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富士山を近くに望む山梨県の河口湖町で金属部品の切削加工やブラスト加工を行っている株式会社エフエーエムは、以前まで長い期間データベース管理ソフトを使って顧客管理を行ってきた。しかし担当していた従業員が退社し、新しい顧客の追加やシステムのメンテナンスができなくなっていた。事業の継続に支障が生じかねないことから販売・仕入・在庫管理システムを一新し、勤怠管理システムも導入して法令を遵守できる体制を構築。次の世代につながる会社にしていくための一歩を踏み出した。(TOP写真:エフエーエムの工場内に設置されたマシニングセンターを操作する従業員)
5000万円の最高級レコードプレーヤーで土台になる金属部品を高精度で加工・製造し精密加工の実力を見せる
アナログレコードからCDになり配信が主流になった音楽の世界で今、アナログレコードに再注目が集まっている。日本では2023年に枚数で前年比26%増の269万枚のアナログレコードが売れ、アメリカではCDよりアナログレコードの方が売れている。レコードプレーヤーも、手軽に再生できてそのままメモリカードに録音できるものから、かつてのオーディオ愛好家が買い求めた高級プレーヤーまで様々な機種が今も売られるようになった。
そうした中、2020年に登場した「Air Force Zero」というプレーヤーは、5000万円という空前の価格で注目を集めた。オーディオ輸入商社のステラが、自社ブランドとして展開している「TechDAS」の最高機種として開発したもので、中央のターンテーブルを柱のような部品が取り囲み、それらを頑丈な土台が支えている。この「Air Force Zero」でプラッターベースと呼ばれる超々ジュラルミンの部品を加工・製造したのが株式会社エフエーエムだ。
「1000分の8ミリという精度で削り出しました」と代表取締役の柏木仁郎氏。一般的な金属部品ではそこまで必要とされない精密さで加工し、音質にこだわるプレーヤーメーカーの期待に応えた。「高い精度が出たのはまぐれのようなものです」(柏木社長)と謙遜するが、普段から半導体製造装置向け部品のような高い精度での加工を求められる金属部品を製造してきたノウハウがあったからこそ、実現できたと言えるだろう。
マシニングセンターを使い加工の時間や手間を短縮しつつ、作業の手順やプログラミングのノウハウで高精度の加工を実現する
「かすかな傷がついても精度が違ってきます。製造から出荷まで慎重に対応しました」と、実際の製造に携わった常務取締役の柏木翔太郎氏も振り返る。「そうした製造過程全般を管理して品質を保持することも、精度を出すことに劣らず重要なノウハウだと言えます」(柏木翔太郎常務)。以前は何時間もかかっていた高精度の加工が、今はマシニングセンターを使えば短い時間で行える。長く勤めて腕を磨いた熟練工との差はほとんどない。
それでも差は生まれる。「“段取り8割”と言われるように、工作機械にかける前の段階にいろいろとノウハウがあります。どのような刃物を使ってどのような手順で削るかによって、製品の精度も完成までの時間も違ってきます」(柏木仁郎社長)。そうした手順を決め、加工のためのプログラムを組む作業に、長く現場で作業をしてきた職人のノウハウが生かされる。製造した製品をどのように取り出して梱包し、出荷するかの流れも含めた品質管理の能力があってこそ、超高級レコードプレーヤーに使われる重要な部品を手がけることができた。
先端の機械導入は省力化や効率化に大いに役立っている。広い工場に見えても、実際に製造を担当している人員は7人ほどしかいない。「6台ある工作機械の数に合わせ夜勤のシフトも入れるとそうした人数になります」(柏木仁郎社長)。毎日のように削り出される大小さまざまな部品を、それだけの人数で手がけられるということは、相当に生産性が高いということだ。
その一方で、事務の方では「長く事務作業をお願いしていた人が2020年に退社して、データの更新がままならない状態が続いていました」(柏木翔太郎常務)。独自に開発したシステムではなく、1980年代のパソコン黎明期から存在する伝統のあるデータベースソフトで、Windowsに対応したバージョンアップも行われていた。しかし、「入力や使用をひとりの担当者に任せきりにしていたため、どのようにデータを構築したのか、どのように更新すればいいのかが、他の誰にもわからないものになってしまっていました」(柏木翔太郎常務)。
