
複数の業者が関わる建設現場では、調整不足による遅延や待ち時間が発生する可能性があります。なかでも揚重(ようじゅう)は機材や資材の搬入と密接に関わることから、日程調整や効率化を徹底することが重要になります。
さまざまな業種でDX化が進むなか、現在では揚重や搬入を管理できるシステムも登場しました。本記事では、揚重・資機材搬入管理システムの概要や期待できる効果、システム選びのポイントなどをご紹介します。
そもそも揚重とは?
揚重とは、建設資材を垂直または水平に移動させる作業のことを指します。重量物の場合はクレーンなどの重機を使い、指定された場所に建設資材を運びます。
建設現場の作業には、ほかにも重機や設備を作業場所に運び入れる「機材搬入」や、指定場所に建材などを運び入れる「資材搬入」もあります。建築物によってはいずれも大がかりな作業となり、進め方次第では工事日程が変わってきます。
これらの作業をデジタル技術で効率化することで、必要なタイミングで指定場所に資材や機材を適切に供給できる仕組みが構築され、作業間で生じていたムダを大きく削減することが可能です。
揚重・資材・機材搬入作業を効率化する管理システムとは
AIなどのデジタル技術が進歩したことで、現在では揚重・資機材搬入作業を効率化する管理システムも登場しています。具体的には、現地の作業員がオンラインで搬入予約をしたり、ICタグやRFIDタグ※のついた資材を追跡したりするシステムが活用されています。
※ICタグは接触型で物理的な接触が必要なのに対し、RFIDタグは非接触型で読み取りが可能という違いがあります。
建築現場における搬入作業は、日々の進捗や天候によって作業内容が変わるため、手順書の作成が難しいとされています。さらに作業員の入れ替わりが多い現場では、こまめに進捗状況やルールなどを共有しなければなりません。
揚重・資機材搬入管理システムは、これらの課題も解決してくれる可能性があります。どのように活用されているのか、以下では揚重・資機材搬入管理システムの機能をタイプ別にご紹介します。
リアルタイム監視型のシステム

1つ目は、作業員や重機などにICタグやRFIDタグをつけて、資材や機材の状態をリアルタイムで把握するシステムです。こうしたタグをつけることで、常に「資材や機材がどこにあるか」「誰が何をしているか」が記録され、無線LANなどを通してデータが別の端末に送信されます。
データをモニタリングする管理者がいれば、状況に合わせて揚重のタイミングや数量を指示することも可能です。プロジェクト全体の進捗がデータ化されるため、作業報告を作業後に手作業で入力する必要もありません。サービスによっては、エレベーターなどの運搬機ごとに進捗データ(揚重実績)を取得し、スケジュールとの比較まで行ってくれます。
また、現場にWebカメラを設置し、作業員や資機材をマッピングするシステムも存在します。このマッピングを利用して、上空に吊り荷があるなどの危険領域をAIが予測し、侵入した作業員がいると警報機を鳴らし、現場の安全性を高めるようなシステムもあります。
スケジュール共有型のシステム
2つ目は、資材や機材の搬入予定をアプリに記録し、現場全体で共有できるようなシステムです。スケジュールは各作業員がスマートフォンを携帯するだけで情報共有が可能になります。
サービスによっては、予定変更時にプッシュ通知を行ったり、複数施設の予定を同時に確認できたりする機能も備わっています。外部の資材配送システムや搬送ロボットなどと連携をすれば、揚重以外の作業も効率化できます。
株式会社シーエーシーは『BUILD BOARD(ビルドボード)』を提供しています。『BUILD BOARD』はスケジュール共有型のシステムで、PCやタブレットで簡単に資材や機材の搬入の日程調整ができます。

工事現場単位で作成したWebカレンダーには関連会社を招待できるため、各現場でのコミュニケーションミスを減らせます。予定の変更はリアルタイムに反映され、証跡としてのFAXを送る必要もなくなります。
<BUILD BOARDができること>
1. 状況をリアルタイムで可視化
搬入に関わる全ての情報をリアルタイムで更新し、最新情報を表示。急な日程調整の業務負荷を軽減。
2. 現場単位でカレンダーの共有が可能
各現場のカレンダーを作成し、協力会社や商社を含む全員と情報共有が可能。
3. ペーパーレス化で工数削減
