事業の経費を仕訳するにあたり、人件費などわかりやすいものはいいのだが、ガソリン代のようにどの勘定科目に分類すべきかわかりにくいものもある。今回は、ガソリン代を仕訳するにあたっての基礎知識や注意点について、できるだけわかりやすく説明する。
目次
ガソリン代は常識的な範囲ならどの勘定科目でも良い
事業を経営するにあたっては、一定の期間の業績を損益計算書などの計算書類にまとめて、提出することが義務付けられている。計算書類を作成するにあたっては明確なルールがないと難しいため、企業会計を行うための基本原則である企業会計原則というルールが設けられている。
企業会計原則には、会計処理における一般原則と言われる7つの原則(真実性の原則、正規の簿記の原則、資本利益区分の原則、明瞭性の原則、継続性の原則、保守主義の原則、単一性の原則)のほかに、貸借対照表原則・損益計算書原則という計算書類の作成に関する原則もある。
損益計算書原則では、「営業利益は売上総利益から販売費及び一般管理費を控除して表示する」と規定されており、販売費および一般管理費(=通常は経費と呼ばれるもの)については、適当な科目を与えて表示するとされている。つまり、特定の勘定科目が定められていないのだ。
会社法においても、「損益計算書等の各項目は、当該項目に係る収益若しくは費用又は利益若しくは損失を示す適当な名称を付さなければならない」と規定されているだけで、販売費および一般管理費に関する勘定科目は特に定められていないため、常識的な範囲で科目を与えて表示していれば問題ないのだ。
ガソリン代の勘定科目の候補には「車両費」「旅費交通費」「消耗品費」などがあるが、それぞれどのような会社が使用することが多いのだろうか。具体例を挙げながら、説明していこう。
業種別のガソリン代の勘定科目のベストな設定方法とは?
ではここからは会社ごとに勘定科目をどのようにすべきかを考えていこう。
「車両費」に仕訳すべき会社
車両費は、一般的に自社で所有・運用している車両の維持・運用にかかる費用に使われる勘定科目だ。
ガソリン代を車両費として計上すべき会社は、車両の保有台数が多くなく、使用頻度がそこまで高くないため、ガソリン代と車両の維持費(車検費用・点検費用など)をすべて車両費として計上しても支障のない(費用の実態がわかりにくくならない)会社だ。
その場合の車両費は、会社が所有する車両に係る費用全体を表すことになる。
「旅費交通費」に仕訳すべき会社
旅費交通費は、一般的に従業員が営業活動を行うための移動費用や宿泊費用に使われる。
ガソリン代を「旅費交通費」として計上すべき会社は、車両を多く所有していてその移動距離も多様であり、ガソリン代を通じて社員の移動状況を把握する必要がある会社だ。
このような会社の場合、ガソリン代の増減による旅費交通費の変動と社員の活動状況(個人業績)を比較することで、無駄な支出がないか、経費の使い方に問題がないかなどを確認することができる。
「消耗品費」に仕訳すべき会社
消耗品費は、一般的に使用していくうちに消耗、あるいは価値がなくなっていくものに使われる勘定科目だ。各種文具やコピー用紙、包装用紙、蛍光灯などがこれにあたる。
ガソリン代を「消耗品費」に計上すべき会社は、ガソリンの使用がほとんどなく、その他の消耗品と一括で管理しても差し支えないような会社だ。
「売上原価」に仕訳すべき会社
売上原価とは、自らが提供する商品・サービスの原価を計上する勘定科目であり、単純に「仕入原価」「売上原価」とするケースもあれば、製造原価報告書として詳細な勘定科目を設定するケースもある。
ガソリン代を「売上原価」に計上すべき会社は、運送会社やタクシー会社のように、ガソリン代が自社の提供するサービスの原価になっている会社だ。
このような会社では、売上高とガソリン代はほぼ比例する。よって、売上原価として仕訳するのが妥当だろう。
