
目次
- 宮城県沖地震を機にブロック工事から資材のパッケージ販売に事業を転換 独自サービスが地元で評判 通称の「みやちゅう」を正式社名に
- 母の袋詰め作業を手伝ううちに家業に注力 会社経営を意識し「弱点を強みに変える」ためパッケージングに特化し競争力に磨きをかける
- 東日本大震災で甚大な被害を受けながらも奮起 スーパーゼネコンと協力しゼオライト天井制振材を製品化 独自製造装置で量産
- ゼオライト応用の高性能ダクト減音装置を製品化 連続受賞―会社の規模拡大で生産性・効率化などの経営課題も浮上
- 業務改善のためグループウェア導入、業務アプリ開発 見える化と情報共有でDX化を加速
- 「全国クラウド実践大賞全国大会」でノーコード推進協会賞受賞 残業削減前に業務効率を徹底し賃上げ 本気の取組みで実質残業ゼロ評価
- 「企業の持続可能性」に欠かせない人材育成 認知度アップで新卒採用にも成果 産学連携プログラムで中高生にもプログラム開発を指導
建築資材メーカーの株式会社みやちゅうは、事務処理の効率化と製造現場の生産性向上を目的にICTソリューションの本格活用に取り組み、その成果を賃上げに反映した「従業員主体の経営姿勢」が高く評価されている。宮城県産のゼオライトを活用して大手ゼネコンと共同開発した天井の制振・遮音材やダクトの騒音低減装置など住宅の騒音対策に寄与する製品でも成果を上げており、ICT活用や独自製品で獲得した賞は数多い。2027年の創業50周年に向けて、楽しく仕事ができて働きやすい職場環境作りと独自製品の販売を強化し、会社の持続可能性を高めていく方針だ。(TOP写真:天井制振材製造装置 袋の製造装置とゼオライトを充てんする装置を合体させた大掛かりな天井制振材製造装置を独自に設計開発した)
宮城県沖地震を機にブロック工事から資材のパッケージ販売に事業を転換 独自サービスが地元で評判 通称の「みやちゅう」を正式社名に

みやちゅうの前身は、菊池圭吾代表取締役の父、次夫氏が1977年に設立した有限会社宮城中央ブロック工業だ。仙台近辺で増え始めたマンションなど住宅向けブロック工事を中心とした家族経営の建設工事会社だったが、設立1年後の1978年6月に発生した宮城県沖地震をきっかけに事業の主軸が変わった。宮城県沖地震はマグニチュード7.4、仙台市などを中心に震度5の強い揺れとなり、死者28人、負傷者1325人、建物の全半壊7400戸(政府地震調査研究推進本部サイトより)で、都市機能がまひする甚大な被害をもたらした。特に住宅地ではブロック塀の倒壊が目立ち、犠牲者のうち18人が倒壊したブロック塀の下敷きによるものだった。
小学生だった菊池社長は「当時はずさんなブロック工事も多かったようで、バタバタ崩れました。地震で『ブロック塀は危ない』と言われてブロックの需要がガクンと落ち込みました」と振り返る。そんなとき次夫氏のアイデアが新たな収益事業につながることになった。
マンション建設などでブロックを接合するために使うモルタルは、砂とセメントに水を混ぜて作る。通常はそれぞれの材料をマンション上部にあげてその場で必要な分量をこねていたが、次夫氏はポリ袋に砂などの材料をあらかじめ袋詰めして現場に搬入した。すると、施工業者や建材問屋から「これは便利だ」と好評で、砂や砂利の袋詰めから始まったパッケージ販売は、みやちゅう独自のサービスとして地元で評判になった。1997年には通称だった「みやちゅう」を正式社名に変更した。
母の袋詰め作業を手伝ううちに家業に注力 会社経営を意識し「弱点を強みに変える」ためパッケージングに特化し競争力に磨きをかける

「玄関に積まれた砂などの資材を母がスコップで袋に詰めて、父がダンプで現場に運んでいました。1980年代に増え始めたホームセンターにも砂の袋を置かせてもらいました」と菊池社長が話すように、現場の使い勝手を考えたパッケージ資材販売は次第に販路を広げ、同社の主力事業に育った。母が朝4時過ぎから砂を袋に詰める姿を見て、当時高校生だった菊池社長も自然に手伝うようになった。「父からは一度たりとも『継いでほしい』なんて言われたことはなかったが、母を楽させたい気持ちだけで仕事をした」という菊池社長だが、高校時代には父に言われて「自動車免許より前にフォークリフトの免許を取った」ほか、夏休みには人数が必要な工事の際に同級生を集めるなど、次第に家族経営を支える働き手になっていた。
高校卒業と同時にみやちゅうに入社したが、当初は経営を引き継ぐつもりはなかった。「砂を袋詰めにするような仕事は誰にでもできるし、コンプレックスがあった」という。だが、取引先の同年代の人たちが段々偉くなって会社も大きくなるのを見て、「自分もうかうかしていられない」という気持ちが強まり、次第に会社の経営を意識するようになった。
「弱点を強みに変えるつもり」で、砂の袋詰めという「ついで仕事」から、多様な原材料や資材を顧客の要望に応じて大小様々にパッケージングする、大手では扱えない多品種少量も対応できるパッケージング会社として強みを発揮した。事業は成長し、2006年には2代目社長に就任した。
東日本大震災で甚大な被害を受けながらも奮起 スーパーゼネコンと協力しゼオライト天井制振材を製品化 独自製造装置で量産

