優遇,中小企業,法人税制
(写真=Artur Szczybylo/Shutterstock.com)
北川 ワタル
北川 ワタル(きたがわ・わたる)
公認会計士。株式会社ダーチャコンセプト代表取締役、特定非営利活動法人トランスペアレンシージャパン監事、特定非営利活動法人全国災害復興活動支援機構監事。2001年に公認会計士2次試験合格後、大手および準大手監査法人にて金融商品取引法監査、会社法監査などに従事。2012年、株式会社ダーチャコンセプトを設立し独立。「税金のしくみと手続きがわかる事典」「中小企業経営者のための法人税と決算書のしくみと手続き」(三修社)など監修実績多数。

中小企業に対する優遇税制は、日本経済の成長を支える施策と考えられている。中小企業の法人税制は広範にわたるが、以下では優遇税制を主要なテーマ別に紹介する。

法人税の税額は、企業の所得に法人税率をかけて算出される。中小企業に対する優遇税制で始めに紹介したいのは、法人税率そのものを減らしたり、過去の赤字を所得から差し引ける制度だ。

中小企業の法人税率はいくら?

現在、法人税の基本税率は23.2%である。2012年度にそれまでの30%から25.5%へと引き下げられたのを皮切りに、2015年度に23.9%、2016年度に23.4%、2018年度に23.2%と継続して引き下げられてきた。

法人税率の引き下げは、国際競争力の強化などを目的とした国の施策として行われてきた。一方で、日本経済を支える中小企業に対しては、税負担の軽減を図る目的で軽減税率が用意されている。具体的には、資本金1億円以下などの要件を満たす中小法人については、所得が年800万円以下の部分に対して15%の税率が適用される。

ちなみに、法人税法の本則では税率19%となっているが、時限立法である租税特別措置法により15%まで軽減されている。この軽減措置は、現在のところ2021年3月まで続く予定だ。

企業の所得は、役員報酬や従業員の給与を差し引いた後の利益に相当する。それを考えると「年800万円以下」という条件は、多くの中小企業が恩恵を受けられる水準と言えるだろう。

欠損金の繰越控除とは

黒字の場合は、法人税がかかる。赤字の場合はかからないが、赤字が補てんされるわけではない。そこで、欠損金の繰越控除という制度が設けられている。

これは、過去に発生した欠損金を一定の年数にわたって当期の所得から差し引くことができる制度だ。欠損金を繰り越すことができる年数は、過去の税制改正により5年、7年、9年と延長され、2018年4月以降に生じた欠損金は繰越期間が10年となっている。

欠損金の繰越控除制度において、大企業と中小企業で取扱いが大きく異なる部分がある。それは繰越控除に対する限度額の有無だ。

大企業は、過去の繰越欠損金が多かったとしても、その年の所得の50%の範囲でしか控除できないことになっている。以前は所得の80%が限度だったが、2015年4月1日以降、数年にわたって65%、60%、55%、50%と限度額が縮減されてきた。

これに対して、中小企業では限度額がない。繰越欠損金が多ければ、その事業年度の所得をゼロにすることもできるのだ。

設備投資に関する制度は特に盛りだくさん

中小企業において、将来の成長や生産効率の向上には設備投資が欠かせない。一般的に、機械や備品などの固定資産に設備投資をすると、取得原価が一旦貸借対照表に計上され、耐用年数にわたって減価償却されていく。

つまり、固定資産の使用を開始した年度に会計上の費用や税務上の損金になるのではなく、複数年度にわたって費用あるいは損金に計上されるのが原則だ。

ところが、中小企業では一定の要件を満たした場合に、固定資産を通常より早く償却したり、取得価額の一定割合を法人税額から直接控除できたりする特例が設けられている。ここでは、主要なものをいくつか紹介しよう。

少額減価償却資産の特例

「少額減価償却資産の特例」は、中小企業が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した場合、その全額を取得した事業年度の損金として算入することができるものだ。対象となる資産は、機械などの有形資産に限らず、ソフトウェアのような無形資産も含まれる。

たとえば、25万円のソフトウェアを購入した場合、通常であれば耐用年数5年で償却して、年間5万円が損金として計上される。しかし、少額減価償却資産の特例を適用すれば、25万円全額が購入年度の損金として認められるため節税効果が大きい。

これと似た制度に「一括償却資産」と呼ばれるものがある。この制度では、取得価額10万円以上20万円未満の資産について個別に減価償却をするのではなく、取得価額の合計を3分の1ずつ3年間にわたって損金に計上していく。一括償却資産は大企業にも認められている制度だが、より早期に償却できる少額減価償却資産の特例は中小企業にだけ認められた優遇制度だ。