このような会社は、自社サービスを提供するために使うガソリン代と、営業活動などに使用する社用車のガソリン代は、明確に分けて管理する必要がある。その場合、営業活動などに使用するガソリン代は上記に習って「車両費」「旅費交通費」などで処理するのが妥当である。
ガソリン代の勘定科目における2つの注意点
このように、ガソリン代については特定の科目に計上しなければならないという決まりはなく、各社の都合や事業の実態に応じて、適切な科目に計上すればいいことになっている。しかしながら、ガソリン代を計上する際は、2つの注意点がある。
勘定科目を変えてはいけない
どの科目に計上しても問題ないとはいえ、ガソリン代を計上する勘定科目を毎回変えることには問題がある。たとえば4月は車両費、5月は消耗品費というように計上する勘定科目が変わると、販売費および一般管理費の勘定科目ごとの発生状況がわからなくなるため、現在の企業の状況を正確に把握できないからだ。
企業会計原則においても、一度採用した経理方法は継続して適用すべきという「継続性の原則」があり、会計処理をみだりに変更しないこと求めている。
そのため、一度ガソリン代を計上する勘定科目を決めたら、継続してその勘定科目を使用するべきである。ただし、別の勘定科目に計上するほうが妥当と思われる明確な理由がある場合や、ある時期を境に、一律に変更する場合であれば問題ないだろう。それ以外の場合は、変更しないようにしたい。
どうしても別の形でガソリン代を管理したいという状況になった場合は、その勘定科目に補助科目を設定してガソリン代の用途や詳細を記録し、それらを加工して使用する方法もあるが、経理処理の工数は増えてしまう。ガソリン代に限ったことではないが、最初に経費処理を決定する段階で自社の事情とそれに必要な計上方法をよく検討してから運用を始めるべきだろう。
決算時に一定の処理が必要
決算の際は、その1年間の損益状況を明確にする必要がある。そのため、それぞれの勘定科目を決算に合わせた内容にするために、様々な処理を行う必要がある。ガソリン代についても、決算時に処理が必要になることがある。
ガソリンは給油したときに代金を支払うが、未使用のガソリンは燃料タンクの中に「在庫」として残っているため、決算ではそれを在庫として処理する必要がある。
原則としては、決算時点で在庫相当分を貯蔵品として資産計上し、貯蔵品として資産計上した額と同額を、経費としての支出額から減少させる。
翌年度は、期首に貯蔵品を経費の各勘定科目に振り替えた上で、また決算期に貯蔵品を翌年度その残量相当額の損益を修正することが原則論である。燃料タンク内のガソリンは、まだ事業の用に供されていないため、今期の損益に加えるべきではないからだ。
ただし、通常の業務用車両に使用している燃料の在庫量を正確かつ定量的に把握することは非常に難しく、その購入単価を把握することもまた難しい。そのため実務上は、継続して適用すること、前期との在庫量が大きく変動する要素がないことを条件に、貯蔵品に振り替えるという決算処理をしないという選択肢も十分妥当性があると考えられる。
ただし、特定の年度に経費を前倒しで計上する目的で、期末に一括で大量にガソリンを購入して費用計上した場合や、貯蔵用のガソリンタンク内の在庫などのように、残量・単価を把握することが容易である場合は、上記の原則論による対応が必要になると考えられる。
仕訳をより簡単にしたい場合は、法人用のクレジットカードを利用することをおすすめする。クレジットカード払いにすると、仕訳が一気に楽になるからだ。
現金払いの場合は領収書を保管して、1枚ずつ記帳しなければならない。一方クレジットカード払いの場合は、カード利用代金の引落日にすべてのガソリン代を払ったことにして、会計処理ができる。
本来クレジットカード払いをした場合は、クレジットカードでガソリンを給油した日とその代金の引落日にそれぞれ仕訳をする必要がある。しかし、上記の方法で処理してもまったく問題ないので、覚えておくといいだろう。
ガソリン代と軽油代で仕訳が異なる?