前任者が引き継ぎのないまま退社して更新ができなくなった顧客管理システムを新しい販売・仕入・在庫管理システムに置き換え 在庫状況の把握が毎日できるので生産遅れ、過剰在庫の確認も可能となった
そのまま動かすこと自体に問題はなかったが、「年々増えていく新しい取引先のデータを入れようにも、どう入れたらいいかわからず困っていました」(柏木翔太郎常務)。そこで同社では、2024年初頭に販売・仕入・在庫管理システムへの入れ替えを行った。懸念されたのが古いデータの新しいシステムへの移管だったが、「取引先に関するデータはほぼコンバートできました」(柏木翔太郎常務)。これによって従来の顧客を管理しつつ、新しい取引先をリストに加えていけるようになった。
新規の販売・仕入・在庫管理システムは、ほとんど目視に頼っていた在庫管理もしっかりと行えるようにしてくれた。「どれだけ倉庫に部材があり、製造した製品の在庫があるかがシステム上から確認できるようになりました」(柏木翔太郎常務)。導入以前はどこに何があるのかわからず、見た目と経験に頼っていたため、棚卸しの時になってようやく全体像が判明していた。新しいシステムでは毎日確認できるため、生産の遅れはないか、余計な在庫は持っていないかを把握して、効率のいい生産計画の策定につなげられると期待を寄せる。
勤怠管理システムを導入して勤務時間を1分単位で把握し、残業の超過をいち早くチェック
勤怠管理についてもシステム化を進めた。ICカードを使い出退勤の時間をチェックする方式で、「タイムカードを使っていた時は30分単位だった勤務時間の把握を1分単位でできるようになりました」(柏木翔太郎常務)。タイムカードに記録していた時は、1枚1枚をチェックして休憩時間や残業時間を確認し、勤務時間を把握していた。集計に1人の担当者が1日や2日を費やしていたが、今は「あらかじめ設定してある情報を元に、時間外や休憩時間も含めた勤務時間をすぐに算出してくれます」(柏木翔太郎常務)。
残業がどれくらいまで達しているかもすぐに把握できるため、「36協定で決められた時間を超えてしまわないかを毎日確認して、従業員に注意喚起が促せます。従業員の方も残業時間を自分で確認して調整できます」(柏木翔太郎常務)。受注が重なって忙しくなった時など働いてほしいと思っても、法令遵守のスタンスで臨まなくては今の社会では認められない。その分は生産性の向上によって時間あたりに稼げる金額を増やすことで乗り切っていく。
CADや業務ソフトを扱える人を増やして担当者の退社や欠勤のリスクに備え事業が継続していける体制を整える
個人に長く依存してしまったため、業務の移行に支障が出てしまった経験から、これからは極力、いろいろな人がシステムを触れるようにしたいと考えているという。「今は自分がほとんど1人で担当していますが、長く休むことになる事態も想定して、誰でも扱えることが目標です」(柏木翔太郎常務)。取引先から紙で届くことが多い図面を、マシニングセンターで扱えるようにするため、CAD(コンピュータ支援設計)ソフトでデータ化する作業も、現状は1人で行っている。これも任せられる人を増やし、その分の時間を受注などの業務に広げて収益増加を目指す。
工場で働いている人が次の作業者に業務を引き継ぐ時に、今はホワイトボードに書き出す形をとっているが、「これを電子伝言板のようなシステムに変えられないかと考えています。現場で作業員が見る図面も今は紙のものを広げていますが、タブレットなどに映し出せるようにできれば、見やすくて便利になるのではと思っています」(柏木翔太郎常務)。ICTツールを使った生産性の向上につながる改革に余念がない。
「自分が現場の人に任せきりにして、事業の引き継ぎで味わった苦労を、次の世代には感じてほしくないですね」(柏木仁郎社長)というスタンスから、次の世代が進めるデジタル改革を応援する。こうした中から今度はどのような世界を驚かす製品を作り出すのかが楽しみだ。
企業概要
会社名 | 株式会社エフエーエム |
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本社 | 山梨県南都留郡富士河口湖町船津西恋路1987-2 |
HP | https://fam-co.jp/ |
電話 | 0555-73-3191 |
設立 | 1984年12月 |
従業員数 | 18人 |
事業内容 | 大物機械加工、マシニング加工、汎用フライス加工、精密部品加工、試作品作成 |