「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)

目次

  1. 念願の高齢者福祉会社設立も、地元銀行にはどこも相手にされなかったが、「奇跡の融資」受ける
  2. 最初の高齢者福祉施設運営を初年度、自身の23時間労働で乗り切り、事業を軌道に乗せ10施設開設
  3. 成長の原動力「福祉事業は人がすべて」、働きやすい職場づくりにICTを積極活用
  4. スタッフの提案で新しい介護システムに切り替え、インカムも導入 会議で利用促進を話し合い、サービスの効率化実現
  5. インカム導入もスタッフ提案 利用者のナースコールに素早く対応し、利用者の待ち時間を大幅に短縮
  6. 家族を大切にする「豚さん」をキャラクターに「自分の家族を入れたい」 スタッフは、様々なサービスを自分の家族に接するように実施
  7. 「つながる家族」で利用者家族の信頼高める 介護ロボットの進化に注目
  8. 今後は老人ホーム主体に10年間で10施設に増やし、2038年のグループ売上高を4倍の31億円へ
  9. 障がい者福祉のドリームネクストワンを株式上場し、海外進出も
中小企業応援サイト 編集部
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岐阜県岐阜市で高齢者福祉事業を展開する合同会社一縷(いちる)は、設立10年で障害者福祉のグループ企業と合わせて岐阜県内で10ヶ所の高齢者・障害者福祉施設を運営するまでに成長した。「自分の親を入れたいと思える施設をつくりたい」(渡邊兼千代表)との思いをスタッフ主体で具現化し、利用者と利用者家族からの信頼を高めてきた結果だ。積極的なICTシステム導入もこれらの信頼に応えていくためで、今後も利用者サービスの向上につながるICT化に期待している。(TOP写真 一縷ではスタッフ主導でICT活用による業務の効率化を実現した)

念願の高齢者福祉会社設立も、地元銀行にはどこも相手にされなかったが、「奇跡の融資」受ける

一縷の設立は10年前の2014年11月。渡邊兼千(わたなべ けんいち)代表の母親は介護士で、祖母は老人介護施設に入っていたことがある。中学時代の自由研究で「老人ホーム」を題材にしたほど高齢者福祉に関心を持っていた。渡邊代表は、「それだけ高齢者福祉・介護というものが身近にありました」と話す。

27歳の時、ファッション関係の会社を辞め、当時注目され始めていた遺品整理の会社を設立。2年程度で多少の資金をつくり、競合が増えたため事業をたたんだ。胸に秘めていた福祉・介護事業への思いが強く、「生まれ育った岐阜という地域に根付く仕事」として高齢者福祉の会社を興すことを決めた。福祉用具レンタル会社と訪問介護施設、デイサービス会社に就職して修業を積み、2014年、31歳で念願の高齢者福祉会社の一縷を設立した。

だが、資金調達には苦労した。「事業融資を受けるために事業計画を見せても、どこも相手にしてくれません。最終的には、隣県の地銀が応じてくれることになり、奇跡でした」と、渡邊代表は当時を振り返る。渡邊代表は「融資担当者が事業説明に真摯に耳を傾け、私の熱意が通じた、その銀行には今も感謝しています」と語った。

最初の高齢者福祉施設運営を初年度、自身の23時間労働で乗り切り、事業を軌道に乗せ10施設開設

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
「最初の1年間は23時間労働で20キロ痩せました」と語る渡邊兼千代表

しかし、2017年5月に最初の施設であるサービス付き高齢者向け住宅「いちる」と高齢者の介護や生活支援サービスを行うヘルパーステーション「いちる」を開設してからの事業は順調だ。「当初の1年間は、経理、営業、介護ヘルパー、夜勤とすべて自分でこなして1日23時間働き、多くの従業員を雇用する気苦労もあって、20キロ以上激ヤセしました」(渡邊代表)と笑うが、経営上は施設開設1年目から黒字を確保し、施設の数を増やしてきた。

