目次
- 主力の建設事業は県内の公共事業の元請け 遺跡発掘調査では県内有数の実績
- 多趣味の先代は天文台の館長として子どもに天体観測の面白さを教えミュージシャンの活動も支援している
- 現社長は32歳で就任後、歴代経営者の経営理念を整理し「人を基本とした経営」の実践を目指す
- 「今月の言葉」で従業員全員の目標意識の機運を創り、事業貢献の表彰状を毎年授与される成果も 歴代経営者のDNAで地域社会貢献を重視
- コメダ珈琲店のフランチャイズ運営に新規参入 2018年には持株会社を設立しグループ事業の相乗効果を追求して効率的な事業展開目指す
- 2022年から煩雑で属人的な見積業務の見直しに着手 自主システムから移行しやすくカスタマイズ可能なシステムを導入
- Excelデータを取り込める使い勝手と機能を評価 見積業務の煩雑さから解放 チーム全体で業務を分担 作業時間は大幅短縮し残業時間の短縮に寄与
- 2025年以降も好業績維持し 業務全体を管理できるシステム構築を目指し 相乗効果の拡大を期待
- カナコーは、建設業界のサービスビジネス(営繕)から始めたDNAが今もずっと生き続けている
神奈川県で建設事業を主体にリフォーム、土木、清掃サービスを幅広く行う株式会社カナコーのもう一つの柱が、遺跡発掘調査の支援業務だ。建設事業では地元自治体の元請けとして地場の事業者との協力網を構築、遺跡の多い地元エリアで経験豊富な作業員による発掘作業が高く評価されるなど、地域貢献を経営の根底に据える。屋台骨の建設事業に磨きをかけるべく、自社業務に合わせてカスタマイズした見積システムを導入し、大幅な業務効率化を実現した。(TOP写真:遺跡発掘調査は県内有数の実績を誇り、建設事業と並ぶ主力事業に成長した)
主力の建設事業は県内の公共事業の元請け 遺跡発掘調査では県内有数の実績
日本住宅公団(現独立行政法人都市再生機構)の営繕や清掃、ごみ回収などを目的に、1960年に設立された神奈川興業株式会社が株式会社カナコーの前身だ。その後、土木工事や建設事業、リフォームと次第に業容を拡大。現在の主力は県内自治体の公共工事の元請け事業だが、同社は単純な事業者には当てはまらない。
建設事業・土木業務を通じて1981年から取り組んできた遺跡発掘調査はいまや県内有数の事業者として評価され、建設事業と並ぶ重要事業に育っている。130人にもおよぶ専門作業員が、地層を読みつつ重機による高精度で効率的、丁寧かつスピーディな手による掘削を行う。地元の埋蔵文化財発掘調査の試掘から報告書作成まで、柔軟に支援できる態勢を整えている。
多趣味の先代は天文台の館長として子どもに天体観測の面白さを教えミュージシャンの活動も支援している
1996年には自社ビルの屋上に天文台を建設し、直径3.5メートルのドームには、口径9センチメートルの屈折望遠鏡を装着した口径35センチメートルの反射望遠鏡を収容。私設ながら「カナコーこども天文台」として地域住民に開放している。
さらに2001年にはイベント企画や移動ステージカーの営業を開始(現カナコーエンターテイメンツ株式会社)。フェンダーなどのビンテージステージアンプの貸出業まで手掛けた。これらの建設業らしからぬ事業の数々は、先代の大久保眞介社長(現相談役)の多趣味が高じたものだ。
若い時にギターに凝った大久保相談役が保有する年代物のアンプは、今も著名ミュージシャンがライブ演奏用に借りに来ることがあるというが、「事業としてはとても成り立たっていない」と息子である大久保貴章代表取締役も苦笑する。大久保相談役は経営の一線を退いた現在も、天文台の館長として子どもたちに天体観測の面白さを伝えるなど地域貢献に努めている。
現社長は32歳で就任後、歴代経営者の経営理念を整理し「人を基本とした経営」の実践を目指す
