目次
- 電気溶接技術を強みに創業し1989年に法人化 リサイクルプラント製造、搬送設備据付、修繕と業容を拡大 社会インフラの担い手に
- 設備製造や修繕で年間150~200ヶ所の施工。大型設備案件の減少を補う消耗品パーツのネット販売は売上高の2割に成長
- 2020年からスマートフォンで施工現場の写真データベースを構築 施工例や解決策を検索できる環境を整備 技術継承の活用を目指す
- 勤怠管理システムが2024年に本稼働 実働時間把握による残業抑制 給与計算システムとも連携し事務作業の負担大幅軽減
- SDGsにつながる「5エス環境整備活動」を約10年前から実施 整理、整頓などの徹底と改善で経営効率と業績向上に寄与
- 設立35周年を機に、培った技術を農業や食品など他の業界で活用する経営ビジョンを策定 事業承継問題が解決し、経営体質強化
株式会社山十産業は、鉱山などの砕石・砂利製造技術を基本に、「わる・ふるう・はこぶ・まぜる・ためる」ための製造設備やメンテナンスが主業務だ。コンクリート用砕砂や道路用砕石製造など各種プラント設備の企画、設計から施工、メンテナンス、部品供給まで一貫したサービスを提供している。「安くてスピーディーで高品質」に磨きをかけるため、製造現場や管理業務の積極的なデジタル化に取り組む。その先には、培った技術力を異業種の製造分野に生かす構想もある。(TOP写真:鉱山から採掘された岩を用途に応じた大きさに砕石する)
電気溶接技術を強みに創業し1989年に法人化 リサイクルプラント製造、搬送設備据付、修繕と業容を拡大 社会インフラの担い手に
望月優志代表取締役の父親が1965年に個人商店として山十産業を創業。当時は珍しかった電気溶接技術を強みに土木建設や建設重機の修繕業務を行っていた。高度経済成長期のただ中で、公共工事が急増。コンクリート用や道路用などの砕石プラント需要の増大に対応してプラント設備製造や修繕事業が主力事業となり、1989年に法人化、1996年には株式会社化して業容はさらに拡大した。
望月社長が経営を引き継いだのは2009年、42歳の時だった。現在は、砕石プラントやリサイクルプラントの製造、ベルトコンベヤーなど搬送設備の製造・据付・修繕が事業の9割を占めている。顧客は鉱山会社から設備メーカー、商社など幅広い。石を用途に応じた大きさに砕いて運ぶ仕事は土木や建築など社会インフラ構築に欠かせない重要な産業である。東日本大震災を機に、強靭(きょうじん)な社会インフラ構築が叫ばれ、土木工事に欠かせないコンクリートやアスファルトの需要も増大したため、業績は拡大してきた。しかし、近年は設備投資削減や高齢化による廃業など業界を取り巻く環境は厳しさを増している。
設備製造や修繕で年間150~200ヶ所の施工。大型設備案件の減少を補う消耗品パーツのネット販売は売上高の2割に成長
業務改革を指揮する根本康文専務取締役は「近年は設備の新設は以前より少なくなってきた。小規模な修繕工事を含めると年間150ヶ所から200ヶ所の施工ペースで、需要がなくなることはないが新たな市場開拓も必要になっている」と新たな商品づくりと得意先づくりに意欲を燃やす。
同社の2024年7月期の売上高は約4億6000万円で、ここ数年大きな変化はない。大規模な設備製造の受注が業績を押し上げることが多いが、「大型設備投資が減って、部分的更新が増えている」(根本専務)。
受注の目減りを穴埋めしようと取り組んできたのが、消耗品パーツ類のインターネット通販だ。「新型コロナ感染以降は“顔を見ないで買える”ネット通販需要が増えており、現在は売上高の2割近くを占める」(根本専務)ほどの有力事業に成長した。
2020年からスマートフォンで施工現場の写真データベースを構築 施工例や解決策を検索できる環境を整備 技術継承の活用を目指す
根本専務が、経営基盤安定のための最大の課題と考えているのが技術の継承だ。全額会社負担で鉄工技能士や施工管理技士、機械保全技能士などの資格取得を推進しているほか、幅広い業務に応じた各種技能講習を積極的に受講させて技術習得にたゆまぬ努力を続けている。背景には「限られた就労時間や熟練技術者が次第に退職していく中で、ベテランから若手に口伝でワザを教える時代ではなくなった」(根本専務)と割り切らざるを得ない技術継承の難しさがある。
2020年にはスマートフォンのカメラを使って現場の作業を詳細に撮影して、写真データを保存。クラウド上のデータベースに写真を保管して、必要に応じていつでも検索できる環境を整備した。4年間で写真は5万9000枚超、動画は970本に達した。
