創業補助金
(画像=Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com)

会社経営の重要事項が資金調達だ。特に会社設立時は、余裕を持った手持ち資金が必要になる。しかし、実績のない創業したての企業は、金融機関から融資を受けるのが難しいことも少なくない。そこで知っておきたいのが創業補助金だ。早速、概要を中心にご説明しよう。

目次

  1. 創業補助金の事前知識 補助金と助成金の違いは?
  2. 創業補助金とは?
  3. 2018年度の創業補助金(地域創造的起業補助金)の概略
    1. 創業補助金の募集要件は?
    2. 創業補助金の補助対象事業は?
    3. 創業補助金の補助率・補助金額の範囲は?
    4. 創業補助金の申請手順は?
  4. 創業補助金のメリットとデメリットは?
    1. 創業補助金のメリット
    2. 創業補助金のデメリット
  5. 創業支援等事業者補助金とは?
    1. 令和元年度創業支援事業者補助金
  6. 特定創業支援等事業を受けた創業者のメリット
  7. 公益財団法人など独自の補助金・助成金もチェック
    1. TOKYO創業ステーション創業助成事業(東京都中小企業振興公社)
  8. 創業補助金以外の資金調達方法
    1. 調達方法1.日本政策金融公庫の新規開業資金融資
    2. 調達方法2.信用保証協会を利用した金融機関からの創業融資
  9. 創業時は補助金の獲得にアンテナをめぐらせておこう

創業補助金の事前知識 補助金と助成金の違いは?

創業補助金の理解を深めるために、まずは補助金と助成金の違いから説明する。

補助金も助成金も原則返済不要だが、異なる特徴がある。補助金と助成金はともに国や地方公共団体が取り扱うものが多い。補助金は経済産業省の管轄が多く、助成金は厚生労働省の管轄が多いといわれている。

補助金・助成金には応募条件と書類審査がある。書類や計画に不備・変更があれば対処しなければならず、簡単にお金がもらえるわけではない。当初申請した計画通りに進捗しなければ支給されないこともある。

補助金は、一定期間内に予算の範囲内で募集されるため競争率が高い。期間内に応募しても採択されるとは限らず、審査によって可否が決まる。一方助成金は、予算の関係で打ち切られることもあるが、一定の要件を満たしていれば原則支給される。

創業補助金とは?

創業補助金とは、創業時に必要な経費の一部を国や地方公共団体が補助する制度である。新たな需要や雇用の創出による日本経済の活性化が目的だ。

各年度によって名称が変わり、2018年度からは地域創造的起業補助金と呼ばれるようになった。2018年度は4月27日~5月26日の約1ヵ月間募集していた。2019年度は募集がなかったことから、毎年必ず募集するとは限らないようだ。

国は創業時の補助金を地方公共団体の主体性に任せる傾向がある。創業するなら創業予定地域の補助金にアンテナを張り巡らせたい。

2018年度の創業補助金(地域創造的起業補助金)の概略

創業に関する補助金は、申請から補助金交付までの流れに共通部分が多い。参考までに2018年度地域創造的起業補助金の要件を確認してみよう。

どのような補助金にもいえるが、細かい募集条件に該当しないと申請できない。募集要項をよく確認し、わからないことを問い合わせる必要がある。

創業補助金の募集要件は?

要件1.補助金募集開始日以降「新たに創業する者」

補助事業完了日までに個人開業または会社設立を行った代表者が対象となる。すでに個人事業主や経営者である人は対象にならない。

要件2.中小企業に該当し、みなし大企業に該当しない

みなし大企業とは一定の割合で大企業が出資する中小企業をさす。

要件3.事業実施完了日までに新たに従業員を1名以上雇い入れる

雇用契約書や雇用期間中の給与明細、賃金台帳などの支払いを証明する書類が必要になる。

要件4.産業競争力強化法に基づく認定市区町村における創業である

認定市区町村は地域創業的起業補助金事務局のサイトから確認できる。

創業補助金の補助対象事業は?

本補助金の対象事業は、下記の(1)~(5)の要件をすべて満たさなければならない。

(1)既存技術の転用、隠れた価値の発掘を行う新たなビジネスモデルにより、需要や雇用を創出する事業であること

(2)産業競争力強化法第2条25項に規定される特定創業支援事業を受ける者による事業であること

(3)金融機関からの外部資金による調達が十分見込める事業であること

(4)地域の需要や雇用を支える事業や海外市場の獲得を念頭とした事業を日本国内において興すもの

(5)「公序良俗に問題のある事業」、「公的な資金の使途として社会通念上、不適切であると判断される事業(風俗営業等)」、「国(独立行政法人を含む)のほかの補助金、助成金を活用する事業」に該当しないこと

創業補助金の補助率・補助金額の範囲は?

