製紙業界
(画像=PIXTA)

1990年代からの歴史を見てみると、国内製紙業界は他に類を見ないほど再編が活発化している。しかし、近年では事情が変わりつつあり、業界内の再編戦争はついに終結を迎えるかもしれない。本記事では、そんな製紙業界の過去と今後の展望を整理していこう。

目次

  1. 国内市場が縮小?1990年代からの製紙業界の歴史
    1. バブル崩壊をきっかけに、業界再編が活発化
    2. 2大メーカーの過剰投資と、印刷需要の減少が新たな問題に
  2. 製紙市場が縮小した3つの要因と、中国との関係性
    1. 1.オフィス業務のペーパーレス化
    2. 2.中国の輸入拡大による、古紙価格の高止まり
    3. 3.内需に頼り切った業界構造
  3. 世界の製紙企業と日本企業はどう違う?国内の製紙企業の強みと弱み
    1. 国内製紙企業の主な強み
    2. 国内製紙企業の主な弱み
  4. 市場縮小の影響で、国内の製紙業界は再編の動きに
    1. 具体的には何が起きている?
  5. 国内大手はどう動いている?大手メーカーの動向と展望を解説
    1. セルロースナノファイバーによる新市場の開拓
    2. 再編戦争に終結の可能性が?
  6. 関連企業は業界動向のこまめなチェックを

国内市場が縮小?1990年代からの製紙業界の歴史

近年になって日本国内の製紙業界は、大きな苦境に立たされている。2019年には13年連続で国内紙需要が前年を下回り、市場縮小の勢いは止まる気配がない。では、国内の製紙業界がなぜこのような状況に直面しているのかを紐解くために、1990年代からの歴史をおさらいしてみよう。

バブル崩壊をきっかけに、業界再編が活発化

日本は1992年にバブル経済が崩壊し、それに伴って国内の紙市況も暴落した。その影響で、多くの製紙メーカーの設備過剰が深刻な問題となり、業界トップクラスの企業でさえ業績悪化の一途を辿ってしまった。

この時期に新たな経営手法として注目されたのが、大手メーカーによる「業界再編」である。1993年には王子製紙と神崎製紙が合併して「新王子製紙」を発足、さらに1996年には本州製紙を吸収合併し、社名を再び「王子製紙」へと戻した。また、十條製紙と山陽国策パルプも1993年に合併し、「日本製紙」を誕生させている。

この流れは2000年代に入ってからも続き、日本製紙が中心となって中小の吸収合併が進んでいった。結果的に、王子製紙と日本製紙は国内の2大メーカーに成長したが、その反面で新たな問題が浮上してしまう。

2大メーカーの過剰投資と、印刷需要の減少が新たな問題に

製紙業界における2大メーカーが新たに抱えた問題とは、「過剰設備・過剰人員・過剰債務」の3つだ。王子製紙と日本製紙は業界再編によって潤沢な資金を得たが、これらの問題が急浮上したことにより、リストラ決行と社内統廃合の必要性に迫られてしまった。

そして、この状況に追い打ちをかけるように、国内ではIT機器の発達による「印刷需要の減少」が生じた。電子文書や電子書籍などの台頭によって、製紙市場が大幅に縮小してしまったのである。

製紙市場は2010年代に入る頃にはすでに縮小し始めており、2020年現在では多くの企業が生き残りをかけてもがいている状況だ。

製紙市場が縮小した3つの要因と、中国との関係性

国内の製紙市場が縮小した要因について、以下ではもう少し詳しく解説していこう。製紙業界の市場縮小の要因は、大きく以下の3つにわけられる。

1.オフィス業務のペーパーレス化

前述でも触れたが、IT機器の発達による印刷需要の減少は、製紙業界にとって深刻なダメージだ。オフィス業務ではペーパーレス化が着々と進んでおり、書籍や雑誌などの紙媒体の需要も落ち込んでいる。

