矢野経済研究所
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変わりゆく中古車流通市場

~中古車買取に本格進出する大手販売各社、曖昧になりつつある中古車買取と販売の垣根、業販市場で存在感を高め続ける輸出需要、そしてリース・サブスクリプションの賃貸の波は中古車市場にも~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の中古車流通市場を調査し、主要領域別(中古車小売販売、中古車買取、オートオークション(入札会含む)、中古車輸出)の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。

1.市場概況

2019年の国内の中古車小売台数は262万台、平均小売価格117万円と推計した。

2019年10月に実施された消費増税の影響から、9月までに駆け込み需要が発生したほか、晩夏から秋にかけての台風がもたらした水害による代替需要も発生した。この2つの要因で2019年の中古車小売販売市場は活性化した。また、次世代車の普及が流通車両の単価上昇をもたらしており、矢野経済研究所が過去より独自に調査を実施している中古車の小売価格も近年右肩上がりの傾向にあり、次世代車に代表される新車価格の上昇が中古車市場にも波及し始めていることが伺える。小売価格上昇のもう一つの背景には、保有の長期化による高年式車の希少性が増していることも挙げられる。

中古車小売販売市場は競争が激化している。ディーラーの中古車事業強化と、ガソリンスタンド(GS)や整備事業者など異業種による新規参入事業者の増加が背景にある。自動車流通を構成する各市場(自動車部品・用品販売、自動車賃貸、整備など)では、自動車の保有台数の増加幅が限りなくゼロに近づきつつあることや自動車に嗜好性を求めるユーザー層が減少傾向にあることを背景として、本業からの収益が減少傾向にある異業種が車両販売に新規進出し、顧客との長期的関係構築(いわゆる「囲い込み」)により安定的に収益を確保出来る仕組みの構築を急ぐ。

2.注目トピック

中古車販売市場は参入事業者増で競争激化

大手中古車販売事業者がユーザーからの中古車買取に本腰を入れている。同事業者は小売販売のノウハウや流通ルートを確立しながら高めてきた資本力とブランド力を武器に、中古車買取専業に比べて高値での中古車買取を可能にしている。一方、従来の中古車買取ビジネスは仕入れた車両をすぐにオートオークションで売却するフロー型ビジネスであることから、根本的に小売販売よりも一台当たりの収益は小さい傾向にある。このため、ユーザーからの直接買取においては、中古車買取専業事業者が中古車販売大手事業者よりも高値を提示することが難しく、ユーザー獲得競争においては大手の中古車販売事業者が優位なポジションに立ちつつある。中古車買取専業事業者は、こうした市場変化の中で、従来のオートオークション売却一辺倒から小売りや同業への業販※1比率の向上へと舵を切り始めた。この中古車両の仕入競争激化により、中古車販売事業者と中古車買取事業者の境界は希薄になりつつある。

さらに、ディーラーも残価設定クレジット販売※2によってユーザーの新車購入頻度を短期化し、小売販売を見据えて高年式車両の下取を行いやすくしつつ、次の新車購入を促すという販売の短期サイクルを生み出した。また、共有在庫サービス※3の拡充などが、車両仕入に不慣れな整備事業者などの新規参入も促している。こうした異業種の参入が、中古車小売販売市場の競争をより一層熾烈なものにしてきている。

※1:中古車販売を生業とする中古車販売店やディーラー間における車両取引のこと

※2:乗る年数を予め確定することで、車両本体価格(定価)から返却時の車両の残存価格を引いた分のみを支払う車両契約形態。ユーザーにとっては、車両購入(実際には賃貸契約)価格を抑えることが出来ることがメリットとなり、販売会社にとってはユーザーの車両購入サイクルの短縮化に繋げられる。残価設定クレジットで一般的な契約年数は3年~5年となるため、新車販売台数の増加に繋がり、且つ自社での再販(特に小売り)が見込める比較的高年式の車両調達手段ともなるため、中古車事業の活性化にも繋がるとしてディーラー各社で積極的に展開されている販売手法である。

※3:主にオートオークション運営企業などが会員企業に提供する車両取引のプラットフォームである。中古車販売店にとっては、店舗に車両を在庫としたままで全国の会員企業に業販することが可能となり、オートオークションへの出品の手間・コストを省けるため利用が進んでいる。

3.将来展望

中古車の発生源が新車販売である以上、国内の中古車流通市場の将来規模は国内の新車販売規模に依存する。その新車販売台数は、中長期的には既に減少傾向に入っており、現在においてもディーラーでの展示車など種々の自社登録車がカウントされていることを勘案すれば、ユーザーによる純粋な新車需要は公表値を下回るものと考える。

中古車供給量の減少が中長期的には不可避でありつつも、流通する中古車の輸出需要先、利用方法は多様化の兆しもある。オートオークション市場では、輸出需要が引き続き落札側の市場参加者として大きな存在感を持つ。また、中古車販売事業者では、自社の中古車在庫をリースやサブスクリプションといった新規の定額制サービスの商材として活用する動きが活発化している。このように、流通する中古車は、車両総量の中長期的な減少を前に、賃貸市場の商材としての新たな注目を集め始めている。

調査要綱

1.調査期間: 2019年6月~2020年3月
2.調査対象: 自動車メーカー、自動車ディーラー、オートオークション・入札会開催業者、中古車販売業者、中古車買取業者、自動車ユーザー 等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談、電話・e-mail等によるヒアリング調査および文献調査併用
<中古車流通市場とは>
本調査における中古車流通市場とは中古車小売販売市場、中古車買取市場、オートオークション市場(入札会含む)、中古車輸出市場の4市場で構成される。

出典資料について

資料名2020年版 中古車流通総覧
発刊日2020年03月11日
体裁A4 350ページ
定価165,000円(税別)

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