新規開拓
(画像=NicoElNino/Shutterstock.com)

経営者として最も悩ましい問題の一つが営業である。特に新規開拓の営業で頭を悩ませている経営者も多いのではないだろうか。実際、多くの経営者が「営業力・販売力の強化に注力している」という調査もあるほどだ。しかしひとくちに営業といっても営業パーソン任せになってしまうことが多くきちんと営業プロセスを確立できていない会社も少なくない。

では、効率的に新規開拓の営業を行うためには、どのような仕組みを導入すればよいのだろうか。本記事では新規開拓を効率化させるための営業プロセスの作り方について解説する。

目次

  1. 会社を成長させるうえで、「新規開拓営業」は欠かせない
  2. 新規開拓営業がうまくいかない3つの理由
    1. 1.営業戦略が明確ではない
    2. 2.ターゲット顧客が明確ではない
    3. 3.顧客に対して正しいアプローチを行っていない
  3. 新規営業を加速するための営業プロセスの作り方とは?
    1. 1.営業戦略の明確化
    2. 2.ターゲット顧客のリストアップ
    3. 3.顧客クラスタごとの営業方針の策定
    4. 4.顧客ファネルごとの顧客管理
  4. 営業プロセスは、「いったん作ったら完成」というわけではない
  5. 新規顧客獲得は、個人ではなく仕組みで行え!

会社を成長させるうえで、「新規開拓営業」は欠かせない

2019年12月日本政策金融公庫が公表した「2020年の中小企業の景況見通し」によると経営基盤の強化に向けて注力する分野で最も多い回答は「営業・販売力の強化」で66.3%だった。多くの企業で経営者が「営業力・販売力の強化」を注力ポイントに掲げているように営業は会社の成長にとって重要であるといえる。

「コストを管理して効率化」「良いサービス・プロダクトを作る」などどれだけ行っても、売れなければ企業としての意味はない。なぜなら企業は商品やサービスなどが売れることで初めて利益を上げることができるからだ。営業の中でも特に大事なのは、新規開拓営業だろう。もちろん「ある程度企業規模がある」「サービス・プロダクトが安定している」「一定のシェアを握っている」という場合は、既存顧客のフォローだけで十分かもしれない。

実際、「1:5の法則」と呼ばれているように新規顧客を開拓する場合、既存顧客との関係を維持するのに比べて約5倍のコストがかかるといわれている。さらに新規開拓営業というのは、営業パーソンにとっても精神的にも負荷が大きく決して誰もが喜んで行う仕事ではない。しかし会社を成長・維持継続させるためには、新規開拓営業が欠かせないのも事実だ。

既存の顧客であっても他社からの営業攻勢により顧客を奪われる可能性があるため、新しい収益源となってくるのが新規顧客である。今後、少なくとも企業の業績を維持しようとするのであれば新規開拓営業は欠かせないといえるだろう。

新規開拓営業がうまくいかない3つの理由

新規開拓営業の重要性は理解しているがなかなかうまく新規開拓営業が進まない……そう思っている経営者は多いだろう。新規開拓営業がうまくいかないことを営業パーソンや営業部の責任にはしていないだろうか。もちろん営業パーソンや営業部に課題があり新規開拓が低迷しているケースもあるだろう。しかし多くの場合は、組織として新規営業開拓ができる組織になっていないのが主な要因だ。

例えば以下のような3つの課題に思い当たりはないだろうか。

  • 営業戦略が明確ではない
  • ターゲット顧客が明確ではない
  • 顧客に対して正しいアプローチを行っていない

1.営業戦略が明確ではない

よくあるケースが「営業戦略が明確ではない」ということだ。もちろん会社である以上、「年間売上○億円」「年間営業利益○千万円」といった目標設定は行っているだろう。ただしこれはあくまで目標であって戦略ではない。さらに例えば「展示会に出展している」「お問い合わせフォームを用意している」といった施策はあくまで戦術であり戦略ではないのだ。

