ICTの卓越した活用で利用者と職員を支える「未来対応型組織」 認知症の人も暮らせる「認知症支援の街づくり」の夢へ一歩ずつ進む 希望のつぼみグループ 青山(北海道)

目次

  1. リハビリ難民救済のために「希望のつぼみ」を設立
  2. 積極的なICT活用が評価され2020年に「介護事業所生産性向上推進モデル事業」に選定 背景には経営者の熱い気持ちに呼応した介護スタッフの力があった
  3. 電話を極限まで減らしてビジネスチャットを活用 情報の見える化で介護サービスの充実と職員の質が格段に向上 助け合いと全員でがんばる機運
  4. グループチャットを組織の役割に組み込むことで、参加者全員が課題解決と企業発展に参加する「未来対応型組織」のベースをつくった
  5. ショートステイは利用者の情報が少ない場合が多く、行動分析搭載の見守りシステム(ロボット)で利用者の状況把握を強化 介護スタッフの心と体の負担の大幅軽減
  6. RPA導入で個々のアプリで対応していたことが自動でつながるため、1~2日かかっていた事務作業が2時間でできるようになった
  7. 新しいデジタル技術やAIを活用した「認知症支援の街づくり」で地域貢献を目指す
中小企業応援サイト 編集部
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株式会社青山は、希望のつぼみグループとして道内でリハビリによる健康改善と心のケアを目的にデイサービス、ショートステイ、有料老人ホーム、訪問介護など福祉介護事業を24ヶ所で展開している。北海道旭川市で2006年に創業、2013年には札幌市に進出。超高齢化時代を反映して、介護事業を拡大、成長させてきた。

並行して人材確保と職員の負担軽減、サービスの質向上のため、2016年頃からICTを積極導入して、職員の事務作業改善、情報共有による的確な介護、利用者へのサービス向上を実現。さらに、見守りセンサーによる利用者の健康変化把握と職員の負担軽減、RPA(Robotic Process Automation)による更なる業務改善を実現して、組織が柔軟で強固になり、新たな介護事業の実現へ一歩一歩前進している。(TOP写真:ICTの積極導入で新たな企業体制に挑戦する青山央明代表取締役社長)

リハビリ難民救済のために「希望のつぼみ」を設立

福祉介護事業の青山は、2006年に北海道旭川市で創業、同年にデイサービス施設「希望のつぼみ」を開設した。青山央明代表取締役は、それまで旭川市の病院で言語聴覚士としてリハビリテーション科を担当していたが、2005年頃に医療保険制度が見直され、これまでの医療保険では、病院での病後ケアに必要な機能回復のリハビリの実施に日数制限が設けられた。それを過ぎるとリハビリにかかる費用をほぼ自己負担するか、介護保険で受けることになった。

当時は全国的にリハビリを実施している介護施設は数少なく、「リハビリ難民」が増え、リハビリ難民を受け入れる施設が必要だった。そこで、青山社長はこれまでリハビリに携わってきた実績を生かして施設「希望のつぼみ」を創設した。当初は10人定員、スタッフ3人でスタートした。「体だけではなく、心のケアにも努め、生活の質向上を目指したQOL(Quality of Life)向上センターも併設した」(青山社長)。青山のリハビリ活動が徐々に認知され、利用者が増えていった。そして旭川市内に2施設目、3施設目と開設した。

札幌市には、2013年にQOL向上センター・ショートステイ併用施設を設けた。同社で6番目の福祉介護施設を札幌に出し、その後もニーズに対応する形で施設を増やし、2024年9月現在、北海道内で24施設を開設している。

積極的なICT活用が評価され2020年に「介護事業所生産性向上推進モデル事業」に選定 背景には経営者の熱い気持ちに呼応した介護スタッフの力があった

ICTの卓越した活用で利用者と職員を支える「未来対応型組織」 認知症の人も暮らせる「認知症支援の街づくり」の夢へ一歩ずつ進む 希望のつぼみグループ 青山(北海道)
希望のつぼみグループの様々な部門の連携を支えるスタッフが働く事務所

青山社長が、業務のICT化を意識し始めたのは2015年頃。超高齢化社会となり、4人に1人が高齢者と言われた2015年頃から、福祉介護事業が注目され、競合企業が増加した。そのため人材不足に拍車がかかり、人材確保が難しくなり、さらに離職率が増加してきた。その解決策を試行錯誤した結果、ICT活用が最も効果的で、大幅な業務改善と働き方改革を実現。経営効率の向上にもつながり、「2020年度介護事業所生産性向上推進モデル事業」(北海道)に選定された。「介護事業所生産性向上推進モデル事業」とは、ICTや介護ロボット等テクノロジーの活用等による業務改善を行う介護事業所をモデル事業所として表彰する制度。この実現には、経営者の全員参加の経営姿勢と本気で会社を変えようとする熱い気持ちが、介護スタッフに伝わったことが大きい。

電話を極限まで減らしてビジネスチャットを活用 情報の見える化で介護サービスの充実と職員の質が格段に向上 助け合いと全員でがんばる機運

介護スタッフは様々な事に対応するため、スタッフ間での相談事が多い。電話やメール、個人SNSは1対1のため、情報が共有されず情報格差が生まれ、知らない人は情報難民になる。しかもベテランを中心とした情報蓄積で属人化が進みやすい。介護では、利用者を数人でサポートする必要があり、1対1の電話やメールは不向きだった。ビジネスチャットだと、チームの中で積極的に問いかけができ、参加しない場合でも後から内容を確認することで状況把握ができる。青山では、情報交換によって社内活性化に大きな役割を果たすことになった。例えば、今まで一人で抱えていた問題を共有したことで、気持ちが楽になりお互いが助け合うようになり、全員でがんばろうという機運が生まれた。

