上場
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

自社の上場を検討している経営者は、証券取引所の市場ごとに異なる「上場基準」について把握しておく必要がある。今回は、上場基準の基礎や国内の証券取引所と市場の種類、東京証券取引所の各市場の上場基準、2022年4月から見直される新上場基準等について紹介する。

目次

  1. 上場基準とは
    1. 上場による企業側のメリット
  2. 上場先の証券取引所の種類
  3. 東京証券取引所の上場基準
    1. 上場基準の事例:形式基準
    2. 上場基準の事例:実質基準
  4. 上場基準の見直し
    1. コンセプトの違いが市場区分の違い
    2. 新しい3つの市場区分
    3. 新しい市場の上場基準
    4. 上場している企業の対応
  5. 上場基準をしっかり理解しておこう

上場基準とは

「上場」とは、証券取引所で、一般の投資家が企業の株式等を売買できるようにすることである。上場したい企業は、証券取引所が定める上場審査を通過する必要があり、この審査の基準となるのが「上場基準(または、上場審査基準)」である。

上場基準は、証券取引所の有価証券上場規程で市場ごとに定められており、株式数や時価総額などの形式基準と、判断が困難になりやすいガバナンスや内部管理体制などの実質基準に分かれている。

上場を目指す企業は、証券取引所の資料等から各市場の上場基準やその特色を確認し、どの市場に上場申請するかを決めていく。

上場による企業側のメリット

上場した企業には、一般的に以下のようなメリットがある。

・株式発行による資金調達がしやすくなる
・知名度が上がる
・社会的信頼が向上する
・世間に広く知られるようになり、優秀な人材を確保しやすくなる

上場先の証券取引所の種類

上場株式等を取引できる国内の証券取引所は4つ存在し、各証券取引所には「本則市場」と「新興市場」がある。

【証券取引所と主な市場】

取引所名本則市場新興市場等
札幌証券取引所アンビシャス
東京証券取引所第一部・第二部マザーズ
JASDAQ(スタンダード・グロース)
名古屋証券取引所第一部・第二部セントレックス
福岡証券取引所Q-Board

市場には、それぞれ特色がある。

例えば、東京証券取引所では、第一部が最も流通性が高い企業向けの市場であり、第二部はそれに準じた実績のある企業向けの市場となっている。マザーズは新興企業向けの市場で、JASDAQは多様な企業向けの市場と色分けされている。

これらの特色に合わせて、それぞれの市場ごとに上場基準も異なる。

東京証券取引所の上場基準

それでは、証券取引所の上場基準がどのようなものか見ていこう。ここでは、東京証券取引所の上場基準例を、形式基準と実質基準に分けて主な基準内容のみ説明する。

なお、市場第一部の基準については、市場第一部に直接上場するための要件となる。

(参考)日本取引所グループ「上場審査基準」

上場基準の事例:形式基準

・株主数(上場時見込み)

市場株主数
第一部2,200人以上
第二部800人以上
マザーズ200人以上
(上場時までに500単位以上の公募を行うこと)
JASDAQ200人以上

・流通株式等(上場時見込み)

市場流通株式
第一部・流通株式数 2万単位以上
・流通株式数(比率) 上場株券等の35%以上
第二部・流通株式数 4,000単位以上
・流通株式時価総額 10億円以上
・流通株式数(比率)上場株券等の30%以上
マザーズ・流通株式数 2,000単位以上
・流通株式時価総額 5億円以上
・流通株式数(比率) 上場株券等の25%以上
JASDAQ・株券等の分布状況
公募又は売出し株式数が1,000単位又は上場株式数の10%のいずれか多い株式数以上
・流通株式時価総額 5億円以上

・時価総額(上場時見込み)

市場時価総額
第一部250億円以上
第二部20億円以上
マザーズ10億円以上
JASDAQ

・事業継続年数(上場時見込み)

市場事業継続年数
第一部・第二部新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して、3か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること
マザーズ新規上場申請日から起算して、1年前以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること
JASDAQ

・純資産の額(上場時見込み)

市場純資産の額
第一部・第二部連結純資産の額が10億円以上
(かつ、単体純資産の額が負でないこと)
マザーズ
JASDAQ・スタンダード 2億円以上
・グロース 正の数であること

・利益の額又は時価総額(上場時見込み)

市場利益の額又は時価総額
第一部・第二部次のa又はbに適合すること
a 最近2年間の利益の額の総額が5億円以上であること
b 時価総額が500億円以上
(最近1 年間における売上高が100 億円未満である場合を除く)
マザーズ
JASDAQ次のa又はbに適合すること
a 最近1年間の利益の額が1億円以上であること
b 時価総額が50億円以上

・事業継続年数

市場事業継続年数
東証一部・二部新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して、3か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること
マザーズ新規上場申請日から起算して、1年前以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること
JASDAQ

上場基準の事例:実質基準

実質基準には、形式基準のように明確な数値基準はなく、企業の継続性や健全性、企業統治や内部統制の状況等を審査項目とし、それぞれの達成状況から上場企業としてふさわしいか否かを総合判断する。

