目次
- 建設コンサルティング会社を経営していた父親の指名を受けてトーソクの社長に就任
- 設立当初から積極的に高精度の機器や3D-CADシステムを導入 3次元測量の体制強化に力を入れてきた
- ドローン、地上型レーザースキャナー、マルチビームソナー、点群データ処理システムなど多種多様な機器、ソフトウェアをそろえる
- 受注業務の中で3次元測量の割合は8割を占める 常に新たな技術を導入、実績が新たな取引先の獲得につながっている
- 設立時と比較して従業員数は2倍以上に増加 測量未経験の人材が短期間で技能を習得する上でもデジタル技術は効果を発揮
- 事務分野ではクラウド型にこだわってシステムを導入 経費の節減や業務効率化を実現している
- 勤怠管理システムで働き方改革 スマートフォンでいつでもどこでも出勤、退勤を記録できる
- 給与計算もデータの連動で手間がかからなくなった 費やす時間は以前と比べて十分の一程度に
- 業務処理のデジタル化が進み、ペーパーレス化でオフィスがすっきりし、デジタル化により生まれた時間は、新規立案や顧客との関係構築等将来につながる活動にあてられた
- 人材育成を重視して働きやすい職場づくりにつながる様々な認定制度に登録
- 明るく前向きで風通しの良い社風を育みたい
- ニコニコ顔の親しみやすいレポーターが従業員を取材しながら会社紹介する動画をホームページに掲載 実は…
- 地元企業の経営者同士のネットワーク形成にも力を入れる
- 2025年は設立15周年 新たな経営理念を策定して視線を未来に向ける
建設作業の起点となる測量業務でICTとデジタル機器を活用した3次元測量に力を入れている測量専門会社が、「神話の息づくまち」として知られる島根県中東部の出雲市にある。2010年に地域有数の建設コンサルティング会社から独立する形で設立された株式会社トーソクだ。会社を牽引する神田栄里子代表取締役は、ドローン、3Dレーザースキャナー、マルチビームソナー、点群データ処理システムといった様々な機器とソフトウェアを駆使することで測量業務の革新を実現し、多種多様なデータの提供を通じて地域の建設会社のDXをサポートしている。(TOP写真:測量で得た情報を基に3次元設計データを作成する様子)
建設コンサルティング会社を経営していた父親の指名を受けてトーソクの社長に就任
「お客様の困りごとを解決するだけでなく、いかにお役に立つかということを考えてICTやデジタル機器を積極的に導入してきました。迅速かつ正確な作業を可能にするだけでなく、収集したデータを様々な形でお客様に提供できるデジタル技術を活用しない手はないと思っています」。取材に応じた神田社長は、デジタル技術を活用した3次元測量に力を入れる背景をこのように語った。
神田社長は、島根県有数の建設コンサルティング会社を経営していた今は亡き父親の指名を受けて、設立当初からトーソクの社長職を担っている。「子育てをしながら父親の会社の事務職を担当していたのですが、当時の私は経営に関しては全くの素人。測量に特化した新会社の設立にあたり、社長の仕事を任されるとは夢にも思っていませんでした。驚きましたが、それ以上に父親に頼りにしてもらっていることを実感できてとてもうれしかったのを覚えています」と神田社長は話した。3人の子育てをしながら社長職をこなすのは大変だったが、父親の会社から移籍したベテラン従業員が日々の業務をサポートしてくれたという。
設立当初から積極的に高精度の機器や3D-CADシステムを導入 3次元測量の体制強化に力を入れてきた
神田社長は新しい技術の導入に積極的だった父親の指南を受け、トーソクの設立当初から高精度の光学測量機などの機器や3D-CADシステムの活用に力を入れてきた。国土交通省が、建設現場でのICT導入を推進するi-Constructionを提唱した2017年以降は、デジタル技術の活用を更に推進。最重要テーマとして取り組んだのが、立体的な形状データを従来の平面測量と比較して効率的に取得できる3次元測量の体制強化だった。
ドローン、地上型レーザースキャナー、マルチビームソナー、点群データ処理システムなど多種多様な機器、ソフトウェアをそろえる
トーソクが3次元測量に活用しているデジタル機器、ソフトウェアは多種多様だ。機器類では空中からの測量機能を備えたドローン、GNSS(全地球測位システム)測量機、地上型レーザースキャナー、水中での深浅探査を可能にするマルチビームソナーを導入。ソフトウェアでは測量観測の結果を図面化する3D-CADシステム、施工管理システム、点群データ処理システム、写真を活用した3D画像作成システムを導入している。