目標を達成するためには「ゴール」「戦略」「戦術」といった3つを分けて考えることが重要である。

・ゴール
まさに「目指すべき姿」そのもので数字に直すと売上や営業利益といったものだろう。また「会社としてどうありたいか」などもゴールといって差し支えないかもしれない。

・戦略
ゴールに向かうために道を作ることだ。そこでは「何をすべきか」「何をすべきではないか」「どのようなルートを通るか」「どういうマイルストーンを作るか」などのシナリオを作る作業になる。例えばゴールとの間に山がある場合、「その山を登ってゴールへ向かうのか」「トンネルを掘って進めるのか」「山を迂回して道を進めるのか」などを考えるのが「戦略」なのだ。

・戦術
戦略を受けて「どのように進めるか」を考えるのが戦術だ。例えば山に道を作る場合の戦略として「トンネルを掘って進める」と決めたとしよう。そのためにツルハシやショベルが必要であれば、それを調達して進めていく。こういった手段を考えて実行することが「戦術」になる。

このように「ゴール」「戦術」「戦略」というのは似ているようでまったく異なる。戦術は現場が考えてもよいがゴールや戦略というのは、トップが責任をもって決めるべきことだろう。この戦略がないことで現場が場当たり的になってしまい結果営業がうまく進まないというケースも少なくない。

2.ターゲット顧客が明確ではない

営業戦略が欠如しているのと同様に課題としてよく聞かれるのが「ターゲット顧客が不明瞭」だということだ。もちろん販売するサービスや商品がある以上、ある程度顧客というのは絞れるだろう。しかし「本当に顧客を正しく絞り込めていないケース」というのが散見されるのだ。例えば「和食器」を製造するメーカーだとしよう。営業パーソンは5人しかいない。

しかし販売ルートは、「お土産物屋」「量販店」「インテリアショップ」「インターネット」「卸会社」「飲食店」「旅館・ホテル」など多岐にわたっている。こういった中で優先順位がつけられず「ただ付き合いが古い先」「ただアプローチしやすい先」といったあいまいな条件で販売ルートをアプローチしている状態だ。

そのため大口が見込める先であったり効率的な営業ができていなかったり……こういったケースの企業では多いのではないだろうか。もちろん「営業パーソンが社長自身」「2~3人しかいない」といった場合はターゲット顧客が明確でなくても通用するのかもしれない。しかし営業が組織化してくればくるほどターゲット顧客の明確化は重要となる。

3.顧客に対して正しいアプローチを行っていない

最後は、「顧客に対して正しいアプローチを行っていない」というケースだ。営業というのは、どうしても属人的になりやすい業務である。顧客の要望というのは千差万別で営業パーソンはそれに合わせて個別にアプローチをしていく。もちろんそれでうまくいくケースもあるだろう。しかし例えば営業パーソンの得意なスタイルが「じっくり時間をかけて営業していくスタイル」だとしよう。

大口客、小口客のどちらにも同じようなスタイルで営業しているとき、大口の場合は問題なくても小口の顧客の場合は、時間を無駄にかけていると感じるだろう。一方、短時間で商談をまとめるタイプの人は、小口客の場合はいいかもしれないが大口の場合は時間をかけていないため、営業の取りこぼしがよく発生する可能性がある。

このように顧客に合わせたアプローチができていないため、営業活動に無駄や機会損失が起きているケースについて思い当たりがある経営者も多いのではないだろうか。これらは「顧客に合わせて正しいアプローチができていない」ことによるものだといえる。

新規営業を加速するための営業プロセスの作り方とは?

