目次
- 水、環境関連の多種多様な設備、機械の設計から製造、据え付け、修理、改良までの全てに対応できる技術力を備える
- 2015年に設立した工場をショールームとして活用 見学を受け入れることで従業員のモチベーションや生産性の向上につながっている
- これからの時代「デジタル化」必須 老巧化した既存製品のスキャンニング→CAD化のリバースエンジニアリングが強み 既存設備の長寿命化に貢献
- 2024年6月にハンディ型の3Dスキャナーを導入 改修に必要な設計図作成のための測定業務で劇的な効果
- タッチパネルスクリーン(3Dスキャナーに付属した小型の電子黒板)で構築中の3Dモデルをリアルタイムで確認できる 測定は10分程度、設計図の作成は半日程度で完了
- 3Dスキャナーのデータは2次元のCADモデルに変換して設計図の作成に活用している
- 測定関連業務の時間と手間は感覚的に以前の10分の1程度に 生まれた時間を会社の成長につながる新しい取り組みに活用する
- デジタル技術を使って経験が浅い人材を短期間で熟練の域に 人材育成に大きな効果を期待
- 協同組合を運営して海外人材を全国の企業に紹介 地方の中小企業がグローバルに活動する基盤づくりを支援 先を見据えて事業の多角化を図る
- 行き場をなくした猫を保護して里親を探す「保護猫活動」に取り組む
- デジタル技術の活用で蓄積してきたすり合わせの技術やコンサルティング能力に磨きをかける
香川県高松市牟礼町に本社を構え、設立53年の歴史を持つ株式会社三共機械工業は、上下水処理、水質浄化、環境整備、バイオマス発電といった生活に欠かせない分野で使用される設備、機械を手掛けるコンサルティング型のエンジニアリング企業だ。既存の製品や部品の形状をデジタル機器で測定して設計図を作成するリバースエンジニアリングに力を入れ、ハンディ型の3Dスキャナーを活用して測定業務の劇的な効率化を実現している。
水、環境関連の多種多様な設備、機械の設計から製造、据え付け、修理、改良までの全てに対応できる技術力を備える
三共機械工業はコンベア、ホッパー、カットゲート、キルン窯といった多種多様な設備、機械の設計から製造、据え付け、修理、改良までの全てに対応できる技術力を備え、全国の自治体、企業から高い評価を得ている。堅実で安定したビジネスモデルを強みに、2008年のリーマンショックや2020年からのコロナ禍でも不況の影響をほとんど受けなかったという。
2015年に設立した工場をショールームとして活用 見学を受け入れることで従業員のモチベーションや生産性の向上につながっている
2008年に創業者の父親から事業を継承した三宅務代表取締役社長は、就任以来、事業拡大に尽力してきた。2015年には本社がある高松市と隣接した木田郡三木町に製造拠点となる新しい工場を開設した。翌年から工場をショールームとしても活用し、見学を積極的に受け入れている。来場者から様々な意見や感想を寄せてもらうことで、従業員のモチベーションや生産性の向上につながっているという。
これからの時代「デジタル化」必須 老巧化した既存製品のスキャンニング→CAD化のリバースエンジニアリングが強み 既存設備の長寿命化に貢献
「お客様の要望をしっかりと実現するために、技術力とコンサルティング能力を磨き続けることを大事にしています。リーズナブルな価格、高い品質、素早い対応、納期の順守はもちろん、他社に真似のできない製品とサービスを提供し続けていきたいと考えています。しかしながら、グローバル化や高齢化が進む社会の変化に対応しながら企業として成長し続けるのは簡単ではありません。様々な課題に対応していく上でデジタル技術の活用は必要不可欠と考えています」。三木町の工場敷地にある事務所で取材に応じた三宅社長は真剣な表情で話した。
デジタル技術の活用を積極的に進める中で三共機械工業が注目しているのが、既存の製品や部品の形状をデジタル機器で測定してCADデータから設計図を作成するリバースエンジニアリングだ。事業の柱の一つになっている老朽化した設備や機械の改修工事で役立てている。近年、既存設備の長寿命化を図る自治体や企業からの依頼が増加しており、今後も伸びが期待できるという。
2024年6月にハンディ型の3Dスキャナーを導入 改修に必要な設計図作成のための測定業務で劇的な効果