受注業務の中で3次元測量の割合は8割を占める 常に新たな技術を導入、実績が新たな取引先の獲得につながっている
地上、空中、水中の3つの領域で3次元測量を実施できる体制はトーソクの大きな強みになっている。受注業務の中で3次元測量の割合は8割を占め、トーソクが作成するICT建設機械の操作に必要なガイダンスデータ、3次元設計データ、CIMデータは地域の建設会社がi-Constructionを推進する上で欠かせない存在になっている。実績を積み重ねることで新たな取引先の開拓につながる好循環が生まれているという。
「ICTやデジタル機器は会社の成長の原動力になっています。新しい技術を導入する際の試行錯誤はありましたが、従業員と目線を合わせて理解を得ながら地道に取り組んできたことが、少しずつ実を結び始めているように思います」と神田社長は話した。
設立時と比較して従業員数は2倍以上に増加 測量未経験の人材が短期間で技能を習得する上でもデジタル技術は効果を発揮
設立から14年間でトーソクの従業員数は2倍以上に増えた。従業員の半数近くが3次元測量に携わっており、その中には文系出身者もいる。測量に携わった経験がない人材が、入社してから資格を取得し、測量の実践的な技術を短期間で習得する上で、デジタル機器やソフトウェアは大きな役割を果たしているという。
「デジタル技術のおかげで、最初は素人でも、パソコンを普通に扱える技能とチャレンジ精神があれば、測量の仕事を一人前にこなせるようになるまでの時間は昔ほどかからなくなっています。キャリア形成を考える上で多くの人に測量の仕事に興味を持ってもらえたらうれしいですね」と神田社長。従業員には測量に役立つ資格の取得を積極的に勧めており、空中からの測量に活用するドローンの操縦資格所有者は6人を数える。
事務分野ではクラウド型にこだわってシステムを導入 経費の節減や業務効率化を実現している
トーソクは、測量部門だけでなく、円滑な経営を支える業務管理部門でもデジタル技術を積極的に活用している。2019年から2022年にかけてクラウド型の給与計算、人事、勤怠管理、原価管理、法定調書作成の各システムを段階的に導入した。
インターネットにアクセスして利用するクラウド型のシステムは、データをサーバーやパソコンに保存するオンプレミス型と比較して場所を取ることもなく、本社を離れている時でも高いセキュリティを保った上で必要なデータにアクセスできるなど、様々な利点を備えている。「いざという時の在宅勤務も含め、会社でなくても事務作業をこなすことができる働きやすい環境を整えていきたい。そう考えて、クラウド型にこだわってシステムを更新、もしくは新たに導入しました。当初想定していた以上に初期投資を抑えることもできました」と神田社長は笑顔で話した。
勤怠管理システムで働き方改革 スマートフォンでいつでもどこでも出勤、退勤を記録できる
クラウド化する以前、現場で測量に取り組む従業員は、勤務状況を記録する際、本社に赴いた上で紙の勤務表に手書きで記入しなければならなかった。そのため、移動などで時間や手間を取られ、忙しい時には記入漏れが発生することもあった。勤怠管理システムをクラウド型にしたことで、従業員はスマートフォンからいつでもどこでも出勤と退勤の時間を記録できるようになり、時間を有効活用できるようになった。
記録を行っていない場合は当事者と管理責任者に通知が届く機能も備わっているので、記入漏れの心配もなくなった。月あたりの総勤務時間などの状況をリアルタイムで把握できるので、働き過ぎの防止にもつながっているという。
給与計算もデータの連動で手間がかからなくなった 費やす時間は以前と比べて十分の一程度に
神田社長が担当している給与計算の業務も以前は、紙に書かれた勤務表の数字を集計して改めて給与計算システムに入力しなければならなかったが、クラウド化したことで勤怠管理のデータを給与計算システムで活用できるようになったので手間がかからなくなった。従業員一人ひとりに配布する毎月の給与明細も紙からデジタルに転換し、データで提供するようにしたことで、印刷や封筒に封入する作業をなくすことができた。給与関連の業務に費やす時間は以前と比べて十分の一程度になったという。
業務処理のデジタル化が進み、ペーパーレス化でオフィスがすっきりし、デジタル化により生まれた時間は、新規立案や顧客との関係構築等将来につながる活動にあてられた
ICTやデジタル機器についての情報収集は神田社長の重要な業務の一つだ。幅広く情報を集めた上で現場と意見交換しながら、採用する機種やソフトウェアを決めているという。「業務のデジタル化を進めたことでペーパーレス化が進み、以前は紙の書類があふれかえっていたオフィスもスッキリしました。業務を効率化することによって生み出した時間は、新規事業の立案や取引先との信頼関係構築、新たな技術の習得、採用活動といった会社の将来につながる創造的な取り組みに活用しています」と神田社長は話した。
