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神奈川県横浜市で60年以上にわたって、上水道工事を中心とした土木事業を行ってきた有限会社峯岸工務店は、総勢7人ながら横浜市内の各地で行われている水道工事を請け負い、現場を管理し施工する業務を行っている。2024年1月に発生した能登半島地震を含めた震災に、復興支援要員を送る社会貢献活動をこなしながら、忙しい日々の業務を続けられる背景には、IT導入補助金を活用した積算業務システム導入による業務の大幅改善にある。(TOP画像:地域貢献という経営理念を掲げた峯岸工務店のホームページ)
横浜市が急速に発展していた1961年に創業し、市内の各所で進む開発に伴う水道工事を手がけてきた峯岸工務店。道路に水道管を敷設し道路脇に建てられる住宅まで水道管を引き込む仕事を通して、横浜市民の生活を支えてきた。「実は、横浜が近代水道発祥の地なんです」と代表取締役の峯岸博之氏。「明治初期に発展した横浜の市街地は埋立地が多く井戸水が利用できず神奈川県知事が英国人技師ヘンリー・スペンサー・パーマーを迎えて水道の開発に取り組み、1887年(明治20年)に日本発となる近代水道での給水を開始した」(横浜市の資料より)
地域貢献を経営理念に織り込み、地元の水道工事だけでなく震災被災地域の復旧支援にも全社を挙げて取り組んでいる
こうした誇りもあって、横浜市では全国各地で発生してきた震災で破損した水道の復旧支援に積極的に取り組んでいる。「1995年1月に発生した阪神・淡路大震災の時に、支援の話が横浜市から水道工事会社で作っていた任意団体に来ました。当社は最初の方に現地へと行きました」(峯岸社長)。2011年3月の東日本大震災でも対応した。2024年1月に発生した能登半島地震では、「会社の仕事の手を止めて、石川県輪島市に行って復旧の手伝いをして来ました」(峯岸社長)。
刷新したホームページに代表取締役発案の経営理念を掲載 取引先や同業者、就職志望者に広く知ってもらおうとしている
同社では「経営理念」を策定していて、その最初に「有限会社峯岸工務店は、上水道工事という職業を通じ、地域社会に貢献する」という方針を掲げている。被災地の復興支援もこうした理念の一環。本業に影響は出るが、公共事業を手がける会社の社会的な役割を示す機会であり、社会貢献に寄与しているという従業員の意識も高められるため、今後も続けていく方針だ。
「経営理念」には同時に、「法令諸規則を遵守し、無災害施工・高品質の技術を顧客に提供することを目標とする」「顧客の満足を得て、付加価値を高める」「企業の繁栄は、社員の幸福につながる」という方針も掲げられている。社会に貢献し、顧客の満足を最大化することで自分たちの生活も良くなるという循環が、しっかり行われていると言えそうだ。
この経営理念を同社では、従来のものを一新する形で2019年にリニューアルしたホームページの中に置いている。「会社の方針を、大勢の方々により深く理解してもらいたいと考えました」(峯岸社長)。建設業のホームページは、人手不足の解消を目指して求人に関連する情報を中心に載せる傾向がある。ただ、「それでもやはり人は来てくれません。それなら、ドーンと経営理念を載せることで、取引先や役所の方々、同業者の人たち、就職を希望する人たちにも広く見てもらえます」(峯岸社長)。
ホームページに新しくメタバースのページを置いてSDGsへの取り組みを紹介しつつ先進性をアピール
ホームページ自体は以前から開設していたが、簡単な内容を伝える会社案内のようなものだった。新しいホームページは、「あくまでも会社の顔と位置づけて、そこから仕事を取ることよりも、必要な情報を発信していくことに努めています」(峯岸社長)。開設後の改良も行っており、2023年には3次元空間を動き回れるようなメタバースのページも作った。「新しいことに常に関心を向けていることを知ってもらいたいと考えました」(峯岸社長)。中に入ると、同社が積極的に取り組んでいるSDGsに関する情報が掲載されて、先進性をアピールしている。
