企業価値を高めるには、会社を支える利害関係者からの信頼を得ることが不可欠である。会社の活動を統制し、外部に正しい情報を開示しなければならない。今回は、企業のガバナンス強化について、企業統治や内部統制、ガバナンスを強化する機関について解説する。
目次
企業のガバナンスとは
ガバナンスとは、統治を意味する言葉で、企業ガバナンスといえば、会社を統治する仕組みや管理体制をさす。
たとえば、経営陣の業務を監視する体制や、会社が正しい情報を開示するための仕組みなどである。
会社が大きくなるほど、適切な統制を心がけねばならない。ガバナンスの強化によって、経営陣の職務怠慢や暴走、内部不正などを防止できる。
ガバナンス強化の方針として、企業統治と内部統制の2つがある。
方針1.企業統治
企業統治とは、公正な経営体制を築くための取り組みであり、経営陣による会社の私物化を防ぐために実施され、利害関係者との信頼関係構築まで含まれる。コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance)ともいう。
経営体制の枠組みは会社法に定められている。上場企業の場合、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コードが企業統治の指針となる。
上場企業では、コーポレートガバナンス・コードに定められた原則に基づき、「コーポレート・ガバナンス(に関する報告書」の作成・開示が要請される。
方針2.内部統制
内部統制(Internal Control)では、社内ルールによって事業活動を統制し、経営者や従業員などが生じさせる内部問題を回避する。具体的には、コンプライアンスやリスク管理などの体制を整備する。
上場企業では、内部統制に関する考え方や整備状況も「コーポレート・ガバナンス(に関する報告書」で開示するよう促される。
ガバナンス強化の必要性
ガバナンス強化が必要な理由は主に2つだ。自社の状況を踏まえて、ガバナンス強化を検討するとよいだろう。
ワンマン経営の防止
会社の規模に関わらず重要なのは、ワンマン経営の防止だ。企業統治や内部統制の仕組みを整えることで、経営者による会社の私物化や不正を防止して、企業の透明性を確保できる。
こうした取り組みによって、株主や顧客、取引先、銀行を含む利害関係者から信頼されやすくなり、企業の基盤強化や持続的成長につながっていく。
上場に必要な書類がある
企業のガバナンス強化は、これから上場する企業にも関係する。たとえば、東京証券取引所の上場申請では「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の提出を求められ、以下の記載事項がある。
・コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方
・内部統制システム等に関する事項
コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく企業統治に関する取り組みやコンプライアンス体制、リスク管理体制の整備状況などを報告する。
したがって、上場を目指す企業も、企業統治と内部統制によってガバナンス強化を行う必要がある。上場後も、投資家保護の観点から同様の報告を行う。
ガバナンス強化に関する設置機関
ガバナンス強化のためには、会社法による企業統治の枠組みから押さえたい。
会社法によるガバナンス強化は、株式会社に委ねられるのが一般的だ。株主総会や取締役会、監査役だけという場合もあれば、より公正な運営のために監査役会や委員会などを置くこともある。
会社の規模や株式の譲渡制限などによって設置義務のある機関があったり、逆に同じ会社には設置できない機関があったりする。この項では、会社法に関する設置機関を紹介していく。
株主総会
株主が構成する機関で、株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について会社の意思決定を行う。
ただし、取締役会が設置されている場合は、定款や法律に定められた事項に関する意思決定に限られる。
取締役会
ここからは、基本的に任意で設置する機関を挙げる。
取締役会は、株式会社の業務執行を担う機関である。経営に関する重要事項の専決や、取締役の監督権限などを担う。ワンマン経営の防止に直結する機関であり、ガバナンス強化には不可欠といえよう。
なお、以下の株式会社は、取締役会を必ず設置しなければならない。
・公開会社
・監査役会設置会社
・監査等委員会設置会社
・指名委員会等設置会社
公開会社
公開会社とは、発行株式に譲渡制限を設けていない株式会社をさす。発行株式の一部に譲渡制限を設けていない場合も該当する。
会計監査人
株式会社の計算書類や附属明細書などを監査する外部機関で、公認会計士や監査法人などが就任する。監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社、大会社に設置しなければならない。
監査役会設置会社
