株式会社若林佛具製作所
(画像=株式会社若林佛具製作所)
若林智幸(わかばやし ともゆき)
株式会社若林佛具製作所 代表取締役社長

1966年京都市に生まれる
1989年同志社大学卒業
卒業後、不動産関係の会社に入社し、京都および東京にて主に販売に従事
1992年(株)若林佛具製作所入社
2006年専務取締役、2013年代表取締役社長に就任
社長就任後、家庭用仏壇および寺院向けのネット販売事業他新規事業をスタートし、関連会社の(株)若林工芸舎を文化財修理専門の会社として組織を再編成。
2030年の若林佛具製作所創業200周年に向けて新たな取り組みを続けている。
株式会社若林佛具製作所
天保元年(1830年)創業の仏壇・仏具メーカー。数多くの分業から成り立つ京都の職人と共に寺院用仏具から内装工事・家庭用仏壇の製作を行う。近年、これまで積み重ねてきた技術を活かし、全国の国宝・重要文化財等歴史的建造物の修理も手掛ける。 「お客様、従業員、職人を大切にします 」「工芸の技術を育て、高め、次の世代へ継承する」「手を合わせる心と文化を守る」 3つの使命のもと、既存事業に加え、仏具職人の技術を活かした新規事業や、ライフスタイルに合わせたオリジナルブランドの開発にも取り組む。

目次

  1. 創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み
  2. 承継の経緯と当時の心意気
  3. ぶつかった壁やその乗り越え方
  4. 今後の新規事業や既存事業の拡大プラン
  5. メディアユーザーへ一言

創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み

ー 若林佛具製作所は非常に歴史のある会社ですが、会社の変遷を教えていただけますか?

若林 当社の創業は1830年で、京都の七条新町で事業をスタートしました。当初からお寺の物品を販売し、明治以降は個人用の仏壇を販売しています。商品の内容は社会情勢やニーズの変化に合わせて変化していますが、事業の柱は現在も変わっていません。

その後、昭和30年代から寺院への外商営業を始めて全国の浄土真宗の寺院で名前を広めていったことと、併せて個人向の仏壇を積極的に販売してきたおかげで、仏壇・仏具といえば若林と、認識してもらえるようになりました。

京都で長年蓄積された職人の技術を活かして、戦後の復興需要やお寺の新築・改築ブームで多くの仕事をいただき、順調に売上も伸ばしてきました。良い仕事ができる職人さんとのお付き合いをもとに、100年以上変わらなかった日本の寺院、信仰の強さ、変化しない消費が支えとなって、現在までやってこれたことに感謝しています。

株式会社若林佛具製作所
(画像=株式会社若林佛具製作所)

最近では、職人さんの技術力を活かして、他分野にも活用する取り組みを行なっており、国内外のアーティスト、デザイナーの作品に対して技術提供しています。

承継の経緯と当時の心意気

ー 続いて事業承継時のお話を伺えればと思います。過去のインタビューでは、最初は継ぐ気がなかったとおっしゃっていましたが、どのような変化があったのでしょうか?

若林 当時は継ぐことに対して、親から直接的に何か言われたことはありませんでしたが、暗黙の流れはありました。いわゆるバブル後の需要の変化や将来のことを考えると、引き継ぐ意欲が湧かなかったのは事実です。

ただ、社会情勢が変化し、会社も変わらなければならないと感じるようになりました。特に社内にいる経済成長期を過ごした世代は、事業に変化を伴わなくても経営はそれなりに安定していた時代を過ごしているため、会社を変えることが難しかったと思います。その中で、当時良くなかった財務状況に対して40歳の頃から私が金融機関と交渉を行うことになり、今ではそれが勉強になったと感じています。

社長就任してからは、新しいことを始めるなら3年間が勝負だと言われたため、当初から新しい事業に取り組む意気込みはありました。若林の使命をとして、「お客様、従業員、職人を大切にします 」、「工芸の技術を育て、高め、次の世代へ継承します 」、「手を合わせるという心と文化を守ります 」という3つのミッションを掲げ事業を行ってきました。

ぶつかった壁やその乗り越え方

ー 実際に経営権をとって社内改善を図る際に、ご苦労されたことはなんでしょうか?