そんなみやちゅうを襲ったのが2011年の東日本大震災だった。仙台市の荒浜地区にあった工場は建物が流され、従業員も被害に遭うなど事業存続の危機に直面した。母親も津波にさらわれ、「積み重ねてきたものが一気に持っていかれて理不尽すぎる」気持ちを抑えて、残された従業員の生活を考えて再スタートを誓った。
設備も原材料調達もままならない中で手がけられる仕事は限られていたが、地元の復旧・復興事業が追い風になり、経営は次第に持ち直してきた。ホームセンターで宮城県産のゼオライト(微小な空洞を持つ多孔質構造の鉱物)が目に留まり、製品化を模索しているうちに吸着機能を生かした「床下調湿剤」の開発に成功し、ホームセンターで販売してもらえることになった。
ある時、大成建設株式会社の技術者から菊池社長にメールが届いた。「御社の床下調湿剤を見たが、自分が作ろうとする形状に近かったので協力していただけないか」といった内容だった。当初は「スーパーゼネコンがなぜ当社に?」と疑心暗鬼だった菊池社長だが、数日後には大成建設技術センター(神奈川県横浜市)を訪れた。
「経営が持ち直してきた時期で気持ちに少し余裕があったので、すぐに確認してみたくなった」(菊池社長)。担当者の説明は「まだ研究段階なので目的は言えないが手伝ってほしい」というあいまいなものだったが、菊池社長は引き受けることにした。
大成建設の依頼で1年半にわたり、ゼオライトの大きさや形状、重さを変えて様々なパッケージングを作り続けた。大成建設が天井制振・遮音材として技術発表したのは2015年10月だ。大成建設は、天井面の振動エネルギーがゼオライトの摩擦により熱エネルギーに変換される点に着目して、制振・遮音材への応用に成功した。
みやちゅうは、ゼオライトの加工やパッケージング技術、製品化で協力した。畠山正樹取締役営業本部長兼購買部長によると、「太鼓の皮を押さえると音が響かないのと同様、ゼオライトで天井の石膏(せっこう)ボードを押さえつけることで制振性を実現」して遮音機能を高めたという。
製造はみやちゅうが請け負うことになったが、製造設備は既成品では対応できないため、造ってくれるメーカーを苦労して探した。「袋を作る機械とゼオライトを充てんする機械ができたが、これを一体化するのにまたひと苦労した」(畠山取締役)。しかし、1年半かかるとみられていた開発期間を突貫作業により半年で完成にこぎつけ、2018年に量産を開始した。
この技術に注目した企業が大成建設と5年間の独占販売契約を結んだが、みやちゅうも他社の独占販売契約が終了した2023年から販売開始。新設ホテルに全面採用されるなど、現在では同社の主力商品となっている。原料から容器包装まで県内サプライヤーから調達した「MADE IN みやぎ」にこだわり、2024年1月に「第16回みやぎ優れMONO」に認定された。
ゼオライト応用の高性能ダクト減音装置を製品化 連続受賞―会社の規模拡大で生産性・効率化などの経営課題も浮上

「みやぎ優れMONO」は宮城県内の優れた工業製品を認定して県内外に発信するための認定制度で、宮城県から多くのものづくりヒット商品を生み出すことを目的に2009年に創設された。みやちゅうは大成建設と共同で2022年度のみやぎ中小企業チャレンジ応援基金事業の補助金を活用して住宅換気用ダクトの減音装置「静換気(しずかんき)」を開発した。多孔質の微小な穴で音を吸収する特性を持つゼオライトを利用し、ダクトの内部に取り付ける減音装置で、見た目を変えずに遮音等級「T2(静かなオフィス並み)」水準まで騒音を減少させるもので、2024年2月から実用化。
「第16回みやぎ優れMONO」に認定された住宅の上下階の騒音低減技術「天井制振材」に続き、「第17回みやぎ優れMONO」に住宅の給気口用消音器「静換気(しずかんき)」が認定。2年続けて認定され、2024年度グッドデザイン賞にも選ばれるなど高い評価を獲得した。
東日本大震災後に落ち込んだ業績も回復し、現在は震災前の約5倍の売上規模に成長した。従業員も増え、取扱材料の多様化や仕事量の増大によって、業務の効率化や法令順守の徹底など経営課題も浮き彫りになってきた。
業務改善のためグループウェア導入、業務アプリ開発 見える化と情報共有でDX化を加速