全国出版協会が公表したデータによると、2015年~2017年の紙市場は3年連続で縮小傾向に。雑誌にいたっては、2016年~2017年にかけて需要が10.8%減少しており、初の2桁台のマイナスを記録している。

ペーパーレス化の波は今後も世界的に広がっていくと予測されるため、国内市場の縮小は歯止めがきかなくなる恐れがある。

2.中国の輸入拡大による、古紙価格の高止まり

ペーパーレス化によって洋紙の需要は落ち込んだものの、段ボールやティッシュなどの「家庭紙」の需要は比較的堅調であった。そのため、国内各社は家庭紙によって需要の落ち込みをカバーしてきたが、2018年頃からはその状況も変わりつつある。

同時期に中国が段ボールの輸入拡大をしたことで、家庭紙の原料となる古紙の価格が高止まりしてしまったのだ。結果的に、国内メーカーの収益は大きく圧迫されており、多くの企業が苦境に立たされている。

3.内需に頼り切った業界構造

ここまでを読んで、「内需がダメなら外需で…」と考える経営者は多いことだろう。しかし、製紙業界は典型的な内需型産業であり、これまで多くの需要を日本国内に頼り切ってきた。

もちろん、これから海外進出が主流になる可能性もあるが、製紙業界の海外進出はそこまで簡単な話ではない。たとえば、近場で大きな市場に該当する「中国」に進出するケースを考えてみよう。

中国は広大な敷地面積を持つため、量的には製紙の経営資源が豊富に存在すると考えられる。しかし、実は”中国の人口に対する経営資源の量”は、非常に貧弱であると言われている。

さらに、中国にはすでに世界的なメーカーが進出しており、競争が激化しやすい地域でもある。このような状況下で、日本企業が経営資源をスムーズに確保し、現地で大量生産をすることは容易ではない。外需を求めて海外進出をするのであれば、欧米や現地の企業と渡り合うための準備が必要になるだろう。

世界の製紙企業と日本企業はどう違う?国内の製紙企業の強みと弱み

では、国内メーカーの海外進出を考えたときに、世界の製紙企業と日本企業にはどのような違いがあるのだろうか。海外で成功を収めるには、日本独自の強みを活かすだけではなく、弱みにあたる部分を克服しなければならない。

そこで以下では、国内製紙企業の主な強みと弱みをまとめた。

国内製紙企業の主な強み

国内製紙企業の最大の強みは、世界トップレベルの製紙技術とノウハウを有していることだ。

日本が誇る製紙技術としては、主に古紙の利用技術やバイオマスエネルギーの利用、脱墨技術などが挙げられる。さらに、日本は水質汚濁や騒音、煤煙を防ぐ技術も発達しており、地域住民や環境に優しい生産体制を築けている。

また、国内の古紙回収システムや物流システムも、世界に誇れる日本独自のものだ。たとえば、日本は古くから新聞を読む文化が根付いており、消費者に対して安定的に供給してきた。そのほかにも、「大量生産~安定供給」の一貫したシステムを構築できている紙製品はいくつか見受けられる。

近年ではペーパーレス化によって需要が落ち込んでいるものの、国内メーカーのいくつかが世界的に評価されているのは、やはり高い製紙技術とノウハウを確立した影響が大きい。

国内製紙企業の主な弱み

一方で、国内製紙企業の弱みとしては、主に以下の点が挙げられる。

【1】工場によって生産量に大きな偏りがある
【2】流通や生産、調達の面で、国内大手に依存する企業が多い
【3】海外での木材チップの調達先探しが難航している

【1】と【2】の点からは、製紙業界の再編がそれほどスムーズに進んでいないことがうかがえる。企業や工場ごとに生産体制が大きく異なるため、将来的に世界レベルの競争が生じると、国内企業は太刀打ちできなくなる恐れがある。

