ESG経営
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時代とともに経営スタイルは移り変わっていくものだが、過去の大量消費生産や環境破壊、労働搾取などの悪影響から、昨今は「ESG」に重点を置いた経営が広まりつつある。ESG経営に馴染みのない経営者もいるかもしれないが、ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものであり、各分野に配慮した経営スタイルを指す。

技術の進歩によって企業情報が透明性をもって公開されるようになったことで、消費者や投資家の目が厳しくなる中、ESGに真摯に取り組んでいるかどうかは企業価値を左右するようになってきている。

目次

  1. ESG経営はなぜ拡大しているのか
  2. 中小企業がESG経営をするメリットとは?
  3. ESG経営の実際の取り組み方とは?
  4. 各企業の実践例3選 メーカーから小売まで!
    1. 1.コニカミノルタ
    2. 2.三菱ケミカルホールディングス
    3. 3.丸井グループ
  5. ESG経営は不可欠な時代に

ESG経営はなぜ拡大しているのか

ESG経営が様々な企業で導入され、浸透していく契機となったのが、国連が2015年に定めた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、通称SDGs(Sustainable Development Goals)である。SDGsには貧困や格差、ジェンダー、環境など2030年までに達成を目指す17の目標が掲げられており、その取り組みを実施するにあたって「誰一人取り残さない」ことを誓っている。

これまでは、世界的な問題や危機に対しては、国連を中心とする国際機関やNGOなどがイニシアティブを取り、問題解決に取り組んできた。しかし昨今は、社会活動の大部分を占める民間企業にも、協調や協力が求められるようになってきている。

これまでのように、手段を問わず、事業活動によってもたらされるマイナス面にも配慮せず、利潤のみを追求するような経営は、もはや時代遅れなのだ。昨今の気候変動や環境破壊は、企業活動にも影響を及ぼしかねない。

国連のSDGsで掲げられた持続可能性という概念は、企業経営においてもキーワードになってきているが、これは一過性の流行ではなく、右肩上がりの成長しか目指していなかった経営方針の見直しを迫るものとなっている。

企業が環境や社会に配慮し、ガバナンスを履行できているかを、企業が自らコミットすることが求められている。その取り組みは、事業規模が大きくグローバル展開を行っている大企業だけでなく、地域密着型の中小企業にも共通する。つまりESG経営は、企業として看過できるレベルではなくなっていることを認識しなければならない。

中小企業がESG経営をするメリットとは?

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ESG経営が企業規模に関わらず求められていることはわかっても、企業として取り組むにあたっては腰が重い経営者もいるだろう。しかし、ESGに真摯に取り組むかどうかは、企業価値を左右しかねない。そこで、ESG経営に取り組むことのメリットと、取り組まないことによるデメリットについて考えてみよう。

国連でSDGsが採択されてから、消費者の行動も変わり始めている。最小限のモノしか持たないミニマリストの増加やフリマアプリの台頭など、これまでの大量消費を前提とした市場構造が転換期を迎えている。

消費者の意識は、価格にも向けられる。とはいえ、安いほど売れるわけではなく、過度に安い商品については「小売店やメーカーは正当な利益を得ているのか?」と疑念を抱くようになってきたのだ。

このような潮流の中でESG経営を取り入れることは、現在企業に求められている社会的責任を遂行していることのPRになる。似たような商品であれば、持続可能なビジネスを実践している企業の製品が消費者に支持されるようになってきており、ESG経営は消費者が企業を選択する基準になりつつある。

ESGを経営に取り入れることは、企業のブランディングにもつながる。これまでESGとは無縁だった企業が積極的に取り組めば、別の角度から自社のビジネスをアピールすることになり、自社の製品・サービスの認知拡大が期待できる。このような取り組みが消費者から支持されれば、当然ながら投資家からも注目されるようになる。

逆に言えば、ESG経営に取り組んでいなければ、投資資金を集めることは今後ますます困難になっていくだろう。ESG経営は、ビジネスの世界では常識になりつつある。このような状況を経営者が正しく認識しなければ、ビジネスの潮流から自社だけが取り残されてしまうだろう。