2020年6月にサービス付き高齢者向け住宅「桂花」を開設してからは、3年連続で同様の施設を岐阜市内に開設し、4ヶ所に増やした。2024年4月には障がいを持った子どもたちのデイサービス施設運営会社を買収し、障害者福祉事業に進出。持株会社の株式会社一縷ホールディングの下に、高齢者福祉の合同会社一縷と障がい者福祉の株式会社ドリームネクストワン、飲食店・ECサイト運営の株式会社エントラストの3社がぶら下がるグループ体制を構築した。2024年5月には同社初の有料老人ホームも岐阜県笠松町に新設し、2025年4月に開設する障がい児童放課後デイサービス施設を加えて、グループの高齢者・障がい者福祉施設数は10ヶ所に達する。

成長の原動力「福祉事業は人がすべて」、働きやすい職場づくりにICTを積極活用

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
サービス付き高齢者向け住宅「桂花」の事務室

「福祉事業は人がいないとサービスを提供できません。人がすべての事業なんです」。渡邊代表は、利用者と利用者家族の満足度第一だからこそ、良質なサービスを生むスタッフ重視の経営を貫いている。

ICTの導入・活用も、スタッフが働きやすい職場環境を整え、利用者・家族の安全・安心への期待に応えていくのが狙いだ。

スタッフの提案で新しい介護システムに切り替え、インカムも導入 会議で利用促進を話し合い、サービスの効率化実現

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
ICT機器を活用する職員

2019年の新しい介護システム導入では、開業当初から入れていた介護システムを切り替えた。「新しい介護システムの方が使いやすいというスタッフの要望を受け入れたもので、今は全施設で活用している。

マイク付きイヤホンで複数の人と同時に双方向通信できる通信機器のインカムを2024年8月にサービス付き高齢者向け住宅「桂花」と有料老人ホーム「いちる笠松」に導入したのも、職員からの提案がきっかけだった。「当初は利用率がそれほど高くなかったのですが、職員が自発的に会議を開いてインカムの使い方についての意見を出し合い、改善してくれました」と話すのは、入居支援を担当する篠田和輝相談員。今は「出勤からインカム装着までにタイムラグがあった遅番の職員も出勤後すぐにインカムを装着して業務指示を受けることにしたため、フルに活用されるようになりました」(篠田相談員)。

インカム導入もスタッフ提案 利用者のナースコールに素早く対応し、利用者の待ち時間を大幅に短縮

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
「インカムで職員の無駄な動きは解消されました」と語る篠田和輝相談員

従来は施設内の情報伝達にPHSを使っていた。しかし、PHSでは複数の人と同時通信できないため、ナースコールが鳴っても誰がコールに対応しているのかわからず、同時に3人くらいが対応に動くような無駄な動きを職員に強いるケースも多かった。

篠田相談員は、「インカム導入後は、職員同士が同時にコミュニケーションを取ることができるため、複数の職員が一緒に動くような無駄はなくなりました。桂花は3階建てで職員の動線が複雑かつ広いので、インカムで出勤者全員がつながる効果は大きいですし、コールした利用者さんを待たせる時間は大幅に短縮できたと思います」と話し、インカムを高く評価。全施設への導入を進めている。

いずれのシステムもスタッフの提案で導入を決めたもので、渡邊代表は、「職員が自主的に改善をめざしている、風通しの良い組織なんです。基本、うちの運営は職員主導です」と話し、目を細める。

家族を大切にする「豚さん」をキャラクターに「自分の家族を入れたい」 スタッフは、様々なサービスを自分の家族に接するように実施

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
玄関で迎えてくれる「豚さん」
「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
ホームページも豚のキャラクターが前面に出ている

「私たちは『自分自身の家族を入れたい』、そう思える施設を創り上げて行きます」。一縷の経営理念だ。利用者やその家族の「一縷の望み」ともいえる心情に応え、前進への思いをサポートし、大きな希望を叶えてもらえるサービスを提供できる組織を目指している。これが一縷の社名の由来でもある。

一縷のキャラクターは「豚さん」だ。豚は頭が良く、協調性があり、家族を大切にする動物といわれる。施設の玄関では、置物や写真などたくさんの「豚さん」が迎えてくれる。そこには「家族と仲間を大切にし、新しいものに興味を持ち見聞を広め、勤勉な人材でありたい」(渡邊代表)との思いが込められている。

