起債とは、資金調達のために債券を発行することだ。会社が発行する社債のほか、国や地方公共団体が発行する公債などに関係する言葉である。今回は起債の概要をはじめ、起債によって会社が資金調達を行う方法や注意点について解説する。
目次
起債とは?
起債とは、会社や国、地方公共団体などが債券を発行したり、出資を募集したりすることをいう。目的は一般投資家からの資金調達だ。
資金調達といっても、起債で集めた資金には返済義務がある。債券の償還期日を迎えたら出資した投資家に返還しなければならない。つまり、起債は一般人から資金を借り入れるための手段といえよう。
債券
債券とは、国や民間企業が資金調達を目的に起債する有価証券である。
出資者に対する借用書と考えるとわかりやすいかも知れない。会社が起債する債券を社債、国や地方公共団体が起債する債券を公債という。
起債で資金を集める仕組み
国や大企業が起債しても、出資にメリットがなければ誰も資金を提供しようとは思わない。
起債による資金調達では、投資家に債券を購入させるためにインセンティブを与える必要がある。そのため、起債するときは割引債や利付債といった債券を発行することが多い。
仕組み1.割引債
割引債とは、額面よりも低い金額で発行する債券だ。償還時に額面の全額を返済するので、差額分が利益になる。
たとえば、額面100円の債券を95円で発行した場合、期間満了後に100円で償還する。
仕組み2.利付債
利付債とは、一定期間ごとに利息を受け取れる債券である。
たとえば、年3%の利率で年1回利息を支払う場合を考えてみよう。額面100円の債券であれば、毎年の利払日に3円の利息を受け取れる。
会社が起債する社債とは?
会社が発行する債券を社債という。会社法第2条第23号によると、債権は「会社を債務者とする金銭債権」と定義されている。
社債は、株式会社に限らず合名会社、合資会社、合同会社でも起債できる。
社債の種類
社債には、普通社債のほか、オプションが付いた特殊な社債などがある。
種類1.新株予約権付社債
新株予約券付社債とは新株予約権を付けた社債だ。新株予約権は、その会社から新しい株式を発行してもらう権利をさす。
新株予約権を行使すれば、一般的には安価で新株を取得しやすく、出資者にとってメリットがある。
種類2.転換社債
転換社債とは、社債を株式に転換できる権利を付けた社債をさす。転換社債型新株予約権付社債と表記されることもある。あらかじめ利率や償還期限が決められているのが特徴だ。
転換価格500円の転換社債を株価が700円になった時点で転換すれば、差額分の利益を得られる。
種類3.劣後債
劣後債とは、普通社債よりも元本と利息の返済順位が低い社債である。ただし、債務不履行のリスクが高いので、受け取れる利息は一般の社債に比べて高い。
会社が起債(社債発行)するメリット
会社が起債するメリットは主に二つある。
起債のメリット1.経営権に影響がでない
会社の資金調達手段は社債のほかに株式発行もある。出資者に対する返済義務がない株式発行のほうが資金調達しやすいように見えるかもしれない。しかし、社債には議決権がないため、経営権に影響がでないメリットがある。
起債のメリット2.利息を減らしやすい
借り入れであれば銀行融資という選択肢もあるが、起債には直接金融のメリットがある。直接金融は、金融機関を介さずに市場から直接金銭を調達することをさす。
直接金融なら、銀行融資(間接金融)よりも少ない利息で資金調達できる可能性がある。貸し付ける側にも、銀行より高い利回りで安定性の高い債券に投資できるメリットがある。
起債による資金調達であれば、一般人から直接資金を集めることが可能で、直接金融のメリットを享受できる。
国や地方公共団体が起債する公債とは?
