
目次
- 終戦後工場を再建、1953年には法人化して高度成長期に事業拡大 冷間鍛造機や転造機を自社開発し工場を増設しながら生産拡大
- 先代の急逝である日いきなり社長就任 その直後にリーマン・ショック、更にスマホの普及でデジカメ市場の急速な縮小による売上大幅減
- アメリカの大手スマートフォンメーカーから精密シャフトの発注 回復の大きなきっかけになった
- 高性能加工機械を導入し、独自の画像監視システム開発 不良品を徹底的に排除し高品質実現 無人稼動で生産効率も向上
- 年間2,000種、5億本のネジを生産 直径0.8ミリの微小ネジも 独自技術で設備固定費削減し、世界レベルの価格競争力へ
- サイバー攻撃急増に危機感 UTMとDDH導入 ネットの出入り口を厳重に管理して万全のセキュリティ対策講じる
- 在庫管理システムの「見える化」を改善し、材料と生産部門を連携するカスタマイズを検討
- 自動車関連が顧客の7割、業績は回復基調 2029年創業90周年に向け世界に通用する製造技術を磨き更なる競争力強化へ
電子機器や産業機械に欠かせないネジやシャフトなどの精密締結部品を専門に製造する株式会社ミズキは、不良品を発生させない高精度の加工技術と業界最高水準の価格競争力を磨きながら、世界を視野に事業展開を進めてきた。創業90年、さらに先の100年に向けて取り組んでいるのが在庫管理や生産管理の高度なデジタル化だ。そのためにインフラのセキュリティ対策も実施。経営の筋力アップを急いでいる。(TOP写真:工場ライン検査(横) 自動の画像監視システムに加え目視検査も実施して不良品ゼロを徹底)
終戦後工場を再建、1953年には法人化して高度成長期に事業拡大 冷間鍛造機や転造機を自社開発し工場を増設しながら生産拡大

水木太一代表取締役の祖父に当たる兼太郎氏は、勤めていた製鋲会社で習得した技術を生かして1939(昭和14)年に株式会社ミズキの前身にあたる水木製鋲所を東京都港区で創業し、ネジ部品の生産を開始した。
事業は拡大し1953年には個人事業から「株式会社水木製鋲所」に改めた。水木社長の父、六郎氏が1977年に経営を引き継ぎ1984年に現在の社名に変更。バブル経済に沸く好景気のなか山梨県都留市に新工場も開設。業容拡大に合わせて事業所も拡大してきた。大手自動車部品メーカーに勤めていた水木社長が入社したのは1998年だった。
先代の急逝である日いきなり社長就任 その直後にリーマン・ショック、更にスマホの普及でデジカメ市場の急速な縮小による売上大幅減

水木社長は「入社したのは30歳だったが、小学校高学年のころから『お前が継ぐんだぞ』と言われていて、いつかは継ぐつもりになっていた」と話すように、3代目として経営を担う覚悟でミズキに入った。「2008年に先代がある日突然急逝して、社長に就任することになりました。モノづくりに関しては自分が統括していましたが、これから経営全体を勉強しようとした矢先に、あまりに突然でした」(水木社長)
それまではデジタルカメラ市場が活況で超小型ネジの需要は旺盛だったが、水木社長の就任直後にリーマン・ショック、さらに2011年には東日本大震災、タイの大洪水と立て続けに起きて経済活動が大幅に低迷した。追い打ちをかけるように、同社の売上の6割を占めていたデジカメ市場がスマートフォンの普及で急激に縮小。相次ぐ経済活動の後退とデジカメ市場の急速な縮小という巨大な波が襲い掛かりさすがに沈没しそうになった。しかし、コスト削減や営業テコ入れ、ブランディング等様々な経営改善に取り組んだ成果として2015年に米国のスマートフォンメーカーから大型受注が舞い込んだ。
アメリカの大手スマートフォンメーカーから精密シャフトの発注 回復の大きなきっかけになった
「米シリコンバレーの大手スマートフォンメーカーからある時、メールが直接届いて、スマホやスマートウォッチ用の精密シャフト(ネジ)を発注したいという内容だった」。売上高は一挙に約18億円に倍増した。ただ毎年のように新しい設計による新モデルを投入するメーカーだけに、取引はそれほど長くは続かなかったが回復の大きなきっかけとなった。その時に決意したのが、これからは「徹底した品質へのこだわり」で行くということだった。
高性能加工機械を導入し、独自の画像監視システム開発 不良品を徹底的に排除し高品質実現 無人稼動で生産効率も向上

事業を継続できるのかという危機的状況の中でたどり着いた考えは、品質を徹底的に向上させるという決意だった。「ネジ業界は1本1本が安いから『不良品があったら申し訳ない』という程度の甘えた感覚で長年やっていた」と反省。苦しい財務状態にもかかわらず設備投資を断行。精密加工ができる高性能加工機械を導入してあえて「不良品ゼロ」を目標に掲げた。
不良品をなくす努力は当然これまでも取り組んできたが、現場が一丸となってゼロから見直した。機械は定期点検では足りず分解してまで精度のバラつきを排除。工程管理も見直し、顧客の図面を自社の共通書式の加工図面に置き換えて製造技術の均一な反映を追求した。それでもごくまれに排出される不良品は、ライン上のセンサーと抜き打ち検査による高精密検査で徹底排除している。
管理部製品管理グループリーダーの昇(のぼる)智幸主事が「ネジを作るラインに上と左右からセンサーを当てて不良品を弾いている」と説明するように、転造機や圧造機のライン上を流れるネジ1本1本をセンサーが監視してモニターに形状を映し出し、異常があればアラームで知らせる仕組みだ。
年間2,000種、5億本のネジを生産 直径0.8ミリの微小ネジも 独自技術で設備固定費削減し、世界レベルの価格競争力へ

