南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)

目次

  1. 南欧風の敷地に入ると、「開かれた気持ちの良い空間」 これが入居者の新しい生活空間と思える施設を提供
  2. 職員ファーストで一緒に歩み築いてきた 2024年度の年間目標は「かがやく自分へ」
  3. 何より大切な職員への研修 そして大会で技術が認められる介護を受け継いでいく
  4. 2014年にWi-Fi環境を整備しタブレットを利用した情報共有、2019年にインカム導入、2021年には全床に見守りセンサーを導入し入居者の状況把握とICTによる安心介護を進める
  5. 館内のユニーク施設 伊香保温泉と同じ泉質の温泉でのリハビリが可能 その他、車椅子で作業できるユニークなビニールハウスの野菜栽培にも取り組む
  6. 日常生活はゆったりと過ごし、イベントでは入居者が楽しめる様々な工夫を行う
中小企業応援サイト 編集部
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群馬県前橋市に社会福祉法人鎌倉会の運営する「特別養護老人ホームかまくら」(以下「かまくら」)はある。イタリアの街並みを思わせる佇まいが他の施設との大きな違い。また「かまくら」からも「裾野は長し赤城山」と上毛かるたに読まれる赤城山の姿を望むことができる。平屋建てのユニット型特養の個室70床分とショートステイ10床の部屋が連なり、さらにコンピューターでコントロールされた野菜作りをするビニールハウス「かまくらファーム」が並んでいる。三富ますみ施設長と浅見直事務部長に話を伺った。(TOP写真 イタリアの街並みをイメージした特別養護老人ホームかまくら)

南欧風の敷地に入ると、「開かれた気持ちの良い空間」 これが入居者の新しい生活空間と思える施設を提供

南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)
土台が大切、基礎が大切と話す三富施設長

前橋の地でなぜ「鎌倉会」なのか。実は「かまくら」からほど近いところに、鎌倉坂と名付けられた場所がある。鎌倉時代の執権北条時頼がお忍びでこの地を訪れた際「もう鎌倉に着いたから見送りは大丈夫」と言った場所と伝えられているそうだ。付近の学校にも鎌倉の名が使われており、もちろん鎌倉会の名前の由来もそこからだ。

2006年オープンのかまくらは、イタリアをイメージして作られている。イタリアから取り寄せたというレンガ作りの外壁に囲まれ、館内の広々とした廊下には天窓から太陽の日差しがたっぷりと注いでいる。個室10床がまとまった7つのユニットそれぞれにも、ローマ、ナポリなどイタリアの都市の名が付けられている。

「まだまだ親や義理の親を施設に預けるということに負い目を感じる方もいるので、かまくらなら安心、と利用者の家族にも思ってもらえるものが必要なのです」と三富施設長は言う。手入れが行き届いてきれいなだけではなく、階段やエレベーターを使わずに移動できる平家の部屋と中庭が交互に並び、どの部屋からも緑が見えるようになっている。「南欧の街を旅すると、建物の間口は狭くても一歩中に入ると広々とした中庭が広がっていたりします。その雰囲気をここで暮らす入居者に感じてもらいたいのです」と三富施設長は続ける。

南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)
どの部屋からも中庭が見える

水上町出身の三富施設長は、幼稚園教諭の免許を取った後、障がい者施設を経て高齢者福祉の仕事を始め、経営畑は全くの素人ながら、開設1年半後の2007年より70余人を率いる施設長としてかまくらとともに歩んでいる。

「45歳の時、空っぽのパソコンと机を渡されて送り込まれたのです。とにかくやるしかない。やりながら仕事を覚えていくという感じです。いつもスタッフみんなにも『やらされている』ではなく『やらなきゃ』と言っているので」と三富施設長は明かす。「高い理想を掲げるということではなく、嘘偽りなく自分の精一杯を泥臭くやってきたという感じです」

職員ファーストで一緒に歩み築いてきた 2024年度の年間目標は「かがやく自分へ」

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浅見直事務部長(左)と三富ますみ施設長(右) 特別養護老人ホームかまくらの入り口で

