思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)

目次

  1. まっすぐ、しなやかに——『柳竹』という名に込められた思い
  2. 違和感との出会いが導いた“自分らしい訪問看護”——起業を決意するまでの道のり
  3. こんな訪問看護がしたい——その思いがスタッフを引き寄せる
  4. 信頼が広げたご縁——そして、黒字化を支えた“思い”
  5. “顔の見える関係”が信頼を育む——地域に根ざす『まる』の工夫
  6. “共感”が採用の決め手——理念に動かされる人と働きたい
  7. 信頼を築くツールとして——ICTで支える訪問看護の現場
  8. 労務管理の強化――勤怠管理システムの導入
  9. この仕事を通して人として成長したい——問い続けるチームが、地域の絆を深めて、温かな未来をつくる
  10. “街の保健室”としての役割――地域に寄り添う『まる』
中小企業応援サイト 編集部
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2023年11月10日に設立された株式会社柳竹(りゅうちく)は、2024年4月1日、群馬県前橋市に訪問看護ステーション「まる」を開設した。代表取締役の石川奈保さんが掲げる理念は、「最期まで、自分の幸せは、自分で決めて、自分で生きる」。その実現に向けて、スタッフ一人ひとりが熱い思いを胸に、日々利用者と真摯(しんし)に向き合っている。(TOP写真:訪問看護ステーション「まる」の看板。石川代表の父親の作品)

まっすぐ、しなやかに——『柳竹』という名に込められた思い

「利用者様やご家族にとって、自宅は最もリラックスできる場所。そこに医療者の“管理・指導”の概念が入り込むと、ストレスになることがあるのです。」 ホームページに記されたこの言葉には、「まる」が提供する訪問看護の本質が詰まっている。もちろん命に関わることには真剣に対応する。しかし、それと同時に「好きなことを、好きなだけ楽しむ」——そんな人間らしい暮らしへの支援もまた、訪問看護の大切な役割であるという思いが込められている。

社名「柳竹」には、「竹のようにまっすぐな情熱」と「柳のようなしなやかさ」を併せ持つ組織でありたいという願いが込められている。その言葉の通り、「まる」は柔軟で温かく、そして何よりも真っすぐなケアを目指している。

違和感との出会いが導いた“自分らしい訪問看護”——起業を決意するまでの道のり

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
事務所に掲げられている額。「至誠一貫」は石川代表の基本

石川代表は、もともと作業療法士として病院勤務をしていた。リハビリの専門職として関わる中で、医療の重要性を感じながら「リハビリとは何だろう?」「自分の役割は何だろう?」という葛藤を抱くようになった。

転機が訪れたのは、訪問看護ステーションへの出向だった。自宅でリハビリを行う中で、病院とは異なる生活のリアルに触れた。「患者さんが家で過ごすというのは、こういうことなのか」「病院でのリハビリは自宅で過ごすことを想定していなかった」「もっとできることがあったのではないか」と深く反省し、在宅リハビリの意義に目覚めた。

その後、自身のけがにより2年間の休職を経て、訪問看護ステーションの事務職として復帰。現場には出なかったものの、外部のケアマネジャーや看護師、さまざまなスタッフの声に耳を傾ける日々が続いた。病気や障がいがあっても、自己を主張し、自分の人生を自分らしく生きる利用者たち——その姿に心を動かされ、自分もそうした人たちと関わり続けたいと強く感じた。しかし、当時勤務していたステーションは24時間対応ではなく、病院への入院を勧めたり、他のステーションに引き継いだりすることが増えていた。

自分の価値観や、どのような訪問看護を実現したいのかが明確になったことで、起業を決断した。その後、何かを購入する際の判断基準を「これがなくても生きていけるかどうか?」に定め、短期間で資金を蓄えたという。石川代表の強い意志を感じるエピソードだ。

こんな訪問看護がしたい——その思いがスタッフを引き寄せる

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
石川代表。熱い思いで「まる」を開設した

事務所は生まれ育った実家を活用し、設立準備は順調に進んだ。訪問看護ステーションの運営には、常勤換算で2.5人以上の看護職員が必要となる。最大の難関はスタッフの確保だった。

そんな中、以前の職場で価値観を共有していた看護師に声をかけた。「この人となら」と信頼していた相手であり、何度も対話を重ねた結果、管理者としての入職が決まった。さらに、リハビリはどうあるべきかについて熱く語り合った理学療法士(PT)も入職。彼らの参加が、「まる」の立ち上げに大きく貢献した。

信頼が広げたご縁——そして、黒字化を支えた“思い”

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
事務所は生まれ育った実家。勝山小学校の目の前の住宅地にある

訪問看護の立ち上げ直後は利用者が集まりづらいのが一般的だが、「まる」は違った。開設前にケアマネジャーや医師らへ挨拶にうかがうと、立ち上げスタッフの名前を聞いて「ぜひお願いしたい」と依頼が舞い込んだ。これまで現場で築かれた信頼がそのまま利用者の獲得につながり、当初の計画より早く黒字化を達成した。

石川代表は現場でさまざまなケースに直面し、歯がゆい思いをすることがあった。現在の医療保険、介護保険の枠組みの中では、利用者の要望に十分応えることができない。その枠組みの中での支援しか保険点数を算定できないのは当然だが、その結果、支援の手が届かず困る人が多く存在する。「誰かがやらなければ」と考えた石川代表は、医療的ケアを中心としながらも、ちょっとした困りごとがあればできる限り手助けすることを決意した。この柔軟な対応が評判を呼び、現在のまるの業績を支えている。