ESG経営に消極的な企業は、当然ながら投資家からの評価も低くなり、投資対象から外される可能性が高くなる。投資ファンドなどは、すでに環境に配慮した持続可能なビジネスを実施している企業だけに投資するようになってきている。ESG経営は、投資対象となるための条件になりつつあるのだ。

日本国内でも、2017年にGPIF(年金積立管理運用独立法人)がESG指数を選定し、ESG投資に本格的に乗り出している。投資資金を集めることができなければ、企業として成長していくことは困難であり、ビジネスが行き詰まるリスクを抱えることになる。ESG経営を導入するためにはイニシャルコストがかかるが、それに見合うリターンは十分期待できると言えるだろう。

ESG経営の実際の取り組み方とは?

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ESGの概念を企業に取り入れる重要性を認識したところで、ここからは実際の取り組み方について見ていこう。

自社製品やサービスを環境や社会に配慮した、持続可能なものに切り替えるという単純な取り組みでは、消費者や投資家から評価されないだろう。企業としてESGに真摯に取り組んでいる姿勢をいかにアピールできるかがポイントだ。他社に先駆けESG経営に取り組んでいる企業は、どのように実践しているのか。

まず、企業の意思決定において重要な役割を果たす取締役にESGを導入する方法がある。これまで、取締役は業績で評価されることが多かった。常に利益を追求することが求められ、業績が上向けば報酬も上がった。

取締役に率先してESGに取り組んでもらうため、業績だけでなく、環境や社会に配慮した経営が実践できているかどうかを評価に組み込んでいる企業がある。

業績の数値とは別に、CO2の排出削減量や従業員の安全性確保に真摯に取り組んでいるか、ダイバーシティを推進するため、女性従業員比率の引き上げに積極的に取り組んでいるか、などだ。

このような項目が評価に組み込まれれば、取締役は自身の報酬や昇進に関わる問題なので積極的にESGに取り組むようになり、取締役が旗振り役となることで、ESGが企業全体に浸透していく。

中小企業では取締役の数が少ないため、経営者が率先して会社を引っ張っていくというスタイルは珍しくない。そのような企業には、取締役にESGを導入するよりも、企業理念や戦略にESGを導入するほうが効果的だろう。企業理念や戦略は、今や各社が自社サイトを通して、説明する機会がいくらでもあるからだ。

このようなプラットフォームを活用すれば、ESGに積極的に取り組んでいることをPRすることもできる。また、企業理念や戦略にESGを取り入れると、従業員も必然的にESGを意識するようになるだろう。一過性のスローガンで終わらせないためにも、各従業員にまでESGを浸透させる必要がある。企業理念や戦略にESGを取り入れることは、対外的なアピール材料にもなるので有効なアプローチと言えるだろう。

取締役や企業理念、戦略にESGを導入したところで満足しているようでは、消費者や投資家から熱い視線が注がれることはない。自社のESGに対する積極的な姿勢を示すために、ESG説明会を実施している企業が増えている。

株主や投資家を対象としたものが多いが、企業理念や経営方針、持続可能性に関する取り組みなど、ESGのコアとなる部分について、企業としてどのように取り組んでいるのかを積極的に発信している。この例からもわかるとおり、今やESGは企業にとって不可欠なものになっているのだ。

各企業の実践例3選 メーカーから小売まで!

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ESGの導入や実践には様々なアプローチがあるが、実際に各企業がどのように取り組んでいるのか、具体的な事例を見ていこう。

1.コニカミノルタ

複合機メーカーとして知られるコニカミノルタは、ESGを中長期的な企業価値向上と持続的成長つなげるため、まず環境と社会で6つの課題を掲げている。

具体的には、環境課題(CO2の80%削減、2050年カーボンマイナス)に加え、ダイバーシティ、ヒューマンキャピタル、ソーシャルイノベーション、責任あるサプライチェーン、顧客満足向上と製品品質のそれぞれに重点を置いて、持続的な開発目標の視点から社会課題を解決する事業の創出を目指している。これらを遂行できるように取締役会で具体的な戦略を練り上げ、攻めのガバナンスを展開している。