時間を取られていたFAXや電話での書類回収や確認作業をwebで管理することで業務の効率化を実現。
資材や機材の搬入にまつわるムダな作業を減らしたい企業様は、公式サイトよりお気軽にお問い合わせください。
一括型のシステム
「揚重センター」と呼ばれる作業拠点を設けて、現場に専用のシステムを組むタイプです。各業者が別々に対応していたスケジュールを一元管理できるため、揚重・資機材搬入作業の短縮化やコスト削減につながります。
具体的にどのような作業がシステム化されるのか、以下では一例をまとめました。
<一括型でシステム化される作業例>
・搬入スケジュールの作成や調整
・スケジュールの通知
・車両の場内誘導
・建設用リフトのオペレーター業務 など
なかには、搬入全般を一括で代行し、現場監督や施工業者による資材や機材の搬入立ち会いを不要にするBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング、業務委託)サービスもあります。現場監督や施工業者の負担が軽減され、スケジュールを一元管理するため、工事現場全体の作業効率を改善できます。
参考:株式会社ハンズ 一括揚重の要!『揚重センター』とはどんなもの?
揚重・資材・機材搬入管理システムを導入することで期待できる効果
揚重・資機材搬入管理システムを導入すると、一般的な建設現場では次の3つの効果が期待できます。
1. 遅延や待ち時間が減る
2. 作業員の負担を抑えられる
3. コストダウンにつながる
どのような仕組みで労力やコストが減るのか、以下で詳しく解説します。
1.遅延や待ち時間が減る
揚重・資機材搬入管理システムを導入すると、各業者がスケジュールや進捗状況を簡単に共有できます。いずれかのセクションで遅延が起きても、柔軟なスケジュール調整が可能になるため、工事全体が大きく遅れることを防げるでしょう。
屋外の建設現場では、天候などの影響を受けて、一部の作業工程やセクションが遅延することは珍しくありません。このときに情報共有の手段がないと、今使わない資機材を動かしてしまったり、逆に必要な資機材がなかったり、ということが起こりえます。業者間の連携を崩さないためにも、リアルタイムで全体共有ができる仕組みを整えることが重要です。
2.作業員の負担を抑えられる
揚重・資機材搬入管理システムには、作業員の負担を軽減する効果もあります。
実際の揚重データ(実績)と計画を比較できるシステムを導入することで、「いつまでに何をすべきか」が明確になります。準備ができていないにも関わらず資材を運んだり、必要がない場所に機材を移動したりなどのムダな作業が発生しません。
ムダにしていた時間を有効活用できるため、結果として作業員の負担が抑えられます。別の作業に集中しやすくなることで、現場の安全性を高める効果も期待できるでしょう。特に「一括型のシステム」では、現場全体のムダを省きやすくなります。
3. コストダウンにつながる
揚重・資機材搬入管理システムを導入すると、搬入全般の効率が上がります。作業を始めたいタイミングで資材や機材が届くため、スケジュール通りに工事を進めやすくなり、結果として現場全体のコストを削減します。
スケジュールが遅延しなければ、具体的にどのようなコストを抑えられるのか、以下では一例をまとめました。
・スケジュールの遅延で発生する人件費、交通費や食事代などの経費
・車両や重機のリース費用
・施工業者などへの外注費
参考として、福井コンピュータアーキテクト株式会社「DandALL(ダンドール)」の事例を紹介します。DandALLは、スマートフォンやタブレットで、資機材の搬入スケジュールを各業者と共有できるシステムです。搬入計画を立てる担当者が「予定」を申請し、前日の打ち合わせなどでスケジュールを確定させることで、ウェブ上の予定表を現場全体で共有できるようになります。
国土交通省「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」では、従来、ホワイトボードだけで段取りを管理していた大規模建築現場にこの仕組みにを導入したところ、現場作業所、施行会社、現場の職長、作業員、警備員、搬入車両ドライバーが情報を共有することで、各自の業務が最適化され、現場の全体計画を踏まえ各自が最適な判断を行うことも可能になったとされています。また、以下の効果データも報告されています。
