自己株式
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自己株式の取得は、上場会社においては株主への利益還元の手段として利用される。非上場会社では、自己株式の取得を相続時の納税資金や事業承継の対策に活用する。今回は、非上場会社を前提に、自己株式取得の目的やメリット、自己株式の取得に関わる税務上の取扱いについて説明する。

岸田 康雄
岸田 康雄(きしだ・やすお)
公認会計士・税理士・中小企業診断士。国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定アナリスト)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、公認会計士、税理士、中小企業診断士。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、金融機関に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と財産承継の実務に従事した。平成29年経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン改訂小委員会」委員、日本公認会計士協会中小企業施策調査会「事業承継専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。

目次

  1. 自己株式の取得とは
    1. 自己株式を取得する目的は何か?
  2. 自己株式の取得に係る会社法の制約
    1. 剰余金とは
  3. 自己株式を取得する際の問題点
  4. 自己株式取得の税務上の取扱い
  5. 自己株式取得の具体的なケース3つ
    1. 自己株式の取得ケース1:すべての株主に譲渡の機会を与える場合
    2. 自己株式の取得ケース2:特定の株主だけを対象とする場合
    3. 自己株式の取得ケース3:市場取引・TOBによる場合
  6. 相続時における自己株式の取得
    1. 株主が相続時に会社へ自己株式を譲渡する目的
    2. 相続時に会社が自己株式を取得する目的
    3. 相続時に自己株式を取得するための生命保険契約
    4. 相続時に自己株式を強制的に取得する方法
    5. 相続時に自己株式を取得する際の税務上の効果
  7. 自己株式を上手に取得しよう

自己株式の取得とは

自己株式の取得とは、株式会社が自ら発行した株式を、自身以外の株主から取得することである。既に会社が自ら所有している株式のことを「自己株式」と呼ぶケースもある。

一方で、未だ所有していないものの、過去に自ら発行した株式のことを「自己株式」と呼び、それを取得する取引を、自己株式の取得と表現することもある。

自己株式を取得する目的は何か?

自己株式を取得する目的の一つに、株主総会における議決権の分散防止がある。株式が分散した会社において経営者ではない株主に相続が発生すると、その子供たちが新たに議決権を取得するため、株式の取得者がさらに分散していくという問題がある。

また、社長が2代目3代目と親族内で承継されていけば、創業者一族の中で株式が分散するが、すべての家系が会社経営に携わるわけではない。それ故、議決権の分散を回避し、経営者へ支配権を集中させるために自己株式を取得するのである。

譲渡制限株式であれば、株主の譲渡承認通知があったときに会社に対して譲渡させればよい。

自己株式の取得に係る会社法の制約

会社法において、自己株式の取得には財源規制が設けられている。そのため、剰余金の分配可能額を上限として、剰余金の配当や自己株式取得を行うことができ、純資産の社外流出に一定の歯止めが設けられている。

剰余金とは

剰余金とは、その他資本剰余金とその他利益剰余金を合計したものであり、貸借対照表の純資産の合計額から、資本金と資本準備金および利益準備金を差し引いたものと等しい。つまり、財源規制は、会社に維持すべき資本が減少しないよう債権者の利益を保護するための規定なのだ。

また、自己株式の取得は基本的に株主総会の普通決議で可能だが、ある特定の株主からの自己株式取得には特別決議が必要となることに注意されたい。これについては後ほど詳細を説明する。

自己株式を取得する際の問題点

自社株式の取得は株主構成を変化させるため、会社にとって好ましくない株主を退出させる手段としても活用できる。しかし、経営者側が自己株式の取得を希望しても、株主が株式譲渡に合意するかどうかはわからない。自己株式を譲渡するか否かは株主個人が決めることであるため、拒否することもあるだろう。

したがって、相続の場合や、会社が強制的に自己株式を取得できる定款規定がある場合を除き、株主側が希望することによって会社の自己株式取得が行われることになる。

自己株式取得の税務上の取扱い

会社による自己株式取得は、個人株主(売主)からすれば自らが所有する株式の譲渡であるため、株主個人に対して所得税等が課される。

個人株主が株式の発行会社に対して自己株式を譲渡する場合、譲渡価額のうち発行法人の資本金等の額(1株当たりの資本金等の額×株式数)を超える部分は、「みなし配当」として総合課税の配当所得となる。

配当所得となると、事業所得や不動産所得など他の所得と合算して課税され、超過累進税率によって非常に高い税率が適用されることになる。譲渡所得(長期で20.315%の分離課税)と比べて所得税負担が重くなるため、注意が必要である。

自己株式取得の具体的なケース3つ

自己株式取得の代表的なケースを3つ、紹介する。

自己株式の取得ケース1:すべての株主に譲渡の機会を与える場合

会社が、すべての株主に自己株式の譲渡の機会を提供するのであれば、株主総会の普通決議において、1年以内の期間における取得枠を事前に定めておかなければならない。株主総会においては、取得する株式の数や取得対価の内容及びその総額、取得期間を定める必要がある。

