事業資金
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中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

事業資金を調達するには大きく分けて二つある。一つは株式を発行して資金を調達する方法、もう一つは銀行などの金融機関からの融資によって調達する方法である。ここでは事業資金を融資で調達する方法について、具体的な融資の種類や調達する際の注意点について紹介する。

目次

  1. 事業資金とは?
    1. 事業資金を調達するには?
  2. 事業資金を融資で調達する方法
    1. 日本政策金融公庫から借り入れる
    2. 制度融資を利用する
    3. 銀行や信用金庫から直接借り入れる
    4. ノンバンクから借り入れる
    5. 手形割引を利用する
    6. ファクタリングを行う
  3. 事業資金を融資によって調達する時の注意点3つ
    1. 1.事業にとって必要な資金かどうか見極める
    2. 2.調達資金の返済計画を立てる
    3. 3.地方自治体の融資制度が利用できないか確認する

事業資金とは?

事業を立ち上げたり、事業を継続運営したりするために必要な資金を事業資金という。

例えば、新しい事業を立ち上げる際の事業資金としては、その事業を行うために必要な物品の購入や、事務所などを借りるために必要な初期投資費用がある。

また、事業を継続するために必要な事業資金としては、事業運営の最中に必要な資材や販売する物品の購入に使用する資金や、従業員に支払う給与に必要な金銭などである。

事業資金を調達するには?

事業資金を調達する方法は、大きく二通りに分けられる。

一つは自己資金である。会社の場合、新規の株式を発行したり、自己株式を交付したりするなどして、事業資金を調達することができる。

自己資金の場合、受け入れた金銭は原則として返す必要はなく、利益が出なければ配当を支払う必要もない。ただし、第三者を株主として招いて調達する場合には、株主総会の決議などが必要となるため、手続きが煩雑になることが多い。

もう一つは他人資金とも呼ばれている、融資を利用した事業資金調達法である。融資による調達は多額でなければ決議が不要であるため、自己資金に比べて簡単に資金が調達できる。しかし、取得した資金は原則返さなければならず、利息も支払わなければならない。

事業資金を融資で調達する方法

融資による事業資金調達は、借り入れ先によってさまざまな方法がある。ここでは、融資で事業資金を調達する具体的な方法について、いくつか説明する。

日本政策金融公庫から借り入れる

事業資金の融資検討先としてよく検討されるのが、日本政策金融公庫からの借り入れである。

日本政策金融公庫ではさまざまな融資が用意されており、状況に応じて適切なものを選択できる。また、利率は市中の金融機関から借り入れる場合よりも、低く設定されている事も多い。

以下、日本政策金融公庫の融資商品のうち、事業資金の調達に利用する可能性の高いものを紹介する。

1. 新事業育成資金

新規事業を行う際に受けられる融資である。

借り入れられる人新規事業を初めて5年以内など、高い成長性が見込める新たな事業を始める人
資金の使途新規事業を始めるに当たって必要な設備資金、および長期運転資金
返済期間設備資金は最大20年、運転資金は最大7年

2. 女性、若者/シニア起業家支援資金

女性や35歳未満の若者、または55才以上のシニアが、新しく事業を起こす際に借り入れることができる資金である。

借り入れられる人女性、または35歳未満か55歳以上の人で、新しく事業を始めるか、もしくは事業を開始して約7年以内の人
資金の使途借り入れる方が必要とする設備資金や長期運転資金
返済期間設備資金は最大20年、運転資金は最大7年

3.一般貸し付け

一般の中小企業が借り入れる場合に用いられる。

借り入れられる人ほとんどの業種の中小企業(金融業など一部業種は使えない場合あり)
資金の使途運転資金、設備資金など
返済期間運転資金は5年(7年にできる場合あり)
設備資金は10年。など

これら以外にも、日本政策金融公庫では、さまざまな業種や事業状況に応じた融資が用意されている。

制度融資を利用する

事業資は、銀行や信金などの金融機関から借り入れることが一般的ではあるが、金融機関から直接借り入れることが難しいケースも少なくない。そこで、地方公共団体や金融機関、信用保証協会の協力のもとで融資を受けられる制度が用意されている。

制度融資を利用するには、東京都の場合は以下の要件がある。

  • 中小企業者であること
  • 都内に事業所または住居があり、保証対象となる事業を営んでいること
  • 事業税等の租税の未申告、滞納がないこと
  • 許認可などが必要な業種については許認可等を受けていること
  • 暴力団員などではなく、暴力団員などとの関係等を有せず、暴力的な行為を行っていないこと

主だった制度融資には以下のようなものがある。

1.創業融資

借り入れられる人1 事業を営んでいない個人の場合、1ヵ月以内に個人で、又は2ヵ月以内に会社を設立すること
2 創業した日から5年未満の中小企業者や組合であること
3 東京都内で分社化する具体的な計画がある会社又は分社化されて5年未満の会社
資金の使途運転資金、設備資金
返済期間運転資金は7年
設備資金は10年

