報誌である。求人サイトがWeb媒体であるのに対し、新聞の求人広告や求人情報誌は紙媒体と呼ばれている。
新聞の求人広告や求人情報誌は、地域ごとに発行されるため、地域密着型の企業に向いている。また、勤務先の場所を重視する求職者は見ることが多いので有効だ。
インターネットの求人サイトが、求職者自身が自ら進んで企業情報を検索したり、会員登録したりするのに対し、新聞の求人広告や求人情報誌などの紙媒体は受け身的である。ただ、新聞の求人広告や求人情報誌によっては、求職者は自分が想定していなかった企業や新しい情報に出合うことが多く、新たな可能性を感じやすくなるのだ。
Web媒体と紙媒体では、それぞれ求職者からの反響が違うため、両方を使って効果を見るのも良い方法だ。状況に応じて、求人サイトと、新聞の求人広告や求人情報誌をうまく使い分けよう。
3. 企業のホームページ・採用サイト
企業のホームページには採用サイトのページが用意されていることが多い。求人サイトや新聞の求人広告や求人情報誌で、企業に興味を持った求職者は必ず企業のホームページにアクセスする。
企業のホームページや採用サイトには、求職者が求めている情報が最新の状態かつ正確に、分かりやすく掲載されているように整えておく必要がある。
最近では、企業がオウンドメディアでサイトを作り、事業と関連するテーマなどの記事を掲載している。オウンドメディアは、主に企業の提供する商品やサービスの購買に向けての見込み客を創造するためのものだが、求職者がアクセスして、外部リンクから企業のホームページにアクセスすることも想定される。
企業のホームページ・採用サイトも、オウンドメディアのサイトも、企業ビジョンや企業理念をベースとした、統一された明確なメッセージを伝えられるように更新していくのが望ましい。
4. ハローワーク
ハローワークは、厚生労働省職業安定局が運営する職業紹介事業で、民間の職業紹介事業を補完することを目的としている。最大の特徴は費用がかからない点だ。ハローワークの活用が助成金の条件になっているケースもある。
5. 人材紹介会社
具体的に必要なポジションが決まっていて、費用がかさんでもポジションに適した求職者を求めたい場合は、人材紹介会社を使うのが良い方法だ。人材紹介会社のキャリアコンサルタントに必要としている求職者の情報を伝えることで、リクエストに合った人材の紹介を受けることができる。
人材紹介では、求職者との面談日程の調整や、報酬面の交渉、採用結果の連絡などをキャリアコンサルタントが代行してくれるため、企業としては採用に係るリソースと時間を大幅に軽減することが可能だ。
6. 人材派遣
繁忙期やイレギュラーな退職によるリソースの確保には、新規の採用募集は不向きだ。必要なリソースを必要な時期だけ手配するためには人材派遣が最適だ。
人材派遣の中でも、将来的に雇用を視野に入れた紹介予定派遣という方法がある。一定期間、企業で業務を行ったうえで、企業と派遣社員が合意できれば、社員として雇用するという仕組みだ。企業にとっても派遣社員にとっても、お互いに見極めができ、ミスマッチによる早期退職を未然に防ぐことができる方法だ。
7. 合同説明会
合同説明会とは、複数の企業が集まり、会社説明会を実施する方法である。対象企業の集まり方には、さまざまなパターンがある。業界や仕事の種類に関わらず、複数の企業が集まる場合もあれば、地域ごとや業種・職種ごとなど、一定条件のもとに企業が集まる場合がある。
企業と求職者の間を取り持つ媒体も、転職サイトが主催するケースもあれば、地方自治体が窓口になって開催する場合もある。
開催内容も、会社説明会という型にはまった形式だけでなく、仕事研究や業界研究といったネーミングで、求職者が参加しやすい企画にする方法も実施されている。
8. 大学・専門学校の就職課へのアプローチ
大学や専門学校の就職課を通じて、学内の掲示板などに掲載を行い、求人募集をかける方法もある。それぞれの大学や専門学校によって手続き方法は異なる。自社の募集人材の専門性が一致する大学や専門学校への窓口としての活用も有効である。費用がかからない点も魅力的だ。
9. ソーシャルリクルーティング(SNSの利用)
FacebookやTwitterなどのSNSの普及によって企業と求職者がSNSを活用して採用を進めていくソーシャルリクルーティングが注目されている。企業にとってソーシャルリクルーティングを活用することの最も大きなメリットは、SNS上にある求職者の投稿内容によって、求職者を分析することができる点だ。
SNSは、プライベートの一面が如実に現れるツールであるため、採用面接では見極めにくい、求職者の本当の性格や人間性を見極めることができるのだ。
企業と求職者双方にメリットとなるのは、伝わりにくい職場の生のイメージや、従業員の姿を大量に発信することができる点だ。
拡散性が高く、コストがかからない点もソーシャルリクルーティングの魅力だ。一方で、記載内容がもとで炎上が起きる可能性もあるので、掲載内容については十分に注意しなければならない。
10. リファラル採用
リファラル採用とは、自社の従業員から、自社の採用基準を満たした、将来性のある友人や知人を紹介してもらう採用方法である。採用ツールは、主に応募を募って待つという受け身的な方法だ。一般的な募集方法とは異なり、リファラル採用は、従業員が採用候補者を選ぶ方法である。
リファラル採用での候補者は、従業員のフィルターを通した人材なので、企業が求める人材としてのミスマッチが少ない点が魅力である。応募から採用面接を通して見極める方法では、採用基準を満たした人材を見つけるために、時間とリソースが必要となるのだ。
自社の従業員からの紹介であるが、縁故採用とは違う点には注意が必要だ。縁故採用の要素には、自社の採用基準を満たすという従業員のフィルターが機能していないケースも多く存在する。リファラル採用では、あくまでも自社の採用基準を満たした、将来性のある友人や知人を紹介してもらう点を守る必要がある。
人が来る採用募集要項の書き方のポイントは?