人材育成を重視して働きやすい職場づくりにつながる様々な認定制度に登録
トーソクはICT、デジタル機器の活用とともに人材の採用と育成にも力を入れている。島根県のしまね女性の活躍応援企業、しまね子育て応援企業、しまね縁結びサポート企業のほか、ヘルスマネジメント認定事業所、健康経営優良法人、心理的安全な職場づくり宣言、出雲市イクボス宣言企業など働きやすい職場づくりにつながる様々な認定制度に登録し、会社の姿勢を示している。
2021年には従業員の要望を受けて、紺色のデニムとチノパンでデザインした新しい制服を採用し支給しました。「格好いい作業服を着たいという若手の意見を反映しました。見栄えを気にすることで肥満防止等の健康への意識を高めてもらいたいという思いを込めてデザインしました」と神田社長。
明るく前向きで風通しの良い社風を育みたい
トーソクは社内に採用活動、新規開発、社内のコミュニケーション促進に取り組む三つのチームを設け、従業員にいずれか一つのチームに所属してもらっている。それぞれのチームから寄せられたアイデアはできる限り経営に反映するようにしているという。チーム活動は従業員の積極性を育むだけでなく、チームワークを醸成する上でも効果を発揮している。「若手からベテランまで従業員一人ひとりの取り組みに心から感謝しています。いつも明るく前向きで風通しの良い社風をこれからも育んでいきたい」と神田社長は朗らかに話した。
ニコニコ顔の親しみやすいレポーターが従業員を取材しながら会社紹介する動画をホームページに掲載 実は…
ホームページやSNSを活用した会社の情報発信にも力を入れている。2019年には「いらっしゃいませ!トーソクへようこそ!社長とゆかいな仲間たち」のタイトルで約10分のYouTube動画を作成した。レポーターがオフィスの雰囲気、3次元設計データの作成やドローンを使った現場での測量作業の様子などを、従業員とのほのぼのとした掛け合いを通じて紹介している。実はそのレポーターが社長自身だったことがビデオの最後で明かされる。このYouTube動画がトーソクに関心を持つきっかけになり、最終的に入社につながった従業員もいるという。
地元企業の経営者同士のネットワーク形成にも力を入れる
神田社長は地元の企業ネットワーク、島根県中小企業家同友会に参加し、会員企業間の交流を通じて自社の経営改革に役立てている。また、地域経済活性化への強い思いを持ち、平田商工会議所の基盤整備促進委員を務めるなど財界活動にも積極的に取り組んでいる。2024年10月26日開催の宍道湖と中海の周囲を結ぶ高規格道路がもたらす経済効果をテーマにしたシンポジウムでパネリストとして招請されるなど、これからの活動にも期待が寄せられている。
2025年は設立15周年 新たな経営理念を策定して視線を未来に向ける
トーソクは、「くらしを守る測量技術を通して 和の心で笑顔あふれる幸せな会社をつくります」を経営理念として掲げる。2025年に設立15周年を迎えるのを機に新たな経営理念を策定した。測量のプロフェッショナルとして新しい技術を取り入れながら、地域の建設業界に必要とされる企業としてこれからも歴史を積み重ねていきたいという。
「周りの多くの人に支えていただいたおかげで、ここまで社長の仕事に取り組んでくることができました。測量は、たくさんの人々の素敵なつながりや思い出、記憶が生まれる前に、これから開拓される土地が安全なのかどうか、用途に適しているかをしっかりとチェックする大事な仕事。ICTやデジタル機器は、測量技術の更なる進化を図る上で本当に頼もしい味方です。社業を通じてこれからも人々の暮らしを守ることに貢献していきたい」と穏やかな表情で話す神田社長。大事に思っている地域のことを考えながら、その視線を未来に向けている。
企業概要
会社名 | 株式会社トーソク |
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本社 | 島根県出雲市荻杼町482番地 |
HP | https://tosoku-izumo.jp |
電話 | 0853-27-9300 |
設立 | 2010年5月 |
従業員数 | 19人 |
事業内容 | 測量作業全般、起工測量、丁張、3次元起工測量(ドローン、3Dレーザー)、マルチビーム深浅測量、マシンガイダンスデータ作成、3次元設計データ作成、CIMデータ作成 |