2.一般事業資金融資のうち事業一般

借り入れられる人制度融資の利用できる人すべて
資金の使途運転資金、設備資金
返済期間運転資金は7年
設備資金は10年

3. 経営支援融資のうち経営一般

借り入れられる人制度融資が利用できる人で、最近3ヵ月または今後3ヵ月の売上が、前年同期に比べて5%以上の減少が見込まれる中小企業者または組合
資金の使途運転資金、設備資金
返済期間10年

なお、融資にあたっては信用保証料を支払うことになるが、補助金が出ることもある。

銀行や信用金庫から直接借り入れる

融資による資金調達で最も基本的なものは、銀行や信用金庫から借り入れることである。銀行や信用金庫から直接借り入れるのはハードルが高いと感じているかもしれないが、中小企業に向けた独自の融資を用意している金融機関もある。

ここでは、銀行などの金融機関の融資商品の事例をいくつか紹介する。

1.三井住友銀行 ビジネスセレクトローン

借り入れできる人業歴2年以上、最新決算において債務超過でないこと、税金の未納がないことなど
資金の使途運転資金、設備資金
返済期間7年以内

2.東京東信用金庫 地域活性化ローン「粋」

資金の使途新規開業創業資金、店舗改装資金、太陽光発電設備やそれに伴う蓄電池の購入資金、事業用に賃貸する物件のリフォーム資金、運転資金
返済期間運転資金は5年以内
設備資金は10年以内

ノンバンクから借り入れる

事業資金の融資による調達の手段には、ノンバンクからの借り入れもある。

ノンバンクとは、銀行や信用金庫等以外で融資を行う機関を指し、一般には消費者金融が知られるが、事業用の融資を行うオリックスなどの会社もある。

ノンバンクからの借り入れの特徴としては、審査が銀行や信用金庫などに比べて緩やかでスピードが早いといったものがあり、急場の資金調達に活用できる。

ただ、その反面、利率は銀行や信用金庫などに比べて高めとなっており、長期の借り入れには向いていない。

手形割引を利用する

取引先から代金として手形を受け取った場合は、手形割引を利用する方法もある。

手形割引とは、受け取った手形を銀行や手形割引を行う会社に買い取ってもらう事で、資金を得る方法である。

手形を買い取ってもらう際には、額面から手数料(実質的には利息)が引かれた金額を受け取る。手数料の金額は、割引の実行から期日までの日数や、手形を振り出した会社等の倒産リスクなどを勘案して計算される。

手形の割引を実行したとしても、相手方が支払えないリスクは残ったままであり、手形が不渡りに終わった場合は、当該手形を買い戻さなければならない。

ファクタリングを行う

近年は手形を使うケースが少なくなっており、その代わりに「ファクタリング」という、売掛金を売却して事業資金を得る方法が利用されている。

方法は手形割引と同様で、売掛金の請求書控えなどをファクタリング会社に提示して買い取ってもらう。その際は実行から期日までの日数や、相手の会社の倒産リスクなどを勘案された手数料が差し引かれる。

ファクタリングにおいても、売掛金が不払いになった場合、当該債権を買い取らなければならないこともある。ただ、手形割引と異なるのは、ノンリコースという契約形態であれば、利用者側は追加での返済負担を受けない事である。

また、ファクタリングは手形と違って24時間ネットを通じて申し込みでき、他の資金調達の手段に比べて、機動的な資金調達が可能となっている。

事業資金を融資によって調達する時の注意点3つ

事業資金を融資で調達する方法について説明してきたが、注意すべき点がいくつかある。

1.事業にとって必要な資金かどうか見極める

融資による資金調達の前に、まず行わなければならない事は、これから借り入れる資金が、本当に事業運営にとって必要なのか見極めることである。

借り入れ資金が少なすぎると、資金繰りがショートを起こして、倒産を招きかねない事となるのは想像がつくだろう。ただ、借り入れ資金が多すぎる場合は、不必要な利息を支払う事となって、真に必要な資金に比べて多すぎるコストを支払うことになりかねない。

借り入れる資金が、設備投資を行うために必要である場合は、今後の生産計画などに対して、どれだけのスペックの装置が必要になるのか見極める必要がある。

また、事業の運転資金については、資金繰り表を作成するなどして、今後どれだけの資金が必要になるのかを想定した上で借り入れることが重要である。

2.調達資金の返済計画を立てる

融資によって借り入れた資金は返済しなければならないが、計画的な返済が滞ってしまう事もあり得る。

例えば、毎月一定の金額を決められた日に返済する計画を組んでいれば、借り入れた資金の返済が滞る可能性は低くなるだろう。しかし、返済に必要な額が準備できた段階で支払うなどのランダムな返済計画を立ててしまうと、返済の管理が難しくなってしまう。

融資によって資金を調達した場合は、延滞のないような返済日程を計画するのはもちろん、どのようにして返済資金を確保するかといった点も含めて、準備や計画を行うことが肝心となる。

3.地方自治体の融資制度が利用できないか確認する

資金を借り入れる際には、各地方自治体の融資支援制度の有無についても、役所などに出向いて確認して欲しい。

地方自治体によっては独自に融資をあっ旋していることがあり、信用保証料の一部補助や利子の補給があるなど、返済の負担が軽減できる場合もある。資金調達手法の一つとして検討してみることをおすすめする。

文・中川崇(税理士)