2016年に32歳の若さで就任した大久保社長は、それまで整理されていなかった歴代経営者の経営理念や企業メッセージなどを体系化し、多様な事業に従事する従業員のベクトルを同じ方向に合わせたいと考えた。
経営理念は「人を基本とした経営を実践し、人々の幸せを創り社会に貢献する」と明確に打ち出し、外に向けて「熱意と和心で『夢とロマンをもった魅力ある企業』を創ります」と企業メッセージを掲げた。
さまざまな事業を展開しているからこそ、全社一体で経営のベクトルを合わせたいという気持ちで、従業員に企業スローガンとして「柔軟な発想と全従業員の一致協力した行動の発揮。戦略思考で脳みそに汗をかこう。明るく楽しく遊び心で目標達成。決断は恐れずタイムリーにせよ」と呼びかける。
「今月の言葉」で従業員全員の目標意識の機運を創り、事業貢献の表彰状を毎年授与される成果も 歴代経営者のDNAで地域社会貢献を重視
大久保社長は「理念を持つことは大事だと思うし、当初は『今月の言葉』を毎月決めて従業員を鼓舞してきた。従業員が何かの時に思い出してくれればいい」と、言葉にこだわってきた理由を説明する。従業員一人ひとりの目標達成意識が高まったことで「自社で施工した公共事業を自治体から評価されて、前年度に完成した公共事業の委託業務に事業貢献の表彰状がいただけるようになった」と成果に手ごたえを感じている。
経営の根底に、「カナコー」という社名の由来でもある「神奈川興業」に根差した県内の地域社会貢献を据えているのは、歴代経営者から引き継いでいるDNAといえそうだ。
SDGsの持続可能な開発目標と連動した地域貢献の取り組みは、枚挙にいとまがない。
公共事業の下請け協力会社は地元業者を主体とし、地域経済の循環促進に努めている。CO2削減を実践するため本社屋上に太陽光発電設備を備えて、電力消費量を抑制している。
また、毎週水曜日の残業ゼロなど余暇の自己啓発促進を続けており、女性の活躍も後押ししている。
地域住民に無料開放するカナコーこども天文台や、発注者の協力による遺跡発掘の見学会は、地域教育をサポートしている。カナコーの地域社会貢献と事業展開は表裏一体といっても過言ではない。
コメダ珈琲店のフランチャイズ運営に新規参入 2018年には持株会社を設立しグループ事業の相乗効果を追求して効率的な事業展開目指す
大久保社長もまた、新規事業に乗り出した。コメダ珈琲店のフランチャイズ運営を行っているアットホームプラス株式会社を2018年に買収し、飲食店事業に参入した。原材料の高騰や人手不足で当初予定通りではないものの、買収当初の6店舗から10店舗に拡大。収益貢献度は高まりつつある。
2018年にはカナコーをはじめグループ4社を統括する持株会社「株式会社カナコーホールディングス」を設立した。「グループ間の相乗効果をもっと出して効率的な事業展開を広げる」のが狙いだ。2021年に東亜警備保障株式会社も加わり、グループ事業会社は5社となった。建設・土木工事現場への警備員配備を、警備会社を傘下に加えることで円滑化するためだ。
2022年から煩雑で属人的な見積業務の見直しに着手 自主システムから移行しやすくカスタマイズ可能なシステムを導入
大久保社長は持株会社を設立してグループ経営体制を固めた頃から、建設関連分野の見積業務の煩雑さを見直そうと考えてきた。「見積は1人の担当者がExcelで作成していて、ほかの人は計算式が壊れても手が付けられなかった。属人的な仕組みを変えて誰でもできるようなシステムに変えようと思っていた」が、仕事に追われてすぐには動き出せず、システム支援会社と具体的な話が始まったのは2022年だった。
新システムの導入当初に関わったカナコーホールディングスの永盛敦夫取締役は「いかに現行のシステムから簡単に移行できるかをまず考えた」という。当初は既製品のパッケージソフトウェアを数種類検討したが、顧客の要請に沿った複雑な見積書、請求書作成に対応できるものがなかなか見つからなかった。システム支援会社から提案されたカスタマイズを前提にした半パッケージのようなシステムに絞って、デモを実施した。
