
目次
- 「女性、チャレンジド、外国人材、高齢者」それぞれの特性を生かした積極登用で「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれる
- 祖母への〝想い〟から介護事業に参入 土地の手当てから始めて3施設4機能に拡大
- LED実装・組立工場の事業を承継、グループ化 主力の電子機器関連事業の幹を太く
- オリジナルスイーツブランド「EIKOHS」 インターンシップに来てくれた外国人高校生の記憶に!との思いからスタートしたスイーツづくり、手ごたえを感じ事業化へ挑戦
- 地球環境問題で最重要と言える「省エネ経営」、これからの時代に大切な「ダイバーシティ経営」と「外国人材活用」の三つを主なテーマに、全国各地で50回以上講演
- 企業ホームページ作成・運用ソフトを導入、ホームページを刷新。商談や人材採用に有効なツールとして活用
- 栄光製作所は従業員の心のベクトルがそろった一体感のあるチーム
株式会社栄光製作所(群馬県富岡市)は「電子機器製造工場」という表現だけでは表し尽くせない実に多彩な顔を持つ。取引先1社に過重に依存して失敗した経験から、リスク分散を考えて取引先を増やしただけではなく、業種も多角化。従業員の多様性や地域貢献に取り組むなどCSR(企業の社会的責任)活動にも積極的だ。「現代(いま)を共に生き抜くパートナーに」を合言葉に、これらの活動の様子がホームページを通じて広く情報発信されている。 (TOP写真:栄光製作所のホームページ)
省エネ大賞を受賞した栄光製作所の変遷は下記ページへ
受注8割減の苦境に「人材を切らずに電気を切る」と宣言 地球環境問題に重要な電力削減で省エネ大賞受賞、そして生産性大幅向上 栄光製作所-1(群馬県)
「女性、チャレンジド、外国人材、高齢者」それぞれの特性を生かした積極登用で「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれる

栄光製作所は省エネ大賞を受賞した2015年度に経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」にも選ばれている。職員の7割が女性であるのに加え、チャレンジドや外国人材、高齢者を長年にわたり受け入れるとともに、これら多様な人材が活躍できる職場環境を創出している点が評価された。
「『ダイバーシティ』とか『女性活躍』という言葉が一般的になる前から、当社の人材のほとんどは高齢者、チャレンジド、それに女性でした」と勅使河原覚(てしがわら さとる)代表取締役は語る。もともと男性新卒従業員の採用が難しい中小製造業であるのに加え、近くに同社より規模の大きい製造会社が複数あるというロケーションから、男性の従業員の応募はほぼ皆無で、創業当時からメンバーは製造業未経験の女性が中心だった。
数少ないベテランの男性従業員に仕事を任せていた当時は、その従業員が自分の経験や勘に基づいて仕事を進めてしまう場面も多く、時には不良品を抱え込んだり、納期の督促を受けたりしてしまうこともあった。ある時、女性従業員にその仕事を任せてみたところ、作業の記録をデータに残す、わからないことを率直に聞くといった仕事ぶりが奏功し、納期対応の改善や不良品の減少につながった。「女性は腹落ちすれば、思いを理解し最後までやり切ってくれます。」(勅使河原代表)。作業内容をデータで管理する方式は「不良再発防止ファイル」として結実し、同社の品質改善に大きく寄与している。
知的障がいを持つ従業員が入社した時は、製品を梱包する作業を任せたものの、緩衝材を成形する手順をなかなか覚えられずにいた。そこでガスを抜くタイミングから完成までの時間をシグナルランプで知らせるシステム(一社一技術/2003年取得)を独自開発。同従業員が難なく業務を進められるようになったと同時に、同社全体の作業の効率の向上と品質維持が図れた。
一方、外国人材の採用を始めたのは2005年。ベトナム人技能実習生3人の受け入れからスタートした。2012年からはCAD(コンピューターによる設計)を習得した大卒技術者も定期的に採用している。新規に採用する際は、勅使河原代表が必ず実習生のベトナムにある自宅まで行き、子供が働くことになる「栄光製作所」とはどんな会社か、社長はどんな人間かを知ってもらうため、家族とも顔合わせをする。採用後は標準的な日本語に加え、方言などの日常的な言葉・社内の文化を手取り足取り教える。ときに実習生たちは「ルールが厳しい」と訴えるが、「ルールがないと一生懸命に働いている人が評価されない。ルールは自分たちを守るためにあるんだよ。」と意味や思いを伝え、理解を得ながら、絆を深めてきた。今や修了生は30人以上にのぼり、勅使河原代表がベトナムを訪れる際には現地で〝同窓会〟が催されるようになった。