菊池社長をはじめ経営幹部は「中長期的視野で持続可能な会社にするために何が必要か」という問題意識を抱いて経営改革に着手した。2019年に畠山取締役を中心に取り組んだのがスケジュールや掲示板、メッセージなど、社内で情報を共有するためのグループウェアの活用だ。「これまでは業務が増えても皆で頑張ろうとパワーで押し切ってきたが、数え直しやチェック漏れを防がないと効率が上がらない」という状況の改善と、時間外労働規制や電子帳簿保存法への対応が急がれるなか、まずデジタル化による業務全体の見える化と情報共有は欠かせないと判断した。
その当時、主力の建築用のほか農業用、園芸用など取り扱う原材料や製品などは500種類以上に及び、それらに加えて容器や包装などを含めた受発注・在庫管理は煩雑を極めていた。「原料が一つでも欠けたら作業がストップしかねない状況で、いかに抜け落ちがないように管理するか」が喫緊のテーマだった。
畠山取締役はグループウェア環境で業務アプリを開発し、現場で使ってもらいながら改良を重ねて使い勝手を向上させた。在庫管理や製造時の温湿度管理など業務効率化にかかわるものや、フォークリフトの点検管理や免許証更新管理など法令順守につながるものなど、開発したアプリは多種多様。工場業務の見直しや無駄の排除で残業も抑制できた。
業務のデジタル化による生産性向上をさらに深化させるため、畠山取締役は2021年に中小企業庁のIT導入補助金を活用して、コーディング不要の業務アプリ開発システムを導入した。専門的なプログラミング作業が不要のため、開発負荷は大幅に軽減。既存アプリの刷新や新規アプリの開発を加速した。
「全国クラウド実践大賞全国大会」でノーコード推進協会賞受賞 残業削減前に業務効率を徹底し賃上げ 本気の取組みで実質残業ゼロ評価

業務情報や労務管理の情報を一元化するデータベースを構築し、入出荷や製造工程の管理に加えて品質管理記録や各種機器の点検記録も、アプリから登録・確認できるようになった。事務所や工場など4ヶ所に設置した電子ホワイトボードで、いつでも最新情報を閲覧できる。請求書管理ツールにより複合機のスキャナーを連携させることで、紙やデータでバラバラだった受注データも一元管理できるようになり、電子帳簿保存法に対応した証憑類の電子保存も可能になった。2024年末には年末調整のオンライン申請を実施。2025年中にはあえて残していたタイムカード式の勤怠管理もデータ入力に変更する。
これらICT活用による大掛かりな業務刷新によって効率化と無駄の排除を徹底した結果、2018年に月平均40時間あった残業は実質ゼロを実現した。「製造現場の無駄をそぎ落として偏っていた作業負荷を平準化した」(畠山取締役)ことで予想以上の成果を上げたほか、無駄な在庫を削減できたため在庫スペースが縮小するなど大きな波及効果もあった。
菊池社長は残業がなくなった分が減給にならないよう、ICT導入プロジェクトがスタートした2019年に一人あたり最大で月額10万円規模の賃上げを実施した。効率化による人件費削減を目的にするのではなく、従業員にもしっかり還元して労働環境の改善と生産性向上を両立させたことが高く評価されて、「全国クラウド実践大賞全国大会」でノーコード推進協会賞を受賞した。
ICT活用による業務改革という大手術の前に賃上げの大盤振る舞いを先行して実施したことで「従業員も納得して本気で取り組んでくれた」(畠山取締役)。根底には「仕事は楽しくなければならない。従業員もその家族も幸せにしたい」という菊池社長の強い理念がある。
「企業の持続可能性」に欠かせない人材育成 認知度アップで新卒採用にも成果 産学連携プログラムで中高生にもプログラム開発を指導

畠山取締役の最大のミッションである「企業の持続可能性」の追求で欠かせない重要なピースが人材育成だ。資格取得や管理者育成などの支援策は講じているが、「人材については道半ば」(畠山取締役)でもある。ただ、製品開発やICT活用で数々の受賞を獲得することでみやちゅうの知名度も向上。毎年数人ながら新卒採用も実施している。新入社員向けにアプリ開発指導を行っているほか、産学連携プログラムで地元の高校生や中学生向けにノーコードツールでDXアプリ作成を学ばせている。
住宅市場は、戸建て住宅の着工数が減少傾向にある一方、賃貸マンションなど集合住宅は比較的堅調で、「音」を抑制する同社の製品は今後の需要増が期待できる。大成建設との信頼関係も強まり新たな技術開発も検討中という。「大切なのは確実に『人』です。一人ひとりがこの会社で働いて良かったという思う環境を作ることが企業防衛につながり従業員を守ることだと思っています」(菊池社長)。宮城県にこだわり、人にこだわる菊池社長の信念がみやちゅうの持続可能性を最大限に高める源泉といえそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社みやちゅう |
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本社 | 宮城県仙台市若林区沖野6-29-37 |
HP | https://www.miya-chu.co.jp/ |
電話 | 0223-29-4127 |
設立 | 1977年6月 |
従業員数 | 41人 |
事業内容 | 建築・土木・農業・園芸資材の製造、販売、輸出入および付帯する工事の施工など |