事業承継ネットワーク
(画像=PIXTA)

後継者不足に悩む中小企業が多い昨今では、事業承継に関するさまざまな制度・事業が整備されている。本記事で紹介する「事業承継ネットワーク」もそのひとつだ。事業承継を考えている中小経営者は、事業承継ネットワークの概要をいち早くチェックしておこう。

目次

  1. 事業承継ネットワークとは?
    1. 事業承継ネットワークが誕生した背景とは?
    2. 事業承継ネットワークの構成メンバー
  2. 事業承継ネットワークの事業内容
    1. 【1】都道府県における事業承継支援体制の整備
    2. 【2】事業承継診断の実施(PDCAサイクル)
    3. 【3】事業承継支援に関する連携体制の構築
  3. 事業承継ネットワークの活動状況は?各地域の事例
    1. 1.記名式アンケートの実施/石川県
    2. 2.トライアル支援による支援モデルのブラッシュアップ/アンケート
  4. 事業承継ネットワークは今後どうなる?
  5. 経営者自身にも積極的な行動が求められる

事業承継ネットワークとは?

事業承継ネットワークとは、簡単にいえば中小企業の事業承継をサポートする取り組みのことだ。「プッシュ型事業承継支援高度化事業」とも呼ばれており、中小企業庁が資金面を援助する形で、日本全国のさまざまな機関・団体がこの事業に取り組んでいる。

事業の内容については後述で詳しく解説するが、まずは全体像を理解するために、同事業の概要や目的を以下でチェックしておこう。

事業の概要・事業承継診断などをはじめとした「プッシュ型」の情報提供を行う
・事業承継に悩む経営者を、各種専門支援機関につなぐ
・企業の課題に応じた支援を実施する
事業の目的事業承継に向けた「気づきの機会」を提供し、その準備を促すこと

つまり、事業承継ネットワークは世の中の経営者に対して、事業承継に関するさまざまな支援を提供する事業だ。公的機関や金融機関などを通して積極的なサポートを受けられるため、経営者はこの制度を活用することで、スムーズに事業承継を進められるようになる。

「事業承継について、実はあまりよくわかっていない」「何から始めるべきかわからない…」などと悩む経営者にとって、同事業は非常に心強い存在といえるだろう。

事業承継ネットワークが誕生した背景とは?

中小企業庁が事業承継ネットワークを実施する背景には、中小企業の「事業承継問題」がある。高齢の経営者が増えた影響で、昨今では中小企業の事業承継が喫緊の課題となっており、この問題を放置すると以下のような弊害が生じるとされている。

○現状を放置したときに生じる弊害
・中小企業や小規模事業者の廃業が急増する
・国全体で多数の雇用を失うことになる
・中小企業の倒産により、国が巨額な経済損失を被ることになる

経営者の高齢化はすでに深刻な状況にまで発展しているため、政府は「事業承継税制」をはじめとした対策を講じている。本記事で紹介する「事業承継ネットワーク」もその一環であり、さまざまな施策が実施された影響で、事業承継をスムーズに進められる環境が徐々に整ってきている。

つまり、中小企業にとっては「事業承継を有利に進められる状況」になりつつあるので、関係のある経営者は最新情報をしっかりとチェックしておくことが重要だ。

事業承継ネットワークの構成メンバー

前述でも触れた通り、事業承継ネットワークは複数の機関・団体によって進められている事業だ。参加している機関・団体は、大きく「計画の立案役」「事業承継診断等の実施役」「その他支援策の実施役」の3つにわけられる。

事業における役割構成メンバー概要
計画の立案・都道府県
・市区町村
地域の事業承継支援策を立案し、全体をとりまとめている。
事業承継診断等の実施・金融機関
・商工会
・商工会議所
・中央会
・士業などの専門家 など
中小企業に対して、事業承継診断等を実施している。
その他支援策の実施・中小機構地域本部
・事業引継ぎ支援センター
・ミラサポ等の士業等専門家
・経済産業局や財務局
・信用保証協会
・よろず支援拠点
・再生支援協議会 など
各機関・団体が、中小企業に対して以下のような支援策(一例)を実施している。


・支援機関への研修
・M&Aのフォロー
・専門的課題を伴う案件への対応
・施策情報の提供
・金融支援
・再生支援 など

事業承継ネットワークのとりまとめ役は、都道府県や市区町村などの自治体が担っているため、実際の事業内容は地域によって違いが見られる。したがって、事業承継に悩んでいる中小経営者は、会社が所在するエリア(自治体)の情報を確認しておきたい。

事業承継ネットワークの事業内容

事業承継ネットワークの事業は、主に以下の3点を軸として実施されている。

○事業承継ネットワークの事業の軸
【1】都道府県における事業承継支援体制の整備
【2】事業承継診断の実施(PDCAサイクル)
【3】事業承継支援に関する連携体制の構築

では、上記3つの観点から具体的にどのような事業が行われているのかについて、以下でもう少し詳しく解説をしていこう。

【1】都道府県における事業承継支援体制の整備

事業承継支援体制の整備とは、簡単にいえば中小企業を支援するためのネットワークを構築する事業のことだ。

この事業では都道府県を主体として、事業承継支援のあり方を検討し、その支援を実現するための組織構築を行っている。さらに関係者間での認識共有も行い、最終的には都道府県が「地域再編・統合の旗振り役」になることを目指している。