若林 引き継ぐにあたって、やはり財務内容をどのように改善していくかという点には頭を悩ましましたね。ライフスタイルの変化やお寺離れが進む日本において、当社の既存事業がこの先衰退していくのは予想できたため、抜本的な対策が求められる環境下で、財務担当としては息の抜けない状況が続いていました。

そこで、ビジョンを描き新規事業をスタートしていくことを急ピッチで進めました。その上で、既存事業を活かしつつ将来の柱となる事業の立ち上げに取り組みました。

新規事業については、最初は仏具のEC事業からスタートしました。社内で担当をつけてその人に任せることは難しかったため、外部プロデューサーを招聘して、私自身が責任者として方向性を定めていきました。

今後の新規事業や既存事業の拡大プラン

ー 今後の新規事業のプランや既存事業の拡大方向など、経営や事業戦略についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

若林 新しい事業に関しては、ミッションに基づく事業を展開しています。 2017年に京都の本社ビルを全面的にリニューアルしました。これは事業改革やイメージを変えるために必須だったと思います。以前は古いビルでしたが、東京の空間デザイナーにお願いして外観と1階を真っ白な店舗にリニューアルしました。

新規事業拡大の中で、プロデューサーが絡む案件が増え、デザイナーやアーティストの方々とのコラボレーションが進んでいきます。2019年には東京の表参道で、6人の様々な分野のクリエイターと仏壇の存在意義を再構築するプロジェクト「raison d'être」の展示会を開催しました。

このように、若林佛具製作所の技術を他の分野へ応用しながらブランディング、PRにも力を入れてきました。今後も、国内や海外のクリエーターと協業できる案件を、継続できる形で着実に進めていくことが大切だと考えます。

先述のもう一つの方向性としてのEC事業は、10年前から仏壇・仏具のネット販売をスタートさせ、楽天市場などのECサイトを構築し販売を拡大してきました。ここで大切なことは、価格競争にならないようオリジナルブランドの製品を作ってきたことです。プロデューサーとともに国内の優秀なデザイナーと協業し、これまでにないオリジナル仏壇や盆提灯などの関連商品を作ってきました。現在では自社サイトを構築するとともに越境ECで海外へ進出することを目標に進めています。併せて寺院へのネット販売サイトも立ち上げ、若年層を中心とする僧侶へもPRを進めています。

ー ありがとうございます。既存事業に関してはいかがでしょうか?

若林 既存事業については、これまでの寺院事業や仏壇事業は、社会の変化から消費が減少していくことは間違いない状況です。但し、これは手法や製品の問題であり、需要がなくなってしまうということではありません。先述のクリエーターとの事業と同じく、仏具職人にフォーカスを当てて、新たにその職人技術を新しい形で活用しています。 現在、積極的に国宝、重要文化財の修理事業も展開しています。これは、2016年に国の観光ビジョンが策定されたことを受けて、歴史的建造物の文化財修理が今後の日本の国の観光を背負っていく事業になると考え、資格取得しました。

ー 今後もそのミッションを軸として事業拡大を進めていく予定ですか?

若林 はい、そうです。ミッションの中には「工芸の技術を育て高め、次の世代へ継承します」というものがあります。これには、先ほどお話しした「raison d'être」などのクリエーター協業事業や文化財修理事業が含まれます。もう一つのミッションは、「手を合わせる心と文化を守ります」というもので、これは、一つでも多くのご家庭に仏壇を提供することを目的としています。特にこの2つのミッションを軸に、今後も事業拡大を進めていく予定です。

メディアユーザーへ一言

ー 経営者を中心とするTHE OWNER ユーザーへ一言いただけますでしょうか?

若林 まず1つ、我々の職人技術は一朝一夕では身につかないもので、最低でも習得に5年から長いと10年以上かかります。これまで京都の伝統産業は職人への外注が多かったのですが、今は内製化を図っています。まだ京都ではあまり例がないのですが、最初に経費をかけて先行投資してでも職人を育てようということに取り組んでおり、ぜひそういった面を応援していただければと思います。

特に我々は全国の建造物の内装工事も手掛けていますし、寺社やお城など歴史的建造物の修理も行っています。漆や金箔、金具などの職人技術を活かして施工していますので、そういった仕事があればお声がけいただければ幸いです。

2点目として、我々が作っているオリジナルのお仏壇に関しては、京都や東京のお店で展示しています。お気軽に店舗で見ていただいて、併せてECサイトでも購入いただけると嬉しいです。変わりゆく消費者の方々の目線で製品作りに取り組んでいますので、ぜひご注目ください。

ー 本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

氏名
若林智幸(わかばやし ともゆき)
会社名
株式会社若林佛具製作所
役職
代表取締役社長