では、新規営業を加速するためには、実際どのように営業プロセスを作っていけばよいのだろうか。主な流れを4つに分けて解説しよう。

  • 営業戦略の明確化
  • ターゲット顧客のリストアップ
  • 顧客クラスタごとの営業方針の策定
  • 顧客ファネルごとの顧客管理

1.営業戦略の明確化

まず行うべきは、営業戦略の明確化だ。ただ営業戦略を立てると一言でいってもピンとこない人も多いだろう。具体的には以下のステップで営業戦略を立てていくことが多い。

・ゴールの設定
まずは上述したようにゴールの設定だ。ゴールの設定は、ただ数値上の目標を設定するだけではなく「どのような企業でありたいか」まで踏み込んで考えると良いだろう。

・自社および自社を取り巻く環境を整理し、方向性を決定
ゴールを決めたうえでまずは「現在自社がどの位置にいるか」を整理することも重要である。先ほど戦略とは、道筋を作ることだと述べたのを覚えているだろうか。道筋を作るのには、「自社がどのようなポジションにいるか」「他社がどのような環境にいるのか」などについて把握しないと道筋を作ることは難しくなる。

自社の分析をするときは、「SWOT分析」と呼ばれる強み・弱みを明確にするための分析や「3C分析」(自社・競合・顧客を分析する手法)などを使うことが多い。また外部環境を考えるときは、「PEST分析」と呼ばれる社会や経済がどのような状況かを整理する手法などが使われる。これらは経営者だけが考えればよいものではない。

営業メンバーを巻き込んで社内一丸となって考えることで当事者意識を持たせることも可能だろう。

・マイルストーンとKPIの設定
戦略というのは、短期的な目標ではなく中長期的なゴールへと向かう道筋である。長い道筋を作るためには、通過点で道しるべとなるものが必要だ。ビジネスでは、これをマイルストーンと呼ぶ。マイルストーンとは、例えばゴールが売上だとするとその前の客数、見込み客の人数を何人にするかなどがマイルストーンになるだろう。

このマイルストーンを数値目標化したものが、KPI(Key Performance Indicator)と呼ばれるものだ。最終のゴールだけでなくこのような中間目標を設定することでゴールを見失わず方向を間違うことなく進めるようになるのだ。

2.ターゲット顧客のリストアップ

戦略が決まればその戦略を元にターゲット顧客をリストアップしていくことになる。ここでは、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)と呼ばれる3つのステップを元に顧客を決めていくことが多い。それぞれのステップは以下の通りだ。

・セグメンテーション:顧客分類するための軸を決める
まずは、顧客を正しく分類することからはじめていく。セグメンテーションといえば顧客を「年代」や「性別」で分けることだと思っている人も多いかもしれないが、それはセグメンテーションの一例でしかない。セグメンテーションとは、対象とする顧客を見つけるための「軸」を見つけることだ。セグメンテーションを行ううえで重要なポイントは、「顧客が何に課題を感じているか」である。

再度食器メーカーを事例にあげよう。ひとことで食器が欲しいといっても潜在ニーズは以下のようにさまざまだ。

  • おしゃれなインテリアを作りたい人なのか
  • おもてなしのために特別な食器が欲しいのか
  • 大量に使うため安定した品質のものを安定した価格で欲しいのか

そのケースを分類するのに適切な軸を見つけるのが、セグメンテーションだ。この分類するための軸については、営業戦略策定の際に分析した「SWOT分析」や「PEST分析」が参考になる。

・ターゲティング:どのセグメントを攻めていくかを決める
セグメントで顧客をいくつかに分類したらそこでどこを攻めていくかを決めるのがターゲティングだ。ターゲティングを考えるのにあたっては、「自社」と「競合」についてよく考える必要がある。最も儲かりそうなセグメントは、競争相手が多いのが一般的だろう。逆に競合相手が少ないセグメントは、市場規模そのものが小さいかもしれない。

できるだけ市場が大きく、かつ自社の強みが発揮できるセグメントを探していき決めていくことになる。一方、軸の切り方次第では誰も想定していなかった顧客がターゲットになる可能性もある。例えばユニクロは、トレンド感が求められるファッションという市場の中で「ヒートテック」「ウルトラライトダウン」など「ベーシック×機能」という今までになかった軸で商品を開発した。

