介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)

目次

  1. 介護スタッフが24時間常駐して入居者の日常生活を支援 協力病院による訪問診療も提供
  2. 認知機能や身体機能の維持に効果が期待できるレクリエーションやイベントの企画に注力している
  3. 入居者と職員が力を合わせて施設内を飾る大型の壁飾りを制作 自然と会話が生まれ、親睦が深まる
  4. 2022年9月から介護記録支援システムを組み込んだタブレット端末を導入 職員が働きやすい職場環境を整える
  5. デジタル機器に苦手意識を持っている職員の使いやすさを考えて、音声入力の性能を最重要視してシステムを選定 業務効率化と情報共有に大きな効果
  6. デジタルへの移行にあたっては半年程度、従来の紙ベースでの記録方式を併用した デジタル化の進展で請求書の作成時間は以前の半分に
  7. 厚生労働省の科学的介護情報システム(LIFE)の活用を検討 フィードバックを活用してケアの質の向上につなげる
中小企業応援サイト 編集部
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香川県高松市郊外の自然豊かな田園地帯に立地する24時間介護付有料老人ホーム、 幸寿荘は、2005年の開設以来、高齢者が穏やかな環境の中で介護ケアを受けながら生活できる施設として地域の高齢者福祉を支えてきた。ベテラン介護職員の使いやすさを考えて、音声入力機能を備えた介護記録支援システムを導入するなど、デジタル技術で働きやすい職場環境を整えている。介護ケアの更なる向上を目指して、厚生労働省が運用する科学的介護情報システム(LIFE)の活用も検討している。(TOP写真:介護記録支援システムの音声入力機能を使って特記事項の文章を作成する様子)

介護スタッフが24時間常駐して入居者の日常生活を支援 協力病院による訪問診療も提供

介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)
幸寿荘の1階にある談話室。食堂としても使用されている

「入居者の皆さんが、可能な限り自立した日常生活を営むことができるよう真心を込めて日々の支援に取り組んでいます。家庭で生活しているようなアットホームな雰囲気を大事に、入居者の皆さんが楽しい毎日を過ごし、ご家族にも安心して任せていただける施設であり続けたいと思っています」。窓から明るい日差しが差し込む幸寿荘1階の談話室。取材に応じた松之内三津子施設長は穏やかな表情で話した。

介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)
幸寿荘の松之内三津子施設長と山本裕宣副施設長

幸寿荘は、地元の病院とつながりを持つ有限会社津和商事が運営している。1979年に調剤薬局を経営する企業としてスタートし、2005年に幸寿荘を設立して介護付有料老人ホームの運営に事業を転換した。

コンクリート造3階建ての幸寿荘は、個室で45室を備える。介護スタッフが24時間常駐し、入居者に掃除や洗濯などの身の周りの世話、食事、入浴、排泄などの介助サービスを提供している。2階と3階にナースステーションを設け、日中は看護師も常駐。近くの協力病院による訪問診療、機能訓練指導員による歩行訓練やリハビリテーションも提供している。車いすで移動しやすいように廊下を設計しており、万が一の転倒に備えて館内のすべての床面に衝撃を吸収するフロアマットを設置。大浴場と共にリクライニング機能を備えた特別浴槽も導入している。

介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)
床面に衝撃を吸収するフロアマットを設置している幸寿荘の廊下

認知機能や身体機能の維持に効果が期待できるレクリエーションやイベントの企画に注力している

介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)
玄関ホールに飾られている七福神が乗る宝船をモチーフにした作品

幸寿荘は、入居者が毎日の生活にメリハリをつけ、認知機能や身体機能を維持する上で効果が期待できるレクリエーションやイベントの企画に力を入れている。入居者の介護度の違いに配慮しながら体操、工作、外出といったレクリエーションや、たこ焼きづくり、素麺流しといったイベントを定期的に開催している。今後、コロナ渦のために中断したままになっている地域コミュニティや幼稚園との交流イベントを再開するなど活動を更に充実させていきたいという。

入居者と職員が力を合わせて施設内を飾る大型の壁飾りを制作 自然と会話が生まれ、親睦が深まる

介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)
談話室に飾られている干支をテーマにした作品

工作レクリエーションの中で取り組んでいるのが、折り紙や新聞紙を使った大型の壁面飾りの制作だ。入居者と職員が力を合わせて取り組む。玄関ホールには、「幸寿」の帆を掲げた宝船に乗る七福神をデザインした作品が壁面を彩り、明るい雰囲気を醸し出している。食堂としても活用されている談話室には干支をテーマにした作品を飾っている。「みんなでワイワイ楽しみながら一つの作品づくりに取り組むことで、自然と会話が生まれ、親睦が深まるなど様々な効果が生まれています。入居者の皆さんに楽しく健康的な毎日を過ごしていただけるように、職員も様々なレクリエーションのアイデアを考えてくれるので本当に助かっています」と松之内施設長は話した。

2022年9月から介護記録支援システムを組み込んだタブレット端末を導入 職員が働きやすい職場環境を整える

幸寿荘は、真心を込めたサービスの提供と共に、デジタル技術の活用を重視している。入居者の体温、脈拍、血圧といったバイタルデータなどを記録する毎日の業務を効率化するため、介護記録支援システムを組み込んだタブレット端末を2022年9月から導入している。タブレット端末3台と併せて、計測したデータをシステムに送信できる機能を備えた非接触タイプの体温計や血圧計も導入。体温や血圧を測るだけで、数値がそのままシステムに反映されるので、紙に手書きで記録を行っていた時と比べて、業務に要する時間を大幅に削減できるようになった。