採用応募要項は、採用募集で応募が集まるための重要なツールだ。採用募集要項の書き方は、あいまいで分かりにくいものであってはならない。事実より甘い内容であってもならないし、事実より厳しい内容であってもならない。入社した後にミスマッチが起こらないように、事実を分かりやすく明確に記載することが最低限の約束事だ。
採用募集が円滑に進行するために、採用募集要項の書き方のポイントは、次の5つだ。
1. 採用募集要項の役割をしっかりつかんだ記載内容にする
採用募集要項の役割は、求職者に自社の採用基準と入社後の条件を明確に伝えることである。企業が求めている人材を理解してもらい、入社後の給与や雇用形態などの条件を提示するのだ。
2. 職種や仕事内容を入社後の仕事風景が想像できる書き方にする
多くの求職者は前職や現職での自分のキャリアとスキルをベースに転職先を探す。そのときに必要な情報が、応募企業に入社した後の自分の姿だ。入社後に自分がその職場で働いていけるのかというイメージが、採用募集に応募する重要なポイントになるのだ。
3. 勤務地の記載を詳細に明記する
求職者にとって、勤務地は、職場を決める大きなポイントのひとつだ。日々の通勤がイメージできるように最寄り駅や、駅からの所要時間などを記載することも必要だ。事業所が複数ある場合は、それぞれの勤務地名を記載するほうがより分かりやすい。
4. 職業安定法を満たした応募資格を記載する
応募資格の記載は職業安定法に従い、性別、国籍・人種、思想・信条・宗教、家族・家庭環境、身体条件、出身地・居住地・通勤条件などを採用条件としてはならない。募集要項に、これらの条件を書かないように注意しよう。
5. 試用期間がある場合は必ず記載しておく
本採用の条件と試用期間の条件が異なるケースも多いので、違いは分かりやすく明確に記載し、トラブルが起きないようにしなければならない。
募集者が最初に目にする募集要項は「給与」と「雇用形態」
求職者が応募企業を探すときに、最初に目にするのが募集要項であり、比較検討するときに見直すのも募集要項である。求職者が注目する項目は次の2点だ。
1点目は、給与である。求職者は募集要項に記載されている給与が額面なのか手取りなのかをチェックする。額面であれば、税金や社会保険料などが引かれた後の手取り額をシミュレーションする。
2点目は、雇用形態である。正社員雇用を希望しているが、条件に合う企業が見つからない場合は、契約社員での求人に募集するケースもある。契約社員から正社員への登用制度がある場合などは記載しておくことが重要だ。
効果のある求人媒体は「採用サイト」
採用募集の方法として、いくつかの求人媒体を紹介したが、効果のある求人媒体として活用したいのが採用サイトである。採用サイトは、企業のホームページとは別に採用に特化した企業サイトで、求人者に向けた大量の情報を掲載することができる。
他の求人媒体から、企業に興味を持った求人者が、応募意思を固めるための情報として、企業の採用サイトを閲覧するケースが多く発生している。採用サイトは、応募数を増やす効果がある求人媒体といえるであろう。
募集媒体のベースである求人サイトも効果のある求人媒体といえる。求人サイトは数多くあり、それぞれが特徴を持っている。複数の求人サイトを採用して多くの人の目に触れるようにしたり、特集企画に参加したりする方法も効果が期待できるはずだ。
採用募集メールの活用も検討しよう
求職者にダイレクトにメールを送る「採用募集メール」の活用も注目すべき方法だ。採用募集メールは、スカウトメールとも呼ばれ、大手の求人サイトがプランを提案している。スカウトメールには、求職者と企業の募集条件の一致度に応じて、「希望マッチ」「経験マッチ」「条件マッチ」の3種類で企業からスカウトがくるサイトなどもある。
SNSを活用したソーシャルリクルーティングでもFacebookやInstagramのメッセージ機能を使用して、スカウトメールを送信している。
採用募集手順をマスターして能率よく採用を成功させる
採用のスタートである採用募集を成功させるためには、手順をマスターすることが重要だ。最初に、どんな求人募集方法があるのかを知っておく必要がある。次に、求人募集方法のベースになる採用サイトの選別である。最後に、効果的な採用応募要項の作成である。求人募集方法は自社の事情にあわせて複数取り入れて実行し、効果を測定して改善することで、成功に近づいていくはずである。
文・小塚信夫(ビジネスライター)