4月以降、新型コロナウイルスの影響で、やむなく人員配置の見直しに踏み切る企業が急増している。ここでは、悪化する雇用情勢を踏まえ、中小企業の経営者が従業員を解雇する際の注意点をおさえるとともに、経営者が取れるリストラ回避の術を考えたい。
“コロナ失業”はすでに始まっている
厚生労働省よると、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済危機による解雇や、非正規社員で雇い止めにあった人は、4月27日時点で3,391人と発表された。3月30日時点では1,021人で、この1ヵ月間で2,000人以上も失業者が増えたことを意味する。
同集計は、ハローワークや労働局への相談・受理を通じて把握した範囲に限られるため、実際にはさらに深刻な状況であろう。
失業者は今後さらに増える見通し
総務省が4月28日に発表した3月の完全失業率は2.5%と、前月に比べて0.1ポイント悪化し、完全失業者数は172万人で6万人も増加した。非正規の職員・従業員数は前年同月に比べて26万人も減少しており、これは過去最大の下落幅だ。
非正規職員の失業は、主に宿泊業や飲食業で目立っている。特に勤務先の都合などによる「非自発的な離職」が前月に比較して4万人も増えているのだ。これは、年度替わりという時期的な要因を加味したとしても、尋常ではない状況を物語っている。
リストラする前におさえておきたいこと
助成金や雇用契約について確認しておくことで、従業員の解雇や非正規社員の雇止めを避けられる場合がある。
どうなる?「雇用調整助成金」の拡充
休業手当さえ出せれば、ひとまず解雇はしなくて済むという企業も多いだろう。現在政府では、事業主が雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度「雇用調整助成金」の拡充をはかっている段階だ。
同助成金は、申請手続きの煩雑さや問い合わせ窓口の混雑がネックとなっているのが実情だが、GW明けにはさらなる拡充策の発表が見込まれる。その内容は、企業が休業手当を6割以上に引き上げた場合、その分を特例的にすべて国が負担するほか、休業要請に従うなど所定の条件を満たせば、休業補償における企業負担をなくして国が10割助成する方針を発表している。
しかし問題は、「労働者一人当たり一日8,330円」という上限が設けられている点だ。これにより、企業負担がどこまで軽減されるかは不透明だが、なんにせよ現状より良くなることを願って今後の発表に注目したい。
「不当解雇」にあたらないか
どんなに苦しい状況でも、企業として雇用責任がある以上、「不当解雇」だけは避けなくてはならない。コロナ禍による企業の休業補償義務についてさまざまな議論がなされているが、コロナ危機による経営悪化を労働者の責任にはできないのは明白だ。
もし企業都合による整理解雇をおこなう場合、「整理解雇の4要件」をもとに、解雇の妥当性があるかどうかが問われる。
「派遣切り」は不当解雇?まずは派遣契約の確認を
2008年9月のリーマン・ショック直後、製造業などの大企業による大規模な「派遣切り」の横行で、多くの失業者が路頭に迷い、企業や政府は世間から大きな批判を浴びた。しかし、コロナ禍の雇用情勢は、そんなリーマン・ショックさえも超えるのではないかと懸念される、企業にとってきわめて深刻な状況にあるのも事実だ。
「新型コロナウイルスの影響で休業する場合、派遣社員に辞めてもらうことができるかどうか」については、まず派遣契約書の「不可抗力条項」を確認したい。
新型コロナウイルスが「不可抗力」に該当するか検討の余地があるが、コロナのような、外的要因で企業側が策を尽くしても状況を回避することができない場合には、天災などと同様に「不可抗力」を主張して派遣料金の支払や契約更新を免れることができるケースもある。また、実働時間に応じた支払いの契約がなされている場合は、休業期間中、派遣料金の支払い義務がないこともある。
一方で、契約書によっては「不可抗力」による休業であっても収入手当や契約更新の規定を設けている場合もある。そもそも契約書に該当する記載がない場合には、民法で定められた一般原則にしたがって判断することが多い。
やむを得ない「派遣切り」であっても、企業側が契約に従って相応の措置を尽くしているかが重要だ。
中小企業が生き残るために!リストラ以外にできること
このような情勢だからこそ、柔軟に対応したり新たな取り組みを検討したりできるかがポイントになる。
一時的にでも戦略や方針を見直す
アルバイトなどの非正規労働者が多い宿泊業・飲食業では、なんとか雇用の維持をはかるため、テイクアウト事業やクラウドファンディングなどに乗り出す企業も増えている。就業者の数だけアイデアや経験が集まることを前向きにとらえ、柔軟に事業内容をシフトしていくのが生き残る第一歩となりそうだ。
新規事業を検討する
飲食店のテイクアウト事業や、これまで実地が中心だったイベントのオンライン開催など、機をとらえた事業転換により業績を好転させているケースも多い。業務拡大をはかって、内定取り消しを受けた学生を救済すべく積極採用する企業も出てきている。
先行きが見えないなか、既存事業の継続に確信が持てず、融資実行にも踏み切れない経営者もいるだろう。今こそ事業転換のチャンスではないだろうか。
資金調達に徹する
「雇用調整助成金」の特例措置は、その手続きの煩雑さからいまだ効果は疑問だが、だからといって立ち止まっていては、状況は悪化する一方だ。そのようなとき国の助成金のほかに、自治体の中小企業向け制度融資を活用したり、クラウドファンディングなどで支援を呼びかけたりしてあらゆる策を尽くしてみるのもよい。
動向は刻々と変わっているので、助成金だけに頼らない方法でなんとか資金繰りを検討したい。
マンパワーを減らすことを考えない
長引くコロナショックにより、恐れられていた派遣一斉解雇などが始まってしまった。このまま事態が終息しなければ、非正規労働者の解雇は勢いを増すだろう。
未曾有の経済危機ではあるが、今こそ新規事業に投資するなど、なんとか雇用を維持する努力を尽くしたいものだ。マンパワーを減らさずに事業存続の工夫をし、企業の社会的責任をまっとうしたい。
文・木村茉衣