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
サービス付き高齢者向け住宅の広い共有スペース

現在の事業の中心となっているサービス付き高齢者向け住宅は、基本的には部屋を貸す高齢者向けマンションのようなもので、1日1回の安否確認と食事提供が義務付けられている。利用者の希望に応じて買い物や入浴介助などを有償でサービスするシステムだが、同社はできる限りの手厚いサービスを提供している。介護ヘルパーが常駐し夜勤者も置いているほか、「毎日のレクリエーション実施や介護保険の限度を超えた場合のオムツ交換や入浴・食事介助は無償で提供しています」(渡邊代表)。スタッフの対応には自分の親に対するのと同じような思いが込められているから、おのずと施設への信頼は厚くなる。

「つながる家族」で利用者家族の信頼高める 介護ロボットの進化に注目

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
サービス付き高齢者向け住宅「桂花」

介護ソフトで作成した請求書・領収書、施設と利用者家族を結ぶ便り、利用者の様子を知らせる写真などをスマートフォンに送信し、ペーパーレスで確認できるWebサービス「つながる家族」は、2024年10月に導入したばかりだ。取材時は導入から2ヶ月弱の時期で、「利用者の家族さんも高齢者の方が多く、スマホを使うのが難しい方もいるかもしれません。今のところそのような声はありませんが、どうしたら使いやすくなるか、施設内とともに、家族さんとも話をしていかないといけないと考えています」(篠田相談員)と、まさに利用者家族と信頼で結ばれる活用法を検討中だ。

今後のICT化にも意欲的で、当面は介護ロボットに注目する。「職員の高齢化が進むと、介護作業の負担を軽減する対応策が必要になるため、介護ロボットには期待しています。もう少し実用的になれば、すぐにでも導入したいくらいです」(渡邊代表)という。ポイントは着用の簡便さで、誰でも簡単に着用できるロボットの登場を待っている。

今後は老人ホーム主体に10年間で10施設に増やし、2038年のグループ売上高を4倍の31億円へ

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
ドリームネクストワンが運営する放課後等デイサービス施設「ラビットキッズ」

一縷は今後、高齢者福祉では老人ホームを増やしていく方針で、2026年4月開設予定の岐阜県羽島市に加えて、2施設の建設を計画。グループとしては、障がい者福祉のドリームネクストワンが、障がい者が必要な支援を受けながら共同生活するグループホームの運営事業を本格化する。岐阜市内に第一号ホームを建設中で、約10年間で10施設に増やす計画だ。

一縷グループとしては、現在の年間売上8億円強を渡邊代表が55歳になる2038年に4倍の31億円に拡大する中期計画を打ち出している。一縷で12億円、ネクストワンで18億円、エントラストで1億円を目指す考えだ。

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
有料老人ホーム第一号施設の「いちる笠松」

障がい者福祉のドリームネクストワンを株式上場し、海外進出も

「ドリームネクストワンは当面、直営グループホーム10施設に加えて、5年後からはフランチャイズ(FC)化も進め、私が40代のうちに株式上場を果たしたいと考えています」。渡邊代表が描いている成長戦略の青写真だ。

障がい者福祉事業を伸ばしていく中では、ECサイト運営などのエントラストでたこ焼き店の展開を計画。障がい者就労支援の受け皿として活用していくことを考えている。

渡邊代表は、「東南アジアの高齢者福祉施設を見学させてもらった時、施設の環境は劣悪だった」として、海外での事業展開にも目を向ける。2025年には東南アジアや中央アジアを視察し、事業化の可能性を探る方針。

岐阜に根付かせた渡邊流の地域貢献事業の花を海外でも咲かせ、広く国際社会にも貢献していく。こんな夢の実現に向けて、渡邊代表は走り続けている。

「自分の親を入れたい施設」 スタッフ発案のサービス&ICT活用で信頼高め、海外進出も目指す 一縷(岐阜県)
最初に開設したサービス付き高齢者向け住宅「いちる」

企業概要

会社名合同会社一縷
本社岐阜県岐阜市六条大溝2丁目14-4
HPhttps://www.ichiru.co.jp/
電話058-215-0691
設立2014年11月
従業員数140人(グループ全体)
事業内容  サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、ヘルパーステーション、訪問看護ステーション運営など高齢者福祉事業