また、海外進出における「木材チップの調達先探し」が難航している点も、軽視できない日本の欠点だ。木材チップを調達できる地域はアジアにもいくつか存在するが、インドネシアなどで違法伐採の取締りが強化された影響で、大量生産の原料となるチップを調達することが難しくなってきている。

これらの課題を解決しない限り、製紙業界では外需を増やすことや海外進出を成功させることは難しい。

市場縮小の影響で、国内の製紙業界は再編の動きに

ここからは、話を国内の製紙業界に戻して解説を進めていく。
国内市場が縮小した影響で、製紙業界には再編の動きが多く見受けられるようになった。なかでも2000年代から始まった再編の動きは、「15年戦争」とたとえられるほど激しいものになっている。

具体的には何が起きている?

では、具体的にどのような業界再編が起こったのか、以下で簡単に紹介していこう。

時期業界再編の概要
2006年北越紀州製紙(※現北越コーポレーション)が王子製紙(※現王子ホールディングス)との経営統合を拒否したことで、王子製紙が敵対的買収に打って出たが、三菱商事の参戦によって買収を断念
2006年上記の敵対的買収と同時期に、北越紀州製紙と三菱商事が経営統合
2014年北越紀州製紙と大王製紙が、経営統合を検討
2014年北越紀州製紙と三菱製紙が、それぞれの販売子会社の統合を発表
2018年王子製紙が三菱製紙に約100億円を出資し、同社を持ち分法適用会社に

上記に登場する製紙メーカーは、いずれも国内でトップレベルのシェアを誇る企業だ。国内最大手の王子製紙が敵対的買収に打って出た2006年頃から各社の関係性が複雑化しており、さまざまな形の経営統合が生じている。業界全体で見れば、まさに再編が進んでいる状態と言えるだろう。

国内大手はどう動いている?大手メーカーの動向と展望を解説

最後に、国内の大手製紙メーカーがどのような動きを見せているのか、最近の動向と今後の展望について見ていこう。

セルロースナノファイバーによる新市場の開拓

市場が縮小した影響で、国内メーカーは「脱・紙依存」の動きを見せつつある。たとえば、国内大手の大王製紙は新素材である「セルロースナノファイバー」を製造し、自動車部材や建材などの新たな分野に進出しつつある。

国内最大手の王子ホールディングスも、セルロースナノファイバーの製造には積極的だ。2019年の段階で営業部隊を設けて拡販するなど、新市場の開拓に力を注いでいる。

新素材として注目されているものは他にもあるが、特にセルロースナノファイバーは汎用性が高いことで世界的に注目されている。2030年には1兆円市場になるとも言われているため、国内の製紙業界を救う存在になるかもしれない。

再編戦争に終結の可能性が?

製紙業界の再編の動きは今も見られるが、実はここにきて"終結"の可能性が出てきている。三菱商事が保有する北越コーポレーションの株式を、業界最大手である王子ホールディングスが買い取る話が出てきたためだ。

仮にこれが実現すれば、業界第1位と第5位のメーカーが提携を結ぶ形となり、業界の構図に大きな変化をもたらす。業界トップがさらに大きな力を持つことになるため、製紙業界は王子ホールディングスのひとり勝ちになる可能性が高い。

ただし、現時点では独占禁止法などの問題も抱えているため、製紙業界の今後はいまだに不透明だ。今後の勢力図がどのように変わるか、そして海外進出を成功させる企業が現れるのか、中小経営者は引き続き注視しておきたい。

関連企業は業界動向のこまめなチェックを

本記事で紹介したように、国内の製紙業界はいま過渡期を迎えている。業界再編の新たな動きに加えて、海外進出や新素材の登場などさまざまな要素が絡み合っているため、今後どのように変化していくのかは誰にもわからない。

そのため、同じ製紙業界の企業や関連企業は、こまめに業界の動向をチェックしておくことが重要だ。今後数年で状況が一変する可能性も考えられるため、該当する中小経営者はスムーズに動くための準備をしておきたい。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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