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群馬県前橋市から伊勢崎市に事務所を移転し、高性能住宅の建築で好調な業績を続けている株式会社ビルドアーク。小野竜司代表取締役が夫婦で営むコンパクトな経営スタイルだが、得意分野に特化する形を模索して、現状にたどり着いた。設計を手掛け、現場での施工もこなせることから見出した「設計・施工の一貫対応」は、小野社長のこれまでの経験をバネにした下地があったからこそ実現した。(TOP写真:2020年に群馬県伊勢崎市に移転した株式会社ビルドアークの伊勢崎事務所)
大学で建築を学び大手就職が決まるも、懇願され父の会社に入社 しかし多額の債務 好調部門を生かそうとするも倒産の憂き目に
小野社長は大学で建築を学び、大手建設会社への就職が決まっていた。「当時はビルなど歴史に残る建物に携わりたいと考えていました」というのが理由だ。父は年商にして8億円から10億円、従業員30人程度を抱える規模の建築会社を経営していたが、折しも小野社長の就職直前に病気が判明したことで、息子に自分の会社に戻ってきてくれと懇願した。小野社長もこれを了承し、1991年に入社。「年商がそこそこあったので、羽振りの良い会社だとばかり思っていたら、結構な債務を抱えていた」という。小野社長は父から頼まれ、会社の連帯保証人にならざるを得なかった。
役員になってから、営業を担当。「年商10億といえば、月商で8000万円超の仕事を受注してやっとです。そこで鉄骨工事事業の元請けからの受注を広げるための営業をして、一人で年商にして4億円程度をかき集めていました」と当時を述懐する。とはいえ、下請けのためのダンピング競争に陥りがちだったともいう。「薄利になるのはわかっていましたが、それでも売上を上げるためにはやらざるを得ない状況だった」と明かす。
こうした状況に身を置いたことで、「商品として売れるものがないとダメだ。きちんと経営者が道筋を見つけていかないと」という考えを持つようになったという。住宅建築も手掛けていたため、個人宅への営業もかけたが玄関先で門前払いの状況だった。「このままでは難しい」と考え、30代半ばの頃に、大手ハウスメーカーが地域の建築会社とパートナーシップを結ぶネットワークに加入。小野社長は営業や広報についてもネットワーク内で学びつつ、住宅建築に加え、鉄骨工事事業や不動産事業などの売上貢献に役立った。
だが、2008年のリーマン・ショック前後から父の会社の経営は立ち行かなくなってきた。「要はリストラができなかったのです。建築工事の部門は好調で利益が出ていましたが、鉄骨工事事業は不採算。会社を分社化することも提案しましたが受け入れられませんでした。会社がもともと鉄骨工事から始まっているため、切るに切れなかったのが実情でした」。ほどなく父の会社は不渡りを出して倒産。小野社長もしばらく会社の整理に追われることとなった。
友人の助けを借りながら住宅建築の仕事に邁進 早期に破産整理を行い 45歳で念願の自分の会社を起こす 社屋は中古のコンテナハウス
債務保証人となっていた小野社長も、父の会社倒産と同時に破産せざるを得なかった。「それでも顧客はついていて、手掛けていた2軒の住宅は設計から工事監督までやらせてもらい、食いつなぐことができた」といい、当時の状況について「もともとやりたかった設計・施工の一貫対応が、苦しい絶望のどん底の中ではあったが、初めてできた」と振り返る。地元の建設会社を経営している学生時代からの友人からは「助けられることがあれば言ってくれ」との言葉をもらい、仕事をするための部屋を貸してもらえた。
42歳になっていた小野社長。破産について整理し終えるまでは建築士事務所の登録や建設業許可が受けられないことから「45歳までに独立して起業できなければ、全てを諦める」と妻に宣言、約束し、仕事に打ち込んだ。
その甲斐もあり、2010年3月には破産整理が終了。翌2011年2月23日、株式会社ビルドアークを設立した。社名は、設計者=Builder(ビルダー)と建築家=Architect(アーキテクト)の両方の良さを兼ね備えるという意味から決めた。妻との約束の3年を待たずして開業にこぎつけた格好となった。ただ、資本金は貯めたものの「高い家賃の事務所は借りられなかった」といい、中古のコンテナハウスを実家近くに建て、そこで開業した。開業当時に決めたことは、「下請けにはならず、エンドユーザーを相手にした仕事をする」ということ。父の会社で仕事をしていた時代は「金に追われて仕事をしている感覚だった」といい、「設計もできる」「住宅も建てられる」という自身の強みを生かした上で、「値引き交渉をされるようなものは作らない。理由があってその値段をつけているので、安さだけを求められるのなら別のところに行ってもらえばいい」と決めた。
その方法が奏功し、開業直後に発生した東日本大震災による影響もなく、開業以来、ほぼ毎年8000万円から9000万円の仕事を受注し、黒字経営が続いている。唯一赤字となったのは2020年度で、この年は新型コロナウイルス禍による打撃を受けた。新築とリフォームの仕事が2件、立て続けにキャンセルとなり、「妻と2人でやっているので、キャンセルをされるとその時期に予定していた仕事が全くなくなってしまうため、早い時期に赤字になることがわかりました。ただ次の2021年度に向けては決まっている受注があったので、すぐに翌年に黒字転換することができました」。
