赤字決算
(画像=PIXTA)

「赤字決算」と聞いて、どのような印象を抱くでしょうか?「赤字よりは黒字のほうがいい」。そのように考える人が多いのではないかと思います。しかし、赤字決算には悪いことばかりではなく、実はメリットもたくさんあるのです。

目次

  1. そもそも「赤字決算」とは?
  2. 赤字決算ならば法人税を払わなくてよい?「繰越欠損金控除」とは?
  3. 赤字決算のデメリットとは?
  4. 赤字決算にするテクニックとは?
    1. 1.役員報酬を増額する
    2. 2.社員に「決算賞与」を支給する
    3. 3.「中小企業退職金共済(中退共)」を利用する
    4. 4.「中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)」を利用する
    5. 5.必要なものを前倒しで購入する
    6. 6.不要な固定資産を、廃棄・売却・除却する
    7. 7.会計年度を変更する
    8. 8.未払費用を年度内に払う
    9. 9.「出張旅費規程」を作成する
  5. 赤字決算は時として戦略にすることも可能

そもそも「赤字決算」とは?

そもそも赤字決算とは、支出が収入を超えており、利益が発生していない状態のことです。当たり前の話ですが、この状態が続けば、やがては債務超過となり倒産に追い込まれます。しかし、赤字決算とは、あくまで「ある一定の期間において赤字であった」ということを示すだけのものです。そのときに収支がマイナスだったからといって、すぐに会社の資金が底をついてしまうことはなく、ましてやすぐに倒産してしまうというわけではありません。

国税庁が2019年の2月に公表した「国税庁統計法人税表」(2017年度)によれば、赤字法人率は66.6%(前年度67.6%)でした。2011年度から7年連続で減ってはいるものの、それでも全体の7割近くにのぼります。このように、赤字決算自体は決して珍しくもなんともないことなのです。

赤字決算ならば法人税を払わなくてよい?「繰越欠損金控除」とは?

もし会社が儲かって黒字決算となった場合は、その利益に対して課税される法人税を支払わなければなりません。一方、赤字決算の場合はどうでしょうか。法人税の額は「課税所得金額×法人税率」で計算されます。つまり、儲け(課税所得金額)がマイナスであれば、法人税も払わずにすみます(ただし、法人住民税として、東京都の場合で言うと、最低でも7万円は払わなければなりません)。そのため、特に中小企業では、あえて赤字決算に持ち込むケースもあるくらいなのです。

また、赤字決算の場合、「繰越欠損金控除」という税法上の制度を利用することができます。欠損金とはすなわち赤字のこと。欠損金繰越控除とは、赤字が発生した翌年度以降、繰越期限までの9年(平成28年度の税制改正により、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金の繰越期間は10年となりました)の間に黒字を出すことができた場合、そのプラスマイナスを相殺できるという制度です。

例えば、ある会社のその年度の決算が300万円の赤字だったとしましょう。この場合の課税所得はもちろんゼロ。300万円は繰越欠損金として、翌年度に繰り越されます。

そして、次の年度に、今度は400万円の黒字になったとしましょう。もし繰り越し分がなければ、丸々400万円に対して課税されるところ、400万円−300万円=100万円に対しての法人税を払えばいいというわけです。

さらに、次の年度は黒字にはなったけれども、その額が100万円にとどまったとしましょう。累積赤字が200万円減っただけで、相変わらず赤字は残ったままであるため、2年続けて法人税を払わなくてもよいことになります。

この繰越欠損金控除は、すべての会社で適用できるわけではありません。

A.欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出していること
B.Aの後に連続して確定申告書を提出していること
C.欠損金の生じた事業年度に関わる帳簿書類を保存していること

以上を満たす必要があります。なお、資本金1億円以下の中小企業であれば全額控除ができますが、大企業が繰り越せる額は次第に減っており、65%~50%(事業開始年度によって変わります)となっています。繰越欠損金控除という制度は、所得が少ない、あるいは経営が安定しない中小企業にとっては、大変ありがたい制度と言えるでしょう。

さらには、前年度に黒字で法人税を納めた会社が、翌年度に経営悪化などで赤字になってしまった場合に、前年度に納付した法人税の一部を戻してもらえるという「欠損金の繰戻しによる還付」という制度もあります。

赤字決算のデメリットとは?