1現場当たりの省力化効果
下請業者:1ヵ月あたり240時間の省力化
元請業者:1ヵ月あたり180時間の省力化
納品業者:1ヵ月あたり50時間の省力化
建設現場における資機材搬入管理システムと物流2024年問題(福井コンピュータアーキテクト株式会社 渋谷昌広 )
国土交通省 荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン 建設資材物流編
揚重・資機材搬入を管理することでスケジュールを適正化したり、正確に見積もったりすることで、余計な人件費やリース費用などを抑えられます。搬入全般を任せられる「一括型のシステム」では、揚重・資機材搬入に関わる人員が固定されるため、新たな作業員を手配するなどの必要はなくなりトータルコストを削減できる可能性があります。
揚重・資材・機材搬入管理システムを選ぶポイント
揚重・資機材搬入管理システムは、建設現場の規模や作業内容に合ったものを選ぶことが重要です。サービスによって仕様が変わるため、比較をしたうえで費用対効果が大きいシステムを選びましょう。
ここからは、システムを選ぶ3つのポイントをご紹介します。
各現場の課題を明確にする
さまざまな機能を備えていても、自社の課題に対して的確なアプローチができないと大きな効果は見込めません。まずは遅延や待ち時間の原因を特定し、各現場が直面している課題を明確にしましょう。課題の例としては、以下のものが挙げられます。
・経験豊富な作業員が不足している
・搬入する資材の優先順位が間違っており、二度手間が発生している
・各業者の搬入スケジュールが重複している
・搬入スペースが狭い
・各業者の一時保管により、資材の位置が不明になる場合がある
仮に搬入スペースの狭さが問題になっている場合は、より効率的かつ詳細なスケジュールを立てる必要があります。一方で、資材の位置がわからなくなる現場では、リアルタイム監視型のシステムが活躍するかもしれません。
このように各現場の課題に合わせて、導入するシステムを検討しましょう。
作業環境から必要な要件を考える
現場全体の作業環境も、システム選びに影響するポイントです。たとえば、配送や搬入のしやすさ、運ぶことが多い資材のタイプなどにより、費用対効果が高いシステムは変わります。
システムを導入する現場については、下記の作業環境も整理しておきましょう。
・配送や搬入でどのような道を使用するか
・搬入口のスペースはどれくらいあるか
・現場全体の面積はどれくらいあり、どの規模の建物を造るのか
・どのような資材をどれくらいのペースで運ぶことが多いか
・使用する機材のサイズはどれくらいか
各現場の作業環境を整理したら、課題も踏まえてシステムの要件を考えてみてください。
別のシステムとの併用も検討する
揚重・資機材搬入管理システム自体の機能にこだわることは重要ですが、別のシステムとの併用で解決する課題もあります。たとえば、搬入全般を任せられる「一括型のシステム」よりも、「リアルタイム監視型」と「スケジュール共有型」を組み合わせたほうが費用対効果を高められるかもしれません。
現場によってはデジタルサイネージ※を導入し、常にスケジュールを映すような方法が有効になる場合もあります。揚重・資機材搬入管理以外のシステムにも目を向けて、課題解決につながるソリューションを検討してみましょう。
※デジタルサイネージ:電子ディスプレイを使い情報や広告を表示するシステム。
現場に合った揚重・資材・機材搬入管理システムを探してみよう
建築業界は慢性的な人手不足に直面しており、そのなかで働き方改革関連法への対応も求められています。2024年4月からは時間外労働の上限規制が適用されたため、作業効率や人材配置を最適化できるシステムに目を向けることが重要です。
特に以下のような現場は、揚重・資機材搬入管理システムの導入効果が大きいと考えられます。
・業者間のスケジュール調整に時間がかかる現場
・手作業でスケジュールを管理しており、管理工程が複雑になっている現場
・作業員の負担軽減とコスト削減を両立したい現場
楊重・資機材搬入管理システムにはリアルタイム監視型『BUILD BOARD』のような「スケジュール共有型」「一括型のシステム」があります。みなさんにあうシステムを検討してみてください。
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