後継者不足
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昨今多くの中小・零細企業では、経営者の高齢化により事業承継のタイミングを迎えている。従来は経営者の家族が家業を継ぐ形が一般的であったため、事業承継は円滑に行われていた。しかし近年は、そうした事情が一変し、後継者不足により事業承継を円滑に行えない中小・零細企業が増えている。

そこで今回の記事では、中小・零細企業を取り巻く後継者不足の現状や原因、解決策を分かりやすく解説していく。現時点で後継者不足に悩む経営者はもちろん、今後事業承継の予定がある中小・零細企業の経営者も参考にしていただきたい。

目次

  1. 後継者不足とは
  2. 後継者不足の現状
    1. 約65%の中小企業が後継者不足となっている
    2. 地域別に見た後継者不足の現状
    3. 業種別に見た後継者不足の現状
  3. 後継者不足の原因
    1. 少子高齢化の影響
    2. 親族内承継が一般的でなくなった
    3. 経営の先行き不安
    4. 事業承継の準備が進んでいない
  4. 後継者不足の解決策
    1. 親族内承継
    2. 親族外承継
    3. M&Aによる第三者承継
    4. 廃業
  5. M&Aも視野に入れ、早めの対策と準備で後継者不足を解決

後継者不足とは

後継者不足とは、会社の経営権を引き継ぐ跡継ぎが見つかっていない状態である。一昔前までは、先代経営者の子どもが「家業を継ぐ」ことが一般的だったため、後継者不足という言葉自体は浸透していなかった。しかし近年は、少子高齢化をはじめとしたさまざまな理由により、子どもが家業を継ぐことが一般的ではなくなっているのだ。

その影響により 多くの中小企業で次世代の後継者が見つかっていない状況に陥っている。そこで「後継者不足」という用語が広く知られるようになったわけだ。

後継者不足の現状

中小企業で後継者不足が進行していることは広く知られているが、果たして具体的に 状況 はどのようになっているのだろうか?この章では、帝国データバンクが行った「全国・後継者不在企業動向調査(2019)」という調査の結果をもと に後継者不足の現状を解説する。

約65%の中小企業が後継者不足となっている

同調査で全国約27万5,000社の中小企業を調査したところ、65.2%にあたる約18万社で後継者不足の状況に陥っている。後継者不在率が66%を超えた2016~2018年と比べると、やや減少傾向となっているが、依然として大半の中小企業が深刻な後継者不足に悩まされていることに変わりがない 。

社長の年代ごとに見ていくと 、 先代経営者が70代の場合は39.9%、80代以上の場合 は31.8%が後継者不足の状況である。約3~4割の中小企業では、早急な事業承継を必要とする一方で、いまだ後継者が不足している影響で前に進まないことが見て取れるだろう。

地域別に見た後継者不足の現状

地域別に後継者不足の現状を見た場合、2019年で後継者不足の割合が最も高かったのは北海道(72.9%)だった。北海道に次いで中国(70.6%)と近畿(66.6%)でも高い後継者不在率を記録している。一方で四国では54.5%、北陸では57.4%と 後継者不在率が50%台の 低い水準である地域もある 。

地域によって約20%弱もの差が出ており、後継者不足の深刻度は異なることがわ かる。なお前年度以前と比較した場合、9つある地域中5地域で前年よりも後継者不在率は下回った。関東と中部では、2年連続で後継者不在率の低下が見られているのが特徴だ。依然として後継者不足は楽観視できない。

しかし、ピーク時と比べると後継者不足の問題は緩和されつつあるといえるだろう。

業種別に見た後継者不足の現状

業種別に後継者不足の現状を見ると、7つある業種のすべてで後継者不在率の低下が見られた。特に卸売では64.7%→63.3%、サービスでは71.6%→70.2%と、共に1.4%も前年度と比べて後継者不在率が低下している。地域別に見た場合と同様に、以前と比べて後継者不足は若干ながら解消に向かっているといえるだろう。

ただし、業種を細かく区切った場合、前年と比べて後継者不在率が上昇した業種もある。特にその傾向が強い のが「製造業」だ。製造業全体で見ると59.0%→57.9%と1%を超える低下が見られた。しかし、15業種に分けて見ると7つの業種で後継者不在率が上昇している。全体的には後継者不足の課題が解決の兆しは見えるものの、一部の業種ではより深刻化していることがわ かるだろう。

後継者不足の原因

そもそも、なぜ中小企業は後継者不足に陥っているのだろうか?一般的に、後継者不足に中小企業が陥っている原因として、以下の4つの問題点が挙げられる。

少子高齢化の影響

後継者不足の問題が進む最大の理由の一つは、少子高齢化の影響だ。内閣府の「令和元年版高齢白書(概要版)」によると2019年時点で高齢者(65歳以上)が人口に占める割合は28.1%となっている。一方、 出生数は年々減少しているのが現状だ。厚生労働省の「令和元年(2019)人口動態統計の年間推計」によると2019年度の出生数は約86万4,000人と過去最小を記録した。

このような 少子高齢化の傾向は、中小企業も例外ではない。多くの中小企業では、経営者の高齢化が進む一方で、肝心の跡継ぎである子どもがいなかったり少なかったりすることが多々ある。高齢化により経営者の交代タイミングを迎えているのにもかかわらず 、担い手である若い人の 数が減っていることで後継者不足は深刻化しているわけだ。

親族内承継が一般的でなくなった

少子高齢化により子どもの人数が減っても、数少ない子どもが後継者となれば問題ないように思えるかもしれない。しかし昨今は、従来当たり前であった親族内承継が一般的ではなくなっている。近年は、親の会社を継ぐことよりも子ども自らが働きたい仕事に就くことが一般的だ。その影響で、先代経営者である親が会社を引き継がせたくても子どもにその気がなく、 後継者不足となっている会社は少なくない。

