目次
- 入社した頃は見積も工事図面も手書き。パソコンは1台のみで社員はみなワープロを使っていた時代からデジタル機器の導入へ
- 2000年代に入りICTの導入を一層推進。CAD導入を皮切りに、工事写真管理ソフトを採用して写真管理が劇的に効率アップ
- 2024年施行の働き方改革をふまえ、会社支給のスマートフォンによる労務管理を導入すると、社員の働き方が劇的に変化
- クラウド型の施工管理アプリの導入で各工事の案件情報とスケジュールが誰でも把握できるようになった
- 作業工具はQRコードによる管理体制を導入 1日がかりだった定期確認が不要になり、道具の所在もリアルタイムに把握できるようになった
- 業界の人材不足を見据え、働きやすい職場づくりと業務のさらなる効率化が必要。社員教育にも積極的に取り組んでいく
- 今後は建設付帯工事ではなく単独工事となるカーボンニュートラルに向けた既存施設のLED化もふまえ、新たな事業領域を開拓していく
栃木県宇都宮市を拠点に建造物等の電気設備工事を手掛ける協新電工株式会社は、1949年に「協立電気興業社」として現社長の祖父が創業。終戦後、再建が進む町とともに多くの工事を手掛け、会社も成長してきた。
同社が主に手掛けているのは自治体からの電気設備工事だ。民間工事においてはゼネコンから請け負うケースが大半で、同社も創業した頃は工務店から工事を請け負っていた。とりわけ、バブル期にあたる1980年代後半〜1990年代にかけては建設工事が多く、数多くの工事をこなしたという。しかし、当時は民間より利益の少ない公共工事を請け負う電気工事業者が少なかったことから、次第に公共工事に注力。結果的にはバブル崩壊後の不況に翻弄(ほんろう)されることなく、会社は順調に成長を遂げた。
このように堅実に仕事を積み重ねてきた同社だが、建設業を取り巻く現場環境は人手不足を背景に厳しさを増している。もはや「いい仕事や給料」だけで働き手が来る時代ではなく、ICTを活用した業務効率化や働き方改革への対応は待ったなしだ。工事図面も見積も手書き、就業規則もなかった時代を経て、ICT活用により変貌を遂げた同社の取り組みを紹介する。(TOP写真:さまざまな工具が収納されている工具室。工具の管理には専用アプリを採用し、全てのアイテムがバーコードで紐づけられている)
入社した頃は見積も工事図面も手書き。パソコンは1台のみで社員はみなワープロを使っていた時代からデジタル機器の導入へ
現在代表取締役を務める宮﨑和典氏は大学卒業後の1991年、実家と同業の電気工事会社に就職。その頃中堅以上の建設業ではCADの導入が拡大し、家業より事業規模が大きかったその会社では1989年頃からすでに使われていたという。宮﨑社長はいずれ家業を継ぐ覚悟を持っていたものの、多忙な業務に追われて6年が経過。怪我による入院を機に会社を退職し、1997年に家業に入社した。
家業に入ってみると、それまで働いていた会社とは大きなギャップがあった。工事図面、見積、受注書も、ほぼ全てが手書き。しかも、見積は間違いも多く、人によって精度にばらつきもあった。「社会に浸透し始めたデジタル化の波に遅れてはいけない」そんな思いを胸に抱いた宮﨑社長は、まずは見積作業からデジタル化を進めることにした。
ただ、当時会社にあった機器はパソコンが1台、複合機が1台。社員が文書作成に使っていたのはワードプロセッサーだった。「パソコンは1台しかなく、私しか使えませんでした。先輩たちはパソコンの扱いが不得手だったので、まずは若手社員に使い方を指導しました」と宮﨑社長は振り返る。
2000年代に入りICTの導入を一層推進。CAD導入を皮切りに、工事写真管理ソフトを採用して写真管理が劇的に効率アップ
2000年代はインターネットの普及が進み、社会におけるICTの利用が拡大していった時期だ。そして、同社はついに2000年にCADを導入する。しかし当時定価100万円と高額で専用パソコンは1台のみ。それでも、すでに取引先など周囲では図面などはデータによるやりとりで行われるようになり、CADを導入しないわけにはいかない状況となっていた。
さらに、経理や労務管理の業務環境も大きく変化した。業務量が増えたためこれまでは手書きだったデータは一部エクセルによる作成になったが、個人が作成したデータはそのパソコンでしか使用できない。つまり、データの共有ができないことで、確認作業がスムーズに進まなかった。そこで2009年にサーバーを導入して社内ネットワークを構築。ファイルの共有ができるようになった。しかし、一つ問題が生じてしまった。それは、施工管理における工事記録写真の膨大なデータが容量を圧迫し、サーバーがたちまち容量不足に陥ったのだ。
そこで取り入れたのが工事写真管理ソフトだ。このソフトを使えばタブレット端末で撮影した写真を自動的に分類し、データを圧縮した上でクラウドに保存ができる。これまでデジタルカメラで撮影した写真をパソコンに移していたが、撮影した現場でそのままクラウドに登録するだけで済むようになった。手間や時間が劇的に減った。
なお、同社の工事写真における電子情報化の背景には、1995年から国が導入した公共事業における電子情報化CALS(キャルス)の取り組みがある。CALSは工事記録報告書に使われる写真データの提出や電子入札など、情報の交換や共有、連携、再利用におけるデータフォーマットを規格化し、コスト削減や業務の効率化につなげる狙いだ。
2024年施行の働き方改革をふまえ、会社支給のスマートフォンによる労務管理を導入すると、社員の働き方が劇的に変化
2010年に宮﨑和典氏が代表取締役に就任すると、一層積極的にICTの導入を進めた。同社のICT活用の転換点となったのは2022年のことだった。建設業界では2024年4月から施行される働き方改革に備え、時間外労働の上限規制など勤怠管理が急務となっていた。同社においては2022年から検討を進めた結果、IT補助金を活用して社員全員にスマートフォンを支給し、同年12月から勤怠管理専用アプリによって出退勤記録や休日申請、残業申請などを端末内で行うことにした。
