目次
- 業界に先駆け、2008年リアルタイムで荷物の現在地を把握できる高度運行支援システムを導入
- 従業員が「働きやすい職場」に向けて「労働安全衛生活動」に取り組む
- 配送エリアは関東に絞る 「選択と集中」で経営の効率化を行い、安全で安心できる会社へ 結果的に残業規制の2024年問題にも対応
- 動態管理(高度運行支援)システムによる実輸送の効率化と、低コスト化に向けて積載率・実車率・車両の回転率という「3率」の実現
- 伊勢崎IC近接地の好立地を生かし、顧客のスピードアップの要望を実現する倉庫を建設、倉庫業を2025年稼働開始予定
- 「労働安全衛生」活動をはじめ社会的企業としての取り組みをホームページで積極発信
- 自動点呼システムの導入、クラウド給与計算システムで複雑な給与計算を解決、倉庫業の管理とICT化は今後も続く
栄運輸株式会社は群馬県伊勢崎市にあるトラック運送事業者で、関東をメインの配送エリアとして多岐にわたる貨物を輸送している。システム化にも力を入れ、2008年に業界に先駆けGPSによる高度運行支援システムを採用し、動態管理(車両や在庫、貴重品などの位置情報や状態をリアルタイムに記録・管理し、業務を効率化すること)の徹底により、実輸送の効率化と低コスト化を実現。また、従業員の健康管理にも早くから取り組み、2018年には、陸運業界で初めて厚生労働省の「安全衛生優良企業」の認証を取得した実績もある
ただ、経営面では、不採算な部分も増え、顧客サービス向上に力を入れるため、営業エリアや取扱貨物の種類、対象荷主の業種を限定する事で、経営の効率化と同時に顧客へゆとりを持って対応し、運転手の健康へも配慮した。またドライバーの自動点呼システムを導入するなど安全と健康のためICT導入に積極的に取り組んでいる。また2025年には倉庫業に参入し、顧客の利便性を強化する。(TOP写真:栄運輸の大型トラック。保有車両はほとんどがウイング車両で多岐にわたる貨物を輸送する)
業界に先駆け、2008年リアルタイムで荷物の現在地を把握できる高度運行支援システムを導入
トラック運送事業のICT化には業界に先駆けて取り組んでいる。大手トラックメーカーが2008年に発売した高度運行支援システムについて、栄運輸は開発に当たった大手自動車部品メーカーと開発段階から打ち合わせし、「当社の意見もフィードバックしてもらい、高度運行支援システムを発売した2008年に全国で第1号の導入企業になったと聞いている」と篠原社長は話す。
このシステムはGPSを使って車両の現在位置を常に計測し、荷物が現在どこを走っているかをリアルタイムで事務所のパソコンで容易に確認でき、車両を無駄なく移動することができる。あらかじめ登録しておけば荷主も利用可能だ。篠原社長は「ドライバーがブレーキとアクセルを何回踏んだかも把握でき、そのデータを吸い上げ社員教育に生かし、ドライバーの品質向上につなげている」と語る。2024年7月には通信規格が4Gから5Gに切り替わったことから全車両を5G対応に更新している。
従業員が「働きやすい職場」に向けて「労働安全衛生活動」に取り組む
栄運輸は車両事故・製品事故・労災の防止に向け、安全水準の向上や健康、メンタルヘルス対策などを含め、社員一人ひとりが「働きやすい職場」を目指す「労働安全衛生」活動に取り組んできた。その成果もあり、2018年に厚生労働省が労働者の安全や健康確保のための対策に取り組み、高い安全衛生水準を維持・改善している企業を指定する「安全衛生優良企業」の認証を陸運業界で初めて取得した。
さらに、環境保全を目的にした取り組みを実施している運輸事業者としての「グリーン経営認証」、利用者がより安全性の高い運輸事業者を選び やすくするとともに事業者全体の安全性向上に対する意識を高めるための環境整備を図る 「安全性優良事業所認定(Gマーク)」、さらに「健康経営優良法人」などの認証制度について継続して認証されている。
配送エリアは関東に絞る 「選択と集中」で経営の効率化を行い、安全で安心できる会社へ 結果的に残業規制の2024年問題にも対応
栄運輸は現在、会長職にある篠原正一氏が1964年4月、トラック運送業を立ち上げたのがスタートだ。創業当初は個人宅配を主体に手掛け、1989年4月には篠原正一氏が株式会社として法人化し、創業から60年の長きにわたってトラック運送業に携わってきた。
事業にとって大きな転換点は、配送エリアを関東地区主体に絞り込んだことにある。2014年6月に二代目を引き継いだ篠原利行代表取締役社長によると「2004年頃までは大阪や神戸などへの長距離便も手掛けてきた。ただ、長距離便は経費が膨らむ一方で費用対効果が望めず、配送エリアを地場の関東に特化することに踏み切った」とその背景を語る。
栄運輸が営業エリアを関東に絞り込んだタイミングは、貨物量がある程度確保でき事業が軌道に乗ってきた時期にあたる。「営業エリアを限定することで、大手が手掛けないニッチ(すきま)市場の中でも収益性の高い分野に絞った効率的な営業を目指すこととした。一方、当社が対応できない分野は業務提携している同業の協力を得るといった『選択と集中』を進めてきた。こうした考え方に切り替えたことで、当社を今の状態にまで押し上げることができた」と篠原社長は振り返る。さらに配送エリアを関東に絞ったことで「残業時間の規制が強化された『2024年問題』にはそれほど深刻に懸念していない」とも語る。
その背景には、収益面での改善だけでなく、「場所に届けるのではなく、人に届ける」という考えのもと、顧客に対して心の余裕を持って接する事の重要さを意識していたことにある。運転手に残業を強いる事で、運転手は心の余裕がなくなり、結果顧客の心が離れる、という事を篠原社長は良く知っていた。
