矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

新型コロナウイルス下での世界の経済

1930年代の大恐慌は「グレート・デプレッション」、2008年のリーマンショック後の不況は「グレート・リセッション」と呼ばれたが、今回の新型コロナウイルスによって見込まれる不況は、欧米諸国で「グレート・ロックダウン」と命名された。
国際通貨基金(IMF)は、2020年の世界経済の成長率をマイナス3.0%と予測している。景況感は2020年4~6月期が一番の底で、7~9月期が徐々に持ち直し、2019年の状態に経済が回復するのは、先進国で2021年末になる見通しとし、“「グレート・ロックダウン」は大恐慌以降で最悪の不況になる”と予測している。
このように過去に類を見ない大不況が見込まれる状況下において、グローバルサプライチェーンでも大きな変化が起きている。

チャイナプラスαの浸透とプラスα内でのサプライチェーンの質の向上が鍵

世界の製造業の部品・材料調達の約30%は中国に依存しているとも言われている中で、今回の新型コロナウイルスによる、サプライチェーンのシャットダウン(寸断)による生産停止の影響で、グローバル企業は大打撃を受けた。以前から、チャイナプラスワンの国・エリアを更に分散化し、サプライチェーンのリスクヘッジを行うチャイナプラスαという考えは浸透していたが、今回の新型コロナウイルスを機に、そのトレンドはより加速しているように感じられる。
特に米国においてはその流れが顕著で、サプライチェーンのシャットダウンによる生産停止と昨今の米中貿易戦争の激化も加わり、中国を中心としたサプライチェーンは隣国のメキシコ中心へ、更には将来のサプライチェーンリスク軽減施策の一環としてアセアン諸国(ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアなど)への再配置が進んでおり、主にエレクトロニクス、テキスタイル、再生可能エネルギー分野がその対象となっている。

しかし一方で、このチャイナプラスαを進めていく中での障害も同時にクローズアップされてきている。例えば問題として取り上げられるのが、中国から分散化したサプライチェーンの調達先が結局中国へ依存しているケースである。これでは、チャイナプラスαの効果があまり期待できず、その結果、生産停止、遅延の状況は打開できていない。
ここで、チャイナプラスαとワンセットで取り組むべき施策が、“プラスα内でのサプライチェーンの質の向上”であると考えられる。一つは、「生産に必要な部品・材料の現地(または近接したエリア)での複数調達先の確保」、もう一つは「複数のプラスα拠点を同時に立ち上げて製造する地産地消の体制構築」であり、危機下における安定した部品・材料調達先の確保と生産の一極集中リスクの軽減を同時に行うもので、チャイナプラスαの実施効果を引き出す上で必要不可欠な要素と考えられる。

企業の環境変化への適応能力がより試される時代に

今回の新型コロナウイルスを機に、世界のビジネス環境は大きく変化した。
長引く外出・移動制限によって、電子商取引やテレワークの普及によるオンラインサービス市場は急速に拡大している。こういった類の市場は、タッチレスエコノミーとも呼ばれ、今後、Industry 4.0、スマートハウス、IoT、AI(人工知能)などの新技術の発展と普及をより加速させる要素として注目されている。

製造現場においても、欧米諸国を中心にものづくりにIoTやAI等のデジタル技術を利用する「スマートマニュファクチャリング」への期待がさらに高まりつつある。
事実、すでに導入済みの企業では、新型コロナウイルス後の状況でも、生産現場のリモート操作と管理によって最低限の製造現場人員で安全性と生産性を確保できるとみており、「スマートマニュファクチャリング」を活用することのメリットがより強調されていくとみられる。
日本国内では、欧米諸国と比較すると少々遅れをとっている分野とも考えられるが、この新型コロナウイルスの危機下においてもたらされる劇的な環境変化に対応し、明確な最終成果を念頭に、どのようなプロセスでどの技術を採用してどれだけ迅速に柔軟に対応できる能力を企業が持てるかが、より重要になってきている。

『進化論』でのチャールズ・ダーウィンの格言に、「生き残る種は、最も強いものでもなく、最も知的なものでもない。最も変化に適応できる種が生き残るのである。」とあるように、企業の環境変化への適応能力がより試される時代に突入しているのではないか。

2020年6月
主席研究員 小野寺 晋