「種類株式とは何だろう?」「どのように活用できるのか?」と考える人もいるだろう。種類株式とは、配当や残余財産の分配、株主総会での議決権などの事項について、他の株式とは異なる権利内容を付与した株式のことである。種類株式を活用することにより、事業承継や相続、ベンチャー企業の資金調達、合弁企業の設立などを円滑に行うことができる。
この記事では、種類株式の概要と一覧、活用方法について徹底的に解説していく。
目次
種類株式とは?
種類株式とは、剰余金の配当や残余財産の分配、議決権などについて、他の株式とは異なる権利内容を付与した株式のことである。
原則的に、株主は保有する株式の株数に応じた同一の権利を持つ(株主平等の原則)。しかし、株主が株式を保有する動機はさまざまだ。配当を得るためだけというケースもあれば、多くの株式を取得することで会社の経営に深く関わることを目的とするケースもある。そのような株主のさまざまなニーズに合わせた株式を発行することで、資金調達をより容易に行うことができるようになる。
2002年4月の商法改正によって、さまざまな権利内容を持つ「種類株式」を発行できることになった。株式会社は、会社法第108条1項1~9号で定められる9つの権利について、内容が異なる2つ以上の株式を発行することができる。9つの権利は、以下のとおりだ。
- 剰余金の配当
- 残余財産の分配
- 議決権制限
- 譲渡制限
- 取得請求権
- 取得条項
- 全部取得条項
- 拒否権
- 役員選任権
それぞれ内容が異なる株式を発行できるだけでなく、いくつかの権利について重複して付与、あるいは制限・剥奪することもできる。
種類株式の一覧
種類株式の一覧を見てみよう。
1. 剰余金の配当
種類株式においては剰余金の配当について、多くしたり少なくしたりする規定を設けることができる。普通株式より配当金を多くしたものを「優先株式」、少なくしたものを「劣後株式」と呼ぶ。
優先株式を発行すると、人気が出て株価が高くなり、資金調達が容易になることが期待できる。一方劣後株式は、経営者が自社株を取得する際や、政府が公共事業会社の株式を取得する際に、既存株主の利益を損なわないようにするために発行されることが多い。劣後株式は、配当をゼロにすることもできる。
2. 残余財産の分配
会社が解散あるいは清算する際、負債などを返済した後に残った「残余財産」の株主に対する分配についても規定を設けることができる。普通株式より分配額が多い優先株式を発行することで、余剰金の配当規定と同様に、株価を引き上げて資金調達が容易になることが期待できる。
ただし、負債が多く残余財産が残らない場合は、株主に対する分配はない。また、残余財産の分配がゼロの株式は認められているものの、剰余金の配当も残余財産の分配もゼロの種類株式の発行は認められていない。
3.議決権制限
株主総会での議決権に制限を設けた種類株式を発行することもできる。議決権の制限は、以下の3つの形態で設けることができる。
・一部の議題についての議決権を有する株式
・一部の議題についての議決権がない株式
・すべての議題についての議決権がない株式(完全無議決権株式)
ただし公開会社の場合、議決権制限株式の総数は発行済株式総数の2分の1を超えることはできない。一方非公開会社では、1株だけが議決権を有し、残りのすべての株式を完全無議決権株式とすることもできる。
4.譲渡制限
譲渡制限とは、株式を他人に譲渡する際に会社の承認を必要とすることである。承認者は、株主総会や取締役会、代表取締役などを定款で指定することができる。発行する株式のすべてを譲渡制限株式とすることも、譲渡制限のあるものとないものを発行することもできる。(ただし、すべての株式を譲渡制限株式とする場合には「非公開会社」となる)
譲渡制限株式を発行する最大の目的は、会社の乗っ取りを防ぐことである。会社の乗っ取りを目的として株式を取得しようとしている人に対して、会社は譲渡を承認しないことで防御することができる。また、既存株主の持ち株比率が変化することで株主間の力関係が変わることも、譲渡株式を発行することで防ぐことができる。
5.取得請求権
取得請求権とは、株主が会社に対して株式の取得を請求する権利のことだ。取得請求権付株式は、あらかじめ定められた対価による株式の買い取りが保証されているため、株主のリスクは低減され、会社にとっては資金の調達が容易になる。
株式買い取りの対価は、会社の社債や新株予約権、現金、普通株式などを定めることができる。
6.取得条項
取得条項とは、あらかじめ定めた条件を満たしたときに会社が株式を強制的に取得できることである。条件は、「特定の期日」「会社が公開したとき」あるいは「株主が死亡したとき」など細かく定めることができる。取得の対価も、会社の社債や新株予約権、現金、普通株式などを定められる。