しかし、赤字決算には、もちろんデメリットもあります。もっとも懸念されるのが、金融機関からの信用度が下がってしまうこと。融資するかどうかを検討する際、金融機関が最も参考にするのはその会社の決算書です。赤字であれば当然不利になります。融資が受けられなければ、新規事業の開拓なども難しくなってくるでしょう。

仮に2期連続で赤字決算を出してしまうと、融資が中止となり、借りていた融資の一括返済を要求される可能性もあります。目先の節税にばかり気を取られていると、本末転倒になってしまいます。

また、赤字決算である以上、会社のお金が目減りしていることに変わりはないということを忘れではいけません。創業して間もないため経費がかさんでしまった、将来を見据えて高額な設備投資を行なった、地震などの災害で事業が機能しなくなったなど、やむを得ないケースであれば構いません。

ですが創業からいつまでたっても収益が伸びない、業界全体が縮小していっている、強力な競合他社に取って代わられたなどの理由で、赤字が恒常的になってしまっている場合は、相当深刻に受け止めなければなりません。

赤字決算にするテクニックとは?

赤字決算にするためには、製品などの製造量やサービスの提供などを減らす、売上高を減らすといった、経営の軸になっているもので操作するのではなく、それ以外のテクニックを駆使するのが定石です。よく耳にする「これ、経費で落とすから」というのも、要は節税の手段のひとつ。具体的にどのような方法で赤字決算にも持ち込めばよいのでしょうか。

1.役員報酬を増額する

税制上、役員報酬は「定期同額給与」(社員と同じように毎月一定の額を支給する)であれば、損金として算入することができますが、賞与については認められていません。そのため、業績がよかったとしても、役員に賞与を渡すことはできないのです。

すなわち、役員報酬を低く設定すると、想定以上に大きな利益が出た場合、法人税を支払うことになってしまいます。「高くしておいて、もし払えなくなったら困る」と不安に思われるかもしれませんが、役員報酬は年度の途中で上げることはできないものの、著しく業績が悪化した場合に限り、引き下げることは可能です。

2.社員に「決算賞与」を支給する

1の話とつながってきますが、決算期末間近であっても、社員に決算賞与を支給すれば、損金として算入することができます。決算期末までに社員全員に支給額を通知しておき、決算期末から1ヵ月以内に支給するのが条件です。通知は決算期末ぎりぎりでも大丈夫なので、駆け込みの節税対策として使えますし、なによりも社員のモチベーションアップにつながります。

3.「中小企業退職金共済(中退共)」を利用する

近年導入しないケースも増えていますが、日本の会社の多くに退職金制度があります。将来的に必ず払わなければならない債務であるにもかかわらず、このための積み立てを損金として算入することは認められていません。実は以前は可能だったのですが、平成10年の税制改正により使えなくなってしまいました。そのために退職金制度を廃止する会社が増えたものと考えられています。

しかし、中小企業に限って言えば、「中小企業退職金共済」を利用することができます。資本金○円以下、従業員○人以下といった加入条件はありますが(条件は業種によって変わってきます)、ほとんどの中小企業は大丈夫でしょう。

中小企業退職金共済の掛金は、全額が損金に算入できるほか、新規加入した場合、加入してから4ヵ月から12ヵ月目の間、掛金の半分(掛金の4.5ヵ月分にあたる金額)を助成してもらえるというメリットもあります。さらに加入している会社の社員は、共済本部が提携しているホテルやレジャー施設などを割引料金で利用できます。

社員の福利厚生を単独で用意しようとするとコスト面でも大変ですが、積み立てついでについてくるため、そういって意味でも意義があると言えるでしょう。

4.「中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)」を利用する

中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、仮に取引先が倒産して売掛金債権などの回収ができなくなった場合に、50万円から8,000万円共済金の貸付けが受けられるというものです。掛金は月5,000円から20万円(年間最大240万円、累計で800万円)で、全額を損金として算入できます。12ヵ月以上加入していれば、解約した際に加入期間に応じた割合で「解約手当金」を受け取ることができ、40ヵ月以上ならば100%戻ってきます。

さらに、中小企業倒産防止共済は、もともと中小企業の連鎖倒産を防止するための制度であるため、低い利率、しかも無担保でお金を借りることができることが可能なので、急に資金が必要になった場合にも役立ちます。つまり、ほぼメリットしかありません。利用しない手はないでしょう。