ガソリン代と軽油代、どちらも車両の燃料なので同じ勘定科目に計上すればいいように思えるかもしれないが、実は異なる仕訳処理が必要になる場合がある。
それは、ガソリンと軽油に課税される税金が異なるからだ。ガソリンにはガソリン税(正式名称は発油税及び地方揮発油税)、軽油には軽油取引税が課税される。
ガソリン税は業者側に課税されるものであり、「ガソリン代の構成要素」というのが税務上の考え方だ。そのためガソリンを購入する際は、ガソリンの本体価格にガソリン税を加えた金額に対して消費税が課税される。つまり、ガソリン税という税金に対して消費税という税金が課税されるという「二重課税」が起こっているのだ。
よって、ガソリン代を経費処理する場合は、本体部分と税金部分に分けて処理する必要はなく、一括で課税仕入れとして計上すればいい。
一方、軽油取引税は軽油の購入者に課税される税金なので、事情が違う。軽油の場合は、軽油の本体価格と軽油取引税が区分されている場合に限り、軽油の本体価格のみに消費税が課税され、軽油取引税部分には消費税はかからない。
したがって軽油代は、軽油の本体価格部分(課税仕入)と、軽油取引税部分(不課税仕入)に分けて処理する必要があり、ガソリン代とは仕訳方法が異なるのだ。
消費税の計算にあたっては、日々の取引で発生する取引を「課税取引」「非課税取引」「不課税取引」に分けた上で処理をしないと、消費税額を正確に算出できない。
このような煩雑な処理は、会計処理をする立場としてはできるだけ避けたいところだが、軽油を適切に処理しなかった場合は、課税取引が過剰に計上されることになり、わずかだが消費税額が少なく算出されてしまい、適正な納税ができなくなってしまうため注意したい。
個人事業主がガソリン代の仕訳で注意したいこと
個人事業主の場合は、収支内訳書の経費欄にガソリン代を計上することになる。
収支内訳書のフォーマットに記載されている勘定科目は、「旅費交通費」「消耗品費」だけだが、自由に記入できる空欄が用意されているため、上記の考え方で「車両費」などの科目を使用することもできる。よって、勘定科目の計上においては法人と特に変わらない。
個人事業主がガソリン代の経費処理をする際に注意したいのは、私的に使用した分のガソリン代が事業用として計上されていないか、である。
個人事業主が使用する自動車は、個人として日常生活でも使用するケースが多い。この場合は、事業用の経費として計上するにあたって、事業として使用している割合(事業専用割合)を考慮する必要がある。
とはいえ、現実的には事業用と私用を明確に区別するのは難しいので、使用日数や使用時間(1ヵ月のうち何日・何時間程度事業用として使用しているか)や、走行距離の割合(事業の用として使用した距離を測定しておいて、全体の走行距離における割合を算出する)、他の経費における事業用と私用の割合(他に事業と共用している経費の事業割合と同等にする)などの方法で、事業専用割合を設定しておく必要があるのだ。
また、その車両を事業用の資産として購入して減価償却費を計上している場合は、事業専用割合に応じて計算するケースが多い。事業用として経費計上するガソリン代を計算する際も、他に根拠がない場合は、その車両の減価償却費の計算に使用している事業専用割合で計算することが妥当と思われる。
これらを踏まえて、事業専用割合については十分に注意して設定しておくことが肝要である。
事業用の車両を私用でも使っているケースでも、前述の軽油取引税の場合と同様に、費用が過剰に計上されることによって所得税が少なく計算されてしまい、適正な納税ができなくなってしまうため注意が必要である。
ここまで、ガソリン代の勘定科目と計上における注意点について説明してきた。
ガソリン代を仕訳する際の勘定科目は柔軟に設定することができるが、勘定科目を決める際は自社の状況に合わせて決定し、基本的にはその勘定科目を変えないようにしなければならない。
また、消費税・所得税などの税務上の取扱いとして注意すべき点もいくつかあるため、十分注意しながら適正な処理を行う必要があるだろう。
文・THE OWNER編集部