職員への教育として、あいさつ、とくに「ありがとう」「おはようございます」は欠かさないことを徹底している。

鎌倉会の2024年度の年間目標は「かがやく自分へ」。職員から募集したもので、インドネシアからのスタッフもいるため「Untuk bersinar(ウントゥク バルシナール)」とインドネシア語で併記されている。「心豊かに、周りの人が幸せになることを願い、夢・希望・目標を大きく持ち、かがやく自分でいよう」というメッセージとともに貼り出されている。

かまくらでは、職員を家族単位で考えて、職員の家族のライフイベント、中でも受験や病気などの際には夜勤を減らすなど柔軟に対応し、職員の人生を応援する仕組みをつくっている。「浅見事務部長もそうですが、オープン時のスタッフが土台をつくり、残って今日まで支えてくれているのです」

元々、川場村の福祉施設で三富施設長が働いていた頃、学生として実習に来ていたのが浅見事務部長。2人の結び付きはその頃からだ。

何より大切な職員への研修 そして大会で技術が認められる介護を受け継いでいく

土台作りの中で、職員研修はもっとも大切なものだった。介護の基本的な技術はもちろん、例えば、きちんとした挨拶という一番基本的な事項を徹底することで介護される側とする側の尊厳を大切にする。また、利用者に自由に動いてもらい、かつ転倒等が起きないようにすることが大切なので、介護の課題は尽きることがない。そして「困った時に誰かに『助けて』と言える仕組みづくり、関係性を作ることに力を注いでいます」と三富施設長は言う。利用者はもちろん、職員同士でも「今ちょっとお願い」と必要な時に声をかけ、気持の良い対応をされるとわかっていると、安心して仕事に取り組めるそうだ。

さらに介護の技術発表会や介護研修センターでのコンテストが実施されている。かまくらでは毎年参加し、個人、ペアとも優秀な成績を収めている。三富施設長は「参加するなら優勝してね」と言って、職員を送り出しているそうだ。参加するスタッフは、仕事をきっちりやりながら、大会のための練習もする。以前の大会で優秀な成績を収めた職員が次の人にしっかり教えて伝えていく。

「『かまくらの人は介護の技術がしっかりできている』と評価され続けることで、ここで働いている職員たちが誇りを持つことができ、会にとっても本人にとっても財産になります」。信念を持つ施設長の叱咤(しった)激励により、職員たちは全力で大会に挑む。

2014年にWi-Fi環境を整備しタブレットを利用した情報共有、2019年にインカム導入、2021年には全床に見守りセンサーを導入し入居者の状況把握とICTによる安心介護を進める

南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)
見守りセンサーをスタッフが画面で確認する様子

かまくらでは、Wi-Fi環境を整備しタブレットを使った情報共有は2014年から、インカムは2019年から使うようになり、2021年には見守りセンサーを全室に入れた。その間、ネットワークがつながりにくい等の問題もあったが、ネットワークの環境を1社に統一し管理してもらうことで解決。

見守りセンサーはデータを使いこなすことで、入居者の目が覚める時がわかるため、夜勤時の見回りタイミングを変更し、眠っている人を起こさずに、起きてしまった人の排泄介助に対応するなど仕事を見直すことにつながった。

既に過去のICT導入による業務効率化で生まれた時間で介護技術を磨いて介護の技術発表会や介護研修センターでのコンテスト大会で優勝することもできるようになったが、見守りセンサー導入により、新たに隙間時間が15分/日できることがわかった。

「ICT化すれば介護業界の人材不足が解決するわけではなく、業務の何かが省かれるということでもありません。新しいものを使いこなすことによって質の高い介護ができるかは人の問題です。見守りセンサー導入により隙間時間が1日1人15分間あるようです。計算の仕方はいろいろですが、たとえば月に21日働くとして、1人5時間15分つくれることになります。経営としては全員分の計算をすると、2.5人が雇えることになります。それでスタッフみんなに聞いてみました。15分間あったら何がしたいかと。すると『入居者に寄り添う時間がほしい』という返事が返ってきたのです」

かまくらでは、この15分を利用者に還元することにしたのだ。原点にかえり、この15分を入居者と寄り添う時間にした。そばにいて話を聞いたり、一緒にテレビを観るもよし。この間、入居者の様子もみることができる。

