
目次
- ウニの通年入荷を機に先代が1990年に独立 小川雅弘社長は幼稚園児のころから「ウニ屋になるつもり」 現場も経営も必死で勉強し2012年に経営を引き継ぐ
- 豊富な昆布を餌とする北海道産ウニの美味しさは高い評価 赤潮被害など漁獲量は減少傾向続くが、2024年から好転の兆しも
- ウニ入荷の産地を拡大しつつ内臓除去を徹底して品質向上を追求 試行錯誤した酸化防止策は窒素水洗浄に行き着く
- 主力製品はきれいに並んだ「折りうに」 丁寧な加工と無味無臭のミョウバンを適宜使用し賞味期限以上の品質保持を実現
- 2工場で国際的な衛生管理手法HACCPを取得 消毒やエアシャワー等で危害要因を徹底的に排除 国内・国外の世界需要に対応するウニを生産 海外輸出の拡大狙う
- 2工場の在庫管理や生産管理情報の共有のため リアルタイムのデータ入力が必要だが、事務所との往復はHACCP品質管理上避けたかった
- 防水機能装備の電子ペーパーシステムを導入 煩雑だった入出荷管理の重複を解消 大きさ42インチで持ち運びも可能に
- 工場内の塩水浮遊に対応してケーブル接続部分に防水対応 工場で電子ペーパーに記入したデータを事務所に転送して保管
- 事務所との往復作業も不要になり衛生管理対応の手間と時間を削減 ICTの使い勝手向上目指し、ウニ関連事業のすそ野拡大を推進
小川水産株式会社は北海道の東、霧多布湿原からの栄養が豊富な海に面した厚岸郡浜中町に本社を構える。加工生産するのは浜中沖をはじめ道内各地や日本近海から水揚げされた良質なウニだ。海外市場も視野に入れ、本社と釧路の両工場で国際的な衛生管理手法HACCPを取得。工程や在庫管理のための入力作業を、塩水を多く使う加工現場で行うため、防水仕様の電子ペーパー型の入力閲覧システムを導入。現場作業を休むことなく、正確でスピーディーな業務システムへの入力を可能にした。その結果、安全で高品質なウニの加工事業をさらに進化させつつある。(TOP写真:主力商品の折うに「浜中 小川のうに」)
ウニの通年入荷を機に先代が1990年に独立 小川雅弘社長は幼稚園児のころから「ウニ屋になるつもり」 現場も経営も必死で勉強し2012年に経営を引き継ぐ

小川雅弘代表取締役の父、勝弘氏が小川水産を設立したのは1990年。浜中町で漁師仲間とウニの加工事業を共同運営していたが、季節により道内各地に仕入先を広げて通年の事業化が可能になったことを機に独立した。
浜中町のほか紋別や積丹、利尻島など道内各地のバフンウニとムラサキウニを仕入れていたが、需要増に従いアメリカやカナダ、ロシア、その他にも仕入先を広げ、近海産のウニも加工するようになった。丁寧な洗浄や品質管理の徹底によって「浜中 小川のうに」のブランド力は次第に高まり、全国の卸売業者から「最高グレードのウニ」と高い評価を得るようになった。
小川社長は「幼稚園児の時から父親の仕事を見てウニ屋になるつもりでいた」という。一時は「宮大工やハリウッドスターを夢見たこともあった」と笑うが、社会人になってすぐ小川水産に入社。工場で加工作業に汗を流しながら仕事を覚えた。
「誰より上手にできて仕事がわかっていなければやっていけない」という覚悟で現場も経営も必死で勉強して、2012年に社長に就任した。今は会長の勝弘氏と両輪で小川水産を経営している。
豊富な昆布を餌とする北海道産ウニの美味しさは高い評価 赤潮被害など漁獲量は減少傾向続くが、2024年から好転の兆しも