公開会社である大会社には監査役会および会計監査人の設置義務があるが、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は除かれる。
監査役会は、3人以上の監査役(半数以上は社外監査役)で構成される。
監査役とは、取締役や会計参与の職務を監査する機関であり、取締役会設置会社では設置しなければならない。ただし、非公開会社で会計参与が設置されている会社を除く。
指名委員会等設置会社
指名委員会、監査委員会および報酬委員会を設置する会社である。委員3人以上で構成され、委員は取締役の中から選任される。その際、過半数は社外取締役でなければならない。
指名委員会等設置会社には、1人または2人以上の執行役を置かなければならず、業務執行は取締役会ではなく執行役の権限となる。ちなみに、執行役は取締役を兼任可能だ
監査等委員会を設置できず、取締役会や会計監査人を設置しなければならない。
監査等委員会設置会社
監査等委員会設置会社とは、平成26年の改正によってスタートした比較的新しい形態の会社である。
それまで、公開会社である大会社は、監査役会あるいは委員会の設置(現在の指名委員会等の設置)が必要であったが、その中間的な選択となる。
過半数の社外取締役を含む取締役3名以上で構成され、監査役を設置できない。取締役会や会計監査人を設置する。
関連機関の設置方針
家族経営など2人以下の取締役で経営する中小企業であれば、一般的に取締役会をはじめ他の機関も設置しない。
しかしながら、ガバナンスを強化するために取締役会や監査役などの設置を検討し、上場を目指すのであれば、取締役会や監査役会、監査等委員会または指名委員会などの設置を計画するケースが多い。
ちなみに、東京証券取引所の有価証券上場規程第437条では、上場企業は次の機関を置くとされている。
・取締役会
・監査役会、監査等委員会または指名委員会等
・会計監査人
ガバナンス強化の指針「コーポレートガバナンス・コード」
続いて、上場企業の企業統治や内部統制の指針となるコーポレートガバナンス・コードの内容を紹介する。
コーポレートガバナンス・コードの考え方
考え方1.プリンシプルベース・アプローチ
コーポレートガバナンス・コードの原則に照らして、正しい企業統治の体制を企業が自ら構築する考え方である。
考え方2.コンプライ・オア・エクスプレイン
コーポレートガバナンス・コードを実施しない場合に理由を説明するという考え方である。コーポレートガバナンス・コードの適用は強制ではない。
コーポレートガバナンス・コードの原則
コーポレートガバナンス・コードは以下の基本原則から構成されている。
・株主の権利と平等性の確保
・株主以外のステークホルダーとの適切な協働
・適切な情報開示と透明性の確保
・取締役会等の責務
・株主との対話
原則1.株主の権利と平等性の確保
株主の権利が実質的に確保されるように対応すべきとする原則である。
会社法にも株主の平等について定めがあるが、コーポレートガバナンス・コードでは、特に少数株主や外国人株主の権利確保に配慮するよう求めている。
資本提供者から広く信頼を得ることで、会社の基盤を強化できるという考えに基づく。
原則2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
従業員や顧客、取引先、債権者、地域などの協働は、企業の成長に不可欠であるという考えに基づき、ステークホルダーとの良好な関係づくりを促している。
原則3.適切な情報開示と透明性の確保
財務や経営戦略、経営課題などの情報を適切に開示するよう求めている。
投資家の保護や市場への信頼を維持するために、取締役会や監査役会などの責務に会社の透明性確保を含めている。
原則4.取締役会等の責務
取締役会は、企業の収益力や資本効率を改善し、株主に対する責務を果たすべきという原則である。
この原則では、取締役会の責務を3つ掲げている。
・企業戦略等の大きな方向性を示すこと
・経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
・独立した客観的な立場から、経営陣(執行役および執行役員を含む)や取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきという考え方も示している。
原則5.株主との対話
企業の成長に資するため、株主総会以外においても株主と建設的な対話を行い、理解を得るべきという原則である。
参考
ガバナンス強化は必須
企業のガバナンス強化について、会社法におけるガバナンスの仕組みやコーポレートガバナンス・コードの内容を解説した。ガバナンス強化の必要性を理解できただろう。本記事を参考にして、あらためてガバナンス強化を検討してみてほしい。
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文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)