5.必要なものを前倒しで購入する

将来必要になる「減価償却資産」があれば、先に購入しておくのもよいでしょう。減価償却資産とは、建物、自動車、工具、器具、機械といった形のあるものはもちろん、ソフトウェアや営業権など形のないものも含みます。これらは、利用されて収益を出すのに伴い、逆にそれ自体の価値は減っていくものとして扱われます。

減価償却資産を購入した際の代金は、その年の損益として全額算入してはいけないというのが原則で、その資産の価値が減った分を、何年かに分けながら損金に算入することになっています(=減価償却費)。しかし、資本金・出資金の額が1億円以下、社員1000人以下、青色申告をしている中小企業であれば、特例として購入した年度の損金に全額算入することが認められています。

例えば、1台20万円のパソコンを10台購入すれば、200万円をその年度の損金に算入できるというわけです(ただし、1個につき30万円未満、合計300万円以下という条件があります)。だからといって、必要のないものを無理やり購入するのは、単なる無駄な出費になってしまいます。近々必ず必要になるであろうものを購入する程度にとどめておきましょう。

6.不要な固定資産を、廃棄・売却・除却する

会社の決算書に載せているけれど、実は既に存在していない、まったく使っていない、あるいは災害などで大きく損傷してしまったなどといった固定資産はありませんか。それらを廃棄すれば、そのぶんを損金として計上できる場合があります。ひとつは、帳簿の金額よりも安く売ってお金に変えて差額を「売却損」として計上する方法。このほか、売るのではなく廃棄をして、その資産の金額を「除却損」として計上する(ただし、税務調査に備えて、廃棄した証拠を保存しておくこと)方法もあります。廃棄をするにしても費用はかかってきますが、ほとんど現金を減らすことなく実施できるので、積極的に検討するとよいでしょう。あとは、やや特殊なケースですが、災害などによって激しく損傷し、資産価値を低く見積もらなければならなくなった際には、その「評価損」を損金として算入することが認められています。

7.会計年度を変更する

業種によっては、決算期と売上のピークのタイミングが重なってしまうこともあります。その場合は、売上のピーク時から次の年度が始まるよう決算期を変更しましょう。

例えば、毎年4月に大きな売り上げが立つのであれば、4月スタートにするのです。そうすることで、約1年をかけて余裕をもって決算対策ができます。決算はただでさえ大変なものですから、なるべく繁忙期とはタイミングをずらした方が、業務上の効率も良くなり、一石二鳥です。

なお、決算期を変更するためには、会社の定款変更が必要になってきますが、中小企業であればさほど手続きは難しくはありません。

8.未払費用を年度内に払う

社員の給料、事務所の家賃、水道光熱費、通信費などは、タイミングとしては後払いとなります。しかし、年度内にサービスを受けて、年度をまたいで支払うものについては、その年度の損金に算入することができるのです(未払費用)。こういったものは、毎月継続的に支払っているものであり、突発的なものではありません。決算対策として慌てて実施するのではなく、普段から徹底しておくようにしておきましょう。

9.「出張旅費規程」を作成する

仕事を行う上では、出張が必要になるケースがしばしばあります。適正な出張旅費規程を作成し運用することで、交通費や宿泊費はもちろん、出張手当も損金として算入することができます。また、会社から通常もらう給料には、所得税や住民税がかかりますが、出張手当にはかかりません。

つまり、会社にとっても、社員にとっても節税になるのです。多くの費用がかかる長期の海外出張などが必要になる場合は、決算時期を加味して実施するとよいでしょう。

赤字決算は時として戦略にすることも可能

赤字決算になったときは、その理由を社員に説明する必要がありますが、いくら「わざと赤字にしました」などと説明しても、社員の多くはネガティブに捉えてしまうことでしょう。その結果、モチベーションが低下したり、優秀な社員が退職してしまったりということもありえます。

赤字決算は、経営がある程度まで軌道に乗っていて、内部留保をした上で潤沢な資金が貯まっており、資金繰りに四苦八苦しなくなった企業が、時として戦略的に取り入れるものです。常に利益を追求していく姿勢を忘れないようにしましょう。

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