祖母への〝想い〟から介護事業に参入 土地の手当てから始めて3施設4機能に拡大



事業の多角化としては、まず介護事業への参入が挙げられる。2003年8月に群馬県藤岡市にグループホーム「虹の家」を開設したのを皮切りに、2008年1月に小規模多機能型ホーム「太陽の家」、2015年6月に住宅型有料老人ホーム・デイサービス「すがお」と順次、同じ敷地内で業容を拡大してきた。
きっかけは、認知症のような症状のある祖母の世話を巡って、勅使河原代表の父方の兄弟の関係が変わってしまったことです。子どもの頃から慕ってきた叔父や叔母と疎遠になったことが悲しくて、工場の駐車場の一角にプレハブを建て、父親や兄弟が順番で祖母の面倒を見ることを提案。その数日後、嘘のような話だが、普段は読まない新聞をたまたま手に取って眺めていたところ藤岡市の介護事業者公募の記事を見つけ、挑戦を決意。応募後、面接やプレゼンを経て、10数社ほどの企業の中から選定されるに至ったが、補助金が出るわけでも土地や建物を斡旋してくれるわけでもなく、利用者を紹介してくれるわけでもなかった。
すべては〝祖母に対する想い〟、あるいは〝祖母と同じような境遇にある利用者に対する思い〟を胸に抱きつつ、介護を研究しながら、本格的なスタッフ・土地探しを始めた。当時70歳ぐらいの地主さんとの交渉。「30年契約ですから、いずれ息子さんに引き継ぐのに、『自分が納得しなければ土地は貸さない』と強い意志を持った方でしたが、私たちの熱意を伝えたところ『お前だったら貸す』と言ってもらえました。だからその地主さんの意向も汲んで取り組まないといけないと考えています」と勅使河原代表。個々のスタッフが持つ介護観を優先するのではなく、チーム一丸で利用者一人ひとりに最適な介護を全力で行うのが同社の介護施設の運営方針なのだという。
LED実装・組立工場の事業を承継、グループ化 主力の電子機器関連事業の幹を太く

2024年3月には赤外LED(発光ダイオード)や紫外LEDの基板実装やFPC(フレキシブルプリント基板)への部品実装などの事業を展開しているタイヨーミック株式会社(前橋市)を事業承継し、EIKOHグループに加えた。同社では、韓国や中国、台湾の企業が市場を席巻している汎用のLEDとは異なる、高効率の反射型LEDの製造を担っている。主な用途としては、公共事業等における監視カメラ類や測定・検出装置類など。ニッチな用途で使われる特殊なLEDの生産を得意としている企業だ。
多角化というよりも主力の電子機器関連事業の守備範囲を広げ、幹を太くした形だ。事業拡大へと勅使河原代表の背中を押したのは、長男の勅使河原将也氏の入社だ。将也氏は大学卒業後、同社とは異業種の会社に5年間勤めた後、2023年に入社した。現在、経営企画室室長を務めており、自他ともに最有力後継者と認める存在だ。
オリジナルスイーツブランド「EIKOHS」 インターンシップに来てくれた外国人高校生の記憶に!との思いからスタートしたスイーツづくり、手ごたえを感じ事業化へ挑戦

2024年春にはスイーツ事業も立上げた。ケーキやパフェなどの生菓子だ。2023年度の「群馬県多文化共創カンパニー認証事業者」に選定され外国にルーツを持つ高校生5人が職場体験に訪れることになったのがきっかけ。「この会社をぜひとも彼らの記憶に留めたい」(勅使河原代表)という思いから、海外からの評価が高い“日本のスイーツ”を提供することを思いついた。ところが近隣を探しても自分が思い描いたようなスイーツを売っている店がなかったため、自分たちで一から手作りすることを考えた。そんなとき、「共にスイーツづくりにチャレンジしたい」という、ある熱意をもったメンバーに出会い、同社での本格的なスイーツづくりが始まった。
大成功に終わった高校生へのスイーツづくりから1年間。様々な準備とテスト期間を経て、「EIKOHS(エイコーズ)」というブランドでそのスイーツを製造、販売する事業に乗り出した。当面、季節限定商品を販売。今後、工場の一部を改装してキッチンを作り、生産農家から直接仕入れた旬の果物などを使ったスイーツやジェラートを一般消費者に直接販売していく方針だ。順次、ネット注文にも対応が出来るよう体制を整えていく。こちらの新事業からも目が離せない。
地球環境問題で最重要と言える「省エネ経営」、これからの時代に大切な「ダイバーシティ経営」と「外国人材活用」の三つを主なテーマに、全国各地で50回以上講演