ただし少額減価償却資産の特例には、取得原価の合計が年300万円までという上限がある。また、一括償却資産は償却資産税の対象とならないが、少額減価償却資産は対象となるため、併せて注意したい。

中小企業経営強化税制

「中小企業経営強化税制」は、一定の設備を取得あるいは製作した場合に、即時償却あるいは10%の税額控除ができる制度だ。即時償却と税額控除は、有利なほうを選択できる。なお、中小企業でも資本金3,000万円超の場合は、税額控除の割合が7%となる。

対象となる資産は、生産性が旧モデル比で年平均1%以上向上する設備(生産性向上設備)や、投資収益率が年平均5%以上の投資計画にかかる設備(収益力強化設備)である。具体的には、機械装置や器具備品、建物附属設備、ソフトウェアなどあらゆる資産が対象となる。

中小企業経営強化税制を適用するためには、「経営力向上計画」を作成し、主務大臣の認定を受ける必要がある。経営力向上計画は、中小企業等経営強化法という法律に定められたもので、人材育成やコスト管理などのマネジメントの向上、設備投資など自社の経営力を向上させるための計画を指す。

経営力向上計画が認定されると、日本政策金融公庫による低利融資や信用保証協会による保証が受けやすくなるというメリットもある。中小企業経営強化税制の適用期限は、平成31年度税制改正で2021年3月末まで2年延長されており、積極的に活用したい制度だ。

中小企業投資促進税制

「中小企業投資促進税制」は、中小企業が機械設備などを導入する際、取得価額の30%に相当する特別償却あるいは7%の税額控除ができる制度だ。こちらも有利なほうを選択できる。

対象となる資産は、1台あるいは1基当たりの取得価額が160万円以上の機械装置、120万円以上の測定工具や検査工具、一定のソフトウェア、貨物自動車などだ。製造業や建設業などの指定事業に使用されるものが該当する。

先ほどの「中小企業経営強化税制」と名称が似ているが、中小企業投資促進税制では経営力向上計画の認定は不要だ。なお、中小企業投資促進税制の適用期限も、平成31年度税制改正により2021年3月末まで2年延長されている。

商業・サービス業・農林水産業活性化税制

「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」は、商業やサービス業を営む中小企業が経営改善に資する設備などを取得した場合に、取得価額の30%に相当する特別償却あるいは7%の税額控除ができる制度である。なお、法人税の税額控除ができるのは、資本金3,000万円以下の法人に限られる。

対象資産は、1台または1基の取得価額が30万円以上の器具備品や、60万円以上の建物附属設備だ。ただし、中古品は対象とならないので注意したい。

また、これらの資産が経営の改善に資することについて、経営革新等支援機関などから経営改善指導助言書類の交付を受けることが要件となっている。

対象となる指定事業には卸売業や小売業、情報通信業をはじめ、その他多くのサービス業が含まれる。税制の通称が示すとおり、農業、林業、漁業、水産養殖業なども対象となっている。

商業・サービス業・農林水産業活性化税制の適用期限も、平成31年度税制改正により2021年3月末まで2年延長されている。

「交際費800万円まで損金」は中小企業だけ

「交際費で落とせる」という常套句があるように、一般的には交際費は損金に計上すると思われているかもしれない。しかし法人税法上、交際費は原則的に税務上の損金とはならない。

交際費の損金算入限度額

原則は損金にならない交際費だが、資本金1億円以下の中小企業においては、一定の上限額まで交際費が損金計上できるようになっている。その上限は、年間800万円だ。

仮に800万円を超えた場合、超えた部分については税務上の損金にならない。つまり、会計上の費用としては計上されるので企業の利益は減るものの、税務上は損金とならないため、法人税などは安くならない。

交際費は冗費であるという考えのもと、原則として損金と認められない。しかし、取引先の接待などが企業の売上につながるという面もある。また、交際費が消費支出を増やし、経済を刺激すると考えることもできる。

そこで、以前は大企業にも認められていた交際費の損金算入限度額を、現在では中小企業にだけ認めている。交際費を使いながら、節税にも役立てることができるというのは、中小企業の特権なのだ。

交際費にはどのようなものが含まれる?

