東京大学名誉教授 安藤忠雄,カンブリア宮殿 テレビ東京
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この記事は2025年7月3日に「テレ東BIZ」で公開された「放送20年目 特別企画 安藤忠雄が明かす次の時代の勝ち方」を一部編集し、転載したものです。

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地中に埋まる大仏、パリの新名所…~驚きの発想

札幌市南区に世界中から人が集まる人気スポットがある。観光客が向かうのは7月に見頃を迎えるラベンダーの丘。目当ては丘の上に大仏の頭が見える「頭大仏」(真駒内滝野霊園)だ。

40メートルのトンネルを歩いて行くと、姿を現したのは高さ13.5メートルの大仏。ラベンダー畑の下に、巨大な仏像の頭から下がすっぽりと埋められている構造なのだ。

▼丘の上に大仏の頭が見える「頭大仏」巨大な仏像の頭から下がすっぽりと埋められている

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他にはない光景に、わざわざ海外からも参拝客が来るようになった。

この大仏は改修前、平地に建っていた。それを大規模な工事でコンクリートの壁を建設、地中に埋めてしまった。設計したのが建築家の安藤忠雄(83)だ。

芸術の都パリでも安藤建築が席巻していた。ルーブル美術館から3分のところにあるドーム型の建物は「ブルス・ドゥ・コメルス」という1767年建築の歴史的建造物だ。

▼かつて商品取引所だった施設を美術館に生まれ変わらせた「ブルス・ドゥ・コメルス」

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かつて商品取引所だったこの施設を、安藤が最新の美術館に生まれ変わらせたという。

館内に足を踏み入れると、高さ9メートルのコンクリートの壁に囲まれた巨大な円形の空間がある。内部に円筒型の壁を作ることで、歴史的価値のある「ブルス・ドゥ・コメルス」に全く新たな空間を生み出すという斬新なアイデアだ。

現在はグッチなどを傘下に持つ「ケリング」の創業者、フランソワ・ピノー氏が自身のコレクションを展示するため安藤に設計を依頼した。この日は水の上に無数の陶器が浮かぶ作品が展示されていた。

安藤は歴史的建造物の美しさを生かしつつ、現代的魅力の美術館に生まれ変わらせた。アート作品より、安藤建築を目当てに来る客も少なくない。

打ちっ放しのコンクリートを駆使した独創的な建築で建築界に革命を起こした安藤は、半世紀を経た今も世界中を魅了し続けている。

これが世界のANDOだ~30億円でも欲しい感動空間

今回は小池栄子が、取材で銀座の高額物件にテレビ初潜入した。案内してくれるのは、銀座で海外向けに不動産ビジネスを行う「アルファ未来」の沈力社長。銀座のはずれに完成したばかりの安藤物件を見せてくれた。

そのコンクリートで覆われた小ぶりなビルの名は「銀座の別荘」。銀座に安藤建築を持ちたいという海外のオーナーの依頼に応え、沈さんが建設を取り仕切ったという。

「銀座の別荘」は地下1階、地上6階建てのビルに7つの部屋がある構造になっている。地下に広がるのはホームパーティなどにぴったりのオシャレな空間。3階は高い天井のリビングダイニングだ。そしてバルコニーはあえて外と壁で遮ることで銀座とは思えない癒しの空間を作り出している。

「『30億円で購入したい』という問い合わせがきました」(沈さん)

最上階は銀座の空が丸く切り抜かれていた。

▼「銀座の別荘」最上階は銀座の空が丸く切り抜かれている

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「普通に空を見上げるのと全然違いますね。“自分だけのもの感”がすごい。ここが銀座であることを忘れてしまいそう」(小池)

この建築は沈さんの熱意から実現したものだという。沈さんは当初あった建築用の土地に加え、隣の新築物件を購入。土地を倍にして安藤に提供設計を依頼した。その熱意に打たれ、安藤が全力で応えた。

安藤のオンリーワンの空間づくりに世界から依頼が殺到していた。

19年前に開業、いま売り上げ最高~「3度の傾斜」で 街を変える

東京大学名誉教授 安藤忠雄,カンブリア宮殿 テレビ東京
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東京・渋谷区の表参道にある安藤の代表作「表参道ヒルズ」。レストランからブランド店まで約100店が入っている。開業から19年が経つが、2025年3月期に過去最高の売り上げを更新した。その秘密が、安藤が作った内部の空間にある。