これらの保存データは時系列や工事案件ごとの検索しかできないが、同社は現在、設備や施工技術など横断的にきめ細かく検索できるよう再利用データベースの構築に取り組んでいる。根本専務は「ある施工技術が過去にどれくらい経験してきたことなのか、どうやって問題解決したのか、現場の技術者が直面する問題点をデータベースから調べることができるようになれば、技術継承の一助となる」との考えで、データベース検索システムの活用を急いでおり、すでに試験運用を始めているという。
勤怠管理システムが2024年に本稼働 実働時間把握による残業抑制 給与計算システムとも連携し事務作業の負担大幅軽減
技術継承とともに課題となっていた労務管理の見直しにも着手した。現場の実働時間把握と事務作業の負担軽減を目的に2024年9月に勤怠管理システムを導入。10月には本格運用を始めた。
従来、毎月25日の締め日後にタイムカードから出退勤時間を書き写して計算していた。一人ひとりの残業や出張などの計算は煩雑で、「締め日の後、1日半から2日がかりで計算していた」(経理総務部門の丸茂和代さん)という。
「脱・手計算」を合言葉に取り組んできた導入プロジェクトは順調で、直行直帰などの現場でスマートフォン入力したものを事務所でリアルタイムに確認できるようになった。「今までの計算作業が不要になった上、20時間、40時間とアラートで残業時間を本人にも知らせてくれる」(丸茂さん)ことも残業の減少に効果が期待できそうだ。
「多い時は残業が1人80時間という時もあった」(根本専務)が、残業時間は次第に減少してきた。有給休暇は積極的に取るようになり、土日出勤の際の振替休日もすぐ取るように上司が指示している。勤怠管理システムの本格運用によって、残業時間の一層の減少に加えて、残業が多くなりがちな従業員の負荷の平準化も目指している。また、本格運用と同時に給与計算システムとも連携。事務作業はさらに効率化されつつある。
SDGsにつながる「5エス環境整備活動」を約10年前から実施 整理、整頓などの徹底と改善で経営効率と業績向上に寄与
創業時から顧客のニーズに対応して新たな機械設備開発を手掛けながら企画、製造、据付から保守まで一貫サービスを提供してきた山十産業は、「お客様の必要とするものをつくることで、自らの技術と人間性を高める。社会と社員の為に進歩を惜しまず、愛される会社をつくる。」を経営理念としている。
10年ほど前から続けている「5エス環境整備活動」は、経営理念を支える職場環境の改善運動であり、SDGs(持続可能な開発目標)につながる取り組みと言える。「5エス」は、整理、整頓、清掃、セイフティ、整備、清潔、しつけの頭文字だ。従業員に染みついた現場の整理や改善を追求する姿勢は、事業全体の生産性を持続的に向上させてきたと思われる。
根本専務は「定数的な効果は示しにくいが、この10年とその前の10年で売上規模はほぼ2倍、利益は3倍に増えた。「5エス環境整備活動」の成果だけではないが、仕事の大幅改善には寄与している」と効果に満足そうだ。
設立35周年を機に、培った技術を農業や食品など他の業界で活用する経営ビジョンを策定 事業承継問題が解決し、経営体質強化
設立35周年を迎えた2024年、経営陣は次のステップに向けた経営ビジョン作りを始めた。先代社長は市場拡大の中で事業拡大にまい進。2代目の望月社長はリサイクル関連プラントの需要拡大など裾野を広げつつ事業を伸ばしてきた。望月社長はまだ59歳だが、2022年には子息が入社し「事業承継問題はひと安心」と胸をなでおろす。
「事業環境が大きく変化する中で、砕石や運搬など培ってきた技術を全く別の業界に応用できないか、知見や人脈を使って新規事業の芽を育てたい」(根本専務)。経営ビジョンの骨格は、砕いたりつぶす技術や搬送の技術を農業や食品など他業種への活用を目指し、デジタル化推進と「5エス環境整備活動」の深化によって経営体質を強化。新たな事業分野への進出を具体化することだ。
企業概要
会社名 | 株式会社山十産業 |
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住所 | 山梨県南アルプス市野牛島2345 |
HP | https://yamajyuu.jp/ |
電話 | 055-285-3445 |
設立 | 1989年 |
従業員数 | 21人 |
事業内容 | 砂利・砕石プラントや再資源化プラントの設計・製造・据付工事・修繕工事、アスファルトプラントやコンクリートバッチャープラントの据付工事・修繕工事、各種リサイクルプラントの設計・製造・販売・修理など |