今までは月末集計まで実態把握ができなかったが、スマートフォンで現場でも入力でき、リアルタイムに勤務状況が把握できるようになった。これまで把握しきれなかった各自の動きが見えるようになった。以前は残業をする必要がある人とない人、定時までに仕事を終わらせようとする人などが混在し、誰もその人の勤務状況が把握できていなかった。早く帰りたいけど帰れない「だらだら残業」が生じやすい状況となっていたが、勤怠管理ソフト導入後は残業も申請による許可が必要なため、無駄な残業が減り、定時に帰る人が増える結果となった。また、休日出勤においては振替休日も同時に申請する仕組みのため、労務管理もしやすくなったという。当初は個人携帯と会社携帯の2台持ちに煩わしさを訴える人もいたそうだが、今やすっかり定着したという。
クラウド型の施工管理アプリの導入で各工事の案件情報とスケジュールが誰でも把握できるようになった
2022年1月からクラウド型の施工管理アプリを導入した同社。導入の目的は各工事のスケジュール管理と、案件管理だった。それまでは、主に社内のホワイトボードに案件を記入して全員で共有していたが、外出先では確認できない。また、個々の管理状況を他の人が共有することも難しい状況だった。その点、クラウド型の施工管理アプリはパソコンやスマートフォンからも閲覧でき他の人とも共有できる。
2023年3月にはクラウド型のノーコードツールを導入して商談→受付書→積算→受注書のワークフローを作成し、顧客管理にも活用している。導入の決め手は月々の使用料金が安く、カスタマイズがしやすいことだった。
また、導入にあたって、現場で主導的役割を担った総務部長の阿部真也さんは「弊社にはITに精通した社員がいませんので、システム導入当初は操作に戸惑うことも多い。だから支援会社のサポート体制は必須です。どんなにいいソフトウェアでも、使いこなせなければ意味がありませんから」と語った。
作業工具はQRコードによる管理体制を導入 1日がかりだった定期確認が不要になり、道具の所在もリアルタイムに把握できるようになった
これまで労力と時間を要していた作業から解放されたことがもう一つある。それは日々使用する工具の管理でICT活用によってもたらされた。
社員は自社の工具を持ち出す際、これまで紙の台帳に持ち出し日と氏名などを書き込む仕組みをとっていた。当時は毎月一回、全ての工具や消耗品をチェックする担当者がいたが、その作業は1日がかりで、中には紛失して行方がわからない工具もあったという。
そこで導入したのが工具管理アプリだ。このアプリは社員各自のスマートフォンに入れてあり、工具を持ち出す際には工具に貼られたQRコードを読み取って持ち出し済みの手続きをする。返却時も同様にアプリから返却手続きを行う仕組みで、GPSによってその工具を今誰がどこで使っているのかが把握できる。全ての工具に初期登録を行っているため紙の台帳は不要となり、毎月一度の工具確認作業は不要となった。「若い人はすぐにこの作業に慣れてくれたので、いつのまにか全員やるようになりました」と宮﨑社長は満足げだ。
業界の人材不足を見据え、働きやすい職場づくりと業務のさらなる効率化が必要。社員教育にも積極的に取り組んでいく
「元々弊社はアナログな会社でしたが、令和になるとともに若い世代が入社してきてデジタル化が加速しました」と語る総務部長の阿部真也さんは、若い社員の意識の高さがICTの導入を円滑に進め、労務環境の改善につながったと感じている。今後業界の人材不足に対応していくためにはDXはもはや欠かせないだろう。
さらに、社員が成長することで会社のレベルもアップし、社員定着にもつながると阿部さんはみている。「仕事の充実=人生の充実、と私は考えています。今後はコミュニケーション能力や問題解決能力、ロジカルシンキング、コンプライアンス、言葉遣いなどの作法も身につけていかねばならないでしょう。これらの学びはeラーニングも取り入れつつあります」と人材教育にも注力していく構えだ。
今後は建設付帯工事ではなく単独工事となるカーボンニュートラルに向けた既存施設のLED化もふまえ、新たな事業領域を開拓していく
これまで順調に歩みを進めてきた同社だが、今後人口減少の進む社会で、建築に付帯する電気設備工事についてどのような将来像を描いているのだろうか。宮﨑社長に今後の展望を尋ねてみた。「人口減少が進めば新たな建築物は減るでしょうが、現在ある施設のリニューアルは起こりうる。その際、カーボンニュートラルの推進により2030年までに既存施設の照明器具のLED化が進められるでしょう。さらに水銀灯や蛍光灯の生産も2027年で終了しますから、家庭を含めて事業領域が広がる可能性が高い。これらは建築付帯工事ではなく単独工事という形で受けることができますから、チャンスだと思っています」と意欲を示す。
さらに、今後はこれまで紙の図面を持って作業を行っていた現場作業員にタブレットを支給するなど、現場支援におけるDXも進めていきたいと語る宮﨑社長。ICTを成長につなげていくリーダーシップによって、同社の経営基盤は着々と固められているようだ。
企業概要
会社名 | 協新電工株式会社 |
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住所 | 栃木県宇都宮市戸祭元町10番15号 |
HP | https://kyoshindenko.jp |
電話 | 028-622-0774 |
創業 | 1949年(設立:1963年) |
従業員数 | 18人(2024年4月現在) |
事業内容 | 電気設備工事 |