採用をまったく意識していないわけではない。ホームページ内に採用に関するコーナーを作り、「少数精鋭で風通しのよいアットホームな環境、入社後はベテラン社員の指導があるので、未経験の方でも安心して働いていただけます」と発信して、安心感を誘っている。峯岸社長自身が登場してインタビューに答えながら、仕事の内容や経営理念を紹介する動画も掲載して、見た人がわかりやすく同社のことを理解できるように努めている。
土木工事の見積を積算するシステムを導入して効率化を実現し、より多くの案件獲得に乗り出す
それでも、確実に人員を確保できる環境にはない中で、必要なのが業務の効率化だ。今いる人員で最大限の仕事を確保できるようにする意味もあって、同社では工事の見積などの時に必要な資材を拾い出して費用を積算するソフトを、IT導入補助金制度を活用して2018年から導入し、業務に活用している。「水道工事で使う資材があらかじめ登録されているため、選んで並べるだけでだいたいの費用が集計できます」(峯岸社長)
一つひとつの資材をカタログなどから探して記入し、使用個数と単価をかけた上で総計を出すとなると、手作業では大変な時間がかかってしまう。積算ソフトはこうした作業を少ない時間で済むようにしてくれる。結果、「より多くの案件について見積を作成できるようになりました」(峯岸社長)。バージョンの更新も行っており、最近は「発注元から送られてくるPDFの図面を読み込ませるだけで、部材をピックアップして並べ、計算してくれるようになりました」(峯岸社長)。これも圧倒的な時間の短縮につながった。
給与計算システムを導入して集計の手間を省いた峯岸工務店が次に取り組むのは外国人の活用や安心して働ける環境作り
情報化関連では、2023年に給与計算のシステムを導入し、それまで手動で計算していた作業を大幅に軽減させた。従業員は7人しかいないため、勤怠に関しては従来からのタイムカードを利用しているが、そこから就業時間を一人ひとり抜き出して、時間外や休日といった要素も加味して計算する作業が結構な手間になっていた。「今は、給与計算のシステムに勤怠の記録を入力するだけで済むようになりました」(峯岸社長)
今後の課題や希望としては、ひとつには従業員が出先の現場でどのような働き方をしているかを、リモートで把握できるようなシステムの導入がある。「監視ととられかねないため、すぐに導入することはありませんが、何かアクシデントが起こった際に、関わりがあったかなかったかを証明して、従業員に安心してもらうデータとして使えるので、検討を続けていきます」(峯岸社長)
事業の強化に関連した採用面では、日本人の働き手がいないのなら外国人の雇用も考えたいとのこと。同社の従業員が担っている工事現場の管理については、資格が必要となるため外国人に替えることはすぐには難しい。ただ、より現場に近いところで作業をする人員に外国人が増えていることもあり、「管理者と作業員の間に立ってコミュニケーションを取るような人材として、外国人の方を活用できるのではないかと考えています」(峯岸社長)
外国への進出を視野に入れつつこれらも地域貢献を軸に経営していく
これには先があって、「外国で同じような仕事をする時に、つながりとなってくれるのではないかと期待しています」(峯岸社長)。今は古くなった水道管を入れ替える仕事が続いているが、それもいずれ減っていく。水道管自体の耐久性も向上しているため、次の交換までの時間も長くなる。国内の仕事が減る傾向にある中で、「当社で働いてもらった外国人の方が、自国に帰って同じような仕事を始めようとした時に、お手伝いする事も考えています」(峯岸社長)。
日本と違って上水道の普及はこれからといった国が世界にはまだ多い。「有限会社峯岸工務店は、上水道工事という職業を通じ、地域社会に貢献する」という同社の経営理念が、今度はグローバルに広がっていくことになりそうだ。
企業概要
会社名 | 有限会社峯岸工務店 |
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本社 | 神奈川県横浜市磯子区杉田4丁目7番33号 |
HP | https://minegishi-koumuten.jp/ |
電話 | 045-771-3181 |
設立 | 1961年8月(事業開始は1961年6月) |
従業員数 | 7人 |
事業内容 | 上水道工事業・水道施設業・管工事業・土木工事業・舗装工事業 |