地上3階から地下まで、緩やかな全長700メートルの坂道がらせん状に続く独自の構造になっていて、ついつい散策してしまう。そこには表参道を一変させた安藤のアイデアがあった。

かつて「表参道ヒルズ」の場所には、歴史ある「同潤会青山アパート」が建っていた。老朽化から建て替えが決まり、安藤にその設計が託されたのだが、「未来の表参道をどんな街にするのか」、約100人の建物の権利者との交渉は、困難を極めた。

「強い思いをお持ちの方(権利者)が多く、一筋縄ではいかなかった。『どういう建築をつくりたいか』、安藤先生に一人一人を説得していただきました」(「森ビル」表参道ヒルズ運営室・久喜昭彦館長)

そんな中、安藤が考え出したのが独自のらせん構造だった。

「建物内部も傾斜が3度になっている。『建物の中にもう1つの道と街をつくりたい』というのが安藤先生のコンセプトの1つでした」(久喜さん)

館内をめぐる傾斜3度の坂道。実は歴史を刻んだ表参道の坂道とほぼ同じ角度なのだ。

▼館内をめぐる歴史を刻んだ表参道の坂道とほぼ同じ角度の傾斜3度の坂道

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安藤は外の街並みを館内へ引き込むという大胆なアイデアで、愛されてきた表参道に新たな回遊性を生み出し、東京を代表するにぎわいを生み出してみせた。

瀬戸内の島に観光客殺到~30年、関わり続ける執念

瀬戸内海に奇跡を起こした島が香川県の直島だ。人口約3,000人の島に年間約75万人が世界中から押し寄せる。その理由はアート。直島は「アートの島」なのだ。

島内を歩くと次々に現れるのがさまざまなテーマの美術館。建物の大半を地中に埋めた「地中美術館」にはモネの名作が展示されている。一方、「ベネッセハウス ミュージアム」には、巨大な空間に欧米の現代アートコレクションがある。

来場者のもう一つの楽しみが安藤の建築。島内のアート関連施設、美術館など10軒の設計を安藤が担当しているのだ。

中には小さなモノレールでしか行けない施設もある。安藤の真骨頂ともいえる、瀬戸内海を一望できるプレミアムな宿泊施設「ベネッセハウス オーバル」だ。

安藤が直島に関わり始めたのは30年以上前。かつての直島は、亜硫酸ガスの影響などで一部の木々が枯れている状態だった。島内をアートで再生しようと、「ベネッセ」の福武總一郎さん(現「福武財団」名誉理事長)が安藤に声をかけたのだ。

「そんなに多くのお客様がいらっしゃる島ではなかったし、島が変わっていくことをみんな楽しんでいたし、我々もありがたいと思っています」(「福武財団」・笠原良二事務局長)

2025年5月30日、直島に安藤が降り立った。新たに「直島新美術館」が完成したのだ。

▼カフェスペースを併設した安藤建築ならではのダイナミックな展示空間「直島新美術館」

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カフェスペースを併設した安藤建築ならではのダイナミックな展示空間。長年の盟友、福武總一郎さんも駆けつけた。

「亜硫酸ガスとか、現代社会の負の遺産に対する抵抗をしてやろうと思って、安藤さんにお願いしました」(福武さん)

安藤は「日本人が誇れるものがない。頑張りたいと思います」と言う。

異才建築家はこうして生まれた~驚きの「住吉の長屋」

北海道のリゾート地・トマム。ここに安藤の珍しい作品が。自然豊かな場所にある建物。思わず息をのむのは大自然を生かした神秘的な空間「水の教会」だ。

▼大自然を生かした神秘的な空間「水の教会」

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そんな安藤建築を都会でも体験できるという場所がある。

安藤が案内してくれたのは、大阪駅前にできた自身の設計による建物。現在、安藤の個展が開かれている。

「安藤忠雄展 青春」(「グラングリーン大阪『VS.(ヴイエス)』」にて2025年7月21日まで開催)と銘打ったその展示は大盛況。所狭しと並ぶのは、安藤が手がけたさまざまな建築作品の精密な模型だ。壁には貴重なアイデアスケッチが展示されている。さらに館内には、安藤の建築を3面の巨大スクリーンで体験できる展示映像のコーナーもある。半世紀にわたる安藤の格闘の歴史に、来場者も思わず引き込まれていた。

“世界の安藤”を生み出したきっかけは、中学生の頃、安藤の家の改築にやってきた大工の仕事ぶりだった。楽しげに家を組み上げていくその姿に心を動かされた。

その後、独学で建築を勉強。20代前半にはシベリア鉄道に乗りヨーロッパへ。その後、アフリカ、インドへと世界中を放浪。さまざまな建物や人々の生きざまを目の当たりにする中で「建築」で生きる覚悟を決める。