グループチャットを組織の役割に組み込むことで、参加者全員が課題解決と企業発展に参加する「未来対応型組織」のベースをつくった

ICTの卓越した活用で利用者と職員を支える「未来対応型組織」 認知症の人も暮らせる「認知症支援の街づくり」の夢へ一歩ずつ進む 希望のつぼみグループ 青山(北海道)
青山社長は、定期的に職員向けセミナーを実施。これからの時代認識と青山の進むべき道を、熱い思いを込めて話す(希望のつぼみインスタグラムより掲載)

ビジネスチャットの活用のもう一つは、ビジネスチャットを組織の中の役割に組み込んだことだ。グループチャットが組織そのもので、一般企業のように組織があり、その間の情報共有を補填する使い方とは一線を画す。

本部が担当する「物品」や「設備」、「車両」、それぞれのグループチャットを作り本部と現場が連携する。車両の故障等も現場の管理者が状況を書き込めば、後は本部の担当者が対応する。その他には「働き方事業部」や「コンプライアンス事業部」というグループチャットもある。その時代に必要なことはすぐにチャット上の横断した組織にして推進が可能だ。このことは、従来の固定的な組織ではなく、課題解決や企業が発展する目的のための組織であることを明示し、結果的に参加者全員が上下関係や年齢に関係なく自然と課題解決と企業発展に参加している、という循環をつくっている。青山の場合、専務や常務という役職がない。青山社長の考え方のもと、フラットなジョブ型組織となっている。それを支えているのがグループチャットだ。このことは青山社長も語っているように従来とは全く違う「未来対応型組織」の実践となっている。

ショートステイは利用者の情報が少ない場合が多く、行動分析搭載の見守りシステム(ロボット)で利用者の状況把握を強化 介護スタッフの心と体の負担の大幅軽減

ショートステイ施設などの利用者の見守りには、プライバシーを保護した行動分析センサー搭載の見守りシステムを活用。ショートステイは、通常の利用者や入居者と比較して情報が少ないため、介護スタッフが特に気を遣う。センサーが異常を検知した時にスマートフォンやパソコンを通じて利用者のライブ映像を見ることができる。通常は見ることができない仕組みだ。カメラは平らな形状で天井に付設され、センサーも目立たないデザインなので、利用者はシステムを意識せずに生活することができる。

利用者の離床や起床から、転倒、転落などをセンサー感知して、担当者のスマートフォン、タブレットに通報してくれる。ほかにも、行動分析センサーによって熟睡、不眠など睡眠チェック、体調管理も行ってくれる。初めての利用者の場合、情報が少なく不安だが、このセンサーのおかげで介護スタッフも家族も心の負担が大幅に軽減される。

RPA導入で個々のアプリで対応していたことが自動でつながるため、1~2日かかっていた事務作業が2時間でできるようになった

介護業務の現場負担を軽減する「働き方改革」のために、介護業界でも、いち早くRPA(Robotic Process Automation)を導入した。これまでの数年間に培ってきたICTを活用した業務の連携を目指した。このRPAソリューションでは、それぞれの利用者、入居者の利用料金の計算(自己負担)、利用者ごとに異なる保険負担割合の計算などを自動で行うことで、事務処理にかかる負担が削減、省力化された。

RPA導入により介護業務に専念でき、「人にしかできない環境づくり」をさらに整えた。業務システム間の分断をなくし、つなげたことで、従来は1~2日間かかった事務処理業務が、わずか2時間程度で完成するなど、大きな成果を上げてきた。

新しいデジタル技術やAIを活用した「認知症支援の街づくり」で地域貢献を目指す

青山社長は、ICTにより介護業界のイノベーションを実践している。青山社長は、よりよい介護施設の建設のため、建築や不動産関係の会社も経営して、総合福祉産業グループを形成していこうとしている。また異業種企業、団体などとマッチング、連携することで、新しい地域づくり、地域創出につなげようとしている。介護が必要な人々が集まり、不自由な機能をロボット、AIなどで補完、補いながら、人と人とが、人とロボットが、人とAIが共存できる「認知症支援の街づくり」に携わっていこうとしている。欧米では認知症支援の街があり、地域の人々も、携わる様々な人も全ての人をサポートする仕組みが出来上がっている。

厚生労働省によると、2022年の認知症患者数は約443万人。軽度認知障害(MCI)も加えると、患者数合計は1,000万人を超え、高齢者の3~4人に1人の割合になる。青山社長は、街づくりに不可欠な不動産や建設の分野をサービスというソフトの視点からサポートしている。行政と連携した「認知症支援の街づくり」も現実のこととして実現できるのにそれほど時間がかからないかもしれない。認知症の問題は、地域貢献の最も大きなテーマのひとつであり、SDGsの大きなテーマであることは間違いない。もちろんタフでレジリエンスな精神が必要だが一歩一歩進んでいる。

ICTの卓越した活用で利用者と職員を支える「未来対応型組織」 認知症の人も暮らせる「認知症支援の街づくり」の夢へ一歩ずつ進む 希望のつぼみグループ 青山(北海道)
北海道24ヶ所で展開している「希望のつぼみ」

企業概要

会社名株式会社青山
住所札幌市西区発寒6条11丁目-1新道北口ビル3階
HPhttp://www.kibounotsubomi.com/
電話011-688-8512
設立2006年5月
従業員数200人(総グループ 350人)
事業内容  介護福祉サービス(通所介護・短期入所・有料老人ホーム・訪問介護)、デイサービス事業のフランチャイズ展開、福祉用品販売