また、ポータルサイトや成功事例集の作成など、「事業承継支援に係る情報発信」に取り組んでいる点も経営者が押さえておきたいポイント。実際の取り組みは地域によって異なるが、すでに都道府県が有益な情報を発信している可能性があるため、中小経営者はぜひ最新の情報をチェックしておきたい。

【2】事業承継診断の実施(PDCAサイクル)

事業承継診断とは、経営者のニーズを掘り起こすために実施される診断のことだ。この事業承継診断は、以下のように「PDCAサイクル」を強く意識した形で実施されている。

事業承継診断の流れ概要
1.Plan(計画)まずは「事業承継診断の準備」として、ネットワーク内の支援機関が診断を実施できるように、フォーマットなどを作成する。
2.Do(実行)準備が整ったら事業承継診断を実施し、さらに支援を行うための仕組みを構築する。
3.Check(評価)事業承継診断の実施結果を集約し、地域内における支援状況を検証する。
4.Action(改善)検証結果を公表し、再び「事業承継診断の準備」へと戻る。

このような流れで事業承継診断を繰り返し行えば、該当地域の支援状況は少しずつ充実していくだろう。事業承継に悩む経営者のニーズを掘り起こすことで、きめ細やかなサポートや対応を可能としている。

【3】事業承継支援に関する連携体制の構築

事業承継ネットワークの最大の特徴は、さまざまな機関・団体が連携体制(ネットワーク)を築き、中小企業をサポートする点だ。その連携体制を整えるために、同事業では以下のような取り組みを行っている。

○連携体制の構築に関する取り組み
・支援機関に対する情報共有や、研修の実施
・ミラサポなどの専門家派遣制度と連動した、支援体制の構築
・各地域の専門家の発掘やリスト化、支援関係機関での共有
・プレ承継支援として、経営改善を行う為の環境整備 など

中小企業における事業承継は、ケースによって経営者の求めているニーズが異なる。そういった多様なニーズに対応するために、事業承継ネットワークではさまざまな角度から環境整備が実施されている。

事業承継ネットワークの活動状況は?各地域の事例

中小企業庁が公表した「平成29年度事業承継ネットワークの取組と今後の支援について」によると、平成29年度の時点では19の都道府県が事業承継ネットワークに取り組んでいる。また、同事業には参加していないが、独自に同様の事業に取り組んでいる都道府県もすでに4県ほど存在している。

東北地方や四国地方をはじめ、いわゆる地方にあたる自治体が積極的に取り組んでいる点も、事業承継ネットワークの特徴だ。これまで相談先・依頼先が乏しかった地方企業にとって、事業承継ネットワークは心強い事業と言えるだろう。

では、すでに事業承継ネットワークを実施している都道府県は、具体的にどのような施策を講じているのだろうか。事業内容のイメージをつかむために、以下で2つほど例を見ていこう。

1.記名式アンケートの実施/石川県

石川県は事業承継ネットワークの一環として、県内企業を対象に記名式アンケートを実施した。平成29年度の時点では671社から回答を得ており、そのうち個別相談を要望した158社に対しては、支援センターやよろず支援拠点において対応している。

さらに、同県は経営者からヒアリングした課題の解決を図るため、今後は支援窓口の設置やツール整備、連携支援を行うためのルール整備などに取り組む予定だ。支援機関が不得意とする資源の補完(事例集の作成など)も計画に盛り込まれているので、中小企業を直接的にサポートできる環境が徐々に整っていくだろう。

2.トライアル支援による支援モデルのブラッシュアップ/アンケート

愛知県は、ネットワーク構築の初期段階から学識者の力を借りることで、事業承継診断のスムーズな実施を実現している。事前に診断マニュアルを作成するだけではなく、事業承継診断説明会を開催したり、金融機関と事務局に連携協定を結ばせたりなど、万全の態勢を整えたうえで事業承継診断を実施した。

また、支援機関のスキル養成や事例作成を目的として、すでにトライアル支援を実施している点も愛知県ならではの特徴だ。各士業や商工会経営指導員などがチームを組み、そのチームが事業承継方針案の立案に携わることで、支援モデルの質を高めようとしている。

事業承継ネットワークは今後どうなる?

上記の事例で紹介したように、各自治体は中小企業を支援する第一歩として「事業承継診断の実施」に取り組んでいる。平成29年度の段階で、事業承継支援ニーズの掘り起こしはある程度進んだといえるが、そのニーズに応える支援体制は十分に整っているとは言い難い。

そこで今後の取り組みとして検討されているものが、「事業承継・世代交代集中支援事業」と呼ばれる事業だ。詳しくは割愛するが、この事業では悩みを抱える中小企業に対して、地域の専門家が個別対応するための環境整備を目指している。

このように、事業承継ネットワークを通した中小企業支援策は、各自治体で着々と進められている。今後に関しても、さまざまな制度が拡充される可能性があるため、事業承継を計画している経営者は最新情報をこまめにチェックしておきたい。

経営者自身にも積極的な行動が求められる

事業承継ネットワークは、実施する自治体によって事業内容が異なる。そのため、同事業をうまく活用するには情報収集に取り組むなど、経営者自身も積極的に行動を起こさなくてはならない。

地域にもよるが、将来的には拡充される可能性が高い事業なので、事業承継を検討している経営者は各自治体の情報を早めにチェックしておこう。

文・THE OWNER編集部

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