経営の先行き不安

経営の先行き不安も後継者不足の主要な原因の一つである。バブル崩壊やリーマンショック、経済のグローバル化などの原因により、中小企業を取り巻く経営環境は厳しくなる一方だ。特に近年は、ビジネスのIT化も進行しており、新しいビジネスモデルに対応できない中小企業が多くなっている。

これらの 事情から、経営の先行きに不安を抱える中小企業は少なくない。業績の悪化や事業継続が困難となる可能性が高いことから、子どもはもちろん社内の役職員でも事業を引き継ぎたがらないケースもある。また、経営の先行き不安から事業承継を行わずに、自分の代で廃業しようと考える経営者も少なくない。

事業承継の準備が進んでいない

事業承継の準備を進めていないことが原因で、後継者不足に陥っている中小企業も多い。本来は、後継者の選定や後継者教育、経営資源の引き継ぎなど事業承継では多大な手間や手続きを要する。そのため、事業承継の準備には1~3年ほどの時間がかかるといわれている。しかし、中小企業の中には、本業の忙しさから事業承継の準備が後回しになっているところも少なくない。

いつまでも後回しにした結果、後継者の選定や教育が終わる前に先代経営者が亡くなってしまい、事業の続行が困難となる場合もある。

後継者不足の解決策

中小企業の抱える後継者不足は、事業承継の進行に深刻な影響を与えかねない。したがって、後継者不足の問題は迅速に解決することが必要だ。後継者不足の解決策としては「親族内承継」「親族外承継」「M&Aによる第三者承継」「廃業」という4つの選択肢がある。この章では、それぞれの解決策についてポイントを解説する。

親族内承継

親族内承継とは、先代経営者の子どもや配偶者などの親族を後継者とする方法である。後継者不足を解決する際には、まずは親族内で後継者候補を選定するのが一般的だ。親族内承継を成功させるには、早急な後継者の選定と教育が不可欠である。後継者の教育は、後継者によって差があるが一般的に5~10年ほどかかるといわれている。

そのため、先代経営者が若い(40~60代)のうちに後継者を確定し、いち早く後継者教育を始めることが大切だ。具体的な教育方法としては、実際に会社の重役として参画し、経営や実務に必要なノウハウを覚える方法が一般的である。もしくは外部の他社に入社し、必要なノウハウを網羅的に習得させるのも一つの方法だろう。

親族外承継

親族外承継とは、親族以外の役職員に会社を引き継いだり、外部から経営者を招き入れたりする方法のことだ。近年は、親族内承継に代わってメジャーな事業承継の方法となりつつある。そのような 親族外承継で後継者不足に陥らないためには、後継者候補に「会社を引き継ぎたい」と思わせることが重要だ。

なぜなら、親族以外の人にとって中小企業を引き継ぐことは、とても大きなリスクに感じる可能性があるからである。親族外承継で最も大きな障壁となるのは、自社株の買い取り費用だ。自社株の大半を引き継ぐには莫大な費用がかかる。そのため、例えば無償で譲渡したり外部の金融機関から融資を受けたりするなどして、なるべく後継者の負担にならないように注力しなくてはならない。

また、今後倒産しそうな会社では、誰も後継者の役目を引き受けてくれない可能性が高いため、経営の先行き不安を少しでも解消することも重要だ。例えば、自社の強みを強化したり、不採算の事業からは撤退したりするなどの施策が効果的と考えられる。

M&Aによる第三者承継

従来、親族や会社内に後継者がいない中小企業は、廃業せざるを得ないことが一般的であった。しかし近年は、M&Aを活用して廃業を回避するケースが増えている。M&Aでは、自社の株式を外部の法人や経営者に譲渡する形で事業承継を行う。外部の幅広い法人・経営者の中から会社の引き継ぎ手を探すため、後継者不足により親族内や社内で事業承継できない企業には最適な手法だ。

ただし、後継者不足に陥っているような中小企業の大半は、業績悪化や倒産のリスクが高い傾向にある ため、簡単にはM&Aの相手を見つけられないという一面もある。後継者不足の企業がM&Aを果たすには、買い手にとって買収する価値のある企業にしなくてはならない。

具体的には、有利子負債や不要な在庫を削減しつつ主力事業を強化し、 収益性を伸ばすことで企業価値を高める必要がある。短期間で実現できるものではないため、後継者不足を認識した時点から早めに対策を行うことが不可欠だ。

廃業

「親族外承継」「親族内承継」「M&A」のいずれでも後継者不足を解消できない場合は、廃業せざるを得ない。たしかに廃業は回避したい選択肢だが業績や経営環境次第では、どうしても後継者不足を解決できないケースも考えられる。したがって親族外承継などの方法で後継者不足の解決を目指すと同時にやむを得ず廃業する場合にも備えておくことも重要だ。

例えば、従業員の再就職先を選定しておいたり事業用資産の売却先を見つけておいたりすることはもちろんのこと、廃業に必要な費用を見積もり・準備することも大切だ。あらかじめ廃業時の行動も明確にしておけば、やむを得ず廃業するとなった場合に従業員や家族に迷惑をかけずスムーズに事業をたたむことができるだろう。

M&Aも視野に入れ、早めの対策と準備で後継者不足を解決

中小企業の多くを苦しめる後継者不足は、早めの準備や対応により解決できる可能性がある。親族や会社内に後継者がいない場合、時間やコストはかかるがM&Aという方法も選択肢の一つだ。後継者不足に悩んでいる人は、後継者不足の原因を特定し、いち早く対策を始められるように心がけてみてはいかがだろうか。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)

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