実際に自己株式を取得する方針が固まったら、取締役会において、取得する株式の数や取得対価の内容、株式数もしくは金額、またはこれらの算定方法や取得対価の総額、譲渡の申込期日を決定して、株主に通知しなければならない。

自己株式の取得ケース2:特定の株主だけを対象とする場合

相続対策のためや少数株主の整理が行われるケースのように、会社が特定の株主から自己株式を取得する場合、譲渡する特定の株主とそれ以外の株主が不公平な取扱いになる可能性がある。そのため、非公開会社の株式売却の機会を株主に平等に与えたり、特定の株主に対する利益提供を防止するなどの措置が必要となる。

こういった背景があるため、自己株式の取得を特定の株主を対象に行う場合は、株主総会の特別決議が必須である。また、他の株主は、会社に対して自らも自己株式の売主として追加するように請求できる。

自己株式の取得ケース3:市場取引・TOBによる場合

上場会社の株式は、証券取引所で流通している上場株式であるため、会社が市場取引や公開買付け(TOB)によって自己株式の取得を行う場合は、株主総会の普通決議において事前に取得枠を設定すればよい。

市場取引やTOBならば、他の株主にも売却機会が与えられており、市場価格を基準として譲渡価額も公正に決定されるからである。

相続時における自己株式の取得

上述以外の自己株式の取得には相続での取得もある。相続時の自己株式の取得について詳しく解説しよう。

株主が相続時に会社へ自己株式を譲渡する目的

株主の相続に伴って、相続人は非上場株式を相続することになる。非上場株式にも相続税が課されるが、優良企業の株式のように評価額が大きくなれば、多額の相続税の納税が必要となる。しかし、非上場株式は流動性が無く容易に換金することができないため、相続財産に現金が無ければ、相続税の納税資金が不足してしまう恐れもある。

そうは言っても、相続税の納税は現金一括払いが原則であり、相続人が現金を持っていなければ納税できない。株式を発行する会社に、自己株式として非上場株式を譲渡すれば、相続人は会社から納税資金としての現金を受け取ることができるのだ。

相続時に会社が自己株式を取得する目的

自己株式の取得は、株主にとって納税資金の調達できるメリットがある一方で、会社経営者にとってもメリットがある。

相続時に会社が自己株式を取得しようとする目的は、後継者ではない相続人の株式取得を防ぐことにある。遺産分割の問題から、後継者ではない相続人に相続財産として株式を分割せざるをえないケースもあるだろう。しかし、その相続人が会社経営にまったく関与していないのであれば、早い段階で株主の地位から退いてもらいたい。

会社の後継者が個人で自己株式を買い取ればよいのだが、後継者個人は自己株式の購入ができるほど多額の資金を持っていないことも多いため、会社が後継者の代わりに自己株式を取得するのである。これによって、後継者の支配権が安定化する。

相続時に自己株式を取得するための生命保険契約

自己株式を取得する際には、会社側が譲渡代金を支払う現金を蓄積しておかなければならない。このため、実務上の多くのケースでは、法人が終身保険または長期平準定期保険に契約して株主を被保険者とすることで、相続発生時に死亡保険金を受け取るようにしておくのである。

このようにして自己株式を取得すれば、相続人に納税資金を提供することが可能となる。生命保険の死亡保険金は、相続時における納税資金対策として最適な手段なのだ。

相続時に自己株式を強制的に取得する方法

会社が自己株式の取得を望んでも、売主である株主が拒否すれば実現しない。しかし、相続の場合は別であり、強制的に自己株式の取得が行われるように、会社による売渡請求権を定款に定めることができる。これによって、後継者ではない相続人を、株主の地位から退出させることが可能となる。

ただし、定款変更を行う場合と同様に、会社から株主に対して売渡請求を行うたびに、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要である。

相続時に自己株式を取得する際の税務上の効果

自己株式の取得を行うと、株主(売主)の譲渡代金の一部が総合課税の配当所得 (みなし配当)となり、非常に高い税率が適用される可能性がある。

しかし、相続発生のタイミングで自己株式取得を行うと、「みなし配当課税の特例制度」が適用され、相続人である株主(売主)に対して分離課税の譲渡所得(20.315%)だけとなり、税負担が軽くなる。

この特例に加えて、相続時の自己株式取得では、株主(売主)は「取得費加算の特例」の適用を受けることができる。この特例は、相続人が支払った相続税の一部を、株式の譲渡所得の計算における取得費に加算できる制度である。取得費が増えることで、譲渡所得が減額されるという仕組みだ。

自己株式を上手に取得しよう

今回は自己株式の取得の目的や問題点について紹介した。もし自己株式の取得を検討しているのならば、今回解説した点についてよく吟味した上で、専門家に相談してみるのもよいだろう。

文・岸田康雄(公認会計士・税理士)

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