目次
- 理事長の知人のNPO法人を引き継ぎ、ホスピタリティの充実を志す
- 「ライフテラスの最大の強みは、職員を大切にしていることです。そこに全てを傾注している」
- 最も大事なのは「いかに気持ちよく働いてもらえるか」 職員の笑顔が入所者の笑顔につながる
- 見守りシステムを採用 夜間勤務に圧倒的な力、職員に余裕が生まれホスピタリティの充実につながった
- 地球温暖化による異常高温の時代、室内の温度管理のため、2023年に温湿度をモニタリングする環境センサーを導入し居室環境を見える化
- ICT導入は積極的に進めるが完璧は求めない 職員の負担は大幅に軽減され、介護サービスは充実していく
- ICT化のコストかかっても職場環境の改善がホスピタリティの気持ちを生み、利用者家族の信頼を得てリピートが増加
- 働きやすい職場で離職率ゼロ 職員の満足度が利用者の笑顔を生み、地域の幸福度を高める好循環の輪を広げていく
岐阜県中南部に位置する岐阜県美濃加茂市に、地域貢献を第一に掲げて福祉介護事業を展開する特定非営利法人(NPO法人)がある。美濃加茂地域の福祉介護施設に勤務していた仲間10人が集まり、地域に貢献するためにホスピタリティの充実を志すNPO法人ライフテラスだ。ICTを駆使して職員の負担を軽減する働きやすい職場の実現と利用者サービスの向上を目指しており、ホスピタリティを重視する福祉介護施設としての評価が高まっている。(TOP写真:ショートステイきずなのエントランスで山田拓一副理事長(右)と細江隆信事務長)
理事長の知人のNPO法人を引き継ぎ、ホスピタリティの充実を志す
ライフテラスが美濃加茂市に「ショートステイきずな」を開設したのは、2021年4月のことだ。金武真司理事長を中心に、山田拓一副理事長・住宅型有料老人ホーム施設長、細江隆信事務長・ショートステイ施設長をはじめとする地域の福祉介護施設に勤務する10人の仲間が温めていた「美濃加茂の地域に貢献する理想の福祉介護施設をつくる」という夢がその第一歩を踏み出した。
10人の仲間は、もとは金武理事長が25年間勤めた美濃加茂市の高齢者介護施設などを運営していた会社の同僚で、「自分たちの力で地域に貢献していきたい」(金武理事長)との思いを同じくする同志だ。金武理事長が声をかけて10年ほど前から福祉介護分野で地域に貢献していくためのプランを練り始め、金武理事長の知人が名古屋市で活動していた精神疾患の人たちを対象とした医療ボランティアのNPO法人を引き継ぐ形でスタートした。
「ライフテラスの最大の強みは、職員を大切にしていることです。そこに全てを傾注している」
2023年にはショートステイきずなの隣に、住宅型有料老人ホームきずなを開設。この二つの施設を中核に、訪問看護ステーション2カ所や訪問介護ステーション、看護・介護プランを作成するケアプランセンター2カ所を、美濃加茂市と近隣の可児市、愛知県岩倉市に開設し、サポート体制を整えてきた。
「ライフテラスの最大の強みは、職員を大切にしていることです。そこに全てを傾注していると言っても過言ではありません」。金武理事長はきっぱりと言い切る。
「職員を大切にすることが結果的に利用者サービスの向上につながります。働きやすい職場で職員が幸せであれば、自然と施設のホスピタリティが高まり、利用者にも笑顔があふれます。全てが職員を大切にすることにつながるわけで、第一に介護事業の肝は人にあり、職員を大切にしないと成り立たない事業だと考えています」と、金武理事長は働く人の重要性を強調する。
最も大事なのは「いかに気持ちよく働いてもらえるか」 職員の笑顔が入所者の笑顔につながる
職員数には余裕を持たせ、常勤職員の比率も高くしている。職員の負担を減らすために、利用者3人を職員1人が見る体制を採っているほか、短時間労働のニーズにも対応する柔軟な勤務体系も採用。ショートステイ施設長の細江事務長は、「実際、朝の3時間だけ働いてもらっている方もいます。うちは常勤も多く、ある程度の人数は確保されていますが、それにプラスして3時間でも働いていただける人がいれば、職員の負担軽減や利用者サービスの向上になり、ありがたいです」という。山田副理事長も「いかに職員に気持ちよく働いてもらえるかということを最も大事にしています」と口をそろえる。
介護施設の現場を知り尽くしている人たちの言葉だけに、説得力がある。職員の思いや苦労も自らの経験で熟知しているから、より良い職場環境づくりへの思いは強い。
見守りシステムを採用 夜間勤務に圧倒的な力、職員に余裕が生まれホスピタリティの充実につながった
ショートステイきずな開設時から、ICTを活用した業務のデジタル化に積極的に取り組んでいるのも、職員が働きやすい職場環境を整えるためだ。
ショートステイきずなは開設当初から、ナースコールと介護請求業務システムを導入。半年後の2021年秋には、利用者が使うベッドのマットレスの下にセンサーマットを敷くだけで、心拍、呼吸、体動、離着床、睡眠の状態など利用者の状態を離れた場所からパソコンやタブレットで把握、見える化できる見守りシステムを居室に採用した。同システムをナースコールと連携し、異常時には介護士が装着しているインカムに音声通知されるほか、介護記録の記入もタブレットでデジタル化した。
「アナログ人間だった私自身を含め、最初はシステムを使いこなせるのかとの疑問の声は少なからずありました。しかし、夜間に2時間ごとにスキャン情報が届き、その記録が見回りの代わりになると、手書きでの記録も含めて職員の負担は大幅に軽減できました。もちろん排泄処理などもあるので、あくまでもシステムは補助的にとらえていますが、特に夜間の作業量は明らかに違うし、その分職員は余裕をもって対応できるため、ホスピタリティの充実につながっています」