上場したい企業は、審査項目を確認して所定の報告書等を作成し、基準に適合していることを示さなければならない。

実質基準は市場ごとに項目が異なるため、「第一部・第二部」、「マザーズ」、「JASDAQ」に分けて説明する。

・第一部、第二部

項目内容
企業の継続性及び収益性継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること
企業経営の健全性事業を公正かつ忠実に遂行していること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること
企業内容等の開示の適正性企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

・マザーズ

項目内容
企業内容、リスク情報等の開示の適切性企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること
企業経営の健全性事業を公正かつ忠実に遂行していること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること
事業計画の合理性相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項-

・JASDAQ

スタンダードグロース
(企業の存続性)
事業活動の存続に支障を来す状況にないこと
(企業の成長可能性)
成長可能性を有していること
(健全な企業統治及び有効な内部管理体制の確立)
企業規模に応じた企業統治及び内部管理体制が確立し、有効に機能していること
(成長の段階に応じた健全な企業統治及び有効な内部管理体制の確立)
成長の段階に応じた企業統治及び内部管理体制を確立していること
(企業行動の信頼性)
市場を混乱させる企業行動を起こす見込みのないこと
(企業内容等の開示の適正性)
企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

上場基準の見直し

東京証券取引所は、2020年2月に、現在の5つの市場区分「第一部」「第二部」「マザーズ」「スタンダード(JASDAQ)」「グロース(JASDAQ)」を、3つの市場区分へ見直すことを公表した。新市場区分の実施日は、2022年4月1日を目指すとしている。

コンセプトの違いが市場区分の違い

市場区分の見直しの目的は、より明確なコンセプトに基づいて市場を再編することで、「日本再興戦略」の閣議決定を受けて策定された、「スチュワードシップ・コード(※1)」や「コーポレートガバナンス・コード(※2)」の導入等によっても取り組みが進められている、上場企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支えるというものだ。

(※1)2014年2月に策定された、機関投資家向けの諸原則である。機関投資家が、企業の顧客や受益者、そして投資先企業の両方の存在を意識して運用を行う責任(スチュワードシップ責任)を果たすこと等を目的とする。

(※2)2015年6月に適用された、上場企業向けの企業統治の諸原則である。上場企業がガバナンス機能を発揮することで企業の価値を向上させること等を目的とする。5つの基本原則と複数の補充原則等からなる。

新しい3つの市場区分

新しい市場区分の名称は、下記の3つ(仮称)が予定されている。

・プライム市場
・スタンダード市場
・グロース市場

プライム市場は、多くの機関投資家からの投資対象となり得る規模の時価総額や、高いガバナンス水準を備えた企業向けとされている。

スタンダード市場は、一定の時価総額・基本的なガバナンス水準を備えた企業向けとされている。

グロース市場は、これから高い成長を見せるための事業計画に一定の市場評価が得られているものの、実績の観点から相対的にリスクの高い企業向けとされている。

新しい市場の上場基準

参考までに新市場の上場基準のうち、形式的な基準を紹介する。

・プライム市場

現行の第一部・第二部の上場基準が混ざったような内容になっている。

株主数800人以上
流通株式数2万単位以上
流通株式時価総額100億円以上
売買代金時価総額250億円以上
流通株式比率35%以上
収益基盤(利益実績)最近2年間の利益合計が25億円以上
(売上実績)売上高100億円以上かつ、時価総額1,000億円以上
財政状態純資産50億円以上

プライム市場は、コーポレートガバナンス・コードの全原則の適用対象となるが、今後のコーポレートガバナンス・コードの見直しによって、より高い水準になる可能性がある。

・スタンダード市場

現行の第二部とマザーズの中間のような基準が多いが、収益基盤・財政状態は、現行のJASDAQと同程度になっている。

株主数400人以上
流通株式数2,000単位以上
流通株式時価総額10億円以上
流通株式比率25%以上
収益基盤最近1年間の利益が1億円以上
財政状態純資産額が正であること

こちらも、コーポレートガバナンス・コードの全原則の適用対象とされる。

・グロース市場

株主数150人以上
流通株式数1,000単位以上
流通株式時価総額5億円以上
流通株式比率25%以上

コーポレートガバナンス・コードについては、基本原則のみ適用となる。

この他にも、高い成長性を実現するための事業計画が合理的に策定されていることや、その適切な開示などが求められる。

参考:日本取引所グループ「市場構造の在り方等の検討」

上場している企業の対応

既に東京証券取引所に上場している企業については、新市場のコンセプトや新しい上場基準を踏まえて、企業が主体的に市場を選択することになる。

選択する市場によっては、新規上場と同じ基準で審査を受けることもある。

上場基準をしっかり理解しておこう

国内の証券取引所と市場の種類、東京証券取引所の上場基準、新市場区分による上場基準などを紹介した。

上場を目指す企業の経営者は、各市場の上場基準の確認をするのはもちろん、新市場の上場基準が現在の5市場と比べてどのように違うかを把握した上で、自社が上場する際の参考になれば幸いである。

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)

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