補助率は補助対象となる全経費の2分の1以内で、補助金額の範囲は下記のとおりだ。

・外部資金調達がない場合は50万円以上100万円以内
・外部資金調達がある場合は50万円以上200万円以内

補助対象となる経費とならない経費があり、支払いを証明する証拠書類も保存しておかなければならない。

創業補助金の申請手順は?

補助金の申請から交付(補助金受取)まで一連の流れを見てみよう。

(1)認定市町村または認定連携創業支援事業者へ相談をして支援の確認書の発行を受ける
(2)事業計画書や申請書を提出(応募)
(3)資格審査、書面審査・審査結果を通知(採択の通知)
(4)交付の申請
(5)交付の審査・交付決定
(6)完了報告書を提出
(7)確定検査・交付額の決定
(8)補助金の請求・補助金の受取
(9)事業化報告提出

書類チェック後、補助金が交付される。なお、補助金交付後も5年間は事務局に事業状況を報告しなければならない。

事業期間は交付決定日から最長で2018年12月31日までとなる。補助金受取までの期間、事業主が費用をすべて負担するので、手持ち資金に余裕がないと資金繰りが厳しくなる。創業時は特に安定した売上の確保が難しいため、事前に資金を準備しなければならない。

創業補助金のメリットとデメリットは?

創業補助金のメリットとデメリットを整理してみよう。

創業補助金のメリット

補助金の最大のメリットは、返済不要で創業前の企業でも申請できることだ。業種によって必要となる資金規模は異なるが、設備投資や人件費、事務所の家賃などにあてる資金が必要だ。補助金で経営者を悩ませる経費の一部を賄える。

また、市町村と連携する連携支援事業者(商工会や商工会議所など)から経営のアドバイスが受けられるのもメリットだろう。商工会や商工会議所で主催するセミナーに参加し、経営を学びつつ地元企業との人脈を作ることも創業時には効果的だ。

創業補助金のデメリット

創業補助金のデメリットは、後払いで資金がすぐに入らないことだろう。補助金は、経費の一部を補助するのが目的だ。補助金を受け取るまでの費用は経営者が立て替えなければならない。

また、必ず採択されるとは限らないのも大きな特徴だ。2018年度の地域創造的起業補助金の採択は358件中120件で、採択率される確率は3分の1程度である。したがって、認定連携創業支援事業者の専門的なアドバイスを受けて事業計画を綿密に作り込むことが必要だ。

事業計画書や申請書類、実績報告書(補助事業完了後30日以内)、事業化状況の報告(補助事業完了後5年間)など、書類作成に負担がかかることも忘れてはならない。

補助事業完了後5年間は、補助事業に対する収益状況を報告するだけでなく、一定以上の収益が認められると収益の一部を納付するケースもある。

創業支援等事業者補助金とは?

創業支援等事業者補助金は、地域創造的起業補助金と異なる特徴を持つ。創業支援を行う民間事業者(認定連携創業支援等事業者)を対象とし、創業する事業者が利用できる補助金ではない。

しかし、市区町村または認定連携創業支援等事業者が行う事業で支援された創業者にもメリットがある。早速、メリットを含めて概要を紹介する。

令和元年度創業支援事業者補助金

・事業内容

創業支援等事業者補助金は、市区町村と連携した民間事業者等が行う創業支援の経費を補助する制度だ。ちなみに、その際の創業支援等事業計画は産業競争力強化法に基づき、国から認定されたものである。新たな雇用の創出等を促し、日本経済を活性化することが目的だ。

・補助の対象

・経営指導、ビジネススキル研修、経営力向上セミナー、コアワーキング事業などの特定創業支援等事業に必要な経費の一部

・起業家教育事業等の創業機運醸成事業に必要な経費の一部

・上限額・下限額・補助率

補助上限額は1,000万円で、交付決定下限額は50万円である。補助率は補助対象経費の区分ごとに3分の2以内と定められている。

特定創業支援等事業を受けた創業者のメリット

特定創業支援等事業とは、市区町村または認定連携創業支援等事業者が創業希望者等に行う継続的な支援で、経営、財務、人材育成、販路開拓の知識がすべて身につく事業だ。補助金のような資金援助はないが、特定創業支援等事業を受けた創業者は複数のメリットを享受できる。

メリット1.登録免許税の軽減

認定を受けた特定創業支援等事業の支援を受けて創業しようとする者または創業日から5年経過していない個人が会社を設立する際、登記にかかる登録免許税が軽減される。

株式会社または合同会社は資本金の税率が0.7%から0.35%に、合名会社または合資会社は申請件数1件につき6万円から3万円に登録免許税が軽減される。

最低税額の場合、株式会社設立は15万円から7万5,000円に、合同会社設立は6万円から3万円にそれぞれ減額される。

メリット2.創業支援融資を利用できる

特定創業支援事業の利用は、信用保証協会の創業支援融資の条件でもある。無担保で、第三者保証人が不要である点がメリットだ。具体的な計画があれば事業開始6ヵ月前から利用の対象になる。

