有給義務化
(画像=Mohd KhairilX/Shutterstock.com)

有給休暇は労働者に与えられた権利であり、リフレッシュをする機会である。働き方改革によって有給休暇の取得が義務化された。今回は、有給取得の義務化の概要をはじめ、経営者視点から従業員が休暇をとる意味を紹介していこう。

目次

  1. 有給取得の義務化とは
    1. 有給取得が義務化された経緯
    2. 企業が従業員に有給休暇を付与する義務
    3. 有給義務化における基準日
    4. 有給義務化の対象者
    5. 有給休暇取得の単位に関するルール
    6. 有給義務化における就業規則の変更
    7. 有給義務化に関する罰則
  2. 有給義務化に向けた対策
    1. 対策1.労働者に正しい情報を伝える
    2. 対策2.一斉付与方式の計画有給休暇
    3. 対策3.個人別付与方式の計画有給休暇
  3. 有給義務化に対する企業の在り方
    1. 有給休暇が企業にもたらす効果
    2. 有給休暇を取得しやすい雰囲気づくり
  4. 有給休暇の取得は生産性アップにもつながる?

有給取得の義務化とは

なぜ、有給取得が義務化されることになったのだろう。有給取得が義務化された経緯をはじめ、詳細なルールなどについてご説明していこう。

有給取得が義務化された経緯

2019年4月より、一定の条件を満たす従業員の有給取得が義務化された。これは政府による働き方改革の一環である。

総務省の発表によると、日本の人口は2008年の1億2,808万4千人をピークに減少を続けている。内閣府の資料によると、15~64歳の人口は1995年の8,716万人をピークに減少している。

さらには、総人口に占める65歳以上の割合は右肩上がりで、2017年10月に27.7%となった。その一方で、出生数は2016年に年間100万人を下回っている。この状況はまさに少子高齢化といえよう。

「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」に対応するために、政府は働き方改革を推進している。働き方改革の目的は以下のとおりだ。

・働く方々が個々の事情に応じた多様な働き方を選択できるようにする
・就業機会の拡大
・意欲や能力を存分に発揮できる環境を作る
・働く人がより良い将来の展望を持てるようにする

このうち、有給休暇の取得義務化の目的は以下のとおりだ。

・個々の事情にあった多様なワーク・ライフ・バランスの実現
・過重労働を防いで健康を守る
・自律的で創造的な働き方を支援

企業が従業員に有給休暇を付与する義務

企業による有給休暇の付与は義務であり、労働基準法第39条に定められている。雇用した日から半年間継続して全労働日の8割以上出勤した労働者に有給休暇を付与しなければならない。この半年間には試用期間も含むことに注意が必要だ。

有給義務化における基準日

有給休暇取得の義務化にあたり、基準日を設定しなければならない。基準日とは、有給休暇を付与した日を指す。企業は基準日から1年以内に有給休暇を5日間取得させることを義務付けられている。

社員が4月1日に入社して週5日労働する場合を考えてみよう。入社から半年後の10月1日に有給休暇を10日付与される。この場合、有給休暇が付与された10月1日が基準日となり、翌年の9月30日までに5日間の有給休暇を消化しなければならない

ただし、企業によっては以下のような独自のルールがある。

・入社時に有給休暇を付与する
・10日を複数回に分割して付与する
・入社日にかかわらず1月1日と7月1日を一斉有給休暇付与日とする

付与する方法やタイミングによって有給休暇取得の取扱が異なる。ここからは具体的な例を見てみよう。

(例1)
9月1日を一斉付与日と定める会社が、7月1日に入社してから半年が経過していない社員に10日付与する場合は、9月1日を基準日とする。

(例2)
初回の基準日から1年経たずして有給休暇が付与される場合は、消化すべき日数を計算するための別ルールが定められている。

10月1日に10日、翌4月1日に11日などと2回基準日がある場合は、10月1日~翌々年3月31日までの18ヶ月で7.5日を消化する必要がある。消化日数の計算は下記のとおりだ。

18ヶ月(総月数)÷ 12ヶ月(年間)× 5日(年間)=7.5日

(例3)
入社日の4月1日に有給休暇が5日付与され、7月1日にさらに5日付与される場合は、有給休暇付与数が10日に達した7月1日を基準日とする。

参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」P.8-P.10

有給義務化の対象者

有給休暇の取得が義務化される対象は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者である。ただし、以下の条件に該当すると対象にならないので注意したい。

・勤務日数が週3日又は4日以下で勤務年数が浅い者
・勤務日数が週2日以下の者
・取締役及び監査役

労働基準法によると、有給休暇が10日間付与されるまでにかかる期間は、週4日勤務者だと入社から3年半、週3日勤務者だと入社から5年半である。週2日以下の勤務だと、経過期間によらず10日付与されることはない。

また、取締役や監査役は労働者ではないため該当しない。労働者であれば、正社員やパートタイマーといった雇用形態は問わない。

上記の条件に該当しても状況によっては扱いが異なる。例えば、付与されるのは全労働日のうち80%以上出勤した場合であるため、出勤扱いとならない休職期間があると付与されず、有給義務化の対象とならない。

転籍の場合は出向先で雇用関係を結ぶため、出向先で義務化の対象となる。籍を残したまま他社に出向する場合は、出向先・出向元・労働者の間で交わした取り決めに従う。

有給休暇取得の単位に関するルール

有給休暇は1日単位での取得が原則となっているが、半日単位での取得や、時間単位での取得も可能だ。有給取得の義務化では以下のルールにもとづく。

・半休の取得は0.5日が義務化された5日間の一部としてカウントされる
・時間単位の取得は義務化された5日間の一部にはカウントされない

なお、1日単位ではない有給休暇の取得は労働者が希望した場合に限られるため、会社が一方的に半日単位を取得させることはできない。特に時間単位の場合は、会社と従業員の間で書面による協定が必要となり、年に5日が限度とされている。

有給義務化における就業規則の変更

有給休暇に関する事項は就業規則に記載が必要となるため、有給休暇の取得義務化に伴う変更は就業規則に盛り込まなければならない。厚生労働省のモデル就業規則(平成31年3月版)が参考になる。第22条5項の記載にもとづき、自社の就業規則を変更するとよい。

「第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。」

参考:厚生労働省 モデル就業規則(平成31年3月版)

有給義務化に関する罰則

有給休暇の取得義務化に関して2つの罰則が定められている。

・年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合は、対象となる労働者一人につき30万円以下の罰金
・使用者による時季指定を行う場合、就業規則に記載していないと30万円以下の罰金

有給義務化に向けた対策