その後のユニクロの飛躍については、ご存じの通りだろう。このように誰も想定していないところに市場を作る戦略を「ブルーオーシャン戦略」と言い、難易度は高いもののうまくいけばその市場でトップに立つことができるのだ。

・ポジショニング:ターゲットとする市場でどのような価値が発揮できるか
ターゲットとするセグメントが決まったら、そこで自社がどのようなポジションをとるかを決めていく。例えば分かりやすいのが「価格で勝負するのか」「付加価値で勝負するのか」などだ。この部分についても自社のおかれた環境や競合の状況を整理しながら進めていくことになる。ターゲット顧客を決めることと営業戦略を考えることは密接につながっており、それぞれにストーリーがあることが重要だ。

3.顧客クラスタごとの営業方針の策定

戦略が決まりその戦略を元にターゲット顧客を決めたら次はそのターゲット顧客の集団(クラスタ)ごとに営業方針を決めていくことになる。もちろん営業手法は一つでそれが強力であればあるほど望ましい。しかし実際には言葉でいうほど単純ではない。そのため顧客の集団ごとに異なるアプローチを行うことが有効になる。

例えばあるセグメントにおいて自社は他社に比べ比較的優位な状況だとする。そのセグメントにおいて大口の顧客に対しては、営業パーソンが密接にコミュニケーションをとり顧客を獲得していくことが有効になるだろう。一方、小口の顧客に対しては営業効率を考えて電話やDMなどのインサイドセールスを行うことが効率的かもしれない。

逆に自社の認知度が低いクラスタにおいては、まずは展示会やセミナーを通じた認知度向上がかうか的な可能性もある。営業にかけることができるコストやリソースは有限だ。そのために顧客をグループ化しそれぞれの顧客にあった営業活動をすることが重要である。

4.顧客ファネルごとの顧客管理

顧客をグループ化しそれぞれの顧客に対する営業方針が決まれば最後に行うのは顧客ファネルごとの顧客管理だ。顧客ファネルとは、一つのクラスタの中における顧客の状態を表すものになる。例えば直接営業パーソンが営業を行うクラスタにおいてもさまざまなステップの顧客がいることが想定されるだろう。

  • まだアプローチしていない
  • 一度担当者と会ったことがある
  • 商談が進んでおり、ほぼ受注が決定しているなど

このステップごとに顧客を管理し次のステップに進めるための効果的な手法を考えることが必要になってくるのだ。例えば「一度担当者と会う」までは簡単にいってもその次の「決裁者とのアポをとる」まではなかなか進んでいないかもしれない。その場合は「なぜ決裁者とのアポがとれないか」について考え対策をとる必要がある。これを行うことで顧客獲得までに何をすべきかが明確になってくるのだ。

営業プロセスは、「いったん作ったら完成」というわけではない

上記のような営業プロセスがあれば「誰に、どのように、どのような手段で営業を行うべきか」が明確になり営業効率は飛躍的に上がるだろう。しかし大事なのは一度だけ営業プロセスを作っただけでは終わりではなくメンテナンスすることが必要ということだ。例えば外部環境も変われば自社の営業メンバーが変わることで強みが変わるケースもある。

新しい技術の開発や経済要件などでそもそも市場が大きく変わるかもしれない。こういった環境の変化に合わせて柔軟にプロセスを変更していくことが継続的に営業を効率化するためのポイントになるといえるだろう。

新規顧客獲得は、個人ではなく仕組みで行え!

新規顧客獲得は、既存顧客のメンテナンスに比べても難易度が高く営業パーソンの属人的な活動による部分が大きくなるケースが多い。しかし企業の将来を考えると新規顧客獲得は重要である。そのような新規顧客獲得だからこそ個人の力量ではなく営業プロセスを考慮した「仕組み化」することが重要になってくるといえるだろう。

文・THE OWNER編集部

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