“顔の見える関係”が信頼を育む——地域に根ざす『まる』の工夫

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
パンフレットは親しみやすくわかりやすい。イラストは石川代表自身が描いた

「まる」は地域とのつながりを大切にしている。自治会の下校見守りや体操教室などのボランティアを通じて、自治会役員や民生委員、地域住民との交流を深め、困っている人や支援が必要な人を早期に発見できるようになった。これは介護予防にもつながり、地域福祉の好循環を生んでいる。

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
「まる」は自治会の体操教室に定期的に参加している

また、情報発信にも力を入れている。パンフレットや手作りのミニ情報誌「まるレター」は、横文字を使わないわかりやすい内容で、親しみやすいデザインだ。毎月の報告書・計画書に添えて届ける「まるレター」は、紹介元の医療・福祉関係者の間でも評判で、「今月は何かな?」と楽しみにされているという。このような活動が「一生懸命やっている」「フレンドリーである」「顔が見える」などと評価され、利用者の紹介につながるケースが増えてきている。

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
毎月届けている「まるレター」。手作りで温かみを感じられる

“共感”が採用の決め手——理念に動かされる人と働きたい

職員の採用について石川代表は、「給与水準や休みの多さなどの勤務条件だけで『まる』を選んでほしくない」と言う。そうした条件に価値を感じる人は、「まる」で働くことが苦しくなってしまうかもしれないからだ。そのため、採用にあたっては、理念や価値観を共有できる人材を求めている。「楽ではないが、やりがいのある仕事。そんな思いに共感してくれる人と一緒に働きたい」と石川代表は熱く語る。

実際、最近入職したスタッフも、「最期まで、自分の幸せは、自分で決めて、自分で生きる」という理念に心を動かされて応募し、採用に至った。「共感が採用の決め手になる」——それが「まる」の採用スタンスだ。

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
ホームページの採用情報には石川代表の熱い思いがつづられている

信頼を築くツールとして——ICTで支える訪問看護の現場

「まる」はホームページ、複合機、勤怠管理システムといったICTツールの導入にも積極的だ。特に、ホームページを開設前に整備したことが大きな成果につながった。ケアマネジャーなどから「立ち上げからしっかりホームページを作っているのはすごいね」と言われ、利用者の紹介につながった。その後も、ホームページの充実度やインスタグラムの積極的な運用が評価され、多くの利用者から選ばれている。石川代表は、「もしこのホームページがなかったら、計画より早い黒字化はなかった」と語る。医療・介護関係者との信頼構築、利用者獲得、スタッフの共感を得るための重要なツールとなっている。

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
複合機の積極利用で業務の効率化を図る

労務管理の強化――勤怠管理システムの導入

労務管理の重要性を感じ、途中から勤怠管理システムも導入した。「まる」に適した使い方を模索する中で、時間外の申請など手書きで残す必要がある場合を除き、対応できるシステムを選定した。それまでは緊急対応や時間外勤務の管理が煩雑だったが、システム導入によって、訪問看護特有の複雑な勤怠管理がしやすくなり、スタッフの働きやすさが向上した。

現在は、勤怠管理システム、給与計算ソフト、介護報酬レセプトシステム、ケアマネジャー・医師との情報共有ツールなどを導入している。しかし、システムごとに登録作業が必要なため、今後はシステム間の連携を強化し、業務の更なる効率化を図りたいと考えている。

この仕事を通して人として成長したい——問い続けるチームが、地域の絆を深めて、温かな未来をつくる

思いをカタチに——“自分らしく生きる”を支える訪問看護ステーション『まる』の挑戦 柳竹(群馬県)
“人と地域の絆を深めて、温かな未来をつくる”存在を目指す「まる」の入り口

「まる」が開設されて一年余りが経過したが、石川代表をはじめスタッフは、日々利用者に向き合いながら、自分たちにできることは何かを考え続けている。

利用者の中には、「そこまで長生きをしたくない」という人や、飲食を拒否する人もいる。このような方々にどう対応していけばよいのか、スタッフは日々話し合いを重ねている。スタッフはそれぞれ職種が異なり、経験も価値観も違うため、見ている世界も異なる。当然、意見がぶつかり合うこともあり、議論の収拾がつかず時間切れになることもある。

石川代表はこう語る。「意見がぶつかることや摩擦が生じることは、それだけスタッフが真剣に考えている証拠です。課題解決を図る上で、スタッフ全員がそれぞれの考えを真摯かつ柔軟に受け止めることができる専門職であってほしい。そのためには、意見を主張するだけではなく、お互いを尊重する姿勢が必要です。各自の意見から導き出された新たな考えや価値観が生まれるような関係がつくれたらいいですよね」

“街の保健室”としての役割――地域に寄り添う『まる』

「まるっと まるごと まぁるい気持ちでお手伝い」。このコンセプトの通り、「まる」は訪問看護にとどまらず、地域の人々が気軽に生活のことを相談できる“街の保健室”のような存在を目指している。柔らかく、しかし愚直に。心に寄り添う『まる』のケアは、これからも人と地域の絆を深めて、温かな未来をつくるに違いない。

企業概要

会社名株式会社清榮工業所
所在地群馬県前橋市総社町植野110番地4
HPhttps://ryuchiku.com
電話027-289-0988
設立2023年11月
従業員数6人
事業内容訪問看護ステーション