三富施設長は今後も整理整頓や動線の再確認など業務の見直しも行い、「もしさらに10分の時間ができたら、その時には新しいことをしようと考えています」と顔を少し緩ませた。

これらのICT化の過程で、すぐに機械を使いこなせる若いスタッフがICTに強くないスタッフに教える機会ができるなど、協力関係が生まれたのは、想定外のうれしい効果だったそうだ。

館内のユニーク施設 伊香保温泉と同じ泉質の温泉でのリハビリが可能 その他、車椅子で作業できるユニークなビニールハウスの野菜栽培にも取り組む

南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)
歩行浴のための伊香保温泉と同じ泉質の温泉プール

館内では、定員18人のデイサービス(地域密着型通所介護)も行っており、利用者は天然温泉のリハビリプールを使って水着で水中歩行する。さらにひのきの浴槽では、源泉掛け流しの風呂にゆったり浸かることができる。どちらも施設の敷地で湧出した温泉が使われており、近くの伊香保温泉と同じ泉質だそうだ。

そして、ICTで水やりや温度の管理がされているビニールハウス、かまくらファームでは、カブ、バジル、レタス、ネギ、大葉などを中心に野菜が作られている。主としてデイサービスの利用者に種をまいてもらい、収穫時期になったものを採って持ち帰ってもらっているという。

南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)
ICTで水やりや温度の管理が行き届いているかまくらファーム
南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)
収穫を待つハウス内の野菜 車椅子で動きやすい高さ・幅の苗床だ(注:苗床の高さは、奥の苗床の位置を見るとわかる)

車椅子に合わせた高さに作られた苗床がハウスにゆったりと並び、苗床と苗床の間も車椅子が行き来し、さらに背中合わせで作業できるほどの幅に作られている。車椅子以外の人も地面にしゃがまなくていいので手入れも楽で好評だが、前橋市で前例がないため、2024年度まで特養の入居者は使う許可が出なかったとのこと。

「地域の入居者は畑仕事をされていた方も多いので、野菜作りに関わるのを楽しみにされています」と三富施設長は語る。「社会福祉法人なので、作られた野菜を売ったりはできませんが、利用者に喜んでもらっています」。ほかに新たに取り入れて良かったものとして、電力高騰時代に先駆けて導入した太陽光発電を挙げた。現在では館内の電力の3割は賄えるという。

日常生活はゆったりと過ごし、イベントでは入居者が楽しめる様々な工夫を行う

南欧デザイン、伊香保温泉と同質の温泉、車いすで出来る野菜栽培と楽しさ演出 ICT導入で業務の効率化により入居者に寄り添う時間を増加 社会福祉法人鎌倉会(群馬県)
複合機を使いユニットごとに競い合う「かまくらだより」

「特養というところは、日常はゆったりと、そしてイベントの日は楽しんでもらう。なるべくメリハリをつけて過ごしてもらえればと考えています」。三富施設長はそう言って、施設で行うイベントを紹介してくれた。入居者それぞれの誕生日、ユニットごとのイベント、そして全体で交流スペースに集まって行うイベントがある。つい先日も、群馬交響楽団の慰問があったばかりだ。

「敬老の日などは盛大にイベントをやります。模擬店も出して職員が焼きそばなどを作りますよ。ポスターも作って、入居者のみなさんは楽しみに前売チケットを買っていらしたりするんです」。館内のポスターには、三富施設長がフラダンスの衣装を着て登場している。イベントとその準備を入居者に楽しんでもらい、自分自身も先頭に立って引っ張ろうとしている三富施設長の姿勢が伺える。コロナ前には地域交流も兼ねて近所の方も参加していたが、こちらの再開はまだ少し時間がかかりそうだ。「花見の時には、交流スペースを開放して、利用者のご家族はもちろん、地域の方が祭りの太鼓など叩きに来てくれたらうれしいですね」と三富施設長と浅見さんの笑顔がそろった。

企業概要

法人名社会福祉法人鎌倉会
住所群馬県前橋市上細井町2050-7
HPhttps://kamakurakai.or.jp/
電話027-210-1110
設立2005年8月
従業員数73人
事業内容 特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービスセンター、ヘルパーステーション