このようなESG経営の下で開発されたのが、インクジェットデジタル印刷機の「アキュリオジェットKM-1」である。環境への意識が高まるにつれ、大量印刷による紙の消費量にも厳しい目が向けられる中、いかにして従来の印刷の在り方を変えられるかという課題に直面している。

そこでコニカミノルタは、必要な時に必要な分だけを印刷できるアキュリオジェットKM-1を開発した。この印刷機は、イベントごとに必要となるラベルやパッケージを小部数でも作成できるもので、廃棄物を最小限に留めることで、環境への負荷低減につなげている。

大量生産・大量消費という従来の概念から、環境に配慮していかに廃棄分を削減するかという、これまでのビジネスの世界では中心的でなかった概念が、今や企業の新製品にまで影響を及ぼしている実例である。

2.三菱ケミカルホールディングス

2015年に国連がSDGsを採択してからESG経営が各企業に急速に広まったが、三菱ケミカルホールディングスはそれに先駆けて取り組みを実施してきた。

同社は持続可能性、健康、快適の3つを企業活動の判断基準とし、それに合致しない製品の製造および販売は実施しないという方針を掲げた。また2011年から、資本効率重視の経営、イノベーションを追求する経営、サステイナビリティ向上の経営の3つを軸とした「KAITEKI」経営に取り組んでいる。

サステイナビリティ向上の経営では、持続可能性、健康、快適のそれぞれの分野で会社独自の指標を定めて数値化している。持続可能性では再生可能エネルギーの利用促進、健康分野では疾病予防に向けた健康管理・健康診断情報の提供、快適では事故・災害の防止を通じて社会から信頼される企業になるための取り組みなどをそれぞれ数値化し、公表している。

また、この指標は各種会議でも共有され、自社を取り巻く環境や社会問題の解決に向けた議論を行う仕組みを設けている。同社の取り組みは投資家からも高く評価されており、ESG投資の世界的な指数である「Dow Jones Sustainability Indices」の構成銘柄に3年連続で選ばれている。

3.丸井グループ

丸井グループは2016年、ESG評価機関とのコミュニケーションおよびESG情報開示を強化するため、社内に「ESG推進部」を設置した。2050年に向けた長期ビジョンとして、共創を基盤とした3つのビジネスを設定した。

1つ目は世代間をつなぐビジネスで、環境負荷を低減するグリーンビジネスや、将来世代との共存するためのヒューマンビジネスを掲げている。

2つ目の共創ビジネスは、すべての人が互いにつながり合えるサービスの提供を目指し、顧客、地域・社会、投資家との結びつきを強化することで、これまで見過ごされてきたすべての人を巻き込みながら、互いの利益を増やしていくというものだ。

3つ目は、ファイナンシャル・インクルージョンである。長期ビジョンの終着点として設定している2050年には、世界中の中間・低所得者層のニーズに応える巨大なマーケットが出現すると予測し、1,000万人以上に金融サービスを提供するとしている。その対象は日本国内に留まらず海外も視野に入れ、クレジットカードや資産形成を通してファイナンシャル・インクルージョンを進めていくという。これらによって、所得格差の解消に貢献することを目指している。

これらの3つのビジネスを展開することで、すべての人々の幸せが拡大し、丸井グループが掲げるビジョン2050が実現するという。

ESG経営は不可欠な時代に

2015年に国連でSDGsが採択された際、社会問題への取り組みは国際機関を中心として、各国の政府がイニシアティブを取るものと思っていた経営者も少なくなかっただろう。しかし、「持続可能性」という概念は瞬く間に広がり、ビジネスの世界にも影響を及ぼすようになった。

その概念を取り入れたESG経営は、民間企業も率先して取り組むことが当たり前と考えられるまで発展してきている。このような潮流を適格にとらえることは、消費者や投資家から信頼される企業となるためには必須だ。ESG経営はビジネスの成長にも貢献するケースが多く、実際に業績向上やブランド力アップにつなげている企業もある。

グローバル化が進み、持続可能性に目を向けず、環境破壊や格差の拡大など様々な社会問題を引き起こしてきた反省から、これまでのビジネスの在り方を見直すことが求められている今、事業規模やビジネス領域に関わらず、ESG経営が不可欠な時代に突入したと言えるだろう。

文・志方拓雄(ビジネスライター)

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