メリット3.日本政策金融公庫における融資制度の要件を満たせる

日本政策金融公庫の融資制度である新創業融資制度には自己資金要件があるが、特定創業支援等事業を受けた創業者であれば、創業資金総額の10分の1以上の自己資金要件を満たす者として利用できる。

そのほか、日本政策金融公庫における新規開業支援資金の貸付利率が引き下げの対象となる。低金利で融資が受けられる点は魅力的だ。

公益財団法人など独自の補助金・助成金もチェック

国が提供する助成金以外にもさまざまな制度がある。たとえば、地方公共団体や公益財団法人などの補助金・助成金制度だ。助成金や補助金を探すには、まず創業を予定している都道府県や市区町村のホームページをチェックしておこう。

なぜなら、企業の誘致や地元産業の活性化に力を入れている自治体が、補助金や助成金の制度に力を入れているケースがあるからだ。

地元の商工会や商工会議所などで情報収集するのも効果的だ。経営に関するセミナーを積極的に行っており、セミナーで知り合った地元の事業者との人脈作りにも役に立つ。

また、創業に力を入れている地元の銀行や信用金庫も独自の情報を持っていて、取引先を紹介してくれることもある。このように、地元ならではの情報をいかに有効活用するかも創業時には大事だ。ここからは、東京都中小企業振興公社の創業助成事業を紹介するのでぜひ参考にしてほしい。

TOKYO創業ステーション創業助成事業(東京都中小企業振興公社)

・事業内容

創業助成事業は、都内の産業活力向上などに寄与する「創業者等の事業計画」に対し、創業初期に必要な経費の一部について助成する。経費の対象は賃借料や広告費、従業員人件費などである。創業に挑戦する機運を高めることが目的だ。

・助成内容

申請受付期間2020年4月13日(月)~2020年4月21日(火)まで
2020年2月から説明会が開始され、2020年10月にも募集を行う予定
助成対象期間①最長の場合は、交付決定日(2020年9月1日予定)から事業完了日(2022年8月31日)
②最短の場合は、交付決定日(2020年9月1日予定)から事業完了日(2021年8月31日)
助成限度額上限額300万円
下限額100万円
助成率助成対象と認められる経費の3分の2以内
助成対象経費に助成率を乗じることで助成金額を算出
助成対象経費賃借料、専門家指導費、従業員人件費、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費

・地域創造的起業補助金との違い

都内で創業予定の個人だけではなく、事業を始めてから5年未満の個人事業主や法人代表者も対象になる点は、地域創造的起業補助金と異なる。

「公益財団法人東京都中小企業振興公社が実施するTOKYO創業ステーション『プランコンサルティング』による事業計画書策定支援を終了し、過去3年の期間内にその証明を受ける」などの条件があるので、説明会に積極的に参加してアドバイスを受けるのが望ましい。

創業補助金以外の資金調達方法

人気のある補助金は競争率が高く採択されるとは限らない。ほかに有効な資金調達の手段としては、金融機関から融資を受けるのが現実的だ。

創業時に活用できる代表的な融資は主に2種類ある。日本政策金融公庫の新規開業資金融資と、信用保証協会の保証により金融機関から融資を受ける創業融資だ。

調達方法1.日本政策金融公庫の新規開業資金融資

設備資金は20年以内、運転資金は7年以内と返済期間が長期で、比較的低金利なのも魅力だ。創業計画書の作成が必要だが、国政のもとで運営されている政府100%出資の金融機関であるため、初めての融資でも利用しやすい。

調達方法2.信用保証協会を利用した金融機関からの創業融資

各都道府県に設置される信用保証協会は、中小企業が金融機関から事業性資金の融資を受ける際に保証人となって、金融機関から融資を受けやすくなるようにサポートする公共機関だ。

信用保証協会の保証付融資は、原則金融機関を通じて申し込む。また、金融機関が設定する金利のほかに保証料が必要となる点は注意したい。

万が一のときに信用保証協会が返済してくれるので、金融機関は安心して融資できる。所定の事業計画書などを作成する必要があるため、取引先金融機関に相談してから手続きするとよい。

創業時は補助金の獲得にアンテナをめぐらせておこう

新規事業立ち上げや独立創業の障壁が資金調達だ。その際に活用する補助金は返済不要の資金だが、募集期間が短く競争率が高い。しかも、必ず採択されるとは限らないので注意が必要である。

とはいえ、数多くの団体や法人などが補助金や助成金の事業を実施しているため、創業時にできるだけ活用したい。

創業を考えているならば、国だけではなく創業地域の地方公共団体や公益財団法人などの補助金にアンテナを張り巡らせ、事前に準備をして取り組まなければならない。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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