Excelデータを取り込める使い勝手と機能を評価 見積業務の煩雑さから解放 チーム全体で業務を分担 作業時間は大幅短縮し残業時間の短縮に寄与
その結果、Excelのデータをそのまま取り込めるなど自社の仕様に合わせてカスタマイズしやすい点と、実業務に近い感覚で容易に操作を覚えられる使いやすさを高く評価。さらに、現地調査、積算、見積書作成、原価管理、請求書作成の各モジュールを連携させて一括管理する拡張性もあって、業務全体を効率化できる利点がある。
本稼働したのは2023年1月。仕様変更があるたびにExcelで2度、3度と見積作成の手間がかかっていたのに比べると、作業時間は格段に短縮した。以前は、Excelの自動処理機能を使って作成されていた計算式が一部でも壊れたら開発者がいないと手に負えなかったが、「現在はシステム全体が可視化され、チーム全体で運用できている」(永盛取締役)という。
残業時間は、作業が立て込むと連日深夜までかかっていたが、「本稼働後は午後6時頃にはほとんど皆帰っている」(同)と期待以上の効果に満足そうだ。ただ、建設業界は「2024年問題」といわれる超過勤務規制への対応遅れが指摘されるように、慢性的な人手不足や原材料費高騰による価格転嫁の遅れ、タイトな工期是正の遅れなど、就労環境は厳しさを増す一方だ。
2025年以降も好業績維持し 業務全体を管理できるシステム構築を目指し 相乗効果の拡大を期待
カナコーにおける業務効率追求の取り組みはこれでひと段落というわけではない。永盛取締役は、受注案件の現地調査段階から請求まで、各工程をシームレスにつなぐシステム構築に向けた検討が次の課題と考えている。主力事業の競争力、効率性の向上は「夢とロマン」という企業としての視野の拡大のためにも不可欠なテーマでもある。
カナコーの売上高は22億円前後で推移してきたが、2024年9月期は主力の建設事業で大型受注があり、大幅に伸びる見通しだ。大久保社長は収益基盤の増強によって一過性でなく、2025年以降も好業績を維持するためにグループ事業の相乗効果の拡大を急ぎたい考えだ。2025年は設立65周年でもある。「夢とロマン」を実践できる「遊び心」と「脳みそに汗をかく戦略思考」で進めていく。
カナコーは、建設業界のサービスビジネス(営繕)から始めたDNAが今もずっと生き続けている
令和になり、働き方改革が及ぼす影響は大きい。働く人主体、家庭の尊重等。その中で求められるのは企業の魅力と働きがい。カナコーは建設業の継続的なサービスビジネス(営繕)がスタート事業。一般の建設業の労働集約的な粗っぽさはなく、いかに人として丁寧に仕事を進めていくか…。それが遺跡発掘調査という丁寧さを最も求められる仕事と合って伸びてきた。ロマンのある発掘調査の過程で同じくロマンあふれる天体や音楽ビジネスの支援へと続く。そしてコメダ珈琲という飲食業界でも丁寧な空間づくりとサービスで知られるサービス業へと展開する。まるで必然のように広がっていく。「夢」と「サービス精神」という心意気と時代に合ったシビアな収益管理で更に成長することを期待したい。
企業概要
会社名 | 株式会社カナコー |
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住所 | 神奈川県相模原市南区麻溝台8-12-5 カナコービル |
HP | https://kanako1960.jp/ |
電話 | 042-746-1221 |
設立 | 1960年10月 |
従業員数 | 255人(子会社含む) |
事業内容 | 建設、土木、リフォーム、集合住宅清掃管理、発掘調査、天文台運営、ビンテージアンプ貸出ほか |