安藤の個展では、初期に手がけた作品模型に多くの人が足を止めていた。そこに並ぶのは個人向け住宅だ。

建築家として歩み始めた当時の安藤にはこんな思いがあった。日本の街は、画一的な家が密集して疲弊している。住宅はもっと、住む人の個性を表現すべきでは……そして生み出したのが「住吉の長屋」と呼ばれる個人住宅だった。

狭い敷地の四方をコンクリートで囲んだ異彩を放つ設計。最大の特徴が「真ん中に“穴”が開いている。2階から下のトイレに行くのに、外を通らないといけない」(安藤)こと。

▼「住吉の長屋」狭い敷地の四方をコンクリートで囲んだ異彩を放つ設計

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部屋と部屋の間に吹き抜けの中庭があり、雨の日などは不便なのだが、「1階から上を見たら“自分の空”があるのもいいだろうと」(安藤)。

中庭の上に開いた、“四角い空”から光が降り注ぐ。都会の生活に、独自の空間づくりで自然を取り込んでみせた。

「都市の中に、自分の住まいとして想像力のある強い気持ちのあるものをつくりたいと思ってやったわけです」(安藤)

「住吉の長屋」は1979年の日本建築学会賞を受賞するなど高く評価され、無機質なコンクリートの打ちっぱなしと自然の融合という「安藤建築」が生まれた。

“秘密基地”がある図書館から新たな船が瀬戸内海を航海

安藤が自ら建設費を負担して全国に作っているのが、子ども向けの図書館「こども本の森」だ。

大阪・中之島の「こども本の森 中之島」。約2万冊の本に囲まれる空間は安藤建築の工夫が至るところに。巨大な本棚に作られたくぼみでは親子が絵本に夢中になっている。階段下の隙間も常連に人気の場所だ。

ひとりの子どもがこんなことを教えてくれた。

「階段とか、隠れ部屋みたいになっていて、秘密基地みたいなところがあって楽しいです」

館内には子どもたちがワクワクできる場所があちこちにある。例えば円筒形のコンクリートの壁には、さまざまな本の一節が、映し出される仕組みになっている。

幼い頃から本を読んで感性や想像力を育んでほしい――安藤は、そんな思いを込め、図書館を寄付しているのだ。

現在、「こども本の森」は、他に岩手・遠野、神戸、熊本で開業(2025年7月28日には愛媛・松山でもオープン予定)。運営費はプロジェクトに賛同する企業からも寄付を募り、国内だけでなく海外への建設計画も進んでいる。

そして、2025年の春から瀬戸内海で運航を開始したのが船の図書館。安藤が船内を改装した「こども図書館船 ほんのもり号」だ。

▼瀬戸内海で運航を開始した船の図書館「こども図書館船 ほんのもり号」

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直島など瀬戸内海の離島で暮らす子どもたちのために、中古の船で楽しい図書館に造り上げた。船内には、隙間に本を置くなど安藤らしい演出があちこちに施されている。未来を担う子どもたちに希望を託したいという安藤の思いが詰まっている。

「何よりも安藤さんがこうやって提供してくださって、子どもたちが違う経験ができることは、すごくうれしいです」(「瞳保育所」・三谷恭子施設長)

~村上龍の編集後記~

東京大学名誉教授 安藤忠雄,カンブリア宮殿 テレビ東京
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1976年「住吉の長屋」が完成した。安藤さんの原点だ。その建築には特徴があった。そんな「長屋」は見たことがない、いったい誰が住むんだろうと思ったのだった。以来、83歳となった今でも、わたしが同じ感想を持つ建築を作り続けている。

09年と14年、「がん」で5つの臓器を摘出した。その後に、パリの元商品取引所「ブルス・ドゥ・コメルス」の再生に挑み完成させた。「約束は守れ。嘘はつくな。自分の信念だけを貫け。自分が納得する人生を生きろ」安藤忠雄を育てた明治生まれの祖母の言葉だ。彼は、その通りに生きてきた。

<出演者略歴>
安藤忠雄(あんどう・ただお)
1941年、大阪生まれ。1969年、安藤忠雄建築研究所設立。1979年、「住吉の長屋」で日本建築学会賞受賞。1995年、プリツカー賞受賞。1997年、東京大学教授就任(2003年、名誉教授)。

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