2030年のワイヤレス給電世界市場は2,739億円に拡大と予測
〜EV向けは急激な成長が見込まれにくいものの、物流倉庫での需要が拡大するAGV向けは競争激化へ~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、2020年のワイヤレス給電市場を調査し、アプリケーション別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
ワイヤレス給電(受電モジュール+受電機器)世界市場規模推移と予測
1.市場概況
ワイヤレス給電とは電磁誘導や電界結合、磁界共鳴、マイクロ波などの方式による、接点を設けない形式の給電システムである。ワイヤレス給電は、1990年代から一部の小型家電製品を中心に搭載されてきた。その当時は特定製品間における用途が中心であり、各社の独自規格を基本として限定的な市場が形成されていた。その後、2010年にWPC(Wireless Power Consortium)が標準規格としてQi規格を策定したことで標準化が進んでおり、現在では多くの製品にワイヤレス給電機能が付与されている。
2019年のワイヤレス給電(受電モジュール・受電機器)世界市場規模は、メーカー出荷金額ベースで前年比107.6%の1,601億99百万円であった。アプリケーション(用途)別に市場をみると、小型電子機器用が市場を牽引している他、産業機器用でもワイヤレス給電システムが採用され、毎年堅調な成長を見せている。一方で、EV(Electric Vehicle)向けは現時点ではまだ本格的な成長は見せていないものの、今後一番成長余地の大きな市場として期待されており、注目度が高い。これらの他にも今後、家電、医療機器など様々な分野にまで広まっていく見込みである。
2.注目トピック
スマートフォン向けは標準搭載の動きへ、EV向けの普及にはまだ時間が掛かる
ワイヤレス給電のアプリケーション(用途)は、①小型電子機器用、②EV向け、③産業機器用、④その他用途に分類される。
小型電子機器分野では、ワイヤレス給電の受信モジュールとして最も採用されており、今後は高仕様・高価格のスマートフォンにはワイヤレス給電が標準搭載される傾向になると考えられる。さらに2030年頃には、スマートフォン以外のスマートデバイスやPC関連機器などでも搭載が本格化し、普及が進む見込みである。
EV分野においては、各国の環境規制の厳格化やEV普及政策により、中国を中心としてEV販売台数は増えているものの、内燃機関車よりも短い航続距離と高い車両価格が壁となっている。ワイヤレス給電の採用はEV自体の普及に大きく影響される他、給電システムインフラ整備の問題も残っており、これらを解決するためにはまだ時間がかかりそうである。
産業機器分野においては、AGV(Automatic Guided Vehicle)を中心にワイヤレス給電の採用が増加している。現状、AGV用のワイヤレス給電が主に使用されているのは、自動車の生産工場だが、最近では物流関係の倉庫での自動化が進み、需要が増えている。物流倉庫のスマート化を巡っては、なるべく作業員が歩かずに済む倉庫の仕組み作りが国内外で進んでいる。アマゾンは商品棚を持ち上げて自在に走りまわるAGVを活用し、ユニクロを展開するファーストリテイリングもダイフクと提携し、従来に比べ9割ほど省人化した自動倉庫を開発した。このような背景から、ワイヤレス給電市場に参入した企業の中には、取り合えずAGV市場に参入しようとする考えを持つ企業も増えてきており、今後競争が一層激化する傾向になると考える。
3.将来展望
ワイヤレス給電システムでは、コネクタや接触電極部が不要となるため、給電部のスペースを減らすことができるうえ、外部接触がなくなることで防水・防塵化がしやすくなり、水回りの周辺にも安心して設置できる。また、これまでバッテリーを搭載する多くの機器は、駆動時間を増やすために大容量のバッテリースペースを確保する必要があったが、ワイヤレス給電により頻繁に継ぎ足し充電が可能になれば、バッテリーを小型化しても問題がなくなるというメリットがある。
一方、ワイヤレス給電実用化のために、解決すべき課題もある。送受電の開始や停止、受電装置の認証、高効率な電力伝送の維持などのために制御系システムが必要となり、システム機器全体に小型化、薄型化、軽量化などの実装技術が求められる。
現在、ワイヤレス給電機器メーカーは上述の課題を解決するとともに、機能をさらに向上させた新製品の開発にも注力している。今後、遠距離間や複数機器への一度での給電、移動し続ける機械への給電が可能な新製品が期待されており、これらが実現していくことにより、2030年のワイヤレス給電(受電モジュール・受電機器)世界市場(メーカー出荷金額ベース)は、2,739億6百万円まで成長すると予測する。