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500人の村が「花粉症に効く柑橘・じゃばら」で有名に
農産物によって発生する利益も、正しい知財戦略によって保護・最大化することができる。
和歌山県に北山村という小さな村がある。ご多分に漏れず高齢化が進み、住人のおよそ8割が年金受給者という村である。北山村は97%が山林で、日本で唯一の飛び地の村としても知られる。村境が和歌山県と接しておらず、三重県と奈良県に挟まれた位置に存在する村だ。北山村は、古くは紀伊山地の材木業で栄えた。激流の北山川を筏で下る観光筏下りは、今では日本で唯一、この村でしか体験できない。
しかし何といってもこの村を有名にしたのは、北山村でしか生産されていない「じゃばら」という柑橘類の存在だ。「ゆずでもない、すだちでもない、とんでもない」というキャッチフレーズで売り出されているこの柑橘は、果汁やジャム、柿の種、お酒、はちみつ漬け等にも加工されている。
このじゃばら、当初は売れ行きも芳しくなかったというが、花粉症に効く成分「ナリルチン」を豊富に含む柑橘類としてマスコミに取り上げられたことや、花粉症に悩む人たちからの口コミが殺到したことなどで、一気に人気に火がついた。長年、インターネット通販や現地での購入が主なルートだったが、ここ最近は、製菓メーカーがじゃばらを使用したのど飴などを製造・販売。全国的な知名度をさらに伸ばしている。
同村は、このじゃばらを商標登録(じゃばら、JABARA、邪払)している。同時に種苗登録(品種登録)も行った(こちらは特許庁ではなく農林水産省の管轄)が、そちらのほうは消滅している。
北山村オンリーワンの柑橘なのだが、実はこのじゃばら、他の自治体が生産、販売する可能性もある。
というのも、同じ柑橘であっても、商標登録されている名称と異なる名前にすれば、販売できないわけでもないからだ。
年商にして2億円もの利益をもたらしているじゃばらは、高齢化と過疎化が同時に進む同村の生命線でもある。物理的に苗木が流出しない対策はもちろん、商標や特許といったあらゆる登録、申請等を利用し、引き続き知財防衛に努めなければならないだろう。知財戦略は、継続的に行われなければならないものなので、引き続きブランドを保護する手段を講じ続けるべきであろう。
農業における知財活用の成功事例として、次のようなケースも参照できる。
茨城県のある地域には、農家が高級外車を乗り回すほどに潤っている農村がある。その地域でしか収穫できない作物を商標登録して、きちんと権利を守っているからだ。作物は、収穫量が多ければ安く買いたたかれることもあるが、商標登録したその作物は、収穫量によって値段が上下することもない。
その地域は、作物が知名度を得る前に商標登録したからこそ、利益を守ることができたのだ。業種や事業分野にかかわらず、知財戦略では、儲かるビジネスであることが周りに知れ渡る前に手を打つことが、絶対的に重要だ。