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香川県高松市の古川事務所は、県内の中小企業に特定社会保険労務士(特定社労士)と行政書士の二つのサービスを提供しているダブルライセンス事務所だ。両方の資格を保有して事務所を運営する古川裕子所長は、クラウドサービスを活用してペーパーレス化を進めるなどデジタルファーストを意識して業務に取り組んでいる。その背景には、基幹業務の効率化によってクライアントに向き合う時間を増やし、クライアントが相談しやすい環境をより一層整えたいとの思いがある。(TOP写真:ペーパーレス化を進めている古川事務所のオフィス)
高松市内に事務所を構え、専門性が高い業務を代行して中小企業をサポート
毎月の従業員の社会保険料の算定、従業員の入退社に伴う手続き、行政機関への申請といった企業にとって重要かつ専門性が高い業務を代行してくれる社労士や行政書士は、人的リソースが限られた中小企業にとって頼りになる存在だ。これらの仕事を委ねることで本業に専念することができる。
古川事務所は香川県高松市の高松琴平電鉄三条駅の近くにある。社会保険・労働関連の法律に基づいた書類の代理申請といった社労士の業務に加え、労働紛争の解決代理業務にも携わる特定社労士と、官公署への行政書類の代理申請を行う行政書士。二つの士業のサービスをワンストップでクライアント企業に提供している。
困った時に安心して頼ってもらえる事務所でありたい

白を基調にした古川事務所のオフィスは落ち着いた雰囲気に包まれている。照明にはLEDを採用し、応接スペースでは空気の浄化や心身のリラックス効果を考えて観葉植物を配置している。「クライアントの皆さんが労務管理や行政への対応について困った時に、いつでも安心して頼っていただける事務所でありたいと思っています」と古川所長は穏やかな表情で話した。

数百社のクライアントを対象に書類の代理申請や労働問題のコンサルティングといった幅広い業務に対応している

古川所長は大学卒業後、大手企業に就職。その後、香川県内の司法書士事務所勤務を経て、2009年、30代前半で社労士と行政書士の資格を相次いで取得した。社労士については資格取得後、特別な研修を受けて紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定社労士にステップアップした。
高松市内の社労士・行政書士事務所に勤務していた古川所長は、2021年4月、事務所の経営者が引退するのに伴い、数百社のクライアントを引き継ぐ形で事務所を開設した。古川所長の下、2人のスタッフが働いている。事務所では古川所長が、従業員の入退社に伴う社会保険の手続き、就業規則の作成、雇用契約書の作成、労働問題のコンサルティングといった特定社労士の業務を担当。スタッフが、建設業界を中心に行政機関に提出する申請書類の作成や提出の代行といった行政書士の業務を担当している。
クライアントから相談が寄せられた時は、事情を詳しく聞いて複雑な背景をしっかりと理解した上で法律に照らし合わせ、アドバイスを行っている。「専門用語はできる限り使わずにわかりやすく説明することを心がけています」と古川所長。古川所長は、会社勤めをしていた20代のころから、生涯を通して働き続けることができる道を模索し、国家資格を取得して士業事務所を開設する考えにたどり着いたという。だが、国家資格を取得して開業したとしても順調にクライアントを確保できる保証はない。「選ばれる事務所になるには他の事務所にはない強みを持たなければならない」。そう考え、扱う業務が異なる一方で相互補完性がある社労士と行政書士の資格を両方取得することを決め、入念に準備したという。
記録の保管や申請業務はデジタルベースで実施 自然な流れでペーパーレス化を実現している

古川事務所は開設以来、クライアントの記録の保管や労働基準監督署、年金事務所、公共職業相談所などへの代理申請業務をデジタルベースで行うことを徹底してきた。古川所長が務めていた社労士・行政書士事務所が2017年ごろから進めていた業務のデジタル化の流れをそのまま引き継いだという。クライアントとの文書のやり取りもセキュリティ対策を行った上で原則、メールで対応するようにしている。FAX文書もできる限りプリントアウトせずデータの状態でNAS(ネットワーク接続型ストレージ)に保存している。「紙文書は複合機のスキャン機能を活用してデジタル化した後は、法律で保存期間が定められているものを除いて廃棄するようにしています」と古川所長。
クライアントの資料も紙文書ではなくデータで引き継いだので、文書ファイルを収納する大型キャビネットを用意する必要がなく、事務所の面積を当初の想定より抑えることができたという。「紙ベースで資料を保存しないので自然にペーパーレス化が進み、スペースの有効活用につながっています。スペースを取らないだけでなく、必要な資料を探す時も日時やキーワードなどで検索をかければ、ファイルをめくって探すより時間をかけずに見つけることができるので、本当に便利です。保存する資料がいくら増えても場所を取らないので、業務のデジタル化が真価を発揮するのはこれからと思っています」と古川所長は明るい表情で話した。
クラウドストレージを活用して、事務所の基幹業務とクライアントとの情報共有を効率化

2022年には、インターネットに接続できる環境があれば、場所を選ばずにデータにアクセスできるクラウドストレージの活用を開始した。クライアントへの訪問などで外出している時や自宅で、その都度必要な資料の内容を確認することができるので非常に助かっているという。事務所の経理の仕事を委託している東京在住の肉親とも情報を共有しやすくなった。「容量が無制限に近く、保守管理やバックアップの機能も充実しているので重宝しています」と古川所長。
クラウドストレージの導入と併せてクラウド型の給与計算システムも導入した。導入した給与計算システムは、毎月の給与計算から給与明細書や源泉徴収票の配布といった一連の業務をデジタルで完結できる機能を備えている。勤務データの入力から給与明細データの送信までの作業を毎月10分程度で済ませることができるという。クラウド型の同じシステムを採用しているクライアントからは、ライセンスを与えてもらうことで、給与関係のデータに直接アクセスすることができるので、互いに情報をやりとりする時間を節減することにつながっている。今後、業務のデジタル化を進めるクライアントが増えれば増えるほど事務所の業務効率化もより一層進むことが期待できる。
デジタル技術の活用で生まれた成果をクライアントに還元する

生成AIの進化は、事務仕事など現在、人間が担っている様々な業務に大きな影響を与えることが予測されている。これまで手間がかかっていた書類業務を効率化するためにデジタル技術に関心を示す中小企業も増えている。この状況下、古川所長はこれまで以上にデジタル技術の活用や最新の動向に目を向けていかなければならないと実感している。デジタル技術を活用して定型業務の効率化を進めることでスタッフの負担を軽減し、新たに生み出した時間で、クライアントからの相談対応能力をより一層強化していきたいという。
「デジタル技術を活用して、様々な事例を基に個々のクライアントが置かれている状況を分析した上で、これまで以上に的確なアドバイスを提供できるように取り組んでいきたい」と古川所長。デジタルファーストの姿勢をこれまで以上に大事にしていきたいという。生成AIなど自ら取り組むデジタル技術の活用は、クライアントへの新たな価値の提供につながるはずだ。
企業概要
事務所名 | 古川事務所 |
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所在地 | 香川県高松市上之町3丁目10番22号 |
電話 | 087-814-7753 |
設立 | 2021年4月 |
従業員数 | 3人 |
事業内容 | 特定社会保険労務士、行政書士の業務 |