国や地方公共団体が起債する公債は、国債と地方債に分かれる。
国が起債する国債には、個人が銀行や証券会社で購入できる個人向け国債や、常に市場価格で売却できる新窓販国債などがある。
地方公共団体が起債する地方債には、地方公共団体が単体で発行する個別債や、住民の行政参加意識を向上させるミニ公募債、複数の地方公共団体が共同で発行する共同発行市場公募地方債などがある。いずれも金融機関で購入可能だ。
起債は地方債の発行をさすことも
起債という言葉は地方債でよく使われ、地方債の発行のみをさすこともある。たとえば、起債許可制度や起債充当率という言葉は地方債の制度に関連する。
関連ワード1.起債許可制度
起債許可制度では、元利償還費や決算収支赤字が一定水準以上を越えた地方公共団体について、地方債の発行を許可制としている。地方債の信頼性を確保するための制度といえよう。
関連ワード2.起債充当率
国や地方公共団体による事業費のうち地方債で充当できる割合をさす。総務省が毎年定める起債許可方針によって事業債ごとに示される。
起債(社債発行)の手順を7ステップで解説
社債の発行手続きについては、会社法にもとづくルールがある。ここからは、会社が起債(社債発行)によって資金調達する方法について手順を解説する。
手順1.社債の発行を決定
まず、社債の発行によって資金調達する旨について会社の意思決定を行う。
会社法第362条4項によると、会社が取締役会設置会社であれば、社債の募集に関する重要な事項は取締役会の専決事項となる。
また、会社法第348条2項によると、取締役会設置会社でなく、取締役が2人以上いる会社であれば、その過半数で決定する。
手順2.社債の募集内容を決定
社債の購入を募るときは、会社法第676条にもとづき下記の事項を決定する。
- 募集社債の総額
- 各募集社債の金額
- 募集社債の利率
- 募集社債の償還の方法及び期限
- 利息支払の方法及び期限
- 社債券を発行する旨
- 社債権者が記名式と無記名式の転換請求の全部又は一部をすることができないときは、その旨
- 社債管理者が社債権者集会の決議によらずに社債に対する訴訟や破産手続きなどの行為ができるときは、その旨
- 各募集社債の払込金額若しくはその最低金額又はこれらの算定方法
- 募集社債と引換えにする金銭の払込みの期日
- 一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける者を定めていない場合において、募集社債の全部を発行しないときは、その旨及びその一定の日
- 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
手順.3社債の募集を実施
決定した内容で社債の購入者を募る。なお、不特定多数の一般投資家に対して購入を募る場合、金融商品取引法上の「有価証券の募集」にあたり同法の規制を受ける。規制内容は「社債発行の注意点」の項目で記載する。
手順4.社債の申し込み者に通知
会社法第677条第1項にもとづき、社債の募集内容を投資家に対して通知する。
同条第4項によると、金融商品取引法上の目論見書を交付している場合など、必ずしも通知を必要としないケースもある。
手順5.社債の割当て
社債の申し込みがあったら、申し込み者ごとに割り当てる社債を決める。
会社法第678条にもとづき、金銭の払込期日の前日を期限として、申し込み者に決定事項を通知しなければならない。
手順6.社債原簿の作成
会社法第681条にもとづき、社債を発行した後は遅滞なく社債原簿を作成し、必要な事項を記入する。
手順7.社債の償還
社債の償還期限が満了したら、社債の購入者に社債の額面を償還する。
起債(社債発行)の注意点3つ
社債を発行する際の注意点は主に3つある。
注意点1.金融商品取引法による規制
社債は有価証券であるため、その募集は金融商品取引法上の規制を受ける。社債の発行額にもよるが、下記の条件を満たさなければならない。
- 有価証券届出書の提出(同法第4条、第5条)
- 目論見書の作成や交付(同法第13条等)
- 有価証券報告書の事業年度ごとの提出(同法第24条第1項等)
なお、規制の対象は不特定多数の一般投資家に対して社債の購入を募集する場合だ。
注意点2.小規模な資金調達には私募債
不特定多数の相手に購入を募る社債を公募債、特定の相手に購入を募る社債を私募債という。私募債の場合、募集人数や相手を限定することで、法規制を受けずに発行できる。
法規制による手続きが煩雑であるほど発行にコストがかかってしまうため、小規模な資金調達であれば私募債のほうが利用しやすい。
注意点3.社債管理者を設置する
会社法第702条にもとづき、社債を発行する会社は社債管理者を設置しなければならない。
社債管理者とは、社債権者の権利を守り、社債の管理を行う機関だ。主に、銀行や信託会社などが社債管理者になる。社債の金額が1億円超である場合などは不要となる。
起債にともなう税務知識
会社が起債するときにも税務がともなう。社債発行費は会計上の繰延資産に該当する。最低限、繰延資産の扱いを知っておきたい。
社債発行費とは?
社債発行費とは、社債の募集にかかる広告費用や社債券の印刷費など、社債を発行するために支出した費用をさす。新株予約権付社債の発行に支出した費用も含まれる。
会計上の繰延資産
繰延資産とは、会社が支出する費用のうち支出の効果が一年以上に及ぶ資産だ。社債発行費は会計上の繰延資産にあたる。支出時に資産計上し、社債の償還期間で費用化していく。
ただし、社債発行費は会計上の繰延資産にあたり、税務上は任意のタイミングで損金に算入できる。
必要性がなければ会計処理にあわせて償却するのだろうが、一度に償却しても税務上は容認される。
起債は会社の資金調達の1つの手段
起債の概要をはじめ、起債の手順や注意点などを解説した。社債や株式の違いなどについても理解が深まったのではないだろうか。起債は会社の資金調達の手段であることを頭の片隅にストックしておこう。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)