会社が望まない人に株式が渡ることを防ぐことを目的に、取得条項付株式を発行する。事業承継を円滑に行うために、取得条項付株式が発行されるケースは多い。
7.全部取得条項
全部取得条項とは、株主総会の特別決議により株式のすべてを会社が取得できることである。取得に際しては、対価のある有償取得も、対価のない無償取得も認められる。
全部取得条項付株式を用いることにより、会社にとって好ましくない株主を排除することができる。ただし、株主総会の決議に反対する株主には、株主買取請求権が認められる。
8.拒否権
拒否権とは、ある特定の事項について、株主総会での議決にかかわらず否決できる権利のことだ。ある事項について拒否権付株式を発行した場合は、株主総会での決議に加え、拒否権付株式を保有する株主だけによって行われる種類株主総会を開催しなければならない。株主総会でその事項が議決されても、拒否権付株式の種類株主総会で否決することができる。
「特定の事項」には、役員の選任や社債・株式の発行、重要財産の譲り受けなど、さまざまな事柄を設定できる。拒否権付株式が1株であっても議案を否決できることから、敵対的買収の防衛や、経営者の引退後の影響力の維持などに用いられることが多い。
拒否権付株式は、会社が望まない人によって取得されると大きな問題が発生する可能性がある。そのため、取得条項を併せて付与するのが一般的だ。
9.役員選任権
役員選任権とは、役員を選任できる権利を有した株式のことである。役員選任権付株式を発行する場合は、取締役や監査役などの役員を選任する際、役員選任権付株式を保有する株主だけが集まって行われる種類株主総会による決議が必要と定款に定めることができる。
拒否権付株式と同様に、役員の選任に対して強い影響力を発揮することができるため、引退後の経営者が会社の経営に影響を与えるために用いられることが多い。
種類株式の活用方法
種類株式は、どのように活用できるのだろうか。
事業承継や相続対策
種類株式が活用されることが多いのは、事業承継や相続対策である。中小企業では、経営者自らが株式のほとんどを保有しているケースが多い。このオーナー経営者が引退あるいは死亡して、会社の株式が複数の相続人に分散すると、相続人同士が争いを起こす原因になることがある。
そこで、相続争いを防ぐために種類株式を活用する。たとえば、以下のような活用が考えられる。
・後継者となる相続人にのみ議決権のある株式を取得させ、他の相続人には議決権のない株式を取得させる
・後継者となる相続人のみに拒否権付株式を取得させる
少数株主の締め出し(スクイーズ・アウト)
M&Aなどを行う際、分散した株式をまとめる必要が生じることがある。その際、少数株主を締め出す(スクイーズ・アウト)ことを目的として、全部取得条項付株式が活用されることがある。ただし、2014年の会社法改正で株式併合の法的安定性が担保されたことにより、近年は全部取得条項付株式よりも株式併合を用いるケースが多くなっている。
ベンチャー企業の資金調達
ベンチャー企業が資金調達を行う際も、種類株式が活用されることがある。活用されることが多いのは、剰余金配当や残余財産分配の優先株式や取得請求権付株式で、これらは株主にとってメリットが大きいため、資金調達がしやすくなる。
また、特にベンチャーキャピタルから資金調達をする際は、
・IPO申請を条件とした取得条項付株式
・役員選任権付株式
・議決権付株式
・拒否権付株式
などがケースに応じて活用されることもある。
合弁会社
合弁会社を設立する際も、種類株式が活用されることが多い。合弁会社は、たとえば2社で設立する場合は出資率が50:50でない限り、株主総会での普通決議が必要となる役員の選任などについて、少数株主が関与することができなくなる。
そこで、以下のような対策が行われることがある。
・多数株主に対して一部の事項について議決権制限付株式を発行する
・少数株主に対して一部の事項について拒否権付株式を発行する
・役員選任権付株式を、たとえば5人の役員のうち3人については一方の会社に、2人については他方の会社に与える
・少数株主に対して優先株式を割り当てる
・役員などに無議決権株式を割り当て、インセンティブとする
種類株式を有効に活用しよう
他の株式とは異なる権利内容が付与された種類株式。種類株式を活用することで、事業承継や相続対策、ベンチャー企業の資金調達、合弁企業の設立などを円滑に行うことができる。会社の経営を安定させるためには、株主構成に配慮することが欠かせない。種類株式を有効に活用していこう。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)