北海道は日本最大のウニの漁獲量を誇る。小さいたわしのような形をしていて味が濃厚なバフンウニや少し大きめのエゾバフンウニ、黒くて長いとげがあり味は淡白だが崩れにくく大きめの身が詰まったムラサキウニやキタムラサキウニがある。産地によって旬も禁漁期間も異なるため道内ではほぼ1年中ウニ漁が行われているが、道北と道東は漁獲量が多く主要産地として知られる。
北海道産ウニは豊富な昆布を餌としていることから卸売市場でも高い評価を得ているが、年々収穫量は減少傾向にある。地球温暖化の影響で道東の海水温が上昇していることから、昆布の収穫地域が年々縮小し、昆布を餌としているウニの生育にも大きな影響を及ぼしている。産地や種類にもよるが5年前に比べると2024年の漁獲量は半減、卸値は3倍前後と深刻な不漁が続いている。
浜中周辺も大きな被害を受け「2021年の太平洋側の主要産地のウニの出荷はほぼゼロだった」(小川社長)。赤潮、コロナ禍、ロシアとの貿易縮小と立て続けの逆風に見舞われたが、小川社長は「赤潮の影響は尾を引いているが、2024年から資源の回復が少しみられる」と今後に期待を寄せている。
ウニ入荷の産地を拡大しつつ内臓除去を徹底して品質向上を追求 試行錯誤した酸化防止策は窒素水洗浄に行き着く

厳しい事業環境の中で「浜中小川のうに」が高い評価を維持しているのは、品質向上のあくなき追求の姿勢にある。浜中町が全国有数の昆布産地でウニの餌が豊富だったことから始めた事業だが、産地を道内各地、さらに外国産に広げてもその評価が変わらないのは、「ウニ本来の美味しさを伝えたい」という創業以来のこだわりがあるからだ。
入荷したウニをさばいて可食部分を取り出した際に内臓部分を徹底的に除去するが、さらに酸化を防ぎ鮮度を維持するために試行錯誤を繰り返した。ナノバブル水を使ったりオゾン殺菌を試すなど、最終的に水分内の酸素を窒素に置き換える窒素水の導入に踏み切った。
「窒素水を導入することで加工ラインでの酸化や劣化を抑えられるし、安全で衛生的なうえ雑菌の繁殖を予防できることもうちの強みだ」(小川社長)とその効果に胸を張る。
主力製品はきれいに並んだ「折りうに」 丁寧な加工と無味無臭のミョウバンを適宜使用し賞味期限以上の品質保持を実現

同社の加工ウニ製品は、地元漁協と協力して生産する「浜中 養殖うに」があり、「塩水生うに」は人気商品だ。主力製品は木箱にきれいに並べられた「折りうに」で、身崩れを防いで鮮度を保ち微生物の発生を抑制するためにミョウバンを使用している。
小川社長は「ミョウバンのえぐみがいやだからウニが嫌いという人は少なくない。ミョウバン自体は無味無臭だけど水分を放出させるので、下処理が悪いと身が劣化した時に出るえぐみが強調される」とミョウバン悪玉説を否定する。
丁寧な作業には内蔵部分の除去だけではない。折ウニの「盛り方」にも技術力が求められる。高級品のウニは、味は当然だが「見た目」も味と同じく重要であり、ブランドへの影響が大きい。小川水産では技術力を磨くための指導教育も徹底されている。職人ともいえるスタッフたちは、原料の受入れから身割り・内蔵除去作業から、盛り・工場長の最終検品とその高いチーム力から完成された「芸術品」が市場の高い評価に繋がっている。
2工場で国際的な衛生管理手法HACCPを取得 消毒やエアシャワー等で危害要因を徹底的に排除 国内・国外の世界需要に対応するウニを生産 海外輸出の拡大狙う