勅使河原代表は、「省エネ経営」「ダイバーシティ経営」「外国人材活用」の三つを主なテーマに、講演の要請を積極的に引き受けている。これまでに北海道から九州まで50回以上の講演をこなしてきた。2024年には群馬県や富岡商工会議所などの依頼で4回講演している。このうち4月には母校の群馬県立富岡高等学校で全校生徒を前に「人材を切らずに電気を切る!~社長が決意!全従業員の前で省エネ宣言~」というテーマで講演した。その時の聴衆である高校生の聴く姿勢には、特に感動したそう。「自分の話を聞いてくれる真剣さに圧倒されました。講演後に送ってくれた感想文もすごくて、一生の宝物になりました」(勅使河原代表)
地球環境問題を考えるときに、二酸化炭素排出削減の最も重要な事は、そもそも使用するエネルギーを減らす事=省エネが世界でも最も重要な課題。日本の脱炭素化やカーボンニュートラルの達成は2030年、そして2050年が目標となっている。その時の主役は今の高校生たちだ。高校生にこそ省エネ活動を学んでほしい。企業のエネルギーを管理することは企業そのものを管理することだ。省エネ活動を学ぶことは生徒たちの将来に必ず活きるはず。勅使河原代表はそう考えた。
母校に恩返ししたいという気持ちも重なった。名門と言われるハンドボール部で3年間鍛えられ、インターハイでは全国3位になり、日本代表校の一員として海外遠征にも行った。栄光製作所の経営が行き詰まり、「倒産」の二文字が頭をよぎった時は、ハンドボール部時代の厳しい練習に耐え抜いたことを思い出して歯を食いしばり、無我夢中で仕事をした。
勅使河原代表は母校の校長に「ボランティアで高校生に省エネ活動を教えたい」と提案。校長が快諾して参加者を募ったところ生徒が約20人も集まった。2024年10月から授業やクラブ活動の合間を縫って、同社の工場見学を含む、省エネ講義を行いながら、生徒たちと“学校の電気代を削減する”という実践的な課題に取り組んでいる。最近では、プロジェクトに賛同してくれた省エネに詳しい地元大学教授との連携も進み、より多角的な学びを提供している。「いつの日か、学生たちと2回目の省エネ大賞を受賞する日が来るかもしれませんね」勅使河原代表は語った。
企業ホームページ作成・運用ソフトを導入、ホームページを刷新。商談や人材採用に有効なツールとして活用

これら栄光製作所の事業内容やCSR活動の一端は同社のホームページで知ることができる。現在のホームページは2015年に企業ホームページ作成・運用ソフトを導入して制作した。「自分で更新できるのが魅力だった」と勅使河原代表は動機を語る。経営難に陥っていた頃、ホームページを通じて新規の注文が舞い込んだこともあったので、重要性は熟知している。そのホームページの機能を一段と拡充しようと考えたのだ。
勅使河原代表はこのホームページ作成・運用ソフトを「自分で更新できるし、ちょっと難しい作業の時は(ソフトメーカーの)担当者がフットワーク良く当社まで来てくれて、バッバッと作業してくれるので、導入して本当に良かったです」と高評価。機能面についても、「ホームページへのアクセス数をはじめユーザーの属性や行動などを解析できるので、大変便利です。ホームページのおかげで大企業との敷居が低くなり、仕事を進めやすくなりました」と語った。
ホームページの管理を任されている将也室長は、「若い世代の人が見て、この会社で活躍してみたいと思うような、若い世代とつながるツールにしていきたい」と今後の抱負を語る。「地道な改善活動から、年々ホームページの検索順位や新規アクセス数も向上している」という。2024年にはメタバース(仮想空間)を使って展示会場風に同社を紹介するページを作るなど、一層磨きをかけている。
栄光製作所は従業員の心のベクトルがそろった一体感のあるチーム

他の会社を経験してきた将也室長に栄光製作所に入社しての感想を問うと、「従業員の心の向きや、ものさしが揃っていることに驚きました。ここはこうしなきゃいけないという時に、全員が足並みをそろえてパッと切り替えられる。もの凄く一体感のあるチームなんです。世の中をみても、なかなかそんな会社はないと思います」と語った。
勅使河原代表が言葉を継いだ。「一人ひとりの良いところを見つけ、その従業員のもつ潜在能力をいかに引き出してあげられるかを日々考え取り組んでいます。また本来、個人だと超えられないだろう高い壁も、メンバー同士でお互いに足りないところをカバーし合うことで、乗り越えられるんだということ、つまりチーム一丸となることがいかに大切か、ということを日々の活動の中で体感してもらっています」と語った。今日もチーム一丸の活動が続く、栄光製作所の未来は明るい。
企業概要
会社名 | 株式会社栄光製作所 |
---|---|
本社 | 群馬県富岡市神農原1109-2 |
HP | https://kk-eikoh.com |
電話 | 0274-63-2483 |
設立 | 1984年1月 |
従業員数 | 48人 |
事業内容 | 基板実装、基板アッセンブリー、基板組み立て/基板検査、製品組み立て/製品検査/LED製造/介護事業/スイーツ事業等 |