全国金融M&A研究会が主催する「2020年M&Aバンクオブザイヤー」の受賞行を取り上げる企画の第六弾。

日本全国の地域金融機関でM&Aや事業承継を担当されている行員(BANKER)に各行の取り組みや銀行のカラー、地域の事業承継事情など他行への参考になる情報をインタビュー。

第六回目は、優良なディールを達成した銀行に授与される「ディールオブザイヤー」を受賞した伊予銀行の執行役員でコンサルティング営業部長の河﨑 徳彦氏、同じく、コンサルティング営業部の深井 康平氏にインタビューした。

BANKERS
伊予銀行の執行役員 兼 コンサルティング営業部長の河﨑 徳彦氏

ものづくりとICTのコンサルティング

――愛媛での取り組みや、M&Aに限らず銀行として特に力を入れていることをお聞かせください。

河﨑:他行でも既に取り組まれているかと思いますが、伊予銀行では「ものづくり」と「ICT」(Information and Communication Technology:情報通信技術)関連のコンサルティングに比較的早くから取り組んでいます。

ものづくりに関しては、2012年からメーカー出身の方を中途採用して、ものづくり企業に営業店と同行訪問の上、情報提供、ビジネスマッチング、知財関連等のサポートを行っています。 ICTコンサルティングは2018年からサイボウズ株式会社様等複数社と提携し、情報の電子化、多拠点の情報一元化等、業務効率化につながるICTコンサルティングに取り組んでいます。

その他、相続関連業務、ファイナンス、ファンド関連業務、人材紹介、資産運用・保険相談等、様々な業務を約120名の人員で対応させていただいています。

深井:お客さまにご提案できるメニューが多くあり、営業店との同行訪問を通じて、幅広くお客さまのお役に立てるのではないかと思います。

――これだけコンサルティング営業に人材と能力をかけられているのは、スタートが早かったというのもあるのでしょうか。

河﨑:そうですね。CI導入により平成2年9月に新たな企業理念を策定しています。その説明の中で既にコンサルティングバンクを目指すと謳われており、現在ほどではありませんが、当初からコンサルティング営業に取り組む風潮はありました。このような考え方がベースにあり諸先輩方の努力により様々な取り組みをしてきたという歴史があり現在があるのだと思います。

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特に経営姿勢の『最適のサービスで信頼に応える』の中で、

『先進的で総合的なサービス』について、常に時代の流れや社会の変化をしっかりとつかみ、一歩先を見つめながら、多様化し高度化する金融ニーズに、伊予銀行グループとして総合的にこれに応える、暮らしと事業にかけがえのないコンサルティングバンクを目指します。

とあり、その当時の考え方が今も陳腐化せず、時代に即した内容であることに企業理念の大切さを再認識させられます。

――地域活性化へのマインドはチームだけではなく、伊予銀行さんの社風によるものでしょうか。

河﨑:企業理念の「潤いと活力ある地域の明日を創る」という弊行の存在意義が全行員のベースにあり、これが社風になっていると思います。また行内研修、昇格試験、朝礼時の唱和等、現在もこの企業理念を徹底し続けている事も組織風土に繋がっていると思います。

深井:これは私も新入行員研修で徹底して叩き込まれました。現在もこの考え方がベースになっています。

M&Aの人材は現場で育てる

――M&Aの取り組みにおいて、担当の方が自立しているといいますか、個々の方々のレベルが高い印象がありますが、人材育成において何か特別にされていることはありますか。

河﨑: M&Aは経営者の意思決定をサポートする事が重要であり、安易な人選をしてはいけないと思います。

業界動向、経営者の気持ち、事業所の歴史等、様々な事に配慮できる人財を育成する必要があります。 過去、9名が日本M&Aセンター様に出向をさせていただきました。

また、その他複数の金融機関にも出向実績があります。 出向前に当部において半年間は事業承継チームで勉強と実務経験を積ませています。

弊行のM&Aチームには、出向経験があり専門的なノウハウを習得した上で配属されますので、営業店から来てすぐM&Aを担当するということはありません。

―――M&A、事業承継チームはどのような態勢ですか。

河﨑:M&Aチームが7名、事業承継チームが10名です。13都府県に営業店があり、各エリア担当は事業承継の課題をメインテーマにそのエリアの営業店と同行訪問をします。M&A・事業承継の課題だけではなく、人材不足、マッチング等いくつかの経営課題が絡んでいることも多く、事業承継チームだけでなくその他のメンバーも営業店と連携してお客さまにご提案させていただいております。

お客さまとの対話の中で、今まで知らなかった事、営業店だけでは気が付かなかった課題等を把握し、ディスカッションペーパーを作成し何度も提案を繰り返します。これが若手行員のOJTになり、現場の人財育成に繋がっていると思います。

河﨑:事業承継は法人のコンサルティングと言いながら、自社株問題、後継者問題、資産承継問題など、経営者個人のコンサルティングが色濃く入っています。ある意味、事業継承は究極のリテールコンサルティングなのかも知れません。

―――事業承継チームでお客様をエリアごとにしっかり把握し、M&Aニーズにつながる先はしっかり連携していくという、少ない人数でもきちっと回せる理想の形ですね。

河﨑:コンサルティング営業部の創設は2018年8月で、開設当時から同じ体制で運営しています。経営課題の解決方法として、常にM&Aの話をご提案するわけではありませんが、事業承継の大きな選択肢の1つにM&Aがあるというのは行内でも浸透しています。

営業において、お客さまから今後の事業計画の話を伺うことがあります。多角化したいとか、今の事業と相乗効果のある新規事業をやってみたいなど、様々な話が出た時に、その選択肢にM&Aがあることをお伝えすることができれば次につながります。その一言が言える営業マンを育成していくことが大切だと思います。

―――経験者が長年同じ部署にいることが難しい金融機関さんが多いようですが、伊予銀行さんはいかがでしょうか。

河﨑:担当者が交代する時にレベルが下がるというのは、お客さまにご迷惑をおかけする話です。高いレベルを維持しながら、新たな人財を育成する状態を継続すべきと考えています。

そのためには専門性の高い人財が長年同じ部署にいることも必要な事だと考えていますし、実際に長期在籍者が多くなっています。

地域の経営者様の約60%が65歳以上です。その多くは事業承継等の問題を抱えています。事業継続のお手伝いをしなければ地域から企業がなくなり、雇用も失われます。地方銀行として各地域の産業を守っていかなければなりません。

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――これから日本M&Aセンターに期待することはなんですか?

河﨑: 日本M&Aセンター様には我々地方銀行が経験していないような事例について共有していただければ大変ありがたいと思います(業種別の留意点など)。また、人財育成については引き続きご協力をお願いしたいと思います。

深井:業種別で論点が色々とあるかと思いますが、具体的な内容について共有いただけるとありがたいです。

―――色々とお伺いしましたが、個人で思っているモットーや人生観などありましたらお聞かせください。

河﨑:「日に新たに、日々に新たに・・・」を自分のモットーとしています。激変する環境に対応するために、引き続きこの言葉を意識し、地域のお客さまのお役に立つ活動を行っていきたいと考えています。