デジタルカメラなど精密機器用ネジは小型化が進み、いまや最小のネジは直径0.8ミリメートル。極小ネジの不良も高速で選別するための仕様に基づいた画像選別機を開発。さらに微細な不良の兆しも見逃さないために、管理部環境品質保証グループの佐藤佳苗係長は「専用の検査マシンで常に不良品発生の可能性をつぶしている」と説明する。
その結果、年間2,000種以上、5億本ものネジを製造しながら「不良品ゼロ」を維持しており、顧客から高い評価を得ている。
不良品ゼロと同時に取り組んだのが世界レベルの価格競争力だ。新品の加工機械を導入するだけでは達成できない製造コスト削減は、加工機や検査機の内製(自社生産)が最新設備と同等以上の性能を発揮するなど、設立以来培ってきた自前開発力を生かして設備固定費を圧縮。さらに昼夜を問わないラインの無人稼働による生産効率の向上との両輪で成果をあげてきた。
サイバー攻撃急増に危機感 UTMとDDH導入 ネットの出入り口を厳重に管理して万全のセキュリティ対策講じる

現場の生産品質向上と効率化を支えるICT機器のセキュリティ対策にも本腰を入れている。2024年12月から2025年1月にかけて、国内の航空会社や金融機関など50社以上に大量のデータを送りつけてシステムを停止させる大規模なサイバー攻撃が発生。企業は厳重なセキュリティ対策が急務となっている。
「ICTに詳しい担当者が退社したため危機感を持った。システム会社と相談して総合的なセキュリティ対策を急ぐことにしたが、業務に支障をきたさないよう、アウトソーシングのような形態を選択した」と昇主事。セキュリティ対策に多くの時間を割かず通常業務に専念できるようにと割り切って、システム会社のコンサルティングをベースに同社の要求を取り入れたセキュリティ環境を構築した。
サーバー、パソコンへのウイルス対策ソフトウェアの導入に加えて、ネットワークの出入り口にあたるゲートウェイ部分にはUTM(統合型脅威管理)装置を導入し、会社のシステムに侵入してデータを暗号化し金銭を要求するランサムウェアなどもシャットアウト。ネットワークへの不正な侵入を防ぐ一方、内部からの情報流出や有害サイトへのアクセスも防止できる。
さらに、年々進化する悪意のマルウェアが万が一社内システムに侵入した場合に、マルウェアが感染したパソコンを使って行う外部への不正通信を遮断し情報漏えいや不正アクセス行為を防止するDDH(デジタルデータハッキング)システムも導入。堅牢なセキュリティ環境を実現した。
在庫管理システムの「見える化」を改善し、材料と生産部門を連携するカスタマイズを検討

管理部は現在、さらに価格競争力を研ぎ澄ますために、在庫管理システムの抜本見直しにも着手している。昇主事は「実は7、8年前に在庫管理の見える化を目指して市販ソフトウェアを導入したが、思ったように見える化できず、在庫過多や不足が出て業務効率が上がらなかった」と現状の問題点を説明する。
ネジの材料となる線材の在庫は製品に正確に紐づけされて管理できないと、昼夜稼動している何種類ものラインの生産効率が下がることになる。「一つの線材が多くのネジに使われているが、現場の細かなニーズをシステムで管理できていない。その結果、過剰在庫や特急案件の材料不足による納期遅延などの問題が発生しやすい状況」(昇主事)を変革するため、自社の業務に即したきめ細かい在庫管理システム構築がミッションだった。
市販ソフトウェアの機能だけではミズキの生産管理と直結した複雑な在庫管理に対応するのは不可能なため、カスタマイズ作業を前提にシステム開発を進める方針で、システム会社と本格的な検討を開始。「1~2年かけて本稼動させたい」(昇主事)考えだ。
自動車関連が顧客の7割、業績は回復基調 2029年創業90周年に向け世界に通用する製造技術を磨き更なる競争力強化へ

ネジに代表される精密締結部品はあらゆる製造業に不可欠な製品だが、同社の顧客層はデジタルカメラなどの精密機器や電気機械が3割で、EV化が進む自動車関連が7割を占めている。一度は急減した売上高は徐々に回復し、「2025年5月期には約14億円の見通しで、2008年の特需を除けば過去最高」(水木社長)だ。大手メーカーの製品の信頼性確保にも貢献。市場はアジアや欧米にも広がっている。
同社は2029年に創業90年を迎えるが、水木社長はさらに創業100年を見据えて「これからも50人の社員で世界に通用する部品を作っていく」と意気軒高。一見単純な構造物であるネジの製造技術を絶え間なく磨き、競争力強化にノンストップで取り組み続けている。
ミズキの歴史を振り返ると、水木社長の就任直後の2008年の「リーマン・ショック」という歴史に残る世界金融危機のあおりを受ける中、売上の6割を占めるデジカメの急速な衰退に、倒産してもおかしくない状況で踏ん張った事が、その後の強靭な成長につながったと推測される。
日本には歴史がある企業が多いと言われるが、ミズキのようにレジリエンス(柔軟で強靭)な会社の経営者と従業員が日本経済や従業員の家族の生活そして取引先を支えてくれている。もちろん品質への徹底したこだわりが成長に大きく寄与したが、品質を守り向上させるためには、やはりどんな困難にも立ち向かうレジリエンスな精神がないと不可能だ。
企業概要
会社名 | 株式会社ミズキ |
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本社 | 神奈川県綾瀬市小園717-14 |
HP | https://www.mizuki-corp.co.jp |
電話 | 0467-70-1710 |
設立 | 1939年5月 |
従業員数 | 55名 |
事業内容 | ネジ類全般、精密金属加工部品、シャフトその他の製造販売 |