住宅は奥が深く、手間をかけるほど良い住宅ができる!3Dパースプレゼンシステムを導入 高性能仕様の住宅の素晴らしさが一目瞭然に
開業以来、住宅設計や建築を事業の主軸としてきたが、既存顧客からの依頼で住宅以外も手掛けてきた。だが2019年頃からは「住宅は奥が深く、手間をかけるほど良い住宅ができる。自分がやれることの可能性も大きい」と考え始め、2020年を迎える頃には事業を住宅に絞ることに決めた。手掛ける住宅を、「ビルドアーク」のBとAを使って、「BAハウス」と名付けることにした。「お客さんも(設計・施工の一貫対応)イメージがしやすいかなと思って」との理由だ。
壁・床・天井が一体化したモノコック構造で優れた断熱性・気密性を誇る「スーパーウォール工法」を用いて、性能の高い住宅を積極的に手掛けていくことにした。
そうした中で、「住宅の外観から内装までを、顧客にさらにわかりやすくプレゼンできるようにしたい」と導入したのが、3Dパースプレゼンシステムだ。「お客さんから設計変更やプラン変更をお願いされることは多く、間取りだけでも5回や10回の変更はザラ。手書きの図面なら手間もその分かかるが、この3Dパースプレゼンシステムを入れておけば、そうした変更は簡単に図面に加えられるし、どんなふうに変更したかの履歴も保存できる。家全体を描くにしても、簡単な家なら2時間程度、難しい家でも半日あれば作業ができるので便利です」。その使い勝手に大いに満足している様子だ。
3Dパースプレゼンシステムを使えば、建物の外観や室内を立体的に見ることのできるパースも簡単に作成できるだけでなく、玄関から建物の外側から1階、2階の室内を自由に行き来しながら見ることも可能になる。顧客からは「わかりやすい」「こんな感じになるんだ」などとの声が聞かれ、好評という。「玄関や外壁材の種類なども、ダウンロードしてそこにはめ込むことで、外観や内装などの見た目も変えることができ、完成した建物をイメージしやすくなります。住宅に必要とされるものが明確にもなります」と小野社長は説明する。これらのパースを画像にして顧客との間でやり取りすることもできることから、顧客への対応や説明に要する時間も短縮できるという利点があるという。こうしたスピード感を持って顧客へ対応できるのもビルドアークの強みとなっている。
建築現場を管理するシステムの導入も検討 環境問題への貢献で次代につなげていく
手掛けているスーパーウォール工法による高性能住宅については、「建築費は上がるものの、断熱性・気密性の高さから光熱費は大幅に下がります。すなわち初期費用は上がりますが、逆にランニングコストは下がります。快適な生活ができる上、環境にも貢献できると考えているので、お客さんには『大きな家電と思って先行投資してもらえれば』 という形で勧めています」と話す。電気料金をはじめとする光熱費が高騰している中で、省エネを打ち出すことで光熱費が低減できる。加えて、太陽光発電装置の取り付けによる創エネも、こうした訴求を補強する材料となる。実際に手掛けてきた住宅では、光熱費の低減や快適な暮らしを実感する顧客からの声も届いており、今後の事業継続への励みにもなっている。
導入した3Dパースプレゼンシステムでは、省エネ性能の高さを示す「外皮平均熱貫流率」(UA値)の計算などもできる。多少専門的ではあるが、省エネ性能の高さを明確にわかる数値という形で顧客に示せば、施主が高性能住宅を着工することに踏み出す材料ともなる。省エネや創エネにつながる住宅の建築や施工を、小野社長は今後も前面に押し出した形で経営を続けていく方針だ。
小野社長と妻の2人で顧客に対応するため、さらにICTを使って現場に行く回数を減らし、効率の良い仕事ができるようにならないかと考えている。現場の工程管理や、工程のずれの更新が容易に行えるようなシステムの導入も見据えている。
「今は住宅建築を通じて、環境問題や人の幸せにも貢献できる良い仕事ができていると感じている」と実感を込める小野社長。設計・施工の一貫対応による顧客からの信頼や省エネや創エネを通じて環境にも貢献できることで、以前のような極端な低価格ではなく、顧客が価値を感じてもらえるので適正な価格が維持できるようになった。小野社長は、現在の事業に将来性を感じ、次のステップも描いているようだ。
かつて父の会社で味わった苦渋の中で見出した経営方針を、自らの手で実現している充実感も漂う。長男がすでに大手建築会社で修業中といい、現在の仕事を「次代につなげていきたい」といい、それによって、自身の会社で環境に貢献できる仕事をさらに続けていくことを描いている。
企業概要
会社名 | 株式会社ビルドアーク |
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住所 | 群馬県伊勢崎市東小保方町1050-14 |
HP | http:/www.bahaus.jp/ |
電話 | 0270-75-5397 |
設立 | 2011年2月 |
従業員数 | 2人 |
事業内容 | 建築工事業、建築設計監理業、太陽光を利用した発電業務および電力の販売 |