リバースエンジニアリングの推進にあたり、2024年6月に導入したハンディ型の3Dスキャナーが大きな効果を発揮している。導入してから2ヶ月間、10ヶ所を超える改修工事の現場で活用したところ、改修に必要な設計図作成のための測定業務で劇的な効果を発揮した。
設備や機械の改修工事を実施する際、民間の工場では製造元が廃業するなど様々な理由から設計図が残っていないケースが多く、そのような時は測定を行った上で改めて設計図を作成しなければならない。
3Dスキャナーを導入するまで三共機械工業は、現地での測定をメジャーやノギスを使って手作業で行っていた。複雑な形状をした設備や機械の測定は難度が高く、経験が浅い従業員には任せにくいことから、一級建築士の資格を持つ三宅社長を含めた数人のベテラン従業員が対応していた。現地までの移動に時間を取ることはもちろん、測定には2人以上で半日程度かかり、設計図の作成には数日要していた。設計図の作成段階で測定漏れが判明し、再度現地に赴かなければならないこともあったという。
「測定を一人前にこなせるようになるには20年ほどの長い時間がかかります。技術を持ったベテラン従業員が定年退職していく中で対応できる人材が減り、依頼があってもすぐに対応することが難しかったり、お断りしなければならないケースが増えていました。ここ数年、状況を改善するため試行錯誤していたのですが、3Dスキャナーのおかげで見通しが一気に明るくなりました」と三宅社長は導入効果について話した。
タッチパネルスクリーン(3Dスキャナーに付属した小型の電子黒板)で構築中の3Dモデルをリアルタイムで確認できる 測定は10分程度、設計図の作成は半日程度で完了
導入した3Dスキャナーは最先端の3Dアルゴリズムを搭載。タッチパネルスクリーンで構築中の3Dモデルをリアルタイムで確認することができる。スクリーン上で3Dモデルを回転させて、スキャンが完了していない箇所の確認もその場でできるので、測り漏れの心配もなくなったという。また、バッテリーを搭載しているので、周辺に電源がなくても作業に取り組むことができる。3Dスキャナーを使うことで、測定は10分程度、設計図の作成は半日程度で完了できるようになった。
3Dスキャナーのデータは2次元のCADモデルに変換して設計図の作成に活用している
取得したポリゴンデータは3Dスキャナーと互換性を持つソフトウェアを通じてCADモデルに変換することができる。三共機械工業はソフトウェアをパソコンに組み込むことで、3Dスキャナーのデータを2次元のCADモデルに変換して設計図の作成に役立てている。「デジタル化した設計図は場所を取ることもなく保管しやすいので、今後、継続して修理や改修の依頼をいただいた時も迅速に対応できます」と三宅社長。今後、干渉チェックなどの作業を効率化できる3D-CADシステムも導入して、リバースエンジニアリング技術の更なる向上を図りたいという。
測定関連業務の時間と手間は感覚的に以前の10分の1程度に 生まれた時間を会社の成長につながる新しい取り組みに活用する
3Dスキャナーを使えば測定は一人で対応できる。業務経験が浅い従業員でも従事することが可能になり、経験を積んだベテラン従業員にほかの業務に携わってもらうことが可能になった。より効率的に人材を活用できるようになっただけでなく出張費などのコスト節減にもつながっている。三宅社長自身もこれまで測定のための出張に費やしていた時間を、経営戦略の策定、新規事業の開拓、商談など会社の成長につながる様々な業務に振り向けているという。
「3Dスキャナーの導入効果は絶大で、測定関連業務の時間と手間は感覚的に以前の10分の1程度になりました。当初想定していた以上の効果が生まれています。短時間で正確に測定できるので、暑い時や寒い時に長時間、現場で作業する負担も解消することができました。何よりうれしいのはお客様に喜んでいただいていることです」三宅社長は笑顔を見せた。
デジタル技術を使って経験が浅い人材を短期間で熟練の域に 人材育成に大きな効果を期待
三共機械工業は現在、40代の技術畑の従業員に3Dスキャナーを使った測定業務を担当してもらっている。今後、研修を通じて若手を中心に3Dスキャナーの操作に熟練した従業員を増やし、改修事業の体制を強化したいという。「アナログ方式の場合、担当者の経験や勘が生産性に直結し、経験が浅い人材が熟練の域に達するには長い時間が必要でした。しかし、これからは違います。デジタル技術を活用すれば経験が浅い人材でも、短期間でベテランが担当していた仕事をこなすことができるようになるでしょう。これからが本当に楽しみです」と三宅社長は話した。