動態管理(高度運行支援)システムによる実輸送の効率化と、低コスト化に向けて積載率・実車率・車両の回転率という「3率」の実現
関東エリアへの絞り込みこそが、栄運輸が従業員と顧客のための「選択と集中」の第一歩の決断だった。当然他社との差別化も重要だ。栄運輸が現在、得意分野に位置づけるのは動態管理(高度運行支援)システムによる実輸送の効率化と、低コスト化に向けて積載率・実車率・車両の回転率という「3率」の実現により提供できる効率配送にある。さらに保有車両のほとんどが効率的に荷物の積み下ろしができ、多様な荷物に対応可能なウイング型であることも強みだ。
トラック運送事業者にとって最も重要な要素である「安全」についても、栄運輸は10台超の保有車両全部に一括して掛ける自動車保険のフリート契約の割引率で最高水準の70%を得ており、これも差別化策として大きな売りとなっている。
伊勢崎IC近接地の好立地を生かし、顧客のスピードアップの要望を実現する倉庫を建設、倉庫業を2025年稼働開始予定
篠原社長は「運輸業はなかなか差別化が難しい」としながらも、栄運輸は業界常識にとらわれない差別化策を矢継ぎ早に打ち出し、2025年には倉庫業への進出を予定している。これを可能にした要因の一つは、2006年4月に北関東自動車道の伊勢崎インターチェンジ(IC)の近隣地に本社を移転したことにある。移転した地域は新たに建築物を建設できない市街化調整区域だったものの、建設会社の資材置き場として使われ、銀行の不良債権として放置されていた。関係者と協議を重ねて譲り受けることができ、本社移転にこぎつけた。
本社が伊勢崎ICの目の前という好立地は、トラック運送事業者にとって「地の利を生かせる(最高の)差別化」(篠原社長)に他ならない。「本社移転の2年後にはリーマン・ショックがあり、仕事が全然なくなって苦労した」(同)と予期せぬ苦難を味わったとはいえ、本社移転がさらなる差別化につなげる倉庫業進出への起点となったのは事実だ。
倉庫業進出にあたっては、移転当時は約300坪(990平方メートル)だった敷地を約3,000坪(9,900平方メートル)に広げた。ただ、倉庫業進出には市街化調整区域の用途規制をクリアしなければならない。伊勢崎市など関係者との粘り強い協議を2年ほど続けた結果、国の規制緩和によりICの出入口から1キロメートル以内の倉庫建設が認められたことから、倉庫業進出のめどをつけた。建設する倉庫は建築面積約1,000坪(3,300平方メートル)で、取引先の荷主の荷物を預かり出荷する事業用倉庫として2025年4月の完成を予定している。
「労働安全衛生」活動をはじめ社会的企業としての取り組みをホームページで積極発信
栄運輸は、事業面に限らず数々の社会的企業としての取り組みについても、広く情報発信に努めてきた。自社ホームページを開設したのは2015年で、篠原社長はその狙いについて「当社が取得している安全や環境、健康といった認証などの情報は業界内部が知っていても意味はなく、本来は広く外部に向けて発信していくべき」とし、「当社がどんな会社でどういった取り組みをしているかを外に向けて一般的に知ってもらう、それが営業の一環でもあり、また採用活動にもつながる」と位置付ける。
こうした情報発信の取り組みもあって「ホームページを通じた求人への引き合いは結構ある」(篠原社長)と言う。栄運輸の場合、ハローワークによる求人が多く、求人媒体は1社のみで、「採用にはつながらなかったものの、2024年6、7月にはそれぞれ7人と面接した。なかにはホームページを見て応募したという例もあった」(同)。
自動点呼システムの導入、クラウド給与計算システムで複雑な給与計算を解決、倉庫業の管理とICT化は今後も続く
国土交通省が2023年1月、従来まで原則対面によるドライバーに対する点呼の義務を、乗務を終了したドライバーに対しては点呼機器により自動で点呼できるように制度改正したことに対応し、栄運輸はクラウド型の自動点呼システムを導入した。導入にあたってはGマーク認定企業に対する公益社団法人日本トラック協会による助成金の優遇措置があるほか、「出退勤管理ができ、残業規制が強化された『2024年問題』にも対応できる」(篠原社長)として導入に踏み切った。
一方、栄運輸は積載量10トン以上の大型車のドライバーと4トン積みトラックのドライバーで異なる給与体系を採用している。4トン積みトラックは固定給なのに対し、大型車は固定給に歩合給を組み合わせている。この結果、給与計算はどうしても複雑になりがちで、給与計算に手間がかかっていた。このため給与明細の計算はソフト会社に委託し、2016年にクラウド給与計算システムと連動させる形で給与計算の効率化を図った。
栄運輸の取扱貨物は雑貨、家電製品、自動車部品など多技にわたり、保有する36台の車両のほとんどはウイング車で、その性質を生かした貨物を主体に配送している。篠原社長は「トラック運送業界はなかなか差別化が難しい」としながらも、数々の差別化を打ち出してきた。次の一手としている倉庫業への進出は、顧客へのサービスの充実という先を見越した差別化に取り組む栄運輸の姿を象徴している。
企業概要
会社名 | 栄運輸株式会社 |
---|---|
住所 | 群馬県伊勢崎市三和町2529番地 |
HP | https://sakae-unyu.co.jp/ |
電話 | 0270-40-5670 |
設立 | 1989年4月 |
従業員数 | 38人 |
事業内容 | 一般区域貨物運送事業 、自動車運送取扱事業、トータルリペアサービス事業、倉庫委託事業、工場内作業請負 |