「デジタル技術は、職員が働きやすい職場環境を整える上で大きな効果を発揮してくれています。職員と入居者の皆さんが喜んでくれていることが、何よりうれしいですね。記録にかかる時間が以前より短くなったことで、レクリエーションの企画やコミュニケーションにより多くの時間を使うことができるようになるという好循環が生まれています」と松之内施設長は目を細めた。

デジタル機器に苦手意識を持っている職員の使いやすさを考えて、音声入力の性能を最重要視してシステムを選定 業務効率化と情報共有に大きな効果

幸寿荘では、介護の現場で経験を積んだ50代以上のベテラン職員が活躍している。システムを選定する際は、デジタル機器に苦手意識を持っている職員の使いやすさを考えて、音声入力の性能を最重要視したという。導入したシステムは、介護業界に特化した音声認識機能を備え、専門用語を高い確率で正確に変換。キーボード入力であれば1分程度かかる内容を10秒程度で記録することができる。システムを音声入力モードにしてタブレット端末に向かって話すだけで、その内容が文字化されるので、入居者の心身の状態、生活の状況、要望などを文章で記録する特記事項の入力に役立っているという。

「音声入力は、最終的に誤字脱字がないか確認する必要はありますが、フリック入力やキーボード入力に慣れていない人でも簡単にシステムを扱えるので非常に助かっています。ICT機器の便利さをベテランに実感してもらう上で大きな役割を果たしてくれています」と介護福祉士の資格を持つ山本裕宣副施設長は話した。

介護記録支援システムを活用することで、情報も共有しやすくなった。紙ベースで仕事をしていた時、入居者の記録は、ファイルに綴じて保管していた。そのため、職員が必要な入居者の介護記録を閲覧する時はファイルのある場所まで移動しなければならなかった。「現在はタブレット端末を使うことでシステムに保存している過去の記録をその場で確認できるようになったので、以前のようにわざわざファイルを探す必要がなくなりました。その分、余裕を持って業務に取り組むことができるようになりました」と山本副施設長。

デジタルへの移行にあたっては半年程度、従来の紙ベースでの記録方式を併用した デジタル化の進展で請求書の作成時間は以前の半分に

介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)
システムを活用して介護保険請求事務に取り組む様子

幸寿荘は、介護記録を紙ベースからデジタルに移行するにあたり、職員の不安を和らげるため一斉に切り替えるのではなく、半年程度、従来の紙ベースでの記録方式も併用するようにした。「業務をデジタル化することで自らの負担が軽減することを実感してもらった上で、納得してシステムを使ってもらうようにしました」と山本副施設長は振り返った。

2024年9月には国民健康保険団体連合会に送る請求書の作成業務を効率化するため、介護保険請求事務の支援システムを一新し、介護記録支援システムと連動できるようにした。職員がタブレット端末で記録した現場のデータを集約しやすくなったおかげで、月あたりの請求書作成業務のための時間が以前の半分程度になったという。

厚生労働省の科学的介護情報システム(LIFE)の活用を検討 フィードバックを活用してケアの質の向上につなげる

幸寿荘は介護記録のデジタル化推進と併せて、厚生労働省が運用する科学的介護情報システム(LIFE)の活用を検討。現在、定期的なデータの提出に対応していくための組織体制を構築している。LIFEは、全国の施設から介護サービス利用者の状態やケアの計画・内容についてのデータを収集、蓄積しており、厚生労働省は、より質の高いケアにつなげてもらえるように分析したデータのフィードバックを行っている。施設はLIFEにデータを提出することで、フィードバックを受けることが可能になり、これまでの取り組みの振り返り、課題の把握、課題の改善に役立てることができる。

「デジタル技術の進化に伴って、職員の経験だけに頼るのではなく、科学的根拠に基づいて介護サービスを提供する流れが今後、加速していくことでしょう。LIFEを活用して客観的な情報に基づいて施設での取り組みを常に見直すことで、入居者の皆さんへのケアの質をより一層充実させていきたい」と松之内施設長は話した。

介護記録の効率化に支援システムの音声入力機能を積極活用 デジタル技術を活用して介護ケアの更なる質向上を図る 幸寿荘(香川県)
香川県高松市の閑静な地域に立地する幸寿荘の外観

ICTやデジタル機器の活用と柔軟で働きやすい勤務体制を導入することで、幸寿荘の人材の定着率は年々向上しているという。幸寿荘は、これからも入居者を見守る上で効果が高いICTやデジタル機器の導入を進めていく方針。施設で活用しているシステムと個々のデジタル機器の連携を進め、これまで以上に日々蓄積したデータを活用しやすい体制を整えることで、これからも地域の高齢者福祉を温かく支え続ける。

企業概要

施設名介護付有料老人ホーム 幸寿荘
所在地香川県高松市三谷町1626番地
HPhttps://kojyusou.jp
電話087-888-7808
設立2005年11月
従業員数35人
事業内容24時間介護付有料老人ホームの運営