三共機械工業の従業員の平均年齢は35歳。多様性を重視し、海外人材(中国、フィリピン、バングラデシュ)が従業員の2割を占める。三宅社長は従業員の資格取得を奨励しており、ICTやデジタル機器を使った業務効率化で生まれた時間を高度な知識や経験を積むことに使ってほしいと考えている。「従業員一人ひとりがキラリと存在感を光らせることができる職場環境を大事にしています。デジタル技術のおかげで、これからの世代は、我々の世代が蓄積してきた以上の技術と知識を身につけていけるに違いありません。積極的にデジタル技術を導入して新しいものづくり業界のイメージを発信していきたい」と三宅社長は力強く話した。
協同組合を運営して海外人材を全国の企業に紹介 地方の中小企業がグローバルに活動する基盤づくりを支援 先を見据えて事業の多角化を図る
三共機械工業は2015年、海外人材の雇用環境の改善を目的にアジア科学技術援助協同組合(ATAC)を設立。約200人の海外人材を登録して、全国の企業に紹介している。「地方の中小企業がグローバルに活動する基盤を整えるお手伝いをしていきたいと考えています。人口減少が加速する日本では、海外人材に活躍してもらう必要性がますます高まっています。日本人従業員のマネージメント能力の向上や社内の活性化にも、海外人材は必ず役に立つはずです」と三宅社長は話した。
三共機械工業は事業の多角化にも取り組んでいる。2022年には、後継者難に悩んでいた電力プラントの維持管理や更新業務を担う香川県坂出市の有限会社小山鉄工を子会社に加えた。今後、EV(電気自動車)の普及などで電気に関連した技術への需要が大きく拡大することを見据えている。「傾斜土槽法」という土壌の持つ自然の浄水能力を利用した省エネ・低コストの水質浄化システム「花水土(はなみづち)」も販売している。
行き場をなくした猫を保護して里親を探す「保護猫活動」に取り組む
三共機械工業は地域活動の一環として、行き場をなくした猫を保護して里親を探す「保護猫活動」に取り組んでいる。2021年頃、女性従業員が捨て猫を会社で保護したことをきっかけに活動を始め、里親に巡り合うチャンスが子猫よりも少ない成長して大きくなった猫を優先的に保護しているという。現在、工場の敷地の一画に冷暖房完備の飼育部屋を設けて4匹を保護し、従業員との触れ合いも生まれている。
デジタル技術の活用で蓄積してきたすり合わせの技術やコンサルティング能力に磨きをかける
これまでアナログで蓄積してきた三共機械工業のすり合わせの技術(ものづくり技術)はデジタル技術を活用することで更に輝きを増している。「コスト削減、軽量化、高性能化、工期短縮に関する様々なコンサルティングを行っていく上でも、ICTやデジタル機器は頼りになる存在です。コンサルティングは、明確なマニュアルがない難度の高い仕事ですが、だからこそやりがいがあると思っています。お客様に困った時にこそ頼りにしていただける。そのような企業であり続けたい」と三宅社長は話した。
老朽設備の修理や交換は、日本全国の自治体で大きな問題になっている。新規に交換するとなると自治体の財政に大きな負担となるため、課題先送りになっているケースも多い。デジタルとの組み合わせで、想定よりもはるかに効果的な方法がある可能性を今回の事例は示してくれている。また、世界各国が、グリーン分野の産業振興に力を入れている。その中で水処理、再資源、バイオマスなど環境に関する設備、機械のニーズは今後さらに高まっていくはずだ。三共機械工業の前には開拓を待つ大きなフィールドが広がっている。
企業概要
会社名 | 株式会社三共機械工業 |
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本社 | 香川県高松市牟礼町牟礼3195-4 |
HP | https://www.sankyo-kg.co.jp |
電話 | 087-802-1220 |
設立 | 1971年7月 |
従業員数 | 56人 |
事業内容 | 上下水処理・浄水設備や環境設備の現場調査、機械器具設計・製作・据付工事・試運転、メンテナンス |