住宅型有料老人ホームの施設長でもある山田副理事長は、見守りシステム導入前の多少不安だった思いを吹き飛ばす恩恵の享受を歓迎する。「利用者の家族の方にシステムのことを説明すると、高く評価してくれます。利用者の安全はもちろん、利用者家族の安心に果たしている役割・効果も大きい」(山田副理事長)とも話す。
地球温暖化による異常高温の時代、室内の温度管理のため、2023年に温湿度をモニタリングする環境センサーを導入し居室環境を見える化
地球温暖化による異常高温により、熱中症の危険が指摘されているが、高齢者の場合、室内が高温になっても感知できずに熱中症になるケースもある。高齢者施設も例外ではない。職員が見守っているので独居の自宅より安心だが、それでも色々予想外のケースもあり気を抜けない状況だ。
そのような背景から、ライフテラスでは、他の施設に先駆けて2023年、利用者の部屋の温度と湿度など室内環境をモニタリングし、外部からもタブレットやモニター、パソコンで逐次確認できるようにするために、有料老人ホームとショートステイ施設の全居室にEH環境センサーを導入した。
施設には自分で体感温度と室温とのギャップの管理がうまくできない利用者もいて、職員は室温調整に細かく目配りする必要があった。しかし、人為的な対応だけではきめ細かな環境管理は難しい面もあった。「環境センサーで取得した居室環境のデータを職員に見える化することによって、温湿度ケアの負担を軽減できるようになった」(金武理事長)という。
各居室に設置された環境センサーが取得したデータは、職員各自がタブレットで確認できるほか、事務所や共有スペースに設置されているモニターで見ることができる。「特に有料老人ホームには認知症の方もいます。お過ごしし易い様に施設内を一定の温度に調整していますが、ご自分で部屋の温度を変えたり、コンセントを抜いたりするケースもあり、夏場だと熱中症の危険が生じてしまいますが、そうした変化もすぐにわかり、対応できます。また、西日の強い部屋とか、日差しによる室温変化を是正し、快適温度にする必要もあります」として、山田副理事長は環境センサーの効果を強調する。
ICT導入は積極的に進めるが完璧は求めない 職員の負担は大幅に軽減され、介護サービスは充実していく
ICT導入は積極的に進めている。しかし、かといってICTを活用したシステムも万能ではない。見守りシステムの誤作動や過剰反応も皆無ではない。ベッドに乗っていて心拍数が安定していても、部分的にしか乗っていないこともあり得る。
だから、ライフテラスでは「システムは危険を軽減するためのもの」と位置づけ、あくまでも目視重視で確認や心配な時は職員自らが対応するようにしている。それでもシステムの活用によって、職員が働きやすい職場になり、連携しやすく、コミュニケーションも密になっている。山田副理事長は「全てをシステムで対応できないとしても、仕事の負担が軽減されているのは間違いなく、職員がフィジカル、メンタル両面で充実すれば利用者サービスは確実に向上します」と断言する。
ICT化のコストかかっても職場環境の改善がホスピタリティの気持ちを生み、利用者家族の信頼を得てリピートが増加
ICTの活用やDXを進めるためには、相応のコストがかかる。細江事務長は、「コスト負担については何に比重を置くかです。うちは働く人を大事にしたいので、その分のコストはある程度仕方がない」と言い切る。すなわち、「経営上のコストは重要だが、われわれの経験則と職員の声を聞きながら、本当に必要なものを精査して導入しています。職場環境の改善は利用者サービスの向上を生み、当法人を選んでもらえれば事業収益にもつながります」(山田副理事長)という考え方で一貫している。
実際に、ショートステイではリピートの利用者が多い。「利用者さんが帰られてからご家族が話を聞いて評価してくれているからだと思います」(細江事務長)
働きやすい職場で離職率ゼロ 職員の満足度が利用者の笑顔を生み、地域の幸福度を高める好循環の輪を広げていく
ライフテラスは2025年3月、有料老人ホーム隣接地に障がい者支援施設を新たに開設する。金武理事長は「とりあえず、そこまでが最初のプラン」という。
現在の職員数は、新設の身障者施設の人員も加えて70人。職員の紹介で人員を増やしてきたが、離職率はゼロだ。一貫して職員の働きやすい職場づくりを目指してきた運営方針の成果を、この数字が物語っている。
ライフテラスが第一に掲げている地域貢献は、「施設と職員、利用者、地域の人が対等で全員が満足しないと意味がないし、成り立ちません」(金武理事長)。職員の満足度が利用者の笑顔を生み、地域の幸福度を高める。そして、それが事業の継続性と成長につながるということだろう。
「今後も最新技術の採用を積極的に検討し、魅力ある職場であり続けたい」と金武理事長は話す。ライフテラスはICTを駆使して、最大の強みである職員を大切にする経営に一段と磨きをかけ、職員から利用者、地域へとつながる好循環の輪を広げていくことを目指している。
企業概要
法人名 | 特定非営利活動法人ライフテラス |
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住所 | 岐阜県美濃加茂市加茂野町加茂野字南野816番地4 |
HP | https://lifeterrace-gifu.net/ |
電話 | 0574-27-7771 |
設立 | 2015年3月 |
従業員数 | 70人 |
事業内容 | 高齢者介護施設運営、住宅型有料老人ホーム運営、訪問看護・介護事業、ケアプランセンター、障がい者支援施設運営など |