交際費は、得意先や自社の事業関係者に対して接待、贈答、慰安などを目的として支出する費用のことだ。典型的な例を挙げると、取引先と一緒に食事をしたり、中元・歳暮といった贈答をするための支出が交際費となる。

なお、1人当たり5,000円以下の飲食費は交際費として処理しなくてよいことになっている。つまり、そのような飲食費は「年間800万円まで」に含める必要がなく、一定の記載要件さえ満たしておけば、会社の損金に計上される。

実務的には、1人当たり5,000円以下の飲食費は別の科目で処理して損金とすることで、交際費の損金算入対象を抽出しやすくなっているのだ。

飲食費の50%が損金になる

実は、「年間800万円の枠」以外にも使えるものがある。交際費のうち贈答などを除く「接待飲食費」については、その50%までが損金にできることになっている。しかも、これには年間の上限額がない。

そのうえ、中小企業は「年間800万円の枠」と「接待飲食費の50%損金算入」のうち有利なほうを選択できる。たとえば、接待飲食費が1,600万円を超える場合、接待飲食費の50%にあたる額も800万円を超える。そのため、「接待飲食費の50%損金算入」を使ったほうが損金算入できる金額が多くなるのだ。

「接待飲食費の50%損金算入」は大企業にも認められているが、「年間800万円の枠」と「接待飲食費の50%損金算入」から選択できるのは、中小企業だけの特権だ。

研究開発費の一部を税額から引いてくれる制度

研究開発は、企業の成長力の源泉となるものだ。そのため、国としても活発な研究開発を後押しする必要がある。

研究開発費を支出すれば、他の経費と同様に損金に計上されるので、法人税の負担はある程度軽減される。しかし、それに加えて研究開発費の一定割合を法人税額から直接控除できる制度がある。

中小企業の研究開発を優遇する施策

研究開発税制には、いくつかの種類がある。まず、試験研究費の増加率に応じて試験研究費の総額の一定割合を税額控除できる「総額型(中小企業技術基盤強化税制)」が挙げられる。特に、積極的な研究開発投資を行うベンチャー企業については控除の上限を引き上げるなどの税制改正も行われている。

また、特別試験研究費に対する税額控除を認める「オープンイノベーション型」もある。特別試験研究費とは、国の試験研究機関や大学その他の者との共同研究に要する費用のことだ。特別試験研究費には、中小企業者への委託研究に要する費用や、中小企業者に対して支払う知的財産権の使用料なども含まれる。

さらに、試験研究費の割合が売上の10%を超える企業に対しては、「総額型」の控除上限の上乗せや控除率の割増しといった措置がある。なお、これらの税額控除は法人税額から無制限に差し引けるわけではなく、法人税額の一定割合までという上限が設定されている。

複雑な研究開発税制

研究開発税制は、そのときの経済情勢などに合わせ、時限立法である租税特別措置法で定められているものなので、頻繁に改正や見直しがある。そのため複数の制度があり、適用要件も複雑であることが特徴だ。

直近の平成31年度税制改正でも、それまでの「高水準型」を「総額型」の上乗せ措置に統合させたり、控除できる割合が変更されたりしている。各制度の適用期限の延長などもあるため、現在どの制度が使えるのか、税理士などの専門家に相談しながら慎重に検討すべきだろう。

中小企業の賃金拡大を促進するための優遇制度

企業が賃金や給与を増やすことで、景気を刺激する効果が見込まれる。一方で、資金余力のない中小企業が人件費の負担に苦慮することも考えられる。そのため、賃金や給与の支給額を増加させた企業に対して、一定のインセンティブを与える施策が有効と言える。

中小企業向け所得拡大税制

そこで、青色申告書を提出している中小企業が従業員の給与支給額を前年比で1.5%以上増加させた場合に、増加額の15%相当を法人税額から控除できる制度が設けられている。

さらに、前年比で2.5%以上増加させた場合には、一定の要件を満たすことで前年からの増加分に対して25%相当の税額控除を受けられる。 一定の要件とは、以下の2つである。

1つは、適用事業年度における教育訓練費の額が、前事業年度のそれと比べて10%以上増加していること。もう1つは、中小企業等経営強化法にもとづく「経営力向上計画」の認定を適用事業年度末までに受け、その経営力向上計画を実行したことで経営力が確実に向上したことが証明されていることだ。

要件の確認は必須

これらの制度も、要件をしっかり確認しておく必要がある。たとえば、対象となる「国内雇用者」には、パートやアルバイト、日雇い労働者も含まれるが、使用人兼務役員を含む役員や役員の「特殊関係者」などは含まれない。

また、「給与等」に何が含まれるのか、出向者はどのように扱えばいいかといった疑問もある。要件の確認には高度な判断が必要となるので、やはり専門家や税務署に相談すべきだろう。

中小企業に対する施策は、今回紹介したもの以外にもたくさんある。また、法人税だけに限らず、事業税や法人住民税、さらには消費税や固定資産税も考慮しなければならない。おおまかな内容を把握するためには、国税庁が配布している中小企業向けのパンフレットなどを参考にするといいだろう。

文・北川ワタル(公認会計士)