同社の浜中工場と釧路工場は食品の安全性を確保するため国際標準的な衛生管理手法「HACCP」を取得した。HACCPは食品加工工程の品質管理だけではなく、原材料の入荷から製品の出荷までの全工程で、危害要因を特定・分析し、その要因を除去又は安全なレベルまで低減させる管理方法を定めており、輸出にも不可欠な条件となる。
加工室に入室する際には、消毒液やエアシャワーなどで防菌と防塵を徹底し、粘着ローラーで毛髪や小さなゴミも除去。マスク装着具合も鏡でチェックし、一連の手順に個人差が出ないようセンサー付きタイマーで管理している。
同社工場に米国からレストランの調理責任者が見学に訪れた際にも高く評価された。現在は卸業者を通じて米国東海岸のレストランに輸出されているが、「今後は中部、西海岸にも広げたい」(小川社長)考えだ。道内からの入荷の不足分は日本近海からの輸入原料でカバーできており、現在はむき身で輸出の需要増にも対応できるという。
2工場の在庫管理や生産管理情報の共有のため リアルタイムのデータ入力が必要だが、事務所との往復はHACCP品質管理上避けたかった
両工場の責任者を務める石原崇史工場長は「入荷の連絡が両工場で重複することもあり、2ヶ所の入出荷管理が煩雑だった。工場間でリアルタイムに情報を共有したかったが、タブレット端末は水の多い工場内で使えなかった」と説明する。
ウニの加工では洗浄や選別などの工程で大量の塩水を使用するため、工場内でパソコンやタブレット端末などを使うことはできず、電話や紙でのやりとりが中心だった。二つの工場は同時進行でウニ加工を行うため、仕入先もほぼ同じ。両方の工場から入荷指示が送られるが、互いに全体の情報共有は難しく仕入指示の重複などの問題が生じていた。
防水機能装備の電子ペーパーシステムを導入 煩雑だった入出荷管理の重複を解消 大きさ42インチで持ち運びも可能に

事業拡大に向けて、約90キロメートル離れている2工場の在庫管理や生産管理情報をリアルタイムに共有することが必須の状況だった。2024年夏に試験導入した電子ペーパーシステムは防水・防塵機能を備えており、塩水を使う工場内でも安心して操作できるのが大きな特徴だ。16階調のモノクロで表示するディスプレイを搭載し、専用ペンを使い画面分割や拡大表示など用途に応じて多彩な利用ができる。手書きした文字のテキスト変換も可能だ。画面サイズは42インチで本体重量は5.9キログラムで持ち運びもできる。
工場内の塩水浮遊に対応してケーブル接続部分に防水対応 工場で電子ペーパーに記入したデータを事務所に転送して保管

塩水が大量に使われる工場の空気には塩水のエアロゾル(微小な浮遊塩水)が含まれているため、ディスプレイの裏側に装備しているACアダプターやコネクターの防水対策も追加で行い、2024年11月に本格導入した。
電子ペーパーには、原料(ウニ)の種類と量、出荷後に生産量を書き込む。二つの工場で互いに電子ペーパーに書き込んだ内容の詳細を共有できるため、「指示の重複はなくなった」(石原工場長)。従来、工場でメモした入出荷のメモを事務所で再度書き写していたが、現在は電子ペーパーに書き込んだ内容をそのままA4用紙に印字しているが、PDFファイルから業務用のデータに変換して保存する機能も今後活用する予定だ。
事務所との往復作業も不要になり衛生管理対応の手間と時間を削減 ICTの使い勝手向上目指し、ウニ関連事業のすそ野拡大を推進

「衛生管理を徹底した工場の出入りは消毒、手洗い、エアシャワーなど手間がかかるが、電子ペーパー導入によって事務所との往復作業が不要になったので負担軽減になり、時間短縮効果が出ている」(石原工場長)という。
小川水産は2016年にウニを中心とした外食や物販の子会社を札幌市に設立しているが、さらに東京でもこのほど協業で外食事業に乗り出した。ICT化による生産現場の効率化は、「浜中 小川のうに」の事業のすそ野拡大の推進力となりそうだ。
企業概要
会社名 | 小川水産株式会社 |
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本社 | 北海道厚岸郡浜中町仲の浜40番3 |
HP | https://hamanaka-ogawa.com/ |
電話 | 0153-62-3193 |
設立 | 1990年11月 |
従業員